12☆ワールド征服旅行記

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#3 近代 カツミ編

#3.1 エージェント1号、2号、3号 (2/2)

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俺達を乗せた車は無事、目的地に着いたようだ。周囲には何台もの車が無造作に停まっている。その脇に俺達と似たような格好をした、その他大勢がいる。それを見たエージェント・カツミ、面倒なのでカツミは、車を降りると、その他大勢の中に紛れ、すぐに見えなくなった。踏み潰されなければいいが。

イリアの呪文は、まだ続いている。

「さあ、あなたの出番よ。思う存分、叫んでいいのよ」
「イリア!」
「ええ、私は、あなたの……」
「イリア!」
「え? 何? ユウキ。あれ? ここは何処? 私は誰?」
「やっと、こっちに戻ってきたか」

セリスが前の座席をバットで殴っている。

「おい! セリス。壊れるだろう?」
「なんだよ! 面白いんだよ、これ。ほら、ほらー」

「フフフフフ、アハハハハ、へへへヘヘ……」
「イリアー、戻ってこーい」

賑やかになったところでカツミが戻ってきた。

「作戦は……大丈夫ですか? ”チーム ツアーレ”の皆さん」

「今、黙らせますから」
俺はイリアとセリスから武器を取り上げた。

「では、作戦は中止です。私の事務所に戻ります」
「何で中止なんですか?」
「……”チーム ケンジ”が既に解決していました。私達の出番はありません」

ケンジ! その名前をまた聞くとは。流行っているのか?

「事務所って、俺達は、その……何だろう?」

「ああ、”チーム ツアーレ”の皆さんは、今回の依頼主から暫く預かってくれと、別の依頼も受けていますので、一緒に来てください」

「依頼主は誰なんですか?」

「それは……あなたもエージェントなら分かるはずですが、依頼主の事は言えません。もう、全く」

俺もエージェント。いい響きだ。エージェント・ユウキ。いや、今はエージェント3号か。

不満そうなセリスが駄々をこねる。

「なんだよ! 狩らないのか? つまんないじゃないか。なあ、オレ達だけで行こうぜ、狩り、なあー、ユウキ、なあー」

「獲物は逃げたってさ」
「なんだよ~、したかったな~、狩り」

呆れたカツミが車を走らせる。相変わらず、左右に揺れている気がする。

走る車の車窓から、こんにちは。
目が点になって大口を開けるイリア。何故わかるのかって? そのアホな顔が車窓に写っているからだ。時折「オー、ウー、アー」と奇声を発している。無理もない。せいぜい馬車、いや、馬車にも乗ったことがないだろう。一気に文明がイリアの頭を直撃しているんだ。可哀想に、気だって触れるだろう。

でも、それはセリスにも同じ事が言えるはず。例えれば、太陽が西から昇るようなものだ。あ、セリスなら、そのくらいは平気か。



カツミの事務所に着いたらしい。と言ってもビルの前だ。この小さくないビル全部がカツミの事務所とは考えにくい。俺の野生の勘が、そう囁く。

俺達はカツミを先頭に、狭い入り口から4階まで狭い階段で上がった。カツミが事務所の明かりをつけると、まあ、綺麗とは言いがたい光景が見えてきた。

「ようこそ、”オフィース・カツミ”へ。私がここの所長兼経営者のカツミです。まあ。そこにかけてください」

カツミは俺達に三人掛けのソファーを指差した。早速セリスがソファーに座り、早速、飛び跳ねる。勿論、奇声付き。イリアは武器を取り上げてから落ち着きが無い。壁に立て掛けてあったホウキを手渡すと笑顔が戻り、ゆっくりと座った。これで俺が座れば準備完了だ。

「オホン。まず、今回の件ですが、先程言ったように、作戦は失敗しました。よって、貴方達への報酬はありません」

真面目に反省会をするカツミ。

その目の前でセリスがはしゃぐ。人生、楽しそうで何よりだ。

「おお! 沈むー、おお、ふかふか~、おお」
「そこのあなた。静かにしてください」

「おお、悪いな。オレはセリス。宜しくな。隣りがイリア。仲良くしてやってくれ。これでも神様なんだ。それと、その隣りがユウキ。オレの物だかんな。取るなよ」
イリアがもっていたホウキの枝でセリスの頭を叩く。自己紹介する手間が省けて何よりだ。


「さて、大事な事を話しましょう」
反省会は続くようだ。

「先程話したように”チーム ツアーレ”の皆さんは、暫く私が預かることになっています。寝泊まりはこの上、五階の部屋で出来ます」

「それは良かった。今夜は野宿かなって思いましたよ」
「それで、皆さんの宿泊料ですが、前払いで頂けますか?」
「宿泊料?!」

上手い話は、この世界いや、全世界にも無いようだ。

「ええ、宿泊料」
「宿泊料?」
「ええ、宿泊料。食事も付けますか?」
「食事?」
「ええ、宿泊料と食事代」
「イリア、払っておいて」
「はあ? 宿泊料って何? 食事代って何? 私、わかんない」

なに急にぶりっ子してるわけ?

「オレが払うよ」
セリス! お前がお金を持っているなんて、意外すぎて倒れそうだ。

「セリス、頼むよ」
セリスは立ち上がり、変な格好で踊り出した。

「セリスさん、もう良いですよ」
見かねたカツミが、呆れて制止する。

「なんだよ、お祓いは得意なのに」

「良いですよ、みなさん。想定していましたから」
この人、絶対意地が悪い。きっとそうだ。

「では、出世払い、ということにしましょうか」
「そうしましょう!」

「次の依頼がありましたら、その報酬で支払うということで、いいですね」
「はい! そうしましょう」
「では、寝室を案内します。付いてきてください」


五階に上がると部屋が二つ見える。カツミが階段手前の部屋のドアを開けると、ベットが二つしか無かった。

「こちらで休んでください」
「あの~、俺達三人なんですが、俺は~」

「言い忘れていましたが、依頼主からは二人と聞いていたので、ベットは二つしか用意していません。ユウキもこの部屋です」

「隣りの部屋は空いてないんですか?」
「隣りは私の部屋ですから、ダメです。鍵は締めますから」

例によってセリスがベットに呼び込む。

「来いよ、ユウキ。一緒に寝ようぜ」
「ダメよ、セリス」

何故か反対するイリア。別に俺は構わないが。えへ。

「なんだよ! 前も一緒に寝たじゃないか!」
「な! なんのこと、かしら? じゃあ、私と寝ましょう」
「やだよ! イリアと寝ると ろくな事が無いから、やだ!」

このままだと、朝が来そうだ。

「俺は事務所で寝るよ。カツミさん、それでいいですか?」
「うーん。ダメです。事務所は鍵を掛けたので入れないです。ここでお休みを。どのようにこの部屋を使うかは、ご自由に。では、お休みなさい」

鍵なら開ければいいだけじゃないか。

結局、イリアとセリスが一緒に寝て、俺は一人でベットに寝ることにした。

朝起きると、俺は冷たい床の上で冷たくなっていた。そして、俺が寝ていたベットにはイリアが寝ている。風邪を引きそうな朝を迎えた。
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