12☆ワールド征服旅行記

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#12 近代 ウララ編

#12.4 ドラゴン・ソード

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中世ヨーロッパ風の街並み。
均整のとれた建物が並ぶ、これぞヨーロッパといえる風景が……あった場所。
今、街は瓦礫の残骸で荒れ果てている。
そして、人は誰もいない。
いや、俺達を除いては。

俺の横には12人の少女達がいる。彼女達は服装も出身も年齢も不揃いだ。そんな俺達の目の前に、ケンジ=人類の敵と、同じく12人だが、正統派の美少女親衛隊がいる。おまけに身長まで揃った、見事な隊列だ。

そんな正規軍と、寄せ集め同然の俺達 救世軍は一触即発の状態にある。総勢26人の睨み合いが続く中、俺は次の一手をカツミに聞いた。

「知っての通り、この世界の主人公は、ただ一人。しかしそれは、旅の終わりを有終の美で終えた者のみに与えられる称号。そのためにケンジ=人類の敵は、わざわざ魔王軍をこの街に呼び寄せ、その雄姿を見せびらかすためだけに戦闘を行い、激しい攻防の末、魔王を倒しました。しかし、街はこの有様。民衆も呆れ返っています」

「おい! そこの。何をごちゃごちゃと。魔王に勝ったから、いいだよ」
「カツミ! ケンジが粋がっているぞ」

「言わせておきましょう。ユウキ。あなたはケンジを倒すのです。そうしなければウララが浮かばれません」

「ウララは、死亡確定ですか?」
「いいえ。ケンジ=人類の敵を倒し、運命を変えるのです。分かりますか?」
「分かりません」

「相変わらず、アホです。ケンジ=人類の敵を倒すことで、ウララの、死の連鎖を止めるのです。ウララの死に、ケンジ=人類の敵が全て関わっています」

「やってみます。でも俺は何も武器を持っていないんですが」

「ユウキはアホです。何故ここに、私達がいると思っているのですか?
私達との絆こそが、ユウキ、あなたの武器です」

「なるほど。で、どうすれば」
「もう。みんなの名前を呼んで、戦意を高めても良いのではないですか?」

「わかりました。イリア!」
「はい!」「えっ?」
「セリス!」「腕がなるぜ」
「カツミ!」「ここにいます」
「イオナ!」「(はい!)」
「セイコ!」「お姉様のためだからな」
「イズナ!」「師匠!」
「お姉さん!」「名前で呼んでも構わないぞ」
「クミコ!」「責任を取るまで、死ぬでない」
「リリス!」「このぼけなすがー、隊長だー」
「ヨーコ!」「まだ、ボランティア中です」
「ココナ!」「夢で会いましょう」
「ウララ!」「死ぬことしか出来ませーん」

「あれ? ウララが生きてる。じゃあ、戦わなくても」
「あれは生前のウララです」
「生前?」
「そういうことになっています」

「どうだー、ケンジのおっさん。負けを認めろー」

ケンジ=人類の敵は、鼻で笑った。それもそうだ。相手は、あの魔王軍をも凌ぐ力を持つ者達。ここで一気に攻め込められたら、一瞬で吹き飛ばされそうだ。どうする俺? 俺達!

◇◇

「提案があーる」
どこかで聞いたような台詞。

「なんだー」

「ここでー、ちまちま戦闘してたらー、時間の無駄だー。そこでだー、それぞれのステージで一騎打ちといこうじゃ、ないかー」

「カツミ先生! 解説を」
「ケンジ=人類の敵の持ち時間は、後僅か。焦っているようです」

勝算は有りと見た。総合力では負けそうでも、個別なら負ける気がしない。多分。

「わかったー、その提案、受けて立つぞー」



主人公の称号を賭けた……ウララの、死の連鎖を断ち切る戦いが始まった。俺とケンジ=人類の敵は、自分の番まで、神の如く観戦である。


### ステージ 古代: モリモリ族 vs とハラッパ族 ###

ここには、ケンジ=人類の敵が登場していない。よって、モリモリ族とハラッパ族の代理戦闘となった。両者、一歩も引かず、小競り合いが続いた。日没サスペンドかと思われたが、突然、火山が大噴火。モリモリ族、ハラッパ族ともに全滅、
セリスは慌てて逃げた。
引き分け。

0勝0敗1引分


### ステージ 近代: チーム・カツミ vs チーム・ケンジ ###

チーム・カツミとチーム・ケンジとでのスパイ勝負となるはずが、カツミがアルバイトで不在のため、チーム・ケンジの不戦勝となる。
大敗。

0勝1敗1引分


### ステージ 未来: イオナ vs エロケンジ ###

イオナ主導のもと、ケンジ=人類の敵を断罪。
売春防止法違反、児童福祉法違反、児童ポルノ禁止法違反、軽犯罪法違反等で告訴し、裁判で勝利する。
イオナの大勝利。

1勝1敗1引分


### ステージ 古代: セイコとその仲間達 vs ドラゴン・ハンター ###

セイコのドラゴン部隊とドラゴン・ハンターとの攻防。
まともに戦ってドラゴンに勝てる人間はいない。
セイコの大勝利。

2勝1敗1引分


### ステージ中世: イズナ vs 正規魔法使い ###

イズナと正規魔法使いとの魔法対決。
イズナが放った最終奥義”白い猫”により、隕石群が飛来。
空と大地は真っ赤に燃え尽くされ、世界そのものが崩壊。
勝負の行方を最後まで見届けた者は、誰一人いない。
引き分け、

2勝1敗2引分


### ステージ 現代: フーコ vs イカれくそケンジ部長 ###

天才のフーコ、未払いの残業代と処遇改善を会社に要求。
それをイカれくそケンジ部長が隠匿し、辞職に追い込まれる。
大敗。

2勝2敗2引分


### ステージ 近代: クミコ vs 悪代官ケンジ ###

仲間のいない悪代官ケンジは、悪霊退散組のクミコを恐れ逃走。
クミコは、悪代官ケンジと二度と会いたくないと逃走。
引き分けとなる、

2勝2敗3引分


### ステージ 未来: リリス vs ケンジ星人 ###

リリスとケンジ星人との対決。
リリス、ケンジ星人のキャット・リトルボーイズの可愛さに陥落。
その侵略を許し、奴隷となる。
大敗。

2勝3敗3引分


### ステージ 未来: ヨーコ vs ケンジチーム ###

何故か我が方12人とケンジチーム12人とのステージ対決となった。
調和のとれたケンジチームに対して、無敵のヨーコ、セリス、セイコを軸に、その他の布陣で挑む。が、その他の無茶振りに、さすがのヨーコ達も足を引っ張られる。だが、なんとかその他を蹴散らし辛勝。

3勝3敗3引分


### ステージ 近代: ココナ王女 vs 腐れケンジ王子 ###

ココナ王女とケンジ王子との家庭内主導権対決。
ケンジ王子、ココナ王女の尻に引かれる。
ココナ王女の大勝利。

ココナってメイドじゃなかったのか。王女様?
メイドの女王?

4勝3敗3引分


### ステージ 近代: ウララ vs 犯罪者 ケンジ ###

橋の上にて。
ケンジの放った子犬を避けようと橋から転落。
敢え無く溺死。
大敗。

4勝4敗3引分



さあ、ここから大将戦だー。

俺とイリア vs 勇者ケンジ=人類の敵 と 美少女剣士。大勝利を確信していた勇者ケンジ=人類の敵。その顔を歪めて怒り出す。

「負けたら承知しないぞ! やれ!」

勇者ケンジ=人類の敵側の美少女は、その体に似合わない大剣を構えて突進してくる。イリアは平然としている。その顔には、笑みさえ浮かべているではないか。これが、あのイリアなのか? まるで別人のようだ。背も少し伸びたようだし。俺のいない間に、一段、大人の階段を登ったんだな。

「風神剣!」

イリアがそう叫ぶと、右手から剣が出現。その一振りで美少女剣士を吹き飛ばす。

「小娘に負けるような私ではない!」

イリアが、強い! あの無駄遣い女王が、あの無計画・無軌道の女帝が! 立派になられた。いつ、小娘から大人の女性になったんですか? でも、あの剣は確か、雷神剣だったはず。

「イリア! 雷神剣が風神剣に進化したのか?」
「え? 雷神剣?」

「ごちゃごちゃと煩いぞ! 俺に勝ってからほざけ!」

勇者ケンジ=人類の敵が、黒く格好いい剣を抜いた。そして、何だか分からないポーズをキメた時だ。

イリアが勇者ケンジ=人類の敵に向けて剣を投げ、それがグサリと刺さる。

「イリア~。お前は…誰だ?」
「私はイリア。この世の悪を滅ぼす者。滅せよ、悪に溺れし者よ」

イリア? イリアなの? イリアさん。格好いい。俺の台詞が、俺の出番が無くなった?

「くっそー。俺がこれに、いくらつぎ込んだと思ってやがる。俺は勇者だー、くっそー。二度と来るか! こんなところ! 金の無駄だ」



勇者ケンジ=人類の敵は滅んだ。
みんなが喜びに歓声を上げる。俺は物足りない。

この世界に平和が訪れた。
たった一人の勇者ケンジ=人類の敵が…………………世界の平和はキャセルされた。

勇者ケンジ=人類の敵を包む黒い影。

「ククク」イリアの真似は止めろ。

勇者ケンジ=人類の敵を包む黒い影が立ち上がった。

「我こそは魔王なり。この世界を…」

話の途中でイリアが、俺に剣を渡してくれた。というか、剣を何本持っているんですか?

「ユウキ。その剣に、これを融合させるのです」
あなたは、誰ですか?

俺は、剣とイリアの秘密金庫から取り出された骨のようなもの、を手にした。

「それは、ドラゴンの骨です。それでその剣は、ドラゴン・ソードに生まれ変わるのです!」

なるほど。その金庫を持っているということは、イリアに間違いない。
いや、ドラゴン・ソードだー。

勇者ケンジ=人類の敵は、魔王ケンジの抜け殻=俺の敵になった。

俺の出番だ。

「世界がどうしたって? 世界を救うのは、俺しかいないだろう!」

俺は、クソおもったいドラゴン・ソードを手に、魔王に、魔王に魔王にまお~。



世界は、時間切れとなった。

俺の周りが白く濁り、濃霧に迷い込んだようになった。
その微かな視界の中で、瓦礫の街が逆再生のように戻っていく。
鳴いていた猫の声も、和解せよと言っている。
もう、そんなに時間が経っていたのか。

世界は、終わった。
彼女達の姿も見えない。
楽しい時間は短く感じるという。辛かったので、長く感じた。
借金は多分、無いはず。
やり残したこと、一杯。やりたかったこと、一杯。
もう働くのはごめんだ。
出会った人達はみんな、いい人達だった(そういうことに、しておこう)

ありがとう。もう、こねーよ。
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