逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

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#15 残されし者たちの涙

#7.1 ドアの向こう

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研究棟はとても古く、その呼称のように、どこまで雨風に耐えられるかを実験しているかのようでもあったが、それは、その中の住人にとっても同様なのかもしれない。どこまで人生の、運命の雨風に耐えられるのか、それをどこかの誰かが観察していることだろう。

研究棟を駆け巡ったケンジは息を切らせて舞い戻った。それは、サユリの消息を一切掴めないままの、手ぶらでの帰還である。だがその間、先生はサユリの行方を別の角度から調査し、その結果として、ある仮説を打ち立てた、または思い付いたようである。——しかし、それを披露する前に、

「先生! どこにも、居ません! 居ないんですよぉぉぉ」

「まあ、落ち着きたまえ」

「そんな、そんな場合ではないでしょう」

「バカモン! 闇雲に探しても時間を無駄にするだけだということが分からないか。……まずは推測という道標を持つべきだろう。私の話を聞きない。……ほれ、そこに座って」

椅子などに座っている場合ではない! と椅子を睨みつけたケンジ、そのケンジ以上に、穏やかだが強い意志を宿した目でさとす先生である。

「君が探しに行っている間、私が何もしなかったと思うかね。私は私なりの方法で調べていたのだよ。そして、ある仮説に辿り着いた。それは……」

ここで、ケンジが先生の話を聞く気があるかどうか、それを表情から読み取ろうとした先生、——だったが、「こいつの表情は分からん」という事で続けることにしたようだ。

「まず、現在の状況を整理しよう。彼女がここを出て行く時、君に何か話し掛けていたね。彼女は何を君に伝えたのかね?」

「特に何も。ただ出て来ると言っただけです」

「そうか。では彼女は、その時すでに覚悟をしていたようだね」

「覚悟ですか?」

「いや、覚悟と言うよりも、呼ばれた・・・・と言った方が良いだろう。……そう、それは何かからの問い掛け、囁き、導く者の声、などなどだろう」

「はあぁ」

「結論から先に言うと彼女は、恐らくここには居ないだろう。正確には、こことは我々が認知している世界・・・・・・・・・・・であり、彼女はつまり、君たち風に言えば異世界に召喚された、ということになるだろうか」

「それって、最初に召喚されたカズヤがサユリを呼んだ? 召喚したと言うんですか。……なんて身勝手な奴なんだ。りに選ってサユリまで巻き込むことはないだろう」

ハーレムのような異世界で、「こっちに来いよ~」と手招きするカズヤの姿を想像したケンジである。そこには羨望の思いも込められているのではないかと想像した先生である。

「ほおぉ、それはなかなか興味深いではないか。いや、君の言ったそのもの・・・・ではなく、君の友人たちの名前なんだがね。君が探しに行っている間、あの雑誌の記事を私なりに調べてみたのだが、記事の基本的な部分は確かに本当のようだ。今から400年前といえば世は戦国時代、その中の武将で、……なんとかと言う武将の名がノブカズ、その正室がユリコ姫。そして記事で騒いでいるのが、ユリコ姫が愛用していたという小箱から例の携帯が出てきた、ということらしい。だが、ここで一番興味深いのは、その名前、……カズノシン?」

「カズヤです」

「そうそう、そのカズヤとノブカズ、彼女の名がサユリでユリコ姫。どうだね、似ている、と言っても良いだろう」

「それはなんとも。似ていないとも言えるし、……似てたとしても偶然じゃないですか」

名前が似ているということは、それだけでカズヤとサユリが同じ場所、同じ時を共にしているのに違いない。そんな可能性が頭から離れないカズヤであった。

「君は、先ほど私が言ったことを覚えてるかね、偶然などは無く、それは錯覚だと。過去は既に確定されているので改変は不可能。それと同じ理論で未来も確定済みであり、変えられる未来など存在しない。その未来が見えないのは単に我々が、——正確には人間の脳がそれを認識できない構造になっているからだ。それは、時間が過去から未来にだけ進んでいると思い込んでいる人間の限界だろう。……君は時計の針が進み続けることに何ら疑問を持たないだろう? 人工物でなくても動物には体内時計というものがあり、それらは進み続けるばかりで後退することはない。だから過去から未来へと、一方向だけの認識しか出来ないのである」

「それは普通だと……普遍的なことだと思いますが」

「それでは具体的に挙げてみよう。君たちがここに来たという事実。彼女がこの部屋を出た後に、君は彼女に関係するであろう雑誌を手に取ったこと。そして既に過去の存在となった彼女の痕跡を見つけた。それらは全て偶然に起きたこと? なのだろうか。それを次のように考えるとどうだろう。それは、確定している未来に向かってすべき事をしたに過ぎない、ではどうだろうか」

迷路の中を彷徨うように、それでもしっかりと出口は見えている。そんな、よく分からない話などどうでも・・・・良く、サユリの行方が気になって仕方ないケンジである。但し、既に彼女が異世界、または別の世界へと旅立った、という流れに流されてしまったケンジでもある。

「未来がどうこうよりも、過去の存在って、どこの過去に行ったと言うんですか……あぁ、400年前か。でも、なんで彼女なんです? 彼女が過去に行く理由なんて無いじゃないですか」

「理由かね、それは私にも分からない。……分からないが、それでも推測は出来る。それを聞く気はあるかね」

聞き手が居る以上、話してしまいたい欲求に突き動かされる先生。しかしその聞き手を逃しては元も子もなくなってしまう。そんな葛藤と戦う先生、それに巻き込まれないように平静を装いたいケンジ、二人の攻防は続く——。

「聞いたところで……どうでしょう」

「では聞きたまえ。これはあくまで推測であることを忘れないように。それでは、君にも分かるように、また本を使って説明しよう」

今度は先生自ら本を手にし、適当にパラパラとページをめくり、ほぼ中央付近で手を止めると、

「この250ページが現在とする。それ以降のページが白紙なのは既に述べた通りだ。そして過去、……そうだね、適当だが50ページを彼女たちが向かった……過去としよう。そこに書かれている物語は、もちろん書き換えることが出来ない過去である。その物語とはつまり、歴史が書かれている、いや、歴史そのものと考えた方が理解しやすいだろう。……では、彼女たちはこのページが指し示す過去に居るのか、と言うと答えはいいえ・・・である。それは、あくまでその過去は我々の世界での過去であるからだ。そこは既に過ぎ去った過去であり確定済み、かつ改変不可能な領域なのである。……だが、心配する必要はない。この50ページが複数存在すると考えれば見えないものも見えてくると言うもの。それこそが並行世界、パラレルワールドと言えるだろう」

「それはどう言う事でしょうか。それって過去が変わる? 変えられると言う事でしょうか?」

「うんにゃ、それは無い。並行世界とは、ある時期まで全く同じか、ほぼ同じと言って良いくらい似通った世界だからだ。それが大きく異なるとしたら、それはもはや並行している世界とは言えず、異なる世界、枝分かれした世界と言えるだろう。本に例えれば内容の全く違う別の本、料理と経済くらい離れたものだ。……但し、どちらも本であるという基本は同じ、ではあるが、今は混乱するだけなのでそれらは脇においておこう。
 そして、ここからが本題である。話を簡単にするために、我々の世界と彼女たちが居るであろう世界とが並行し、隣り合わせで存在しているとしよう。そして、本のページが時間軸を表し、この世界の現在が250ページ、隣の世界が50ページで、それぞれのページが同じ高さで開いている。つまり、我々の隣で過去の世界が現在進行形で横並びになっている、ことだろう。因みに隣の50ページ以降は白紙になっているが、そこには順次、こちら側とほぼ同一の内容が書き込まれることになっているはずなので、それをもって未来は確定されている、ということになる」

「それは、あくまで仮定の話ですよね。取り敢えず未来の事はいいとして、ほぼ・・同じ内容、ということは、その違い・差が将来、大きく変わる起点にはならないのですか」

「君、なかなか賢いね。それはバタフライ効果と言ってね……いや、私の言い方が悪かったようだ。少し修正するが、ほぼ・・同じというのは、……あくまで本で例えるが、両方の世界に書かれている文章は全く同一のものである。……あるが、それをほぼ・・と表現したのは行間に違いがあるからだ。と言っても行間を読む・・・・・というようなことではなく、そうだな……それを書いた作者の思考、思惑、感情、意思などが異なる、という意味なのだが、なんにせよ結果は同じ、書かれた文章は同じだった、という訳である。……要は作者に多少の迷いがあったとしても結果は変わらないということである」

「行間、ブレ、……なんだかなぁ。まあ、それもいいとして先生、二人が召喚された理由はどうなりましたか? まさか、本の作者が召喚した、なんて落ちではないですよね」

「君、もしかしたら私の助手をしないかね。最初は研究生としてだが、どうだろう」
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