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#15 残されし者たちの涙
#4.2 講義
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「いいですよ、私は構いません」
先生の淫らな提案にケンジが反応する、その前にあっさりと承諾してしまったサユリではないか。本気なのか? バカなのか? とケンジが口をまごつかせていると、
「冗談を本気にしては困るよ、君たち。この場を和らげるために恥を忍んで言ってみただけのことだから。そうだろう、君、立ってても全然平気だろう?」と言い訳を立てつつ、矛先をケンジに向ける先生、顔が真っ赤だが照れているのだろうか。
急に問われたケンジは、「あー」とか「うー」と唸るばかりで役に立ちそうもないが、それを察してか、それとも何か都合が悪いのか、話を続ける先生である。
「あー、これで資料は揃ったので、早速検証してみようではないか。まず、君たちの証言には多少の違が見られるが、まあ、それは余り問題にはならない。そもそも突発的な出来事に遭遇したのであるから、各人の記憶の細部が異なったとしても大局的に捉えれば同じ事象である。……そこで、私の見解をいくつか挙げると、
第一に、君たちの見間違い、勘違いの類い。何らかの現象がそのように見えたにすぎない、ということ。
第二に、失踪者本人が失踪を装っている。つまり、何がしらの理由により君たちを驚かせようとした、ちょっとしたイタズラではないか。
第三は、奇妙なことに君たち以外の目撃者が存在しないこと。まあ、この種の事柄にはそのような場合が多い、というのが私の研究での定説である。……よって、
第四、君たちは揃って虚偽、つまり嘘をついている。それが君たちにとって何の得になるのか私には知りようもないが、……、……、……」
先生が途中で無口になってしまったのは、二人の視線・目付きに恐れをなしたからだろう。その、突き放すような視線攻撃によって、先生は奈落の底に落ちる思いがしたのかもしれない。必死に喘ぎ・藻掻く心根は、暗闇を彷徨う独りぼっちの自分、そこには決して戻りたくはないという恐怖・拒絶感が先生をコテンパンに打ちのめす。
「……というのは冗談で、……本当に冗談だからね。……そんなことより、もっと重要な確認事項があるので、それを先に確認しておきたいのだが、いいかね?」
夜の海を照らす灯台の光がクルクルと回るように、二人の様子を伺う先生。その結果、何も応えない海原を承諾されたものとして続ける。
「私はこれと似た現象を知っているのだが、君たちが想像する異世界とは違い、もう少し現実的な出来事である。それは、人が光に包まれて消失するという事例は異星人によって誘拐された事件と酷似してはいないだろうか。……その時、空にUFO、未確認飛行物体が飛んではいなかったかな。それとも異常な磁場を感じたとか、どうだろう。こう鳥肌が立つとか……」
「違います。あれは確かに、異世界に召喚されたんです。UFOなんて、そんな現実的な話ではありません、絶対」
「良い世界? それってどこの国のこと?」
即座に異を唱えたケンジ、どこかの夢の国を想像したサユリである。だが、何かがおかしい、と首を捻る先生である。それは、異世界など存在しない前提だったはずが、それは存在し、かつUFOは存在していることになっている、そのことに違和感を覚えた先生は、ここでガツーンと言ってやらねば、と思ったようだ。
「ある世界で、とても困った状況が発生した、とする。その世界の王は皆を集め知恵を絞ったが、なかなな良い策が思い付かず困惑した。するとそこに一人の賢者が現れ、こう言ったのだ。『王よ、この世界の住人では問題を解決することなど到底不可能。ただ滅ぶのを待つしかない』とな。だが、一つだけ方法が残されていたのだ。それは……この世界ではという部分にその秘密が隠されていたのだ。そう、この世界ではなく、別の世界の住人なら、いとも簡単に解決できることを賢者は知っていたのだ。そこで早速、召喚士を集め召喚の儀を執り行った。その結果、君たちの友人が異世界に召喚されたのである。……それが事の真実であろう」
話終わった先生は、キリッと視線をケンジに向けると、「そう、その通りです、先生!」と、今にも言いそうな勢いで口を開きかけている、ように見えたようだ。
更に視線をサユリにチラッと向けると、
「王? 賢者? 知恵? まさか、とんでもないことが起ころうとしているの? それとも起こったの?」と、目を丸くしている。
そんな二人を観察し終えた先生は、自分の口から何かが溢れるのを阻止するかのように硬く閉じ、歪め、天を仰いだ後、正しくは天井を見つめた後、こう言ったのである。
「それが真実だと考える方がおかしい。君たちは起きながらにして夢でも見ているのかね? 常識的に考えればすぐに分かる事ではないか。いいかね、異世界という空想の世界は存在しない、実在しないのだ。それを空想と言うのだよ、君たち! 目を覚ますのだ」
少々興奮気味の先生の様子に、「ねえねえ、何が起こってるの? どうして?」を無言でケンジに伝えるサユリ。それを受け、「さあ、なんだろうね」と首を曲げることで答えたケンジである。
「先生! もちろん僕たちは信じている訳ではありません。あくまで可能性について言っただけなのです。先生、僕たちは真実が知りたいのです、ただそれだけです、お願いします」
ケンジの言い訳に納得しかねるぞ、という表情が漂う先生、だったが、一声、「私からもお願いします」とサユリに言われたことで上機嫌となった先生である。
「うむ、それでは続けるとしよう。そもそも異世界とは、だね~」
再開した講義、ではあったが、そこに無言で手を上げ、口を挟むケンジである。
「先生、申し訳ありませんが、異世界そのものの話は後回しにして欲しいのですが。それよりもですね、異世界に行った人がどうなるのか、無事に戻って来られるのかどうかの方がすごく気になるので、出来ればそれを先に。……正直、異世界にはあまり興味がぁ……」
「ちょっとぉぉぉ、なに言ってるのよぉぉぉ」
言いずらそうに、それでもズバリと言ってしまったケンジに、拳を挙げそうな勢いで迫ったのは、先生ではなくサユリの方であった。その開いた口はまだ続く。
「良い世界がどんなところかって、ちゃんと聞かないとダメでしょう、君は。どこにあるのか分からないのに、どうやってそこに行くつもりなのよ! 迎えに行く時、困るでしょう。それとも君は、ただ黙って、なにもしないで待ってるつもりなの?」
ケンジの頭の中では迎えに行くという考えは存在していなかったようだ。サユリに言われて初めて気が付いたようだが、そもそも得体の知れない世界に足を踏み入れるつもりはなく、とにかくカズヤが自力か、それとも成り行きでも構わないが、戻って来るのかどうかが気がかりなだけであったようだ。しかし、それはまだ自分の胸の中に仕舞っておかなければならない秘密のようなものであり、特に、サユリには悟られてはマズイと動揺するケンジは、
「俺としたことが……勿論その通り、迎えに行くどころか、どんなことをしてででも探すつもりだよ。そこがどんな所だろうがね、大冒険になるよ」とサユリから少し視線をずらしながら、序でに語気も強めたのであった。そして、
「先生、続きをお願いします。異世界の全てが知りたいです、先生」と、空っぽの眼差しを先生に向けたのであった。
◇◇
先生の淫らな提案にケンジが反応する、その前にあっさりと承諾してしまったサユリではないか。本気なのか? バカなのか? とケンジが口をまごつかせていると、
「冗談を本気にしては困るよ、君たち。この場を和らげるために恥を忍んで言ってみただけのことだから。そうだろう、君、立ってても全然平気だろう?」と言い訳を立てつつ、矛先をケンジに向ける先生、顔が真っ赤だが照れているのだろうか。
急に問われたケンジは、「あー」とか「うー」と唸るばかりで役に立ちそうもないが、それを察してか、それとも何か都合が悪いのか、話を続ける先生である。
「あー、これで資料は揃ったので、早速検証してみようではないか。まず、君たちの証言には多少の違が見られるが、まあ、それは余り問題にはならない。そもそも突発的な出来事に遭遇したのであるから、各人の記憶の細部が異なったとしても大局的に捉えれば同じ事象である。……そこで、私の見解をいくつか挙げると、
第一に、君たちの見間違い、勘違いの類い。何らかの現象がそのように見えたにすぎない、ということ。
第二に、失踪者本人が失踪を装っている。つまり、何がしらの理由により君たちを驚かせようとした、ちょっとしたイタズラではないか。
第三は、奇妙なことに君たち以外の目撃者が存在しないこと。まあ、この種の事柄にはそのような場合が多い、というのが私の研究での定説である。……よって、
第四、君たちは揃って虚偽、つまり嘘をついている。それが君たちにとって何の得になるのか私には知りようもないが、……、……、……」
先生が途中で無口になってしまったのは、二人の視線・目付きに恐れをなしたからだろう。その、突き放すような視線攻撃によって、先生は奈落の底に落ちる思いがしたのかもしれない。必死に喘ぎ・藻掻く心根は、暗闇を彷徨う独りぼっちの自分、そこには決して戻りたくはないという恐怖・拒絶感が先生をコテンパンに打ちのめす。
「……というのは冗談で、……本当に冗談だからね。……そんなことより、もっと重要な確認事項があるので、それを先に確認しておきたいのだが、いいかね?」
夜の海を照らす灯台の光がクルクルと回るように、二人の様子を伺う先生。その結果、何も応えない海原を承諾されたものとして続ける。
「私はこれと似た現象を知っているのだが、君たちが想像する異世界とは違い、もう少し現実的な出来事である。それは、人が光に包まれて消失するという事例は異星人によって誘拐された事件と酷似してはいないだろうか。……その時、空にUFO、未確認飛行物体が飛んではいなかったかな。それとも異常な磁場を感じたとか、どうだろう。こう鳥肌が立つとか……」
「違います。あれは確かに、異世界に召喚されたんです。UFOなんて、そんな現実的な話ではありません、絶対」
「良い世界? それってどこの国のこと?」
即座に異を唱えたケンジ、どこかの夢の国を想像したサユリである。だが、何かがおかしい、と首を捻る先生である。それは、異世界など存在しない前提だったはずが、それは存在し、かつUFOは存在していることになっている、そのことに違和感を覚えた先生は、ここでガツーンと言ってやらねば、と思ったようだ。
「ある世界で、とても困った状況が発生した、とする。その世界の王は皆を集め知恵を絞ったが、なかなな良い策が思い付かず困惑した。するとそこに一人の賢者が現れ、こう言ったのだ。『王よ、この世界の住人では問題を解決することなど到底不可能。ただ滅ぶのを待つしかない』とな。だが、一つだけ方法が残されていたのだ。それは……この世界ではという部分にその秘密が隠されていたのだ。そう、この世界ではなく、別の世界の住人なら、いとも簡単に解決できることを賢者は知っていたのだ。そこで早速、召喚士を集め召喚の儀を執り行った。その結果、君たちの友人が異世界に召喚されたのである。……それが事の真実であろう」
話終わった先生は、キリッと視線をケンジに向けると、「そう、その通りです、先生!」と、今にも言いそうな勢いで口を開きかけている、ように見えたようだ。
更に視線をサユリにチラッと向けると、
「王? 賢者? 知恵? まさか、とんでもないことが起ころうとしているの? それとも起こったの?」と、目を丸くしている。
そんな二人を観察し終えた先生は、自分の口から何かが溢れるのを阻止するかのように硬く閉じ、歪め、天を仰いだ後、正しくは天井を見つめた後、こう言ったのである。
「それが真実だと考える方がおかしい。君たちは起きながらにして夢でも見ているのかね? 常識的に考えればすぐに分かる事ではないか。いいかね、異世界という空想の世界は存在しない、実在しないのだ。それを空想と言うのだよ、君たち! 目を覚ますのだ」
少々興奮気味の先生の様子に、「ねえねえ、何が起こってるの? どうして?」を無言でケンジに伝えるサユリ。それを受け、「さあ、なんだろうね」と首を曲げることで答えたケンジである。
「先生! もちろん僕たちは信じている訳ではありません。あくまで可能性について言っただけなのです。先生、僕たちは真実が知りたいのです、ただそれだけです、お願いします」
ケンジの言い訳に納得しかねるぞ、という表情が漂う先生、だったが、一声、「私からもお願いします」とサユリに言われたことで上機嫌となった先生である。
「うむ、それでは続けるとしよう。そもそも異世界とは、だね~」
再開した講義、ではあったが、そこに無言で手を上げ、口を挟むケンジである。
「先生、申し訳ありませんが、異世界そのものの話は後回しにして欲しいのですが。それよりもですね、異世界に行った人がどうなるのか、無事に戻って来られるのかどうかの方がすごく気になるので、出来ればそれを先に。……正直、異世界にはあまり興味がぁ……」
「ちょっとぉぉぉ、なに言ってるのよぉぉぉ」
言いずらそうに、それでもズバリと言ってしまったケンジに、拳を挙げそうな勢いで迫ったのは、先生ではなくサユリの方であった。その開いた口はまだ続く。
「良い世界がどんなところかって、ちゃんと聞かないとダメでしょう、君は。どこにあるのか分からないのに、どうやってそこに行くつもりなのよ! 迎えに行く時、困るでしょう。それとも君は、ただ黙って、なにもしないで待ってるつもりなの?」
ケンジの頭の中では迎えに行くという考えは存在していなかったようだ。サユリに言われて初めて気が付いたようだが、そもそも得体の知れない世界に足を踏み入れるつもりはなく、とにかくカズヤが自力か、それとも成り行きでも構わないが、戻って来るのかどうかが気がかりなだけであったようだ。しかし、それはまだ自分の胸の中に仕舞っておかなければならない秘密のようなものであり、特に、サユリには悟られてはマズイと動揺するケンジは、
「俺としたことが……勿論その通り、迎えに行くどころか、どんなことをしてででも探すつもりだよ。そこがどんな所だろうがね、大冒険になるよ」とサユリから少し視線をずらしながら、序でに語気も強めたのであった。そして、
「先生、続きをお願いします。異世界の全てが知りたいです、先生」と、空っぽの眼差しを先生に向けたのであった。
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