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#4 未来 イオナ編
#4.3 ラストダンス (1/3)
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観覧車の上から見えた人集り。近くの広場で、なにかの大会が開かれているようだった。観覧車を堪能した俺達は、その広場に行ってみた。
そこに集う人達の年齢層が、やけに高いのが気になる。軽快な音楽が鳴り響き、時折、変な足音も聞こえる。その正体は、社交ダンスの大会だった。どうりで、周りはおじさん、おばさんが多いわけだ。
おばさんが一人、まるで知り合いを見つけたかのように、俺達に駆け寄ってきた。
『あなた達、ダンス大会に出てみない? 若い人が少ないから目立てるわよ』
ラジオ体操でさえ順番を間違える俺が、ダンス、それも社交ダンスなんかに興味があるわけがない。
「無理です。ダンスなんて踊ったことないので」
『なら、丁度いいじゃない。私が教えてあげるから。いい経験になるわよ』
「いや~。だから……」
「はい」
『やるのね。良かった。さあ、こっちにいらっしゃい』
やな予感が的中してしまった。例によって彼女が返答してしまった以上、それは違うとは言い出せない。この流れに、乗るしかないようだ。
おばさんのダンス教室が始まった。一通りやってみたが、さっぱり要領が掴めない。こういう、決まった動きをするのは苦手だ。第一、覚えられない。一方、彼女の方は、おばさんが感心する程のようだ。ダンスといえば、学校のフォークダンス以来、俺にとっては避けるべき存在だ。
ここで初めて、彼女と迎え合わせに立った。一応ポーズをとって、彼女の肩に右手、そして左手を彼女の右手と組んだ。なんだかいい感じになってきた。これはこれで悪くない感じがしてきた。すると、おばさんが、もっとくっつけと言う。俺的には。かなり近づいているつもりだ。それなのに、見かねたおばさんが、俺達の背中を押してしまった。
ちょっと待ったー。俺の腰と彼女の腰がくっつき、彼女が俺の顔を下から見上げる格好になった。これって、抱きついているのと変わりないじゃないか。それも公衆の面前で。いいのか、これ?
『彼氏さん。彼女は経験者みたいだから、彼女に合わせて踊ってみて』
”経験者”? なんの経験があるんだ?
『さあ、次の小節から、入ってみましょう』
しょうせつ?
おおー。彼女に引っ張られる感じで動き出した。おおー。俺の初めてのダンスが。俺って、天才?
『あら。なかなか、いい感じじゃないの。本当は彼氏さんが彼女をリードするんだけど、パートナーの彼女に合わせた方がいいみたいね。それじゃあ、本番、いってみる?』
本番? いきなり? ここで? みんないるのに?
混乱している間に、周りの人達が入れ替わり、おばさんが手を振りながら、行ってしまった。どうするのこれ? と思っていたら、音楽が始まった。
優雅なワルツだ。さあ、どうする俺? おばさんが去り際に、音楽が始まったら、とにかく踊れと。周りは気にすることはないと言っていた。そう言われと気になる年頃の俺だ。周りを見ると、俺達と同じように、公然と抱きついている。恥ずかしくないのか?ってところで、俺は彼女に引っ張られるまま、踊り始めた。
彼女が近い。無言で無表情だけど、そのままキスをしてもおかしくない近さで、彼女の顔がある。無言で無表情だけど、彼女の瞳は俺だけを見ている。彼女は俺の腕の中で、俺だけの華になった。これって、もしかして、もしかすると、最高じゃないのか!
曲が終わり、俺達のダンスも終わった。あのおばさんが嬉しそうに、近づいてくる。そして、俺達の踊っているところを写真に撮ったからと言って、その写真をくれた。
写真に写る彼女は、笑顔がとても素敵だった。それに引き換え、俺ときたら。待てよ。彼女の笑顔? なんだ。ここの写真はみんな、自動で加工されるのか。
◇
デートも、もう終わり。レンタカーも返して、今は旅行社近くの公園にいる。日もすっかり暮れ、公園の灯りがポツンポツンとあるだけだ。資金も底をつき、宛てもなく公園のベンチに、二人で座っている。あまり、いい感じの終わり方じゃないと反省。終わり悪ければ、全て台無しだ。
それでも彼女は、黙って座っている。まあ、彼女の方から話し掛けてくることはない。俺が話し掛け無い限り、二人は黙ったままとなる。星が綺麗とは言いにくい。月が見えないのに、あれが月だとも言えない。表情が無い分、呆れているのか、ガッカリしているのか、分からない。さて、困ったものだ。
時間はまだまだ十分ある。だけど、カツミのところに戻って、イリアをとっちめないと行けない。それまでは、あの感動を、もう一度。
俺は彼女の前に立って、お辞儀をして右手を差し出した。
「踊って頂けますか? イオナ」
「はい」
彼女の返事は決まっている。それが本心なのか、機械的なもなのか、そんなことは、どうでもいい。彼女は立ち上げって、俺の要求に応える。俺は鼻歌で、ダンス大会の時の曲を、フンーフンーと演奏する。彼女は優雅に可憐で美しく、誰もいない公園で俺と二人、ワルツを踊った。
◇
そこに集う人達の年齢層が、やけに高いのが気になる。軽快な音楽が鳴り響き、時折、変な足音も聞こえる。その正体は、社交ダンスの大会だった。どうりで、周りはおじさん、おばさんが多いわけだ。
おばさんが一人、まるで知り合いを見つけたかのように、俺達に駆け寄ってきた。
『あなた達、ダンス大会に出てみない? 若い人が少ないから目立てるわよ』
ラジオ体操でさえ順番を間違える俺が、ダンス、それも社交ダンスなんかに興味があるわけがない。
「無理です。ダンスなんて踊ったことないので」
『なら、丁度いいじゃない。私が教えてあげるから。いい経験になるわよ』
「いや~。だから……」
「はい」
『やるのね。良かった。さあ、こっちにいらっしゃい』
やな予感が的中してしまった。例によって彼女が返答してしまった以上、それは違うとは言い出せない。この流れに、乗るしかないようだ。
おばさんのダンス教室が始まった。一通りやってみたが、さっぱり要領が掴めない。こういう、決まった動きをするのは苦手だ。第一、覚えられない。一方、彼女の方は、おばさんが感心する程のようだ。ダンスといえば、学校のフォークダンス以来、俺にとっては避けるべき存在だ。
ここで初めて、彼女と迎え合わせに立った。一応ポーズをとって、彼女の肩に右手、そして左手を彼女の右手と組んだ。なんだかいい感じになってきた。これはこれで悪くない感じがしてきた。すると、おばさんが、もっとくっつけと言う。俺的には。かなり近づいているつもりだ。それなのに、見かねたおばさんが、俺達の背中を押してしまった。
ちょっと待ったー。俺の腰と彼女の腰がくっつき、彼女が俺の顔を下から見上げる格好になった。これって、抱きついているのと変わりないじゃないか。それも公衆の面前で。いいのか、これ?
『彼氏さん。彼女は経験者みたいだから、彼女に合わせて踊ってみて』
”経験者”? なんの経験があるんだ?
『さあ、次の小節から、入ってみましょう』
しょうせつ?
おおー。彼女に引っ張られる感じで動き出した。おおー。俺の初めてのダンスが。俺って、天才?
『あら。なかなか、いい感じじゃないの。本当は彼氏さんが彼女をリードするんだけど、パートナーの彼女に合わせた方がいいみたいね。それじゃあ、本番、いってみる?』
本番? いきなり? ここで? みんないるのに?
混乱している間に、周りの人達が入れ替わり、おばさんが手を振りながら、行ってしまった。どうするのこれ? と思っていたら、音楽が始まった。
優雅なワルツだ。さあ、どうする俺? おばさんが去り際に、音楽が始まったら、とにかく踊れと。周りは気にすることはないと言っていた。そう言われと気になる年頃の俺だ。周りを見ると、俺達と同じように、公然と抱きついている。恥ずかしくないのか?ってところで、俺は彼女に引っ張られるまま、踊り始めた。
彼女が近い。無言で無表情だけど、そのままキスをしてもおかしくない近さで、彼女の顔がある。無言で無表情だけど、彼女の瞳は俺だけを見ている。彼女は俺の腕の中で、俺だけの華になった。これって、もしかして、もしかすると、最高じゃないのか!
曲が終わり、俺達のダンスも終わった。あのおばさんが嬉しそうに、近づいてくる。そして、俺達の踊っているところを写真に撮ったからと言って、その写真をくれた。
写真に写る彼女は、笑顔がとても素敵だった。それに引き換え、俺ときたら。待てよ。彼女の笑顔? なんだ。ここの写真はみんな、自動で加工されるのか。
◇
デートも、もう終わり。レンタカーも返して、今は旅行社近くの公園にいる。日もすっかり暮れ、公園の灯りがポツンポツンとあるだけだ。資金も底をつき、宛てもなく公園のベンチに、二人で座っている。あまり、いい感じの終わり方じゃないと反省。終わり悪ければ、全て台無しだ。
それでも彼女は、黙って座っている。まあ、彼女の方から話し掛けてくることはない。俺が話し掛け無い限り、二人は黙ったままとなる。星が綺麗とは言いにくい。月が見えないのに、あれが月だとも言えない。表情が無い分、呆れているのか、ガッカリしているのか、分からない。さて、困ったものだ。
時間はまだまだ十分ある。だけど、カツミのところに戻って、イリアをとっちめないと行けない。それまでは、あの感動を、もう一度。
俺は彼女の前に立って、お辞儀をして右手を差し出した。
「踊って頂けますか? イオナ」
「はい」
彼女の返事は決まっている。それが本心なのか、機械的なもなのか、そんなことは、どうでもいい。彼女は立ち上げって、俺の要求に応える。俺は鼻歌で、ダンス大会の時の曲を、フンーフンーと演奏する。彼女は優雅に可憐で美しく、誰もいない公園で俺と二人、ワルツを踊った。
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