私を追放した王子と妹へ、聖女の力が本物だと証明して差し上げましょう 他

星山遼

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ニセ聖女呼ばわりされて追放されたら、戦闘狂と噂の辺境伯から求婚されました

中編

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 リフィが目を開けると、顔の下半分を布でおおった青年が顔を覗き込んでいた。
「う、ぎゃあぁぁぁっ?」
 十六歳のうら若き令嬢らしからぬ悲鳴を上げ、闇雲やみくもに手を振り回す。その手を容易たやすつかんでリフィの動きを封じると、青年は言った。
「落ち着け!お前に危害を加えるつもりはない!」
 低く耳障りの良い声だった。人を威圧し、従わせる力強さを宿す響き。気圧けおされたリフィの指が、青年の顔を隠す布に引っかかった。そのまま引きがしてしまう。
 青年の頬には、大きな裂傷があった。整った顔立ちに刻まれた傷生々しさに、リフィは金色の目を見開いて硬直する。
 リフィの手を解放した青年は、頬の傷を隠す様に掌を押し当てて顔をらした。
「ご、ごめんなさい!」
 辛そうに歪められた茶色の瞳を見て、リフィは慌てて布を拾うと男へ差し出す。布を受け取った男は、ぎこちない動作でリフィに向き直った。
「・・・・・・恐ろしいとは、思わないのか?」
「え?何がですか?」
「オレの顔を見た令嬢は皆、顔を真っ青にして悲鳴を上げた」
 絞り出す様な声音に、リフィの混乱がしずまった。落ち着きを取り戻した事で、相手を観察する余裕が生まれる。
 恐ろしさを倍増させているのは傷よりも顔を覆う布の方じゃないのかしら?と思いはしたが、口にするのは自重した。彼は彼なりに、相手を怖がらせまいと気をつかっているのだろうと思ったから。
 それに。
貴方あなたは騎士様、あるいはそれに近い御身分の御方とお見受けします。その傷も名誉の負傷のたぐいなのでは?」
 鍛え上げられた体躯たいくと整えられた身なり。まとう衣服も上質で礼儀正しい。リフィが寝かせられていたベッドも清潔。少なくとも山賊や破落戸ごろつきではなさそうだ。
 青年の全身を無遠慮に検分して、リフィは推察する。口にしてから、脳裏にひらめくものがあった。
「あの、もしかしてヴァレル・ロズメット辺境伯・・・・・・だったりします?」
 王城を追い出されたリフィは北へ向かって歩いていた。特に目的があった訳ではない。護衛の兵士に追い立てられたり人目を避けているうちに、何となくそうなっていたのだ。
 北部の国境近くにはロズメット伯爵領がある。その地を治めるのは二十二歳の青年伯爵で、国王も一目置く剣の使い手だと聞いた事がある。
 凶悪な魔獣にもひるまず挑み、全身傷だらけになる事もいとわず切り込んで打ち倒す勇猛果敢さから、ついたあだ名が『戦闘狂伯爵』だとも。
 青年・ロズメット伯爵は頷いた。
「かく言うお前は聖女リフィ・ダーリアだろう?」
 言い当てられて、リフィは目を丸くして驚く。
「王城で遠巻きながら姿を見かけた事があるーーお前の視界には入っていなかっただろうが」
 顔を布で隠した男に会えば確実に記憶に残るだろうからそうなのだろう。
「しかし何故、あんな森の外れで倒れていたんだ?」
 いぶかしむヴァレルに、つまんで事情を説明する。
 同情して欲しかった訳ではないから、事実だけを語ったつもりだった。しかし、目頭が熱くなるのは止められない。
「聖女サマってちやほやされたかった訳じゃないけど、でもやっぱり、力が無くなっちゃったのは悔しいなぁ」
 ぽろりと本音を漏らす声が震える。
「うちの・・・・・・ダーリア男爵領ってド田舎で貧しいの。だからあたしが聖女としてこの国を守れば、弟妹達も肩身の狭い思いをしなくて済むのかな、って夢見てたのに」
 現実は残酷だ。降ってわいた幸せな夢は、理不尽に手をすり抜けてしまった。うつむいて肩を震わせるリフィの耳が、脳天気な女性の声を捉えたのはその時だった。

『あはは、ごめんごめーん!』
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