逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#14 2500年後の涙

#8 勝利への第一歩

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要求を『はぐらか』せられた御嬢様は、周囲の動向に御構いなく、しもべである陽一の裾をツンツン、「私の声を聞け」と言っている、ような。これに、また足を踏まれては堪らないと、今回は速攻で膝を折った陽一である。そうして御嬢様の声に耳を傾けた時、である。

ドカーン・ヒヒヒーン。

大きな物音と共に、マナー違反の眩い光が会場に射し込んできたぞ。それは、会場の扉という扉が一斉に大開放され、無愛想にも外界の妖気が一気に雪崩れ込んできたのだ。それまで、光といえば舞台を照らす希望の光のみ。それに酔いしれていた『おっさんズ』には、年齢的なものも含め、かなりの衝撃であったことだろう。つまり急激な環境変化に体が付いて行けない、そんな年頃である。そしてそして、入り込んできたのは、もちろん、光だけではない。

「警察だぁぁぁ! 大人しくしろぉぉぉ」

光と共に侵入した、——いや、扉を突き破ったのではないかと思われるくらい、乱暴狼藉さで登場した国家権力、その集団である。その数は——たくさん、光で眩しいからなのか、黒ずくめの国家権力が愚かな『おっさんズ』目掛けて怒号の突進・突撃である。四方・八方と、解き放たれた出入り口から我が物顔で天下を取りに来たようだ、万事休す『おっさんズ』。

因みに、人権の無い『おっさんズ』には、もちろん集会の自由など毛ほどにも存在しない。おそらく、『おっさんズ』の溜まり場を、どこぞの御仁が正義の名の下に密告したのであろう。そのお陰で、つい先程まで希望に胸を膨らませていた『おっさんズ』は、一瞬にして現実という地獄に堕ち、会場はまさに阿鼻叫喚、地獄絵図と化す。

これらを『高みの見物』、という訳にはいかず、しっかりと騒動に巻き揉まれた陽一、ではあるが、幸いなことに、しゃがみ込んでいたため、国家権力の脅威から『おっさんズ』が盾となって守られた形となった。そこで、何事が起こったのかと立ち上がり周囲を観察、状況の把握に全神経を労したのである。しかしそれは、先程の大音響によって、今にも心臓が飛び出しそうな緊張を逸らす(ごまかす)狙いもあったようだ。この時、御嬢様といえば、しっかりと陽一の右足にしがみ付き、今にも○○しそうな程、体をプルプルと震わせていたのであった。

「ひー、ふー、みー」陽一の視線は何かを数え、それを無意識に口にしていた。そして分かったことといえば、『おっさんズ』全体のうち、3%が国家権力に対して、「ふざけるなー、やっちまえー」と武力抵抗を試み、12.5%が魂の抜け殻のように呆然と立ちすくんでいた。そして残りの84.5%が逃げ惑っている、ようだ、ふむふむ。

人数的には圧倒的——ではないが、『おっさんズ』の方が多い。よってなんとかこの状況を切り抜けられる(そうであってほしい)、と計算した陽一である。しかし、何事にもミスは付き物。それも肝心な時に限ってというのは定番だろう。

ババーン・パンパン。

今の日本では到底考えられないことだが、武器の使用を躊躇しないのが未来である。それも、相手に人権が無いとくれば、良い射撃の的か、訓練の一環なのかもしれない。文字通り、丸腰で国家権力に挑んだ者たちは見事に粉砕、バッタバッタと討ち死にが後を絶たない。

その頃、こっそり壇上から「踏み倒せぇぇぇ!」と威勢の良い声援を送っていた例の男は、この仕打ちの後、忽然と姿と気配を消し、今はどこにいるのか誰にも分からない状況である。そして、そんな後ろ盾を失った『おっさんズ』の99.9%が、我こそ先にとばかり、逃げるのに必死こいている。残りの0.1%は、この状況下でも口をポカーンと開けたまま突っ立ているだけである。

大口を開けて思考停止中の陽一は、体が勝手に震えるのを感じていた。それもそうだろう。頭で理解できなくても体が、本能が生き残りを賭けた選択を一生懸命しているのだから、——いや、単に右足に抱きつく御嬢様のプルプルが陽一に伝わっているだけのようである。そしてそれは増幅され、恐怖と思考停止のダブルコンボによって、陽一を地獄の門へと続く道に並ばせていた。おそらく、運命をもつかさどる何か、得体の知れない力によって、磁石のように引き寄せられているのだろう。導きされし者のと化す陽一、お前は既に——である。

しかしここで、『弘法も筆の誤り』という諺があるくらい、何事にも手違いというものが起こったりすることもあるが、それも『計算の内』というなら大したものである。というのも、どこからともなく、右に左にと人を避けながら回遊魚のごとき走り回る者が居たのだが、幸運はそこまで、という具合に、ただ突っ立っていただけの陽一にゴツーンと衝突したのである。そして、打つかってきたのは言うまでもなく、壇上に居た例の男であったのだから、何がしらの『縁』がこの二人には有るのかもしれない。

一方、痛恨の一撃を喰らった陽一は、その勢いもあって激しく床にゴロゴロと転がり——とはならず、どういう偶然か、転がる前に男の体に抱き付くことに成功。それはきっと無意識かつ勝手に体が反応したからのようだが、伊達に満員電車をしのいできたのではないぞ、とその成果を発揮したのだ、としておこう。

先を急ぐ男にとって、陽一に抱き付かれてしまったことは、良い気分のはずがない。そこで自身の体を揺さぶり陽一を払いのけようとしたが、しつこい陽一は一向に離れる気配はなく、仕方なく——ではなく、反射的に陽一を蹴り上げようとしたとろ、やっと陽一の手が体から離れた次第である。これで先に進めると、陽一に背中を見せた瞬間、その隙を見逃すことなく、倒れつつも男の右足に『しがみ付いた』陽一である。男は突然失った自由のため、その場にゴロンと転倒。この結果、床に倒れた男と、その右足に陽一、陽一の右足に御嬢様と、こんな状況でなければ、かなり滑稽に見えたことだろう。もちろん、世間が見たら、の話である。

自由を奪われるのは誰にとっても不愉快なものである。それも、「こちらは急いでいるんだ、事情も知らないで勝手に邪魔をするとは何事か」という具合で男は陽一を睨みつけた。序でに——当然のように渾身の力を込めた拳を陽一の顔面めがけて放つと、「なんだ、お前か」と拳が語り、当たってもいないのににがる陽一の顔が「そういうあんたは」と語ったようだ。

すると、男は陽一の手を解くとスクッと立ち上がり、無言でその場を立ち去ろうしたが、再度、その足に『しがみ付いた』陽一である。

「そんなに急いで、どこに行くんだ?」

陽一の質問に、「はあぁ、何を言ってるんだ、この状況で。どこって、お前、バカなのか、バカだろう、そうだろう」と言いたげな表情を向けた男は、そのまま走り去ろうとしたが、——おっとぉぉぉ、捨てられそうになった子犬が最後の最後で見せるという愛嬌に溢れた表情を見せる陽一、——いや、男がただ単に混乱していただけだろう、思わず、

「秘密の通路がある。そこから外に出られるはずだ」と口にしてしまった男である。が、それを後悔している暇はなかったようだ。

「俺も行く……いいだろう?」

「ダメだ。お前はここにいろ——」

そう言うと、さっさと背中を向けて立ち去るつもり——だったようだが、その背中をグイッと掴む、ような陽一の視線が気になって仕方がない男である。しかし、情に流され、その結果、国家権力に捉えられては本末転倒。ここは非情となり見捨てるのが俺のため、いては彼奴あいつのためである、と、適当な言い訳を考えながら、「——それに、子連れでは到底無理だ(すぐに捕まるだけだ)、諦めろ(大人になれ)」と背中で語ったようだ。

それに対して、表情一つ変えることなく初心を貫く陽一である。哀れな表情の中に「それは分かっている。だが、俺もここで終わるわけにはいかないんだ。その先を、その先にある『もの』を俺は見たいんだよぉぉぉ」を滲ませた。

未来に希望を抱くこと、——それは幻想で、未来に希望など何処にも有りはしないのだ、ということを身を持って知っている者同士だけに、だからこそ通じ合う『何か』があるのかもしれない。それとも、ただ甘いだけの男なのかもしれないが、それをアレコレと考えている余裕も時間も無いのだ。そこで男は右肩をピクッとさせることで、「ふっ、好きにしな。但し、俺に付いてこれれば、の話だが」と伝え、呼応した陽一は即座に立ち上がったのであった。

男は、そんな陽一をチラッと見ると、

「行くぞ!」と号令を発し、右往左往する群衆の中へと飛び込んで行った。

それに続けと足に力を込めた陽一である。が、すっかり御嬢様の存在を忘れていたようだ。一瞬、御嬢様をこのまま置いていこうかとも思ったようだが、それでは家に戻っても中には入れてもらえないだろう。かといって御嬢様の手を引くだけでは、この戦況を乗り切るのは難しい。きっと何処かではぐれてしまうに違いない、それはマズイだろう、家の鍵なんだから、ということで、

「御嬢様、失礼します」と前置きしつつ御嬢様を『お姫様抱っこ』した陽一である。

周囲は、逃げ惑う『おっさん』と、ドンパチに夢中になっている連中とで騒乱中である。そんな最中にあって、取り敢えず言うこと聞いておいた方が賢明と判断した御嬢様は、陽一のすることに逆らうことなく従った、ようだ。

御嬢様を抱えた陽一は「意外と軽いな」と安堵し、次に男の行方を捜したが、混乱の中で、たった一人を見つけるのは困難を極める。早々、「どうしよう」と不安に駆られたところで、例の男の頭が周囲より抜きん出ていたため、見つけることが出来た。そこで、勝利への第一歩を踏み出したが、「——むむっ、なんだよ、意外と重い、足にくる」と早々にヘコタレそうになるも、そこは火事場のなんとか、勢いに任せて走り出した。しかし、現実は非力であることと、日頃の運動不足を露わにし、アラヨっと蹌踉よろめく陽一、思わず、というか自然と御嬢様を抱える両手を離してしまったのである。「なんだよ、なんでこうなるんだよ」と自身の運の無さを呪ったところで事態が好転するわけが、——落ちそうになった御嬢様は咄嗟に陽一の首元に抱き付き、それで多少は楽になった陽一である。「なんだ、最初からこうすれば良かったのか」と気を取り直すと、

「おりゃぁぁぁ、行ったるぜぇぇぇ」と気合注入、背の高い男を目指して騒乱の中へと突き進んだのである、おりゃぁぁぁ。

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