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#5 古代 セイコ編
#5.3 伝説の剣 (1/2)
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昼下がりの午後。コンビニに魅了されたイリアと、またコンビニへ。
「そんなに食べたら、太るぞ」
「大丈夫だもーん」
”だもーん”じゃない。カゴに食べ物を放り込むイリア。誰が払うのだろう。こんなに金のかかる女に、いつなった?
「それは何だ?」
「デザート」
「デザートって何?」
「食後の薬」
「くすり?」
「これを食べないと、死んでしまうのよ。知らないの?」
ここにカゴを置いて、逃げてやろうか?
コンビニ袋も心も満たされたイリアを連れて、部屋に戻る途中。どこからか、ヒュー、ヒュー、ガオー、ガアー、ヒューと、奇怪な音が聞こえてきた。
それはどこからか。
音のする方を見上げると、空に黒い点がひとつ。それが、だんだんと大きくなり、ドラゴンが落ちてくるのがわかる。どうした? 何が起こった? そう思ったのは、俺だけではないだろう。窓という窓から、道行く人まで空を見上げている。
それが、どうしようも無い事だと、見ている人達は思っただろう。ただ、落ちてくるのを見ているしか無いのだから。
ドラゴンは池に落ち、大きな水しぶきが吹き上がり、地面を揺らす程の轟音を立てた。人々が池に集まり、ドラゴンが浮き上がってくるのを待つ。俺達も駆け寄って、その様子を見ていた。
浮き上がったドラゴンは傷だらけ、血だらけで、翼が千切れ、腹部に大きな木が刺さっている。とても、まだ生きているとは思えなかった。
「ドラゴンハンターがやったんだ!」
誰かが、そう叫んだ。そのドラゴンの姿に、怒る者、悲鳴をあげる者、ただ叫び続ける者。俺達はただ、訳も分からず、立ち竦んでいただけだ。
◇◇
殺気を感じる。というより、そう思った。誰かが、はっきり言ったわけじゃ無い。
それでも、俺達を見る目は、鋭い。
ドラゴンがやられた。自分達が守護するものが、無残な姿となった。その原因はドラゴンハンター。ドラゴンハンターは人間。人間は邪悪なこと平気でする者。すなわち、ここの者達にとって、俺達も原因のひとつ。
どこまで合っているのか分からないが、俺の妄想が空回りする。
『ドラゴンハンターを駆逐しよう!』
誰かが、そう叫ぶ。それに異論のある者はいないようだ。ざわめき、動き出した里。報復なのか、復讐なのか。幸い俺達は、白い目で見られるだけで済んでいる。でも、何かやばい。
『森の中にハンターがいる! 地の理はこちらにある!
武器を持て! 部隊を編成し、一気に畳み掛ける!』
話が具体的になってきた。里の空気が一気に湧き上がり、熱気を帯びてくる。このまま、ここにいたら、本当にやばそうだ。とりあえず、人目につかないように部屋に戻って、大人しくしていよう。
イリアの手を引っ張って行こうとすると、里長様が現れた。どうする? おばさん。一気に煽るのか?
「皆さん! 落ち着いて下さい」
『里長! この流れを止めるつもりですか?』
「そうです! 行ってはいけません! 戦ってはいけません!」
『何故ですか?! ドラゴンが危険なんですよ!』
「それでも、です!」
『では、人間達に好き勝手させろと言うのですか?』
やり取りを聞いていると、割とみんな、冷静のような気がする。
『この里の役目をお忘れか? ドラゴンを守り、自然を守る。それを破壊する者、脅かす者を排除するのに、何の躊躇いがあろうか!』
「だからこそです」
『なら、この惨状を見て見ぬ振りをしろと、仰しゃるのか?』
「違います!人も私達も、自然の一部なのです。人が行うことに、干渉してはなりません」
『何故、そのようなことを!』
「あなたは、雨が降ったら、天に怒りますか? 風が強いからといって、腹を立てますか? 全ては同じ事。自然に起こる事を私達が如何の斯うのするのは傲慢です」
『屁理屈を言わないでくれ』
「今、ドラゴンの守護者達が懸命に使命を果たしています。彼らに任せるのです。我らはドラゴンの友であり、その子供です。その命運を導く事こそ、私たちに課せられた使命です。争ってはなりません。私達が今すべき事をすべきです」
何だか良く分からないが、この場は治まったようだ。戦いの準備の手が止まり、”今すべき事”に向かって、集まった人達が散り始めた。
ひと安心した俺達は、急いで部屋に戻ろうと慌ただしい通路を進む。すると、途中で里長様に呼び止められ、里長様の部屋に入るように催促された。
「あなた達は、この里を離れた方がいいでしょう」
「やっぱり?」
「今は落ち着きを取り戻していますが、いつ、それが戻ってしまうか分かりません。その気持ちが高まった時、あなた達に向かうかもしれないのです」
「でしょうね」
「ちょっと待って」
イリアが椅子に座り、コンビニ袋を漁り始める。
「その前に、食べておかないと、いけないわよね」
落ち着きを取り戻したイリアが、言いながら食べ始める。
「あなた、これを持って行きなさい」
おお! これは。里親様が俺に、伝説の剣をくれた。間違いない。
「この剣は、以前、祭事で使用していた物です。折れてはいますが、何も無いよりは良いでしょう」
伝説の剣は、途中から折れている。俺の期待も、半分のようだ。
「行こう、イリア」
「ちょっと待って。デザートがまだ」
「後で食べればいいだろう?」
「後が無かったら、どうするの? 責任取ってくれるの?」
どんな責任の取り方が有るって言うんだ?
◇
「そんなに食べたら、太るぞ」
「大丈夫だもーん」
”だもーん”じゃない。カゴに食べ物を放り込むイリア。誰が払うのだろう。こんなに金のかかる女に、いつなった?
「それは何だ?」
「デザート」
「デザートって何?」
「食後の薬」
「くすり?」
「これを食べないと、死んでしまうのよ。知らないの?」
ここにカゴを置いて、逃げてやろうか?
コンビニ袋も心も満たされたイリアを連れて、部屋に戻る途中。どこからか、ヒュー、ヒュー、ガオー、ガアー、ヒューと、奇怪な音が聞こえてきた。
それはどこからか。
音のする方を見上げると、空に黒い点がひとつ。それが、だんだんと大きくなり、ドラゴンが落ちてくるのがわかる。どうした? 何が起こった? そう思ったのは、俺だけではないだろう。窓という窓から、道行く人まで空を見上げている。
それが、どうしようも無い事だと、見ている人達は思っただろう。ただ、落ちてくるのを見ているしか無いのだから。
ドラゴンは池に落ち、大きな水しぶきが吹き上がり、地面を揺らす程の轟音を立てた。人々が池に集まり、ドラゴンが浮き上がってくるのを待つ。俺達も駆け寄って、その様子を見ていた。
浮き上がったドラゴンは傷だらけ、血だらけで、翼が千切れ、腹部に大きな木が刺さっている。とても、まだ生きているとは思えなかった。
「ドラゴンハンターがやったんだ!」
誰かが、そう叫んだ。そのドラゴンの姿に、怒る者、悲鳴をあげる者、ただ叫び続ける者。俺達はただ、訳も分からず、立ち竦んでいただけだ。
◇◇
殺気を感じる。というより、そう思った。誰かが、はっきり言ったわけじゃ無い。
それでも、俺達を見る目は、鋭い。
ドラゴンがやられた。自分達が守護するものが、無残な姿となった。その原因はドラゴンハンター。ドラゴンハンターは人間。人間は邪悪なこと平気でする者。すなわち、ここの者達にとって、俺達も原因のひとつ。
どこまで合っているのか分からないが、俺の妄想が空回りする。
『ドラゴンハンターを駆逐しよう!』
誰かが、そう叫ぶ。それに異論のある者はいないようだ。ざわめき、動き出した里。報復なのか、復讐なのか。幸い俺達は、白い目で見られるだけで済んでいる。でも、何かやばい。
『森の中にハンターがいる! 地の理はこちらにある!
武器を持て! 部隊を編成し、一気に畳み掛ける!』
話が具体的になってきた。里の空気が一気に湧き上がり、熱気を帯びてくる。このまま、ここにいたら、本当にやばそうだ。とりあえず、人目につかないように部屋に戻って、大人しくしていよう。
イリアの手を引っ張って行こうとすると、里長様が現れた。どうする? おばさん。一気に煽るのか?
「皆さん! 落ち着いて下さい」
『里長! この流れを止めるつもりですか?』
「そうです! 行ってはいけません! 戦ってはいけません!」
『何故ですか?! ドラゴンが危険なんですよ!』
「それでも、です!」
『では、人間達に好き勝手させろと言うのですか?』
やり取りを聞いていると、割とみんな、冷静のような気がする。
『この里の役目をお忘れか? ドラゴンを守り、自然を守る。それを破壊する者、脅かす者を排除するのに、何の躊躇いがあろうか!』
「だからこそです」
『なら、この惨状を見て見ぬ振りをしろと、仰しゃるのか?』
「違います!人も私達も、自然の一部なのです。人が行うことに、干渉してはなりません」
『何故、そのようなことを!』
「あなたは、雨が降ったら、天に怒りますか? 風が強いからといって、腹を立てますか? 全ては同じ事。自然に起こる事を私達が如何の斯うのするのは傲慢です」
『屁理屈を言わないでくれ』
「今、ドラゴンの守護者達が懸命に使命を果たしています。彼らに任せるのです。我らはドラゴンの友であり、その子供です。その命運を導く事こそ、私たちに課せられた使命です。争ってはなりません。私達が今すべき事をすべきです」
何だか良く分からないが、この場は治まったようだ。戦いの準備の手が止まり、”今すべき事”に向かって、集まった人達が散り始めた。
ひと安心した俺達は、急いで部屋に戻ろうと慌ただしい通路を進む。すると、途中で里長様に呼び止められ、里長様の部屋に入るように催促された。
「あなた達は、この里を離れた方がいいでしょう」
「やっぱり?」
「今は落ち着きを取り戻していますが、いつ、それが戻ってしまうか分かりません。その気持ちが高まった時、あなた達に向かうかもしれないのです」
「でしょうね」
「ちょっと待って」
イリアが椅子に座り、コンビニ袋を漁り始める。
「その前に、食べておかないと、いけないわよね」
落ち着きを取り戻したイリアが、言いながら食べ始める。
「あなた、これを持って行きなさい」
おお! これは。里親様が俺に、伝説の剣をくれた。間違いない。
「この剣は、以前、祭事で使用していた物です。折れてはいますが、何も無いよりは良いでしょう」
伝説の剣は、途中から折れている。俺の期待も、半分のようだ。
「行こう、イリア」
「ちょっと待って。デザートがまだ」
「後で食べればいいだろう?」
「後が無かったら、どうするの? 責任取ってくれるの?」
どんな責任の取り方が有るって言うんだ?
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