逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#15 残されし者たちの涙

#6 探し物は何ですか

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カチカチ・カチカチ・カチカチ・カチカチ・カチカチ・カチカチ。

奏で続ける秒針は、かろうじて呼吸している先生とケンジを置いてきぼりにして、現在から未来へ、未来から現在をどんどん過去にしながら進んで行く、そんな過去を何度も振り返る先生である。もし、少しでも時を遡れるならケンジの返答に注文を付けたことだろう。それは、今時の若者だからなのか、物分かりが良い・良過ぎるケンジに、「もっと疑問があるはずだ。私の説明だけで納得してもらっては困るのだよ、君」と、言いたかったようだが、その時を逃してしまった先生は、ただ沈黙を破れない愚かさをカチカチと共に積み重ねていた、ようだ。

先生としては、「分かりました」と言ったケンジに対して、まだアレコレと議論がしたかったようだが、あっさりと引かれてしまったことに不満と不審を抱いたようだ。友人の失踪を、あたかも『仕方のない事』と理解し割り切る姿勢に、人間性の冷たさよりも、期待していた結果を得られたことを満足に思っているのではないか、そんな疑念がフツフツと湧いてきた先生は、それを、

「ところで彼女、どこに行ったのかね。なかなか戻って来る様子が無いようだが」と遠回し? に尋ねたハニカム屋さんの先生である。

「たぶん、トイレだと思います」

「そうか。……大きい方かな。それにしても難儀なことだな。……何故かって? ここには俗に言う女子トイレなるものが無いのだよ。だって、……君、不思議に思わなかったかね、ここがトイレの隣だということに……」

言いづらそうに話す先生である。それは話の内容などではなく、単にケンジが聞いているのかいないのか判別しがたい表情で立っていたからだろう。そんな、探りを入れていた先生だったが、肩の力を抜くと、「どっちでもいいさ」と続ける先生である。

「トイレの隣、というのは実は錯覚で、本来ここは女性用のトイレだった……のである。それを潰して……改装して研究室にしたのだ。……では、何故そんなことをしたのか、または可能だったのか。それは……見た目も中身も古い研究棟にはだな、と付く者が全く全然、誰一人として居ない、からである。よって最初に戻るが、トイレに行くには一旦、ここを出る必要がある、だから女性にとっては大変だ、と言うことだ」

「そうでしたか。それでここ、狭いんですね。分かりました」

「そうか、分かってくれたか。うん、うん」

やっとケンジの反応を見られた先生は満足そうに頷くと、またクルッと回って窓から外の景色を見始めたが、元々はトイレの窓だったことを先生は知らないか、想像には及ばないのだろう。

一方、ケンジは長らく立っていたせいもあってか、サユリが座っていた椅子にドカっと座り足を組んだが、その際、既に失われているはずの温もりを背中に感じたようだ。それが錯覚で有ろうが無かろうがケンジには及ばないのだろう。——それよりも、サユリが戻って来るまでの暇つぶしとして、目の前にある先生の机、その上に積まれたゴミのような山のいただきから雑誌のような物に手を伸ばしながら、

「先生、机の上にある雑誌、読んでもいいですか」と一応承諾を得ようと手を止めた。それに、

「ああ、構わんよ。どうせ大したものではないがね」と振り向くことなく応えた先生である。

そうして摘むようにして雑誌を手元に引き寄せようとした時、やはりその持ち方に問題があったのか、足元に落としてしまったケンジである。思わず、「あっ」と声を出してしまったが、その声に合わせるかのようにページが大きく開いた状態で床に落ちてしまった。もしこれが雑誌などではなく分厚い本だったら、と思いながら落ちた雑誌に手を伸ばしかけたところ、見開いたページに何か違和感を感じたケンジである。

それは、恣意的しいてきな見出しと写真が目を引いたからなのかもしれない。その見出しとは、『世紀の発見? 400年前、既に携帯電話が存在していた?』という、その手の話が大好きな人たちにとっては心踊る内容だろうが、そうではないケンジはバカバカしく思いながら雑誌を拾い上げた。そして何となくその写真を見てみると、見てみると、見ると、「うんっ! はあぁ? ええぇぇぇ」と、心が叫ばざるを得なかったようだ。その波動が先生の背中に頭突きを食らわし、こそばゆさ故に振り向かざるを得なかったようだ。

「どうしたね、君。そんなに難しい顔をして」

先生の声掛けに、どう返答したものかと悩むケンジである。それは——雑誌に掲載されている写真が、どう見てもサユリが持っている携帯と同じ物ではないかと思えてならなかったかである。それも携帯に付いているストラップまで同じとなれば、とても偶然の一致とは思えない。しかしそれは400年前の物と書いてあるが、どう見ても携帯のように見えてしまい、それでもそんな昔に携帯が在る訳がない。——これは多分、何かのイタズラと思いたいが——

「先生、こんなことって有るのでしょうか……」

馬鹿げたことと思いつつ、偶然手にした雑誌、偶然に開いたページ、そこに偶然サユリのと同じ携帯、同じストラップが写った写真、それを偶然目にした自分。それらが余りにも偶然過ぎるのではないか。こういった、自分の領域を超えた現象に翻弄されながらも先生に訴えたケンジである。

「ああ、なるほど、そんなことか」

ケンジとは対照的に、あまり興味がなさそうな先生である。だが、ここで教授(副)としての実力を見せびらかす絶好の好機と捉え、ペロリンと口の回転速度を上げた先生、続きます。

「いいかね、君。人は偶然が重なると、それがあたかも偶然ではないように錯覚してしまうものなのだよ。例えば、悪い事が続けば呪われているとか、同じ人物と短期間に何度も出会ってしまった時とかね。それらは、あくまで偶然であって、必然とか運命などではないのだ。人の願望、そうであって欲しい、そうあっては困る、という意識がそんな錯覚を呼んでいるに過ぎない。……君が手にしているゴシップ系の記事を鵜呑みにするほど、君は愚かではあるまい。……そんなに悩むなら彼女に電話してみれば一発で解決することではないか、簡単なことだろう?」

「そうですね、そうしてみます」

言われてみればそれもそうだ・・・・・・、ということに今更ながら気が付いたケンジ、ではあるが、部屋を出て行ったサユリが、このまま戻って来ないかもしれない、とどこかで予感めいたものを感じていたのかも知れない。——そんな予感が的中してしまったかのように、掛けた電話は電波が届かず、それは同時にケンジの思いも届かないように思えたようだ。

「先生! 電話が、電話が、……電波が届きません」

「まあぁ待て。そんなこともあるかも知れないが、電池が切れたという可能性もあるだろう。……なんなら、直接探して行ってみてはどうかね」

「そうします」

慌てて席を立ち駆け出そうとするケンジを、「ちょっと待て」と引き止める先生である。

「その前に確認しておきたい事がある。暫し待たれよ」

先生は卓上の電話を取り、どこかに「もしもし」した後、

「いいかね、君。今、守衛に確認を取ったところ、直近に研究棟を出入りした人は居ないそうだ。ということは、まだこの中に居るということだよ。これで捜索範囲が狭まったが、ちなみに女子トイレは探さなくても良いぞ。そこは前にも言った通り、封鎖されているからね。それというのもだな……」

先生が話し終わる前に部屋から出て行ったケンジである。その面影に向かって、「ここには女性が居ないのだよ。……なんてことだろうね、酷い仕打ちじゃないか、全く」と呟く先生であった。

◇◇
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