逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

文字の大きさ
26 / 59
#12 俺の涙

少年期

しおりを挟む
Felix LichtenfeldによるPixabayからの画像

ある男の話をしよう。

その男、正しくは男性ではないが……おっと、勘違いしないで欲しい。それはつまり男性とか女性などの性別を超えた、いや、そもそもそんな概念の存在しないところの男である。補足すれば性格・性質が男性的といえば良いだろうか。

さて、話を戻そう。男は教室のような場所で何やら丹念に書物をしている最中である。その教室は壁、天井と言わず、四方全てが白で統一され、もちろん机も椅子も然りである。おまけに男が握るペンの柄まで白といった具合で念が入っているが、書き記している文字は流石に黒である。

教室のような場所、ということで、この男の他にワラワラとその他大勢も居るわけだが、それらは無視しておこう。また、ここは学校や試験会場でもない。ただ、教室のような場所であるというだけだ。因みに男の格好だが、重要ではないので好きなように着せ替えておけば良いだろう。

男は椅子に座り、机の上にある紙にペンを走らせているのだが、何を書いているかというと、それは『人生計画』である。その人生とは他でもない俺の、いや、男の人生、そしてその計画である。

では、その人生計画とは何であろうか。それはズバリ、どのような人生を送るのか、ということである。別の言い方をすれば、どのような人生を生きたいか、ということになるだろう。

まあ、この辺で疑問が生じているかもしれないので説明しておこう。君もしくは君の友人がまだ若輩者であれば、前途はまだ長いものと推測できるが、これが中盤、まして終盤となれば、これからの人生を考えたところで……なものだろう。

しかしこの男にとって人生とはまだ始まってもいないのである。よってこれからの、長いであろう人生を前もって計画を立てるには良い時期と言えるはずだ。

そこで男が書き綴っているいのは、『おぎゃあ』と生まれてから幼年期までのこと、はかっ飛ばし、裕福で苦労もなくハーレム的なものを妄想したものである。

おっと、そんなものを書いて何になるのか? と悲惨な人生を送っているであろう諸兄には想像もつかないかもしれないが、男が書いている時期を考慮して頂きたい。そう、それは生前、つまり生まれる前の話である。よって男の描く人生は未来に起こる出来事になる、はずである。何故ならそれが『人生計画』であるからだ。

だが、ここでこの男の立場をうらやみ、絶望するのは早計というものだ。何故ならこの男の前世、つまりここに来る前の出来事に関しては全く記憶が無いのである。それは前世が無いという訳ではなく、真理のことわりによって都合よく記憶が消されているに過ぎない。

ということは、この男は前回もこうして『人生計画』を書いたことだろう。しかしそれが、その後どうなったかは知る由も無いということである。まさに『神のみぞ知る』というやつだろう。

ほら、噂をすれば机と机の間を全身白装束の、性別不明の人物が徘徊しながら、それぞれの『人生計画』を覗き込んでいるではないか。その人物を男は先生と呼んでいるが、今もってその先生がどのような存在なのかは分かってはいない。

しかし、そんな些細なことを疑問に思う男ではない。というより、男が意識を持った時には、既にこうして『人生計画』を書いていたということだ。そして必要最低限の知識を持ち合わせ、何かに対して疑問を抱くような思考は持っていなかった。それは、見方によっては従順なしもべのような、何かに対してとても都合の良い存在ではなかろうかと推測するものだ。

「先生、出来ました」

近くを通りかかった先生に男が自身の『人生計画』を見せるつもりらしい。それに、

「出来ましたか。では、見せてください」と異様に優しい雰囲気で答える先生である。これならば、此奴にパンチを食らわしたとしても文句を言われるどころか、『もっとぶって』と言いそうなくらい、そう、異常に優しいそうな『雰囲気』がひしひしと伝わって来る御仁である。

では、この先生は『神』なのであろうか。それは何とも言えないし、それを確かめる手立てもない。仮に先程の例えのようにパンチを繰り出したところで、『神』が仕返しをしないとは言い切れないからだ。もしかしたら、地獄にもでも落とされるかもしれない危険を冒してまで確かめる程、勇気を持ち合わせていない俺、いや、男である。

男は『人生計画』を先生に見せ、その返事を待っていた。長文ではないそれは箇条書きのようなものである。それを長々と吟味されては『バツが悪い』と思っていたかもしれない。何せ至れり尽くせりの極上人生である、それを却下されては生きる楽しみが半減どころか、人生そのものに意味が無くなってしまう、とまで思ったに違いない、多分そうだ。

暫く続く沈黙の間、(早く承認しろよ。別にあんたが損する訳じゃないだろに、この野郎)と大人しく待っている男にやっと返事をする先生である。

「まあ、良いでしょう。楽しんで来てください」

それを聞いて胸を撫で下ろす男である。これで希望の通り、優雅でハッピーハーレムの人生を満喫できる、と喜んだことだろう。

「じゃあ、行ってきます!」
「良い旅を」

男の元気な声に、異常な優しさを込めて見送る、または送り出す先生である。



世は戦国時代。そこに『人生設計』をひっさげ、男子として生を受けた男。世が世であるので、どのような生まれであろうとも、その腕と度胸で出世が決まる時代である。

もちろん、男に生前の記憶などは無いが、退屈な少年期を『人生設計』で省略したため、その間の運命は不定である。

少年である男は刀を持って戦さ場に赴いた。それは血気盛んな若者らしく、一旗上げてやろうと野心を抱いたに他ならないからだ。但し、その手に持つ刀は錆び付いていた。それもそうだろう、少年ごときが容易く手にできる代物ではなかったからだ。

では、その刀をどのようにして手中にしたのか。それは討死した武者から頂戴したものであり、その刀が少年にとって初めての武器となった。

「うおおおおおお」

少年にはまだ重い刀を振り回し、威勢の良い声を上げる。それは、震える足、いや、震える全身を鼓舞するかのごとく、そして未熟な己を補うため、腹の底から声を出したのだ。

「うおおおおおお」

敵が迫ってくる。いや、誰が敵で誰が味方なのか区別が付かない程、戦場は乱れていた。そこで適当に、だがしっかりと刀を振れば誰かに当たるだろう、そう思い、力の限り刀を振り回す少年。そうすることで多少は誰かに、何かに刀が当たる。

「うおおおおおお」

敵が目の前に居る。いや、とにかく目の前に居る者が敵、自分を殺そうとする者である、と少年は思った。そこで自分よりも背の高い敵に向かって刀を振り下ろす。が、その途中で背中に激痛が走った。そして急に刀を持つ手に力が入らなくなった少年はその場で倒れ、刀を手放す。

どうやら背後から槍で刺されたらしい。それも誰から刺されたかも分からない。その気配を伺った時には既にその者は居らず、痛みと戦うことになった少年。しかしそこで誰かが助けてくれる訳ではない。それでも助けを呼ばずにはいられない少年は「あああああああ」と叫ぶ。

倒れた少年は、そこに居ないかのように後から来る者に踏まれ、その度に絶叫したが、それは戦場の騒乱で掻き消されていくばかりである。それに、何かを叫んでいるのは少年だけではなかった。至る所で同様な声にならない呻き声のようなもので溢れている。

そうして戦が終わった頃、そのまま放置された少年に無常の雨が降る。少年の体は冷え、呼吸も苦しい。傷ついた少年にとっては、一層のこと、すぐに絶命した方が楽だったことだろう。しかし少年の魂はそれを許さなかった。生きられるだけ生きると、少年の意思には関係なく身体はしのぐ。

戦場は夜を迎え、少年は虚ろな夢を見る。それが現実なのか夢なのか、もうその区別も付かなくなっていたが、それでも呼吸だけはしていた。そしてそれが少しずつ穏やかになり、夜明けを迎える前に尽きたようだ。

合掌。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

処理中です...