12☆ワールド征服旅行記

Tro

文字の大きさ
42 / 91
#4 未来 イオナ編

#4.3 ラストダンス (1/3)

しおりを挟む
観覧車の上から見えた人集り。近くの広場で、なにかの大会が開かれているようだった。観覧車を堪能した俺達は、その広場に行ってみた。

そこに集う人達の年齢層が、やけに高いのが気になる。軽快な音楽が鳴り響き、時折、変な足音も聞こえる。その正体は、社交ダンスの大会だった。どうりで、周りはおじさん、おばさんが多いわけだ。

おばさんが一人、まるで知り合いを見つけたかのように、俺達に駆け寄ってきた。

『あなた達、ダンス大会に出てみない? 若い人が少ないから目立てるわよ』

ラジオ体操でさえ順番を間違える俺が、ダンス、それも社交ダンスなんかに興味があるわけがない。

「無理です。ダンスなんて踊ったことないので」
『なら、丁度いいじゃない。私が教えてあげるから。いい経験になるわよ』
「いや~。だから……」
「はい」
『やるのね。良かった。さあ、こっちにいらっしゃい』

やな予感が的中してしまった。例によって彼女が返答してしまった以上、それは違うとは言い出せない。この流れに、乗るしかないようだ。

おばさんのダンス教室が始まった。一通りやってみたが、さっぱり要領が掴めない。こういう、決まった動きをするのは苦手だ。第一、覚えられない。一方、彼女の方は、おばさんが感心する程のようだ。ダンスといえば、学校のフォークダンス以来、俺にとっては避けるべき存在だ。

ここで初めて、彼女と迎え合わせに立った。一応ポーズをとって、彼女の肩に右手、そして左手を彼女の右手と組んだ。なんだかいい感じになってきた。これはこれで悪くない感じがしてきた。すると、おばさんが、もっとくっつけと言う。俺的には。かなり近づいているつもりだ。それなのに、見かねたおばさんが、俺達の背中を押してしまった。

ちょっと待ったー。俺の腰と彼女の腰がくっつき、彼女が俺の顔を下から見上げる格好になった。これって、抱きついているのと変わりないじゃないか。それも公衆の面前で。いいのか、これ?

『彼氏さん。彼女は経験者みたいだから、彼女に合わせて踊ってみて』
”経験者”? なんの経験があるんだ?

『さあ、次の小節から、入ってみましょう』
しょうせつ?

おおー。彼女に引っ張られる感じで動き出した。おおー。俺の初めてのダンスが。俺って、天才?

『あら。なかなか、いい感じじゃないの。本当は彼氏さんが彼女をリードするんだけど、パートナーの彼女に合わせた方がいいみたいね。それじゃあ、本番、いってみる?』

本番? いきなり? ここで? みんないるのに?

混乱している間に、周りの人達が入れ替わり、おばさんが手を振りながら、行ってしまった。どうするのこれ? と思っていたら、音楽が始まった。

優雅なワルツだ。さあ、どうする俺? おばさんが去り際に、音楽が始まったら、とにかく踊れと。周りは気にすることはないと言っていた。そう言われと気になる年頃の俺だ。周りを見ると、俺達と同じように、公然と抱きついている。恥ずかしくないのか?ってところで、俺は彼女に引っ張られるまま、踊り始めた。

彼女が近い。無言で無表情だけど、そのままキスをしてもおかしくない近さで、彼女の顔がある。無言で無表情だけど、彼女の瞳は俺だけを見ている。彼女は俺の腕の中で、俺だけの華になった。これって、もしかして、もしかすると、最高じゃないのか!

曲が終わり、俺達のダンスも終わった。あのおばさんが嬉しそうに、近づいてくる。そして、俺達の踊っているところを写真に撮ったからと言って、その写真をくれた。

写真に写る彼女は、笑顔がとても素敵だった。それに引き換え、俺ときたら。待てよ。彼女の笑顔? なんだ。ここの写真はみんな、自動で加工されるのか。



デートも、もう終わり。レンタカーも返して、今は旅行社近くの公園にいる。日もすっかり暮れ、公園の灯りがポツンポツンとあるだけだ。資金も底をつき、宛てもなく公園のベンチに、二人で座っている。あまり、いい感じの終わり方じゃないと反省。終わり悪ければ、全て台無しだ。

それでも彼女は、黙って座っている。まあ、彼女の方から話し掛けてくることはない。俺が話し掛け無い限り、二人は黙ったままとなる。星が綺麗とは言いにくい。月が見えないのに、あれが月だとも言えない。表情が無い分、呆れているのか、ガッカリしているのか、分からない。さて、困ったものだ。

時間はまだまだ十分ある。だけど、カツミのところに戻って、イリアをとっちめないと行けない。それまでは、あの感動を、もう一度。

俺は彼女の前に立って、お辞儀をして右手を差し出した。

「踊って頂けますか? イオナ」
「はい」

彼女の返事は決まっている。それが本心なのか、機械的なもなのか、そんなことは、どうでもいい。彼女は立ち上げって、俺の要求に応える。俺は鼻歌で、ダンス大会の時の曲を、フンーフンーと演奏する。彼女は優雅に可憐で美しく、誰もいない公園で俺と二人、ワルツを踊った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...