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#3 近代 カツミ編
#3.2 亡命者 (2/3)
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俺達は車をホテルのエントランスに横付けした。カツミの乗る車のドアが開き、要人らしきおっさんが乗り込んだ。いったい、何をやらかしたんだ? 要人のおっさん。そんなことより、何処かのバカがエンジンを勢いよく空ぶかししている。ウルサいと思ったが、それは気のせいだったようだ。車の窓から手を振り回すヒャッハーなセリスを見てしまった。
「こちら、エージェント・カツミ。全車、発進してください」
俺は慎重に車を運転した。慎重に、慎重に。しかし、後ろから煽ってくる奴がいる。勘弁してくれ、イリア。
前の信号が点滅している。どうしよう、停まるか、行くか。人生最大の悩みどころだ。車は走っている。悩んでいる間も走っている。俺は、俺の意思決定に関係なく、突き進んだ。後ろは……、イリアのくせに信号で止まっている。いつから、そんなに従順な女になったのだろう。
「こちら、エージェント・カツミ。スローペースで、こちらと合流してください」
早速、指示が飛んできた。後ろを気にしながら運転するのは、とても難しい。
暫くすると、車の流れが速くなり、俺はビュンビュンと他の車に抜かれていた。そして、後方から2台。もの凄いエンジン音とともに急接近してくるアホがいる。その勢いで止まれるのか? 危険を感じた俺はアクセルを踏み込んだ。
あと少しで合流となる寸前、俺とイリアの間に1台の車が割って入った。割り込みは困るよ、この野郎。
交差点に差し掛かった。この道は直進のはず。しかし、直進した俺に後続が付いてこない。なんか、左に曲がっていってしまった。道を間違えたのか? この俺が! あり得る。
「こちら、エージェント・カツミ。敵対行為有り、これを駆除してください」
俺は急いでUターンし、あとを追った。と言いたいところだが、初心者には難しい芸当だ。切り返し、切り返し。あ! ちょっと当たった。車が凹むと俺も凹む。
◇◇
俺の千里眼によると。敵はカツミの前後に1台ずつ。その後ろにセリス。そのまた後ろに俺は追いついた。エージェント・カツミからは、何も連絡が無い。こっちから連絡してみるか? いや、きっと忙しいだろう。遠慮しよう。
セリスは前の車にガンガンとぶつけている。その度に、前の車が左右に蛇行した。
さっきの俺の凹みが可愛く思える。これなら、ぶつけても大丈夫そうだ。きっとそうだ。
セリスが、結構いい感じで(激しく)前の車にぶつけた。セリスのヒャッハーと叫ぶ声が聞こえてきそうだ。左側が大きく空き、そこにセリスがねじ込むように割り込む。2台が併走したところで、セリスがバットで相手の車を叩く。そんなに機嫌が悪いのか、お腹が空いたのか、そんな感じだ。
当然、俺も見ているだけではない。
M1910.9 ハンド・キャノンの出番だ。
敵の……タイヤを狙う。
バキューン。ハズレた。
ドキューン。ハズレた。
スキューン。ハズレた。
カチャカチャ。弾切れ。
M1910.9 ハンド・キャノンの出番は、終わった。
弾切れの心配が無いセリスは、思いの丈をバットに込める。そのバットはセリスの体の一部となって、共に戦っている。これ程までにバットが似合う奴は、他にはいまい。それは大切な友であり、絆なのだろう。セリスの、一流の狩人として認められたバットは、敵を恐怖の底に叩き落とす。
セリスは、併走する車の窓にバットを投げつけた。それは多分、運転手に命中したのだろう。敵の車は大きく右にそれ、壁に衝突し、大破して止まった。セリス。あのバットは、あとで回収するんだろう?
セリスのヒャッハーが確実に聞こえた、気がする。何がそんなに楽しいのか、セリスの車が蛇行し始めた。いわんこちゃない。セリスの車は左側の壁にぶつかり、止まった。セリス。お前はあとで回収する。
やっとカツミ達に追いついて。おお! 先行車から撃ってくる。応戦したいが、俺のM1910.9 ハンド・キャノンは営業終了だ。カツミだろう、後ろの窓から銃だけだして応戦している。当たるわけないだろう。よく見てから撃て。あ、当たった。まぐれ当たりで、打ち所が悪かったのだろう。先行車がフラついた。その隙を突いて、イリアもまた、空いた左側に車をねじ込んだ。そして、運転席側から、何かが突き出てきた。
イリアの乱射が始まった。
火を噴くM1927.9 サブマシンガン。それは数秒間で終わった。イリアもまた、それを投げつけるのか? イリアは、それを引っ込めた。そうだ。イリアはそれを投げ捨てる事なんて出来っこない。根っからの貧乏性だ。
俺の前の2台は、激しくぶつかりながら、どちらが強いかを競っていた。視界が開け、港に侵入したようだ。そのまま行けば、遙かなる海、生命誕生の海だ。2台は、全く止まる気配がない。まるでチキンレースだ。肝っ魂の大きい方が勝つ。イリア。お前はセコく、ガメツく、ワガママで貧乏だ。セリス程じゃないが、胸も大きい。でもな、それとこれとは、違うんだ。見せてみろ! お前の、魂の輝きって奴を!
その勢いは、誰にも止められない。カツミにも。カツミと、要人のおっさんの、悲鳴のコラボが聞こえてきそうだ。変な組み合わせだ。俺なら辞退したい。
譲ることも引くこともしない、正にチキンと化した2台は、そのまま走り続けるのか? もう海に落ちる――と、その時、敵の車が止まった。負けを認めたようだ。イリアも急停止…その場でスピンターンして敵の背後に回り、アクセル全開。タイヤが白煙を上げ、イリアの車が敵の車を海に向かって押している。イリアの性格が良く表れている。自分が優位だとわかると容赦しない。敵の抵抗も虚しく、海にドボンと落ちた。車から這い出る敵に向かって、カツミが銃を向ける。カツミは何故か、人を見下ろすのが大好きだ。
◇
「こちら、エージェント・カツミ。全車、発進してください」
俺は慎重に車を運転した。慎重に、慎重に。しかし、後ろから煽ってくる奴がいる。勘弁してくれ、イリア。
前の信号が点滅している。どうしよう、停まるか、行くか。人生最大の悩みどころだ。車は走っている。悩んでいる間も走っている。俺は、俺の意思決定に関係なく、突き進んだ。後ろは……、イリアのくせに信号で止まっている。いつから、そんなに従順な女になったのだろう。
「こちら、エージェント・カツミ。スローペースで、こちらと合流してください」
早速、指示が飛んできた。後ろを気にしながら運転するのは、とても難しい。
暫くすると、車の流れが速くなり、俺はビュンビュンと他の車に抜かれていた。そして、後方から2台。もの凄いエンジン音とともに急接近してくるアホがいる。その勢いで止まれるのか? 危険を感じた俺はアクセルを踏み込んだ。
あと少しで合流となる寸前、俺とイリアの間に1台の車が割って入った。割り込みは困るよ、この野郎。
交差点に差し掛かった。この道は直進のはず。しかし、直進した俺に後続が付いてこない。なんか、左に曲がっていってしまった。道を間違えたのか? この俺が! あり得る。
「こちら、エージェント・カツミ。敵対行為有り、これを駆除してください」
俺は急いでUターンし、あとを追った。と言いたいところだが、初心者には難しい芸当だ。切り返し、切り返し。あ! ちょっと当たった。車が凹むと俺も凹む。
◇◇
俺の千里眼によると。敵はカツミの前後に1台ずつ。その後ろにセリス。そのまた後ろに俺は追いついた。エージェント・カツミからは、何も連絡が無い。こっちから連絡してみるか? いや、きっと忙しいだろう。遠慮しよう。
セリスは前の車にガンガンとぶつけている。その度に、前の車が左右に蛇行した。
さっきの俺の凹みが可愛く思える。これなら、ぶつけても大丈夫そうだ。きっとそうだ。
セリスが、結構いい感じで(激しく)前の車にぶつけた。セリスのヒャッハーと叫ぶ声が聞こえてきそうだ。左側が大きく空き、そこにセリスがねじ込むように割り込む。2台が併走したところで、セリスがバットで相手の車を叩く。そんなに機嫌が悪いのか、お腹が空いたのか、そんな感じだ。
当然、俺も見ているだけではない。
M1910.9 ハンド・キャノンの出番だ。
敵の……タイヤを狙う。
バキューン。ハズレた。
ドキューン。ハズレた。
スキューン。ハズレた。
カチャカチャ。弾切れ。
M1910.9 ハンド・キャノンの出番は、終わった。
弾切れの心配が無いセリスは、思いの丈をバットに込める。そのバットはセリスの体の一部となって、共に戦っている。これ程までにバットが似合う奴は、他にはいまい。それは大切な友であり、絆なのだろう。セリスの、一流の狩人として認められたバットは、敵を恐怖の底に叩き落とす。
セリスは、併走する車の窓にバットを投げつけた。それは多分、運転手に命中したのだろう。敵の車は大きく右にそれ、壁に衝突し、大破して止まった。セリス。あのバットは、あとで回収するんだろう?
セリスのヒャッハーが確実に聞こえた、気がする。何がそんなに楽しいのか、セリスの車が蛇行し始めた。いわんこちゃない。セリスの車は左側の壁にぶつかり、止まった。セリス。お前はあとで回収する。
やっとカツミ達に追いついて。おお! 先行車から撃ってくる。応戦したいが、俺のM1910.9 ハンド・キャノンは営業終了だ。カツミだろう、後ろの窓から銃だけだして応戦している。当たるわけないだろう。よく見てから撃て。あ、当たった。まぐれ当たりで、打ち所が悪かったのだろう。先行車がフラついた。その隙を突いて、イリアもまた、空いた左側に車をねじ込んだ。そして、運転席側から、何かが突き出てきた。
イリアの乱射が始まった。
火を噴くM1927.9 サブマシンガン。それは数秒間で終わった。イリアもまた、それを投げつけるのか? イリアは、それを引っ込めた。そうだ。イリアはそれを投げ捨てる事なんて出来っこない。根っからの貧乏性だ。
俺の前の2台は、激しくぶつかりながら、どちらが強いかを競っていた。視界が開け、港に侵入したようだ。そのまま行けば、遙かなる海、生命誕生の海だ。2台は、全く止まる気配がない。まるでチキンレースだ。肝っ魂の大きい方が勝つ。イリア。お前はセコく、ガメツく、ワガママで貧乏だ。セリス程じゃないが、胸も大きい。でもな、それとこれとは、違うんだ。見せてみろ! お前の、魂の輝きって奴を!
その勢いは、誰にも止められない。カツミにも。カツミと、要人のおっさんの、悲鳴のコラボが聞こえてきそうだ。変な組み合わせだ。俺なら辞退したい。
譲ることも引くこともしない、正にチキンと化した2台は、そのまま走り続けるのか? もう海に落ちる――と、その時、敵の車が止まった。負けを認めたようだ。イリアも急停止…その場でスピンターンして敵の背後に回り、アクセル全開。タイヤが白煙を上げ、イリアの車が敵の車を海に向かって押している。イリアの性格が良く表れている。自分が優位だとわかると容赦しない。敵の抵抗も虚しく、海にドボンと落ちた。車から這い出る敵に向かって、カツミが銃を向ける。カツミは何故か、人を見下ろすのが大好きだ。
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