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#4 未来 イオナ編
#4.3 ラストダンス (2/3)
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旅行社に戻った俺は、”お持ち帰り券”で彼女を連れて行けないかと相談した。受付のお姉さんは、残念そうに、お勧め出来ないと言った。元々、人形である彼女は、”物”として、彼女の承諾無く登録はできる。しかし、その前に”終了の鍵”で機能を停止しなければならないそうだ。そうすると、始めて見た時のように、ただのマネキンに戻り、本物の人形として登録されるだけと。それでは意味がないでしょうと言われた。
仮に彼女を人扱いしても、彼女は承諾の意思を示すことが出来ない。結局、どうにもならないという結論になった。
「彼女は物じゃないです。ちゃんと話すし、俺の言ったことも理解できてる。それに、ダンスも出来るんですよ」
「彼女は人形、つまり機械なんです。人の言動に従うように出来てるだけです。だから、感情が無いんです。彼女に感情移入されるお客様は他にもいらっしゃいましたが、皆さん、あとでガッカリするんですよ。彼女達に入れ込ん分、その影響が強いんです。ここに置いて行かれることを、強くお勧め致します」
俺は、隣りに座っている彼女を見た。何も変わらず、無表情で無言のままだ。もし彼女に心があれば、そんな顔はしないだろう。せいせいしたとか、呆れたとか、そんな顔をするはずだ。
「分かりました。無理を言ってすいません」
「こちらこそ、少しきつめに言ってしまい、申し訳ありせん。
では、こちらの鍵で停止して頂けますか?」
俺は、彼女が止まってしまう前に、最後の会話をした。
「じゃあ、イオナ。君に出逢えて良かったよ。また、どこかで逢えたらいいね」
彼女の答えは決まっている。俺は立って、彼女に右手を出して握手をした。その手が、暖かい。でも、これでお別れだ。
俺は彼女の返事を待った。ただ、短い、その返事を。しかし、彼女の返事が無い。どうしたんだろう? もう止まってしまったのか。
「イオナ! あなた!」
受付のお姉さんが、大声で叫んだ。イオナは、泣いていた。涙を流して泣いていた。そして、俺の手を離そうとしなかった。
「私は、ユウキといたい」
彼女が『はい』以外の言葉を喋った。
「イオナ! もう一度、言って! 大きな声で!」
受付のお姉さんが、また叫んだ。
「私は、ユウキといたい! 私はユウキの一緒にいる!」
今度は、はっきりと、聞こえるように彼女は言った。
「まあ、イオナ。貴方って人は、もう」
「ユウキは、私を、女の子して扱ってくれた。他に誰も、私を人とし扱ってくれた人はいない。ユウキだけよ」
「分かったわ、イオナ。もういいから、泣かないで。ユウキ様、出来ますよ! ”お持ち帰り”。ちょっと特殊なことになりますけれど、宜しいですか?」
なんだか分からないが、とにかく良かった。
「お願いします。”お持ち帰り”!」
「かしこまりました。では、ユウキ様。最初の鍵と同様、イオナに抱きついてから、鍵を回してください」
「え? それって、止まってしまうんじゃ」
「大丈夫です。信じてください」
「分かりました。やってみます。それと、また抱きつくんですか?」
「そうです。今度はちゃんと意味がありますから」
”今度は”って。
俺は手を引いて彼女を立たせた。そして、今は表情のある顔で下を向いている、はず。表情が、感情みたいのものが有る分、余計に恥ずかしい。一応、ことわっておく。
「いいかい? 抱きつくよ」
「はい、どうぞ」
自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。えい! と勢いを付けて彼女に抱きつき、鍵を回した。
今度は逆。彼女の微妙な動きが消えていく。なんで? 止まっちゃうよ。彼女から色が消えていく。彼女から生きていた証が消えていく。そして、彼女は無垢の人形に戻ってしまった。
「これって、何か違いませんか!」
受付のお姉さんは、応えない。うっそー。これって、騙されたの!
「ユウキ」
誰かが俺の名前を呼んだ。でも、誰もいない。
「ユウキ。私はここ」
声のする方に振り向くと、彼女が見えた。
「初めまして、ユウキ」
彼女がそこにいる。確かに、いる。
「ユウキ様、イオナとは逢えましたか?」
「逢えました!」
「それは良かったですね」
「はい!」
「一つ、注意点が御座います」
「何でしょうか?」
「もう、お気づきかと思いますが、イオナの本体は、既に機能停止しています。しかし、ユウキ様との接触で、ユウキ様だけのイオナが存在するように見えていると思います。如何でしょうか?」
「俺だけの存在? ですか?」
「はい。私も含め、イオナの存在を認識できるのはユウキ様だけとなっています」
「良く分からないですけど、彼女がいれば、それでいいです」
「分かりました。これでユウキ様が、どの世界に行かれましても、イオナはユウキ様とご一緒ということになりました。良かったですね」
「はい!」
◇◇
仮に彼女を人扱いしても、彼女は承諾の意思を示すことが出来ない。結局、どうにもならないという結論になった。
「彼女は物じゃないです。ちゃんと話すし、俺の言ったことも理解できてる。それに、ダンスも出来るんですよ」
「彼女は人形、つまり機械なんです。人の言動に従うように出来てるだけです。だから、感情が無いんです。彼女に感情移入されるお客様は他にもいらっしゃいましたが、皆さん、あとでガッカリするんですよ。彼女達に入れ込ん分、その影響が強いんです。ここに置いて行かれることを、強くお勧め致します」
俺は、隣りに座っている彼女を見た。何も変わらず、無表情で無言のままだ。もし彼女に心があれば、そんな顔はしないだろう。せいせいしたとか、呆れたとか、そんな顔をするはずだ。
「分かりました。無理を言ってすいません」
「こちらこそ、少しきつめに言ってしまい、申し訳ありせん。
では、こちらの鍵で停止して頂けますか?」
俺は、彼女が止まってしまう前に、最後の会話をした。
「じゃあ、イオナ。君に出逢えて良かったよ。また、どこかで逢えたらいいね」
彼女の答えは決まっている。俺は立って、彼女に右手を出して握手をした。その手が、暖かい。でも、これでお別れだ。
俺は彼女の返事を待った。ただ、短い、その返事を。しかし、彼女の返事が無い。どうしたんだろう? もう止まってしまったのか。
「イオナ! あなた!」
受付のお姉さんが、大声で叫んだ。イオナは、泣いていた。涙を流して泣いていた。そして、俺の手を離そうとしなかった。
「私は、ユウキといたい」
彼女が『はい』以外の言葉を喋った。
「イオナ! もう一度、言って! 大きな声で!」
受付のお姉さんが、また叫んだ。
「私は、ユウキといたい! 私はユウキの一緒にいる!」
今度は、はっきりと、聞こえるように彼女は言った。
「まあ、イオナ。貴方って人は、もう」
「ユウキは、私を、女の子して扱ってくれた。他に誰も、私を人とし扱ってくれた人はいない。ユウキだけよ」
「分かったわ、イオナ。もういいから、泣かないで。ユウキ様、出来ますよ! ”お持ち帰り”。ちょっと特殊なことになりますけれど、宜しいですか?」
なんだか分からないが、とにかく良かった。
「お願いします。”お持ち帰り”!」
「かしこまりました。では、ユウキ様。最初の鍵と同様、イオナに抱きついてから、鍵を回してください」
「え? それって、止まってしまうんじゃ」
「大丈夫です。信じてください」
「分かりました。やってみます。それと、また抱きつくんですか?」
「そうです。今度はちゃんと意味がありますから」
”今度は”って。
俺は手を引いて彼女を立たせた。そして、今は表情のある顔で下を向いている、はず。表情が、感情みたいのものが有る分、余計に恥ずかしい。一応、ことわっておく。
「いいかい? 抱きつくよ」
「はい、どうぞ」
自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。えい! と勢いを付けて彼女に抱きつき、鍵を回した。
今度は逆。彼女の微妙な動きが消えていく。なんで? 止まっちゃうよ。彼女から色が消えていく。彼女から生きていた証が消えていく。そして、彼女は無垢の人形に戻ってしまった。
「これって、何か違いませんか!」
受付のお姉さんは、応えない。うっそー。これって、騙されたの!
「ユウキ」
誰かが俺の名前を呼んだ。でも、誰もいない。
「ユウキ。私はここ」
声のする方に振り向くと、彼女が見えた。
「初めまして、ユウキ」
彼女がそこにいる。確かに、いる。
「ユウキ様、イオナとは逢えましたか?」
「逢えました!」
「それは良かったですね」
「はい!」
「一つ、注意点が御座います」
「何でしょうか?」
「もう、お気づきかと思いますが、イオナの本体は、既に機能停止しています。しかし、ユウキ様との接触で、ユウキ様だけのイオナが存在するように見えていると思います。如何でしょうか?」
「俺だけの存在? ですか?」
「はい。私も含め、イオナの存在を認識できるのはユウキ様だけとなっています」
「良く分からないですけど、彼女がいれば、それでいいです」
「分かりました。これでユウキ様が、どの世界に行かれましても、イオナはユウキ様とご一緒ということになりました。良かったですね」
「はい!」
◇◇
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