異世界転生者と始めるギルドづくり~稼げるギルド目指します~

フクロウ

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第8章 ギルド長の任務は大変だ

第123話 真実は時に残酷な時もあるってマジ

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「……人間集団を、育ててきた?」

「ええ。私は最初からそのつもりでサラ様とギルドをつくってきました」

 チハヤの体は微動だにしない。緊張も戸惑いも怒りも悔しさもなにもないように、微笑みを浮かべたまま。

 ──私は、こんなにも体が震えているというのに。

「いい加減にしろ、チハヤ! 魔王とか人間集団とか、そんなわけわかんないことはどうでもいい! 今すぐモンスターを止めろ!!」

「ですから、無理なのです。それに、ここまで来られなければ意味がない」

「無理じゃねぇーだろうが!! さっきからずっとわけわかんないこと言ってんじゃねーよ!! こうしてる間にもエルサさんもクリスさんもグレースも! みんなが苦しんでる! 下手したら大ケガするかもしれないんだぞ! わかってんのか!?」

 私はチハヤに詰め寄る。少しでも動揺するのではないかと、考え直してくれるのではないかと思ったから。

 でも、チハヤは動じることなく息を吐くと、呆れたように額に指をあてた。

「サラ様、しっかり話を聞いてください。私は、ここまで来られなければ意味がないと言いました。ここまで来ることができない者、つまり魔王を倒すことができない者は戦力になりません」

 鼓動が大きくなる。拳をぎゅっと握り締める。……こいつはなにを言ってるんだ? 戦力にならないとかそんなことは関係ない。みんな、大事な仲間なんだ。

「チハヤ。こっちは、仲間が危険な目にあってるって言ってんだ! 最悪──モンスターの猛攻で命を落とすかもしれないんだぞ!」

「残念ながら、それはそこまでの力だったということです」

 チハヤは涼しい顔で言った。

「! てめぇっ!!」

 あまりの冷たい言い方に、私はチハヤに殴りかかっていた。渾身の怒りを込めた一撃は、でも簡単にチハヤの手のひらに止められてしまう。

「みなさんが来るまでまだ時間がある。真実を話しましょう」

 なにもない真っ白な空間に、突如として丸テーブルに二脚のイスが用意された。テーブルにはコーヒーカップが2つ置かれている。

「……この状況でコーヒーを飲めってか?」

「私の話をするときは、二人でコーヒーを飲むと約束したはずです」

 私の手を放すと、チハヤはテーブルに近づく。空間魔法でコーヒーがたっぷり入ったポットを取り出すと、カップに注いでいく。淹れたてのいい香りが漂ってきた。

 正気か?

「どうぞ。サラ様」

 チハヤが着席を促す。有無を言わさぬその目に耐え切れなくて、私はイスを引いて座った。

 反対側にチハヤが座る。白い手袋をはめたままカップに指を伸ばすと、そのままコーヒーをすする。

「私はこの世界に魔王として異世界転生しました」

 チハヤは、ちょうどテーブルの中心に目線を向けながら流暢に話し始めた。まるで人ごとのように。

 だけどその瞳は、これまで何度も見てきた哀しい色をしていた。

「サラ様も知っている通り、この世界の魔王は交代制です。元々この世界の住人である現地人や異世界転生者に関係なく、誰かが魔王になります」

 マリーが言っていた通りだ。歴代村長の日記にも書いてあった。

「魔王に選ばれた私は、絶望し暴れ回りました。世界中を放浪していたのは、その頃です」

 私もコーヒーカップに手を伸ばす。なぜか、指先が震えて仕方がない。チハヤから発せられる寒々しい空気は、温かいはずのカップを触っても変わらなかった。

 嫌な──とても嫌な予感がする。私の、だいたい当たる嫌な予感が。

「そのあと、サラ様のおじいさまに会いギルドづくりを提案されたという話は事実です。私は、完全に心が魔王になる前に、魔王を倒すため、そして唯一の願いである至高のコーヒーを飲むためにサラ様と仲間のみなさんとともにギルドを大きくしてきました」

 私は思い切ってコーヒーを飲んだ。熱いコーヒーが喉元を流れていく。味は、わからなかった。

「だったら、ギルドに戻ってきてよ! チハヤがまだ魔王じゃないなら、みんなで一緒に解決策を見つけよう! ねぇ、チハヤ!!」

 チハヤは首を振った。これは押し問答だ。わかっている。何度もチハヤに戻ってきてほしいと伝えているけど、チハヤは頑なに拒んでいる。

 だけど、言わなきゃいけなかった。言わないと、チハヤが本当に手の届かない遠くまで行ってしまいそうで……。

 私はクローバーの髪留めをテーブルの上に置いた。

「ヤマトさんから聞いたよ。四葉のクローバーの花言葉、幸運。チハヤは今までずぅっと私を守ってくれていた。そうだよね?」

 チハヤは音を立ててカップをテーブルに置く。のぞき込むように黒い瞳が私を見つめた。

「サラ様を守ってきたこと、それは偽りではありません」

「だったら、今度は私がチハヤを守る。そのために、私はここに来たんだよ」

 クローバーを手に取る。これは私の決意だ。私のギルドにもマリーのギルドにもたくさんの仲間たちがいる。チハヤとみんなの力を合わせれば、きっと魔王の問題を解決できる。

 チハヤはまたコーヒーをすすると、どこか辛そうに目を閉じた。

「無理なのです。サラ様。私は魔王として、もうすでに罪を犯している」

「罪? 魔王として?」

「ええ、その罪は──」

 チハヤが言葉を紡ごうとしたとき、バン、と扉が開く音がした。チハヤは立ち上がると、手を掲げる。飲みかけのコーヒーカップが消え、テーブルもイスも消えていく。慌てて私が座っていたイスから避けたときには、マリーの声が部屋中に響き渡っていた。

「来ましたわよ! チハヤ! 大人しく投降しなさい!!」

 扉の先には、マリーの他にトーヴァ、そしてリリアの姿があった。

「黒騎士はたおしたのですね」

「もちろんですわ! 黒騎士の正体はアンデッド。弱点は神聖属性。弱点さえわかれば、リリアの力で簡単にたおせましたわ! さあ、サラ! 話は済んだのでしょう! チハヤを連れ帰り、おじいさまへ報告に行きますわ! これで我がコンフォーコギルドは名実ともに最強ギルドの一角になりますの!」

 チハヤは前髪をかき上げると、不意に笑った。まだぜんぜん、余裕のある表情だった。

「残念ながら、そうはいきません。マリーさんとみなさんには、魔王をたおしたギルドとして歴史に名を刻んでもらいます」

 チハヤの姿が消える。

「なっ! ……後ろだ!!」

 トーヴァがすぐに気づき後ろを振り返ると、リリアの背後にチハヤが現れた。

「回復役のあなたの出番は、また後です」

 チハヤの手がリリアの頭に触れる。突然、リリアは気を失ったように床にたおれていった。

「てめぇ! リリアになにをした!!」

 リリアの体が床に激突する寸前。なぜかチハヤが体を受け止め、そのまま床の上に寝かせる。ソファで眠り込んだグレースをベッドに運ぶときのように、優しくていねいに。

「一時的に眠らせただけです。副作用の心配はありません。時間がたてばいずれ目を覚まします」

「そういうことじゃねぇ! やっぱり殺る気なのか!?」

 トーヴァは背中から大剣を抜き取ると、腰を低くしてチハヤに対して構えた。

「待ってトーヴァ、そうじゃないんだよ」

「だが説得は失敗したんだろ。どんな理由はあれど、こいつは今仲間に攻撃した。回復役をおとすのは、戦いの基本だからなぁ」

「そうじゃなくて!」

「危ないからサラはリリアを連れて下がっていろ!」

 ダメだ、頭に血が上っていてトーヴァに話が通じない。後輩のリリアが眠らされたから?

 今にも剣で切りかかろうという雰囲気のなか、大きな火の玉がチハヤとトーヴァの間を通って壁に当たった。

 ……今のは、マリーの魔法?

「待ちなさい。もし、チハヤがその気ならとっくにわたくしたちは殺されているはずですわ。ですが、眠らせただけ」

 マリーが腕を組んだままゆっくりと二人の間に割って入る。

「チハヤは絶対にわたくしたちを殺すことはできませんわ」
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