邪悪な血脈 サイコに抗いサイコに寄り添いサイコに生きる

庭 京介

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第二章 錯綜する思惑

2ー1 サイコパスの告白

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 俺はサイコパスだ。サイコパスの疑いなどという生易しいものではないし、向社会性サイコパスと言われる一般社会に溶け込んだ存在でもない。正真正銘の反社会性サイコパスなのだ。
 それに気付いたのは中学二年の時だ。サイコパスが主人公のクライム小説を読んで、俺は完全に主人公に同化した時だ。異常心理学の大家であるロバート・ヘアが提案したサイコパス度チェックリストで自己判断してみた。俺は愕然とした。20項目全てに当てはまったのだ。絶望的と言える程の衝撃であった。
 それからの人生は、その恐るべき本能との闘いであった。ショックで打ちひしがれた自分に言い聞かせた。サイコパス全てがシリアルキラーや快楽殺人者になるわけではない。そこに至らず人生を全うしたサイコパスの方が圧倒的に多い。要は生き方だと。
 それからの自分にはサイコパス的性癖を抑え、それとは真逆の生き方を課した。自分の本能に逆らっての生き方を課すわけであるから、生易しいことではなかった。
 嘘をつかない、他人を悩みや苦悩に思いを馳せる。自分に間違いがあったら素直に謝る、攻撃的な態度で迫られても冷静さを失わず対処する。他人を欺くのではない。自分の本能を欺くのである。
 中学の道徳教育のような生き方を自分に課したわけだ。戸惑い揺れる心理をポケットに忍ばせた釘の先で刺激し抑制しながらの反サイコパス人生であった。それと並行し文献を読み漁り効果があるとされるものは全て受け入れた。過激で残虐な描写や映像を避け、付き合う仲間も厳選した。悪影響があるとされるアルコールやタバコ、劇物の類いも口にすることを避けた。食事は肉食から菜食へ、加工食品から自然食品へ。それが効果があったのかどうかは定かではないが自分の危険な内面を気付かれることなく何とか周囲の目を欺くことはできた。
 だが、この先を考えると不安や恐怖が日に日に強くなる。仕事中や周囲に人の気配を感じられる環境に身を置く内はまだいい。一人っきりになって緊張から解放され神経が弛緩すると、危険な妄想に襲われる。意識から振り払おうとするが、その度に姿を変えて襲いかかってくる。自分が希求するものは、この妄想世界の中にあるのか?自分は周囲の人間と明らかに異なる点がある。それは快感感受性だ。
 承認欲求、称賛欲、名誉欲、性欲、それらの人間の本能とも言える欲求に対し、触手が刺激されないのだ。では、自分にとってのそれは何か?自分にとっての快感は何か?そう自問した時に身体が恐怖に震えた。それがあの妄想なのではないか?それが、自分の身体に埋め込まれたサイコパスの本質なのではないか?そう思ったのだ。
 常人が抱く欲望が自分の場合はあの一つに集約されているのではないか?そして、感覚能の作動スイッチが高めに設定されているのではないか?と同時に快感レベルも依存症に追い詰められる程高レベルなのではないか?サイコパスの特徴の中の一項目に感情の発信が弱く薄いというのがある。それは間違いだ。感情の発信が弱いのではない。寧ろ感情の発信強度は抑えがたき高さまで上昇する。ただ、感情の起動センサーのスイッチが、感情が相応のレベルまで高まらなければオンしないのだ。そして一旦スイッチが入れば、感情が暴発し誰も止めようがない。依存症をもたらす程の強力な陶酔感や多幸感に包まれるのだ。そのスパイラルに落ち込んだ結果が、シリアルキラーなのだ。
 俺はその地獄のスパイラルから距離を置かなければならない。そのための最大の障害である妄想を意識から排除しなければならない。必要なのは緊張と熱中、充足と納得だ。敵は弛緩と閑静、退屈、不安、怒り。俺に安息は許されない。危険な妄想に打ち払い、走り続けなければならない。
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