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#3 近代 カツミ編
#3.2 亡命者 (1/3)
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俺は異世界を旅行している。
この”旅行”という、楽しいような、わくわくする感じは、何処へいったのか。何故、旅行中に生活の糧を稼がなければならいのか。優雅な旅行とは、ほど遠い。
考えてみれば旅行に行くのに、切符だけ買って文無しで出掛ける事は無いだろう。当然、別途費用は掛かるもんだ。しかし俺は、そんなことは考えていなかった。テレビの前でゲームをする感覚でいたんだ。ところが、どうだ。ここは、この世界は、やけにリアルだ。全く、旅行社とは上手く言ったものだ。これじゃあ、本当に旅行しているのと変わりないじゃないか。
カツミの事務所で、そこの主人たるカツミが吠える。
「”チーム ツアーレ”の皆さん。お仕事の時間です」
ホワイトボードのような黒板を前に、俺達三人はソファーに座り、カツミ先生の授業を受けている。まるで小学生のようなカツミ先生を見ていると、違和感が半端ない。それを聞いている俺達も半端ない。そんな違和感漂う空間で、カツミ先生は授業を進める。
「任務の説明の前に、皆さんの置かれている現状を説明します」
「先生! 靴、脱いでもいい?」
セリスが手を上げて質問、いや、要求した。
「ダメです。我慢してください」
イリアは隣りで大きな欠伸をしている。全く、教室の崩壊は近い。それでも授業は進んでいく。
「まず、ここ。”オフィース・カツミ”は、民間諜報機関です。皆さんご存じの通り、国の財政は逼迫しています。諜報機関といえども、その影響は免れません。そこで政府は諜報機関の一部を民間に委託しています。そこで設立されたのが、この”オフィース・カツミ”です」
「先生! 先生以外の人は、何処にいるんですか? ここには何人いるんですか?」
「オホン。民間諜報機関は主に政府からの依頼により、任務を遂行しています」
綺麗にスルーされてしまった。
「任務の内容は簡単な警護から、政府が直接関われないような事柄も含め、多岐にわたります」
ここでカツミ先生は、棒で黒板をバシーンと叩いた。
「いいですか! 皆さん。寝ている場合ではないんですよ!」
「おー、何か食ってる夢みてたのに!」
セリスの口からヨダレが出てきそうだ。
「ムニムニムニ」
起きろ! イリア。
そんな生徒を前に、カツミ先生は挫けない。
「ここから重要な話をします。試験にでます。政府直轄の諜報機関と違い、我々民間諜報機関は完全成功報酬制になっています。ということは? ユウキ!」
「はあ!? 俺?」
「そう、俺」
「報酬があるってことですよね」
「ブー。失格。イリア、答えて」
「任務が成功した場合のみ、報酬が支払われる、ということですね」
「正解。逆に成功しなかった場合、つまり失敗した時は無報酬となります」
イリア! お前って奴は……天才なのか?
「なんだ? ユウキ。そんなことも分からなかったのか。アホー」
イリアが、あんまりアホーアホー言うから、セリスに”うつった”じゃないか。
「では、これからブリーフィングを始めます」
カツミが教師から”エージェント・カツミ”に変わった。目付きが、可愛い。
「ある要人をA地点からB地点まで護送します。以上」
「ちょっと、待ったー」
「ユウキ、わかんねーのか?」
「ユウキって、バカよねー」
そこも、ちょっと待て。お前達、あれで何が分かった? 嘘を付くなー。
「エージェント ユウキ。何か質問でも?」
全ては終わったって顔で俺を見下ろしながら言うエージェント・カツミ。因みにエージェント・カツミはブリーフィング直前から椅子の上に立っていた。
「もう少し、詳しく説明してください、です」
エージェント・カツミ。もううんざり、というポーズで進める。
「仕方ないですね。
では、エージェント・ユウキのレベルに併せて説明します。
某国の要人が亡命を希望しています。
諸般の事情で我が国は、直接、その要人を受け入れることが出来ません。
よって、その要人を宿泊先のホテルから、一端、隣国の大使館まで護送します。
私達の任務はここまでとなります。
方法は、車3台による護送です。
先頭にエージェント・ユウキ、
中央にエージェント・イリア、私、エージェント・カツミと要人、
最後にエージェント・セリスの3台で車列を構成。
作戦開始は、今から45分後。
分かりましたか? エージェント・ユウキ」
「最初と全然違うんですけど」
「普通のエージェントなら、最初の説明で十分理解出来るはずです。そうですよね? エージェント・イリア、エージェント・セリス」
「勿論です」「あったぼーよ」
おかしい。こいつら、グルか?
◇
車の免許を取ってから一ヶ月。初心者の俺に、この任務は務まるだろうか。エージェント・カツミから手渡れた手書きの”殺しのライセンス”。これがあれば、世界中何処でも車の運転は、していいらしい。その裏には"Kill The King"と書いてある。どういう意味だ。
車には無線機が取り付けてある。かなりデカイ。それよりも、セリスは運転出来るのか? もしかして、俺の特殊能力 ”基本能力券” の効力か?
「こちら、エージェント・カツミ。エージェント・ユウキ、準備出来ましたか?」
「こちら、エージェント・ユウキ、準備完了です」
「こちら、エージェント・カツミ。エージェント・セリス、準備出来ましたか?」
「ヒャッハー」
「こちら、エージェント・カツミ。全車、発進してください」
さあ、作戦開始だ。
俺は車のアクセルを踏み込んだ。いきなりエンストだ。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
なんだよ! カツミ! これじゃあ、出来るものも出来なくなるじゃないか!
俺は振り返り、後ろの運転席を睨んだ。
イリアだ! イリアなのかよ!
◇
この”旅行”という、楽しいような、わくわくする感じは、何処へいったのか。何故、旅行中に生活の糧を稼がなければならいのか。優雅な旅行とは、ほど遠い。
考えてみれば旅行に行くのに、切符だけ買って文無しで出掛ける事は無いだろう。当然、別途費用は掛かるもんだ。しかし俺は、そんなことは考えていなかった。テレビの前でゲームをする感覚でいたんだ。ところが、どうだ。ここは、この世界は、やけにリアルだ。全く、旅行社とは上手く言ったものだ。これじゃあ、本当に旅行しているのと変わりないじゃないか。
カツミの事務所で、そこの主人たるカツミが吠える。
「”チーム ツアーレ”の皆さん。お仕事の時間です」
ホワイトボードのような黒板を前に、俺達三人はソファーに座り、カツミ先生の授業を受けている。まるで小学生のようなカツミ先生を見ていると、違和感が半端ない。それを聞いている俺達も半端ない。そんな違和感漂う空間で、カツミ先生は授業を進める。
「任務の説明の前に、皆さんの置かれている現状を説明します」
「先生! 靴、脱いでもいい?」
セリスが手を上げて質問、いや、要求した。
「ダメです。我慢してください」
イリアは隣りで大きな欠伸をしている。全く、教室の崩壊は近い。それでも授業は進んでいく。
「まず、ここ。”オフィース・カツミ”は、民間諜報機関です。皆さんご存じの通り、国の財政は逼迫しています。諜報機関といえども、その影響は免れません。そこで政府は諜報機関の一部を民間に委託しています。そこで設立されたのが、この”オフィース・カツミ”です」
「先生! 先生以外の人は、何処にいるんですか? ここには何人いるんですか?」
「オホン。民間諜報機関は主に政府からの依頼により、任務を遂行しています」
綺麗にスルーされてしまった。
「任務の内容は簡単な警護から、政府が直接関われないような事柄も含め、多岐にわたります」
ここでカツミ先生は、棒で黒板をバシーンと叩いた。
「いいですか! 皆さん。寝ている場合ではないんですよ!」
「おー、何か食ってる夢みてたのに!」
セリスの口からヨダレが出てきそうだ。
「ムニムニムニ」
起きろ! イリア。
そんな生徒を前に、カツミ先生は挫けない。
「ここから重要な話をします。試験にでます。政府直轄の諜報機関と違い、我々民間諜報機関は完全成功報酬制になっています。ということは? ユウキ!」
「はあ!? 俺?」
「そう、俺」
「報酬があるってことですよね」
「ブー。失格。イリア、答えて」
「任務が成功した場合のみ、報酬が支払われる、ということですね」
「正解。逆に成功しなかった場合、つまり失敗した時は無報酬となります」
イリア! お前って奴は……天才なのか?
「なんだ? ユウキ。そんなことも分からなかったのか。アホー」
イリアが、あんまりアホーアホー言うから、セリスに”うつった”じゃないか。
「では、これからブリーフィングを始めます」
カツミが教師から”エージェント・カツミ”に変わった。目付きが、可愛い。
「ある要人をA地点からB地点まで護送します。以上」
「ちょっと、待ったー」
「ユウキ、わかんねーのか?」
「ユウキって、バカよねー」
そこも、ちょっと待て。お前達、あれで何が分かった? 嘘を付くなー。
「エージェント ユウキ。何か質問でも?」
全ては終わったって顔で俺を見下ろしながら言うエージェント・カツミ。因みにエージェント・カツミはブリーフィング直前から椅子の上に立っていた。
「もう少し、詳しく説明してください、です」
エージェント・カツミ。もううんざり、というポーズで進める。
「仕方ないですね。
では、エージェント・ユウキのレベルに併せて説明します。
某国の要人が亡命を希望しています。
諸般の事情で我が国は、直接、その要人を受け入れることが出来ません。
よって、その要人を宿泊先のホテルから、一端、隣国の大使館まで護送します。
私達の任務はここまでとなります。
方法は、車3台による護送です。
先頭にエージェント・ユウキ、
中央にエージェント・イリア、私、エージェント・カツミと要人、
最後にエージェント・セリスの3台で車列を構成。
作戦開始は、今から45分後。
分かりましたか? エージェント・ユウキ」
「最初と全然違うんですけど」
「普通のエージェントなら、最初の説明で十分理解出来るはずです。そうですよね? エージェント・イリア、エージェント・セリス」
「勿論です」「あったぼーよ」
おかしい。こいつら、グルか?
◇
車の免許を取ってから一ヶ月。初心者の俺に、この任務は務まるだろうか。エージェント・カツミから手渡れた手書きの”殺しのライセンス”。これがあれば、世界中何処でも車の運転は、していいらしい。その裏には"Kill The King"と書いてある。どういう意味だ。
車には無線機が取り付けてある。かなりデカイ。それよりも、セリスは運転出来るのか? もしかして、俺の特殊能力 ”基本能力券” の効力か?
「こちら、エージェント・カツミ。エージェント・ユウキ、準備出来ましたか?」
「こちら、エージェント・ユウキ、準備完了です」
「こちら、エージェント・カツミ。エージェント・セリス、準備出来ましたか?」
「ヒャッハー」
「こちら、エージェント・カツミ。全車、発進してください」
さあ、作戦開始だ。
俺は車のアクセルを踏み込んだ。いきなりエンストだ。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
落ち着こう。後ろからクラクション攻撃。
なんだよ! カツミ! これじゃあ、出来るものも出来なくなるじゃないか!
俺は振り返り、後ろの運転席を睨んだ。
イリアだ! イリアなのかよ!
◇
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