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#18 転生システム管理者の涙
#3 小さなカケラが秘める、大きな……
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宇宙から俺宛に送られた音声メッセージ。その解析をおっさんに依頼したが、結果が出るまでのらりくらりと3ヶ月。その成果発表を鑑賞しているのが今の俺だ。おっさんは自身が書いた解析ノートを朗読中。しかし、何度も支えながらであり、どうやら自分の字が所々読めないらしい。まったく、情けない醜態を晒している最中でもある。
そのおっさんによれば、音声の冒頭部分は『言葉の教科書』になっているとのこと。どうりで、同じような音の繰り返しだと思ったが、その読みは的中。そして、教科書で勉強した後は当然、テストがあり、それを経てやっと本文に入る訳だが、——どうやらそれは知的な伝言などではなく、誰かが一人で呟いているだけの、くだらないお喋りのようなもの、らしい。——だからか、おっさんが自分の成果に価値は無いと踏んで、それで金だけふんだくって逃げようとしていたのか。だが、そうは問屋が卸さない。その価値を決めるのは俺であって、金は無くとも有るフリをしている俺だ。——おっと、それは余計なことだったな。さあ、続きを聞こうじゃないか、心して。
「アレは、もうずっと昔のことだった。アレは……、アレは……」
埒が明かないので、おっさんの代わりに説明しよう。——それは大昔のことじゃった、うんうん。
むかしむかし、光り輝く星の、その周りをクルクルと回る、それはそれは小さなカケラが一対、プカプカと漂っていたそうな。それは、一辺が2.5cmの正四角形で、表面は黒く、厚みは……(暗くて良く見えないそうだ。とにかく薄いことだけは確かだと言っている)の、小さな板。それが二枚、仲良く宇宙を散歩しているかのようでした。
そのカケラが、何時からそこに在ったのかは存じません。もしかしたら偶然、何かの破片が、そのような形になっただけの可能性もあります。ですがそれを、私たちも偶然に発見したものですから、そこに、運命のような結び付きを感じたのです。
「おい、『私たちも』ってことは複数いるのか?」
とうとう、汗まで吹き出して悪戦苦闘するおっさんだ。そんなに自分が書いたものが難読なら、尚更、俺が読破するなど片腹痛い。その腹癒せではなく、真っ当な疑問をぶっ込んでみると——
「そうだ。この場合、二人? とでもしておこう。姿形は到底、人間とは似ても似つかぬが、強いて例えれば、それは雲ということになるそうだ、そう自己紹介している。あのフワフワのシュワシュワしている雲だな。……ああ、お前と比べれば、まさしく『雲の上の人』となる訳だから、そう思ってもいいだろう。……それとだ、何で地球の雲を知っているのかと言うと、それは後で説明が入るので、それまで待て。それまで良い子にしていれば良いことがある、かも知れんからな」
「そうか」
◇◇
——私の名はカイン、同僚はアベルとしておこう。私たちは小さなカケラを見つけた時から観察を続けている。それが私たちの仕事と言えば理解が進むだろう。その目的は、ただ観察をすることであり、保護・保全や研究および調査を目的とはしていない。簡単に言えば、「ただ見ている」だけである。それが何の役に立つのか、どんな意味があるのか、——そのような問いに答えることは出来ない。しかしそれは、隠しているという意味ではなく、適切な言葉が存在しない、または言語の限界を超えられないからである。
同僚のアベルは私よりも小さなカケラに大変興味を持ち、一対のカケラにそれぞれ、アダム、イブと名前を付けて呼んでいた。そうして時間のある限り、それらに近づき、観測と言うよりも見守るように接していた。だが、「見ている」ということには何ら変わりはない。いくらアベルが話しかけようとも、それらが反応を示すことは無かったからだ。当然と言えば当然なのだが、相手は所詮、小さなカケラでしかない。それは無駄な行為と私は考えるが、それでもアベルは話し掛けることを止めなかった。
多分、その時の私は自分の考え、考え方というものに固執していたのだろう。アベルの行為を無意味としたが、それは飽くまで私がアベルを見てという立ち位置で私自身の考えとしたからだ。それをアベルに当てはめれば意味のある行為として十分に成立することである。よって今後はその様に見るべきであると考えを改めた。
ある時、痛ましい事件が起きた。隕石と言うには余りにも小さい物体だったが、それがカケラの一方、アベルがイブと名付けた物に衝突したのだ。それは、広大な宇宙ではかなり低い確率で起こる出来事だったが、その確率はゼロではない。それが偶然なのかどうなのか、飛来して来た小さな小さな隕石が、それよりもずっと小さいカケラに当たる確率は、それぞれが誕生した瞬間から決められていたように、全ては予定通り事象は進み、それを私たちが観測することも予定通りだったのだろう。
砕け散ったカケラ、イブはその原形を残さず、衝突の熱によって消滅したと考えられる。その時の、アベルの落胆は非常に大きく、見ている私にも、その辛さが伝わってくる程だった。その悲しむ姿を、アベルを見たくないと思う私は、本当に見ることを止めてしまった。もしかしたら、もっと注意して観察していれば衝突は回避出来たかもしれない。そして、その方法も手段も我々にはある。しかし、それを行うということは、仕事に逆らうことになり、もしその選択を迫られたとしたら、私はどうしただろうか。——いや、考えるのはよそう。全ては終わった事であり、時を遡ることは記憶の中でしか出来ない。——ああ、そうだ。何も残りはしなかったが、イブが存在したという記憶は、私たちによって残されている。それだけは何が起ころうとも消えることはないだろう。
それから長い時が流れた。——
「ちょっと待て。そんなカケラの話など、どうでもいい。対象がカケラなら、話の内容まで小さくて、全然面白くない。それにだ、アダムとかイブは……まあいいとしてだな、カインとアベルってなんだよ、創作のし過ぎだろうぉぉぉ、これぇぇぇ。それともアレか、意訳したとでも言うのか、どうなんだよ」
「だから、最初に言ってある、『最後までツベコベ言わずに聴け』とな。そんなことも守れない、我慢できない大人ではないろう、どうなんだ?」
「勿論、俺はできた大人だ。続けてくれ。これくらい、何でもない、大人なんだから、なっ」
「良かろう、では続けるとする」
◇◇
そのおっさんによれば、音声の冒頭部分は『言葉の教科書』になっているとのこと。どうりで、同じような音の繰り返しだと思ったが、その読みは的中。そして、教科書で勉強した後は当然、テストがあり、それを経てやっと本文に入る訳だが、——どうやらそれは知的な伝言などではなく、誰かが一人で呟いているだけの、くだらないお喋りのようなもの、らしい。——だからか、おっさんが自分の成果に価値は無いと踏んで、それで金だけふんだくって逃げようとしていたのか。だが、そうは問屋が卸さない。その価値を決めるのは俺であって、金は無くとも有るフリをしている俺だ。——おっと、それは余計なことだったな。さあ、続きを聞こうじゃないか、心して。
「アレは、もうずっと昔のことだった。アレは……、アレは……」
埒が明かないので、おっさんの代わりに説明しよう。——それは大昔のことじゃった、うんうん。
むかしむかし、光り輝く星の、その周りをクルクルと回る、それはそれは小さなカケラが一対、プカプカと漂っていたそうな。それは、一辺が2.5cmの正四角形で、表面は黒く、厚みは……(暗くて良く見えないそうだ。とにかく薄いことだけは確かだと言っている)の、小さな板。それが二枚、仲良く宇宙を散歩しているかのようでした。
そのカケラが、何時からそこに在ったのかは存じません。もしかしたら偶然、何かの破片が、そのような形になっただけの可能性もあります。ですがそれを、私たちも偶然に発見したものですから、そこに、運命のような結び付きを感じたのです。
「おい、『私たちも』ってことは複数いるのか?」
とうとう、汗まで吹き出して悪戦苦闘するおっさんだ。そんなに自分が書いたものが難読なら、尚更、俺が読破するなど片腹痛い。その腹癒せではなく、真っ当な疑問をぶっ込んでみると——
「そうだ。この場合、二人? とでもしておこう。姿形は到底、人間とは似ても似つかぬが、強いて例えれば、それは雲ということになるそうだ、そう自己紹介している。あのフワフワのシュワシュワしている雲だな。……ああ、お前と比べれば、まさしく『雲の上の人』となる訳だから、そう思ってもいいだろう。……それとだ、何で地球の雲を知っているのかと言うと、それは後で説明が入るので、それまで待て。それまで良い子にしていれば良いことがある、かも知れんからな」
「そうか」
◇◇
——私の名はカイン、同僚はアベルとしておこう。私たちは小さなカケラを見つけた時から観察を続けている。それが私たちの仕事と言えば理解が進むだろう。その目的は、ただ観察をすることであり、保護・保全や研究および調査を目的とはしていない。簡単に言えば、「ただ見ている」だけである。それが何の役に立つのか、どんな意味があるのか、——そのような問いに答えることは出来ない。しかしそれは、隠しているという意味ではなく、適切な言葉が存在しない、または言語の限界を超えられないからである。
同僚のアベルは私よりも小さなカケラに大変興味を持ち、一対のカケラにそれぞれ、アダム、イブと名前を付けて呼んでいた。そうして時間のある限り、それらに近づき、観測と言うよりも見守るように接していた。だが、「見ている」ということには何ら変わりはない。いくらアベルが話しかけようとも、それらが反応を示すことは無かったからだ。当然と言えば当然なのだが、相手は所詮、小さなカケラでしかない。それは無駄な行為と私は考えるが、それでもアベルは話し掛けることを止めなかった。
多分、その時の私は自分の考え、考え方というものに固執していたのだろう。アベルの行為を無意味としたが、それは飽くまで私がアベルを見てという立ち位置で私自身の考えとしたからだ。それをアベルに当てはめれば意味のある行為として十分に成立することである。よって今後はその様に見るべきであると考えを改めた。
ある時、痛ましい事件が起きた。隕石と言うには余りにも小さい物体だったが、それがカケラの一方、アベルがイブと名付けた物に衝突したのだ。それは、広大な宇宙ではかなり低い確率で起こる出来事だったが、その確率はゼロではない。それが偶然なのかどうなのか、飛来して来た小さな小さな隕石が、それよりもずっと小さいカケラに当たる確率は、それぞれが誕生した瞬間から決められていたように、全ては予定通り事象は進み、それを私たちが観測することも予定通りだったのだろう。
砕け散ったカケラ、イブはその原形を残さず、衝突の熱によって消滅したと考えられる。その時の、アベルの落胆は非常に大きく、見ている私にも、その辛さが伝わってくる程だった。その悲しむ姿を、アベルを見たくないと思う私は、本当に見ることを止めてしまった。もしかしたら、もっと注意して観察していれば衝突は回避出来たかもしれない。そして、その方法も手段も我々にはある。しかし、それを行うということは、仕事に逆らうことになり、もしその選択を迫られたとしたら、私はどうしただろうか。——いや、考えるのはよそう。全ては終わった事であり、時を遡ることは記憶の中でしか出来ない。——ああ、そうだ。何も残りはしなかったが、イブが存在したという記憶は、私たちによって残されている。それだけは何が起ころうとも消えることはないだろう。
それから長い時が流れた。——
「ちょっと待て。そんなカケラの話など、どうでもいい。対象がカケラなら、話の内容まで小さくて、全然面白くない。それにだ、アダムとかイブは……まあいいとしてだな、カインとアベルってなんだよ、創作のし過ぎだろうぉぉぉ、これぇぇぇ。それともアレか、意訳したとでも言うのか、どうなんだよ」
「だから、最初に言ってある、『最後までツベコベ言わずに聴け』とな。そんなことも守れない、我慢できない大人ではないろう、どうなんだ?」
「勿論、俺はできた大人だ。続けてくれ。これくらい、何でもない、大人なんだから、なっ」
「良かろう、では続けるとする」
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