逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#15 残されし者たちの涙

#5.1 決まっている未来

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「もう一度言おう、異世界は存在しないと。……だが、勘違いしないで続きを聞いて欲しい。君たちが想像し思い描く異世界は、あくまでフィクション、虚構であり、決して魔法が使えたり異形の者たちが跋扈ばっこするような夢の世界は存在しないのである。しかし、だからと言って異世界は存在しないかと言うと……そうでもない。夢の世界や虚構などではなく、現実的にあり得る異世界が存在するとしたら。それは……」

ここで話を止め、二人の様子を伺う先生である。もし、ケンジたちが退屈そうな表情を浮かべていたら、いじけた先生はここで講義を打ち切っていたことだろう。

では二人の様子は、と言うと、「言っていることが何なのかさっぱり」と首を左右に傾げるサユリ、半分だけ餌に食らいつき、その食感を確認している最中のケンジ、といった具合だろうか。これでは見極めるのは難しいと、更に撒き餌まきえを蒔く先生である。

「本来なら、ここから先は有料の講義となるのだが、今回は君たちの熱意と学習意欲を評価し、特別に・・・ということにしようではないか。何故なら、これから話す内容は私が長年かけて研究した集大成であり、非常に価値が有る、有るはずなんだ」

先生の作戦により生徒たちの目にピカッと光が灯った——を期待した先生だったが、相変わらずの生徒たちだったので、仕方なく続ける先生である。

「本当の、真実の異世界とは、それはまさしく、あれ、パラレルワールドのことである、または並行世界と言ってもいいだろう」

生徒たちの様子に変化はあっただろうか。「言っていることが何なのかさっぱり」と首を左右に傾げるサユリ、半分は理解出そうな、そうでもないようだが、取り敢えずウンウンと頷くケンジ、である。そのウンウンにより期待値の半分は達成した——そんなウンウンは百戦錬磨の先生には通じないのだ。先生が今まで、どれだけ世間から罵倒されさげすまれてきたかを、涙を忍んで思い浮かべれば、ケンジの態度が演技であることなど先刻お見通し・筒抜け・丸見えなのである。

「君たちの理解を助ける為の、適切な道具があるので、それを使用して説明しよう。名付けて『ネコでも分けるびっくり異世界、その真実のからくり」とでもしておこう。君、すまないが寄りかかっている本棚に、少し厚めの本があるはずだ。それを取ってくれないか」

指名されたケンジが、埃の被った本の中から適当に摘んで取り出し、

「これですか?」と先生に見せると、

「ああ、その本だな本棚、クックッ」と一人でウケる先生である。更に、手にした本を先生に手渡そうとすると、それを拒む先生である。

「それは君たちが持っていたまえ。その為の本であるからね。……早速だが、本の250頁を開いてごらん。その本は500頁もあるが、中身に関しては普通の物語が綴ってあるだけなので気にしなくても良い」

ケンジが適当に本を開くと、偶然にも250頁が開いたが——それは単に折り目が付いていたからで、それに気付いたケンジは、一瞬抱いた幸運が飛び去って行ったように感じたようだ。今なら宝くじでさえも当たりそうな予感と共に。——だが、せっかくなので、何が書かれているのかと目を通すと、パラパラ、——251頁から最後までが白紙になっていることに不運の訪れを予感したようだ。そんな心の隙を見逃さなかった先生である。

「その本の250頁は現在・・、我々の現時点を示している、と考えてほしい。そしてその前の頁が過去であり、先が未来を表している。つまり、一冊の本の中に、過去・現在・未来があるという訳だ」

「はあぁ」

ため息にも似たケンジの反応は、言っていることが理解出来ない、ではなく、「それがどうした」に近い、かもしれない。——が、取り敢えず質問だけはしておこうと思ったようだ。

「先生。その、未来の部分が白紙、というか何も書かれていないというのは、まだ未来が決まっていないから、ですよね。それで、これから少しづつ、日記のように足されていく? そんなところでしょうか」

これに、口元を緩めてニヤリとする先生である。それは多分、想定内の疑問だったからだろう。

「良いところに気が付いた。だが、その考えは不正解である。何故なら、確定された未来は、単に我々がそれを認識できないが故に、白紙のように・・・見えてしまうだけなのである」

「先生、聞き間違いでしょうか。確定された未来って、未来はまだ何も決まってないですよね。だから空白なんじゃないですか……その為の空白ですよね」

先生の話に呆れ顔を返すケンジ、そのケンジに同様の呆れ顔を返す先生、『目には目を歯には歯を』の精神か。

「やはりそうきたか。そう勘違いすると思ってはいたが、クックッ、こうズバリとくると、な。……では改めて君に聞こうかね。現在の我々を過去の人が見たら、それを何と思うだろうか。過去から見れば現在の我々は十分未来・・に居ると言えるのではないかね。そして、その未来である現在では過去に対して既に未来は確定している、と言えるのではないかね」

「それはそうでしょうけれど、それは同時に不可能なことですよ。だって過去の人が現在の様子をどうやって見るんですか? テレビ? 新聞? それとも魔法の鏡でも覗くんでしょうか。それなら可能かもしれませんが」

先生の言うことは単に屁理屈である、と口を尖らせたケンジ——であったが、まともに付き合った自分がバカらしくも思えたようだ。それでも怯まない先生、これも多分、想定内なのだろう。

「では、君が理解し易いように例を挙げてみよう。それで未来が確定されていることが分かるだろう。……例えば、次の週末に君は君の・・彼女とデートの約束をしたとしよう」

彼女・・ですか? 居ませんけど」

『彼女』というキーワードが出現したところで、先生とケンジの間に挟まれる位置関係にいるサユリはどうしているのか? 最初の頃は先生とケンジの会話を聞いているだけだったが、椅子に座っているせいか、それとも寝不足なのか、本人も気が付かないうちにウトウトとし始めてしまったようだ。——それとは関係なく、『彼女』を強調したケンジは、『居ない』ということの方を強調したかったのだろう。だが、そんなケンジの反応も先生には分かっていたのかもしれない。

「そんなのは誰でも良い。とにかく君は週末の約束を有頂天になって予定表に書き込むことだろう。さあ来い恋い週末という具合に。……しかし、その後に私からデートの誘いを受けることになる。その時、君は私からの誘いをどうするかね」

「お断りします」
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