逆・異世界転生 Ⅰ

Tro

文字の大きさ
58 / 59
#18 転生システム管理者の涙

#4 大きな壁と、旅立ち

しおりを挟む
ある時、信じ難い事件が起きた。それは、一つだけ残ったカケラ、アダムの隣に、同様のカケラが増えていたことだ。これでまた一対のカケラとなった訳だが、これにアベルが歓喜したのは言うまでもないだろう。だが、本当にそれは増えた・・・のだろうか。もしかしたらイブが復活した? という破綻した考えがよぎったが、それはアベルによって即座に否定された。

私には、どのカケラを見ても相違は分からず、どれも全く同じに見えたが、アベルには区別がつくらしい。但し、アベルも見た目で判断しているのではなく、——さて、その方法を適切に表現するのは難しい。そこで、アベルから言葉を借りると、「双方にとって通じるものがある」のだそうだ。

アベルは新しく増えたカケラを「リリス」と呼び、何度も話し掛けていた。それはイブを失ったことも影響していたのだろうが、愛着ぶりは以前より増したように思えた。そんなアベルの行為を見ていると、それを無意味だと言った私ではあるが、今では微笑ましく思う自分に驚きを隠せない。

◇◇

ある時、目を疑う事件が起きた。それは、アダムとリリス、一対のカケラだったものが突然、大量に増えていたのだ。その数——正確にその数を把握するのは不可能と判断したが、今ではカケラが、縦、数千キロメートル、横幅は数万キロメートルという巨大な物体、壁のようなものになっていた。その一つ一つは、変わらず小さなカケラであったが、それが無数の群として巨大化していた。流石の私もこれには驚き、思わず「目を疑うとは、このことだぜ。びっくりしたぞ、この野郎」と呟いてしまった。

「ちょっと待て! そこ、絶対に創作したろう。急に話し方が変わってるじゃないか。……困るよ、変に創作しちゃったら、後で笑われるんだぞ、この俺が。そこ、訂正しておいてよ。……まったく、油断も隙もあったもんじゃないな」

「はあ? 何を言っている。原文、そのまま、正直、不正無しの垂れ流し、清澄せいちょうな源泉だ。……それに、ここから、あっと驚く展開になる。それを知りたくはないか、どうなんだ?」

「なんだと? ここからか。……まあいいだろう、多少のことは目をつむろう、恩赦である。さあ、続けるが良い、苦しゅうないぞ」

「分かれば良い。では参る」

◇◇

小さなカケラは無数に増殖し、小さなタイルを敷き詰めたような大きな壁となった。それは最初、長方形の形をしていたが、次第に横幅が伸び、弧を描きながら星の周囲を巡り始めた。それを観察していた私たちは、その壁が自然に形成されたものではなく、ある意志を持った、又は、ある目的のために創られ、そこに存在していると考えた。しかし、その意志や目的を知ることは容易ではないだろう。何故なら、これだけ大きい『存在』を目の前にしても、それ以上のことは全て不明であったからだ。

だが、アベルにとってそれは些細な事だったようだ。無数のカケラに話し掛けては反応を探ろうとしていた。しかし、その行為が報われることはなく、ただそこに在り続けるだけの小さなカケラでしかないのだ。それでも諦めることなく声をかけ続けたアベルである。

そして遂に、反応を示す個体を見つけた。幾千ものカケラの中から、それは偶然かそうでないかは分からないが、アベルの問い掛けに反応する個体を数個見つけることが出来た。但し、その反応はアベルにしか分からなかった。それは、問い掛けに声を返すことは勿論、何かの動作で示されるようなものではなく、「そう感じる、そんな気がするんだ」程度のことらしい。それでも、反応が分かるということだけでも十分素晴らしいことだろう。

ただ、残念ながらその反応を見せる期間は短く、それが途絶えた後は他のカケラと同様、無反応になってしまい、いずれ、他と判別がつかなくなる。だが、残念がる必要はなく、また別のカケラが、どこかで反応を示す、といった具合に、全体からすれば絶えず反応し続けている、と言えるだろう。だからアベルは落ち込む暇もなく、新発見・・・に余念がなかった。

◇◇

ある時、予測していた事件が起きた。それは、隕石が壁に衝突したのだ。勿論、以前とは比べるまでもなく巨大化した壁である。その確率は飛躍的に高まり、衝突は時間の問題であることは明らかだった。しかし、それを事前に知っていた私たちは何もしなかった。ありのまま、自然は自然のままに、と決めていた私たちは観測を続け、成り行きを見守った。

これまでの経緯で、アベルが衝突を阻止しそうに思えたかもしれないが、私たちは仕事と私情を切り離し、あくまで静観したのである。しかし、アベルの行いを見てきた私には、アベルの悲痛な叫びが聞こえてくるような、そんな気がしてならなかった。

私にとって幸いだったのは、壁が巨大だったため、一部損壊にとどまったことだ。その巨大さは、同じ恒星を公転する惑星と比べても、横幅だけ見れば一番、またはそれに匹敵するほど大きい。よって、有り得ないことだが、惑星規模の衝突があったとしても全壊には及ばないだろう。

アベルにとって悲運だったのは、一部損壊した箇所に例の、反応を示すカケラが在ったことだ。今回は以前とは衝突の規模が桁違いであり、隕石も大きなものだった。それにより、壁にポッカリと大きな穴が空き、そこは一瞬で消滅したものと考えられる。——もう、残骸を拾い集めることなど到底不可能と思われた。が、アベルは微かに残った残骸を掻き集め——驚くことに、それを創造主の元に持って行くのだと言い始めた。確かに、あのカケラを創造した者であれば、再生は可能かもしれない。しかし私たちは、その創造主が誰なのか、そしてどこに居るのかを知らない。また、カケラをこの場に置いた理由も知らず、——つまり、私たちはカケラについては、殆ど何も理解していないということだ。

それでもアベルは、この広大な宇宙でそれ・・を探すのだという。何の手掛りもなく、実在しないのかも知れず、ましてそれが誰なのかも知らず、果ては宇宙を彷徨うことになるかもしれない。それでも。——

こうしてアベルは砕け散ったカケラをたずさえ、旅立って行った。

◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

処理中です...