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Kampf Riesen Mars 1945 特別編
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「僕はたぶん、死ぬ。
エーリカ、君はどうしているだろうか?
ソ連の侵攻が近いと聞いた。ベルリンは無事だろうか?
もし、万が一にも、ありえないだろうが、僕が生きてベルリンへ帰れたならば、もうつまらない意地など張らず君にプロポーズしようと思う。そうしたら君は僕を受け入れてくれるだろうか?
ああ、もう時間が無い。出撃の命令が下った。
最後に一言、僕は君を愛している!!!」
ドイツ軍第7独立部隊所属 クロスター・エーベルバッハ一等兵 1945年5月23日戦死
尚、戦後の調査では「エーリカ」なる女性は戦時中ベルリンに複数存在したが、いずれも死亡、行方不明であり、この書簡を届けることは出来なかった。
池袋の町外れ、空襲で焼け残った古びた建物の地下にあるバーに二人連れの男が入った。
二人とも地味な服装でどこにでもいる会社員に見えた。二人が店に入る階段を降りると、店内は薄暗いが数組が先客として入店していた。その先客の目を避けるように二人は一番奥の席に陣取った。二人の席には流行しはじめたトリスウイスキーが運ばれ、書類の束が広げられた。
「なんだ、これは。ただの遺書じゃないのか?こんな物を見せるためにわざわざこんな場末のバーに呼びつけたのか?」
短髪にえらのはった顔の男は連れに問いかけた。連れの男は問いにもったいぶった答えをした。
「確かに文章だけを読めばな。だが、この手記の日付を見てみろ」
短髪の男はいぶかしげにじっくりと手記を見た。
「1945年5月12日、15年前だな。これがどうかしたか?」
もう一人の男、険しい目つきで眼鏡をかけた男はこれに問いで答える。
「林よ、ベルリンが陥落したのはいつだ?」
林と呼ばれた短髪の男は少し考え
「3月、だな」
「そうだ、3月だ。その敗戦を知らずに戦闘を継続していたドイツ軍はどこの戦場にいたと思う?」
林は眼鏡の男の言葉に得心をえた。
「だから、ここへ呼び出したのか。坂崎、たまには気が利くな」
眼鏡の男、坂崎はようやく理解したかと思いつつ言葉をつなげた。
「庁舎では盗聴の心配があるからな。こんなバーにはさすがに盗聴装置はあるまいからな」
「米軍、やっかいきわまりない。かつての敵、今は友軍、だがその実体は事実上の占領軍。我が日本の行く末が心配だな」
林は庁舎内では絶対に口に出せないことを口にした。
眼鏡の男は短髪の男の言葉を無視しさらに続けた。
「問題はこっちのスケッチだ。時期とその様子を考え合わせればあれしかない。わかるだろう」
そうって坂崎は一枚の絵を差し出した。
「噂にあった東アフリカ会戦しかありえないな。これはドイツの戦車か?知らない形だ」
そういいつつスケッチを精査する目に複数の人型の姿が映った。
「まさか、人型重機か?」
坂崎は頷いた。林はさらに言葉を続けた。
「偽造じゃないのか?」
即座に反論が返された。
「いや、出所が出所だ。本物とみて良い」
「出所とはどこだ。まさか皇室というわけではないだろう」
坂崎はその言葉にはさすがに鼻で笑わずには居られなかった。
「中野学校出の男の言葉とは思えないな。出所は黒羽女史だよ」
今度は林が話を続けた。
「黒羽真風女史か。冷泉院の妾だな。ということはバックにいるのは百目か。確かにガセではないな」
「そういうことだ。そしてここにあの会戦の戦闘記録がある。絶対にアメリカに渡してはならない物だ。俺に何かが起きたときの保険にお前に渡しておく」
そう言った坂崎は分厚い資料を林に手渡した。
「ここに1945年東アフリカ会戦の全てが記されている。早めに目を通しておけ。
国産人型重機の開発の参考になるはずだ」
林はその書類の束を受け取ると、表情は無表情に心の内に笑みを浮かべた。
だが、その瞬間に店内の空気が変わった。突然坂崎と林を囲むように店内にいた先客が動いたのだ。
「林、お前とは警察予備隊、保安隊、陸自と長い間一緒だったが、悪いが逮捕させてもらうよ。偽名「林」、自衛隊内での名前は三田村光太郎、だがその正体は「石切場の賢人」の諜報員。たかだか自衛隊の諜報員ごときが、東アフリカ会戦の事を知っていると思ったか。
今のお前の言動で状況証拠は固まった」
これもまた当然偽名を使っている坂崎は勝利の笑みを浮かべて拳銃を林に向けた。
「俺を石切場の賢人と知るお前もまた純粋な自衛隊員ではあるまい。おそらくは、百目の手の者だな。しかし、知っているか、この国にスパイを取り締まる法律がないことを」
林の言葉は負け犬の遠吠えではあったが事実ではあった。
「法律など守る気は無い」
坂崎は一刀両断した。
これもまた人型重機を巡る物語の一端である。
エーリカ、君はどうしているだろうか?
ソ連の侵攻が近いと聞いた。ベルリンは無事だろうか?
もし、万が一にも、ありえないだろうが、僕が生きてベルリンへ帰れたならば、もうつまらない意地など張らず君にプロポーズしようと思う。そうしたら君は僕を受け入れてくれるだろうか?
ああ、もう時間が無い。出撃の命令が下った。
最後に一言、僕は君を愛している!!!」
ドイツ軍第7独立部隊所属 クロスター・エーベルバッハ一等兵 1945年5月23日戦死
尚、戦後の調査では「エーリカ」なる女性は戦時中ベルリンに複数存在したが、いずれも死亡、行方不明であり、この書簡を届けることは出来なかった。
池袋の町外れ、空襲で焼け残った古びた建物の地下にあるバーに二人連れの男が入った。
二人とも地味な服装でどこにでもいる会社員に見えた。二人が店に入る階段を降りると、店内は薄暗いが数組が先客として入店していた。その先客の目を避けるように二人は一番奥の席に陣取った。二人の席には流行しはじめたトリスウイスキーが運ばれ、書類の束が広げられた。
「なんだ、これは。ただの遺書じゃないのか?こんな物を見せるためにわざわざこんな場末のバーに呼びつけたのか?」
短髪にえらのはった顔の男は連れに問いかけた。連れの男は問いにもったいぶった答えをした。
「確かに文章だけを読めばな。だが、この手記の日付を見てみろ」
短髪の男はいぶかしげにじっくりと手記を見た。
「1945年5月12日、15年前だな。これがどうかしたか?」
もう一人の男、険しい目つきで眼鏡をかけた男はこれに問いで答える。
「林よ、ベルリンが陥落したのはいつだ?」
林と呼ばれた短髪の男は少し考え
「3月、だな」
「そうだ、3月だ。その敗戦を知らずに戦闘を継続していたドイツ軍はどこの戦場にいたと思う?」
林は眼鏡の男の言葉に得心をえた。
「だから、ここへ呼び出したのか。坂崎、たまには気が利くな」
眼鏡の男、坂崎はようやく理解したかと思いつつ言葉をつなげた。
「庁舎では盗聴の心配があるからな。こんなバーにはさすがに盗聴装置はあるまいからな」
「米軍、やっかいきわまりない。かつての敵、今は友軍、だがその実体は事実上の占領軍。我が日本の行く末が心配だな」
林は庁舎内では絶対に口に出せないことを口にした。
眼鏡の男は短髪の男の言葉を無視しさらに続けた。
「問題はこっちのスケッチだ。時期とその様子を考え合わせればあれしかない。わかるだろう」
そうって坂崎は一枚の絵を差し出した。
「噂にあった東アフリカ会戦しかありえないな。これはドイツの戦車か?知らない形だ」
そういいつつスケッチを精査する目に複数の人型の姿が映った。
「まさか、人型重機か?」
坂崎は頷いた。林はさらに言葉を続けた。
「偽造じゃないのか?」
即座に反論が返された。
「いや、出所が出所だ。本物とみて良い」
「出所とはどこだ。まさか皇室というわけではないだろう」
坂崎はその言葉にはさすがに鼻で笑わずには居られなかった。
「中野学校出の男の言葉とは思えないな。出所は黒羽女史だよ」
今度は林が話を続けた。
「黒羽真風女史か。冷泉院の妾だな。ということはバックにいるのは百目か。確かにガセではないな」
「そういうことだ。そしてここにあの会戦の戦闘記録がある。絶対にアメリカに渡してはならない物だ。俺に何かが起きたときの保険にお前に渡しておく」
そう言った坂崎は分厚い資料を林に手渡した。
「ここに1945年東アフリカ会戦の全てが記されている。早めに目を通しておけ。
国産人型重機の開発の参考になるはずだ」
林はその書類の束を受け取ると、表情は無表情に心の内に笑みを浮かべた。
だが、その瞬間に店内の空気が変わった。突然坂崎と林を囲むように店内にいた先客が動いたのだ。
「林、お前とは警察予備隊、保安隊、陸自と長い間一緒だったが、悪いが逮捕させてもらうよ。偽名「林」、自衛隊内での名前は三田村光太郎、だがその正体は「石切場の賢人」の諜報員。たかだか自衛隊の諜報員ごときが、東アフリカ会戦の事を知っていると思ったか。
今のお前の言動で状況証拠は固まった」
これもまた当然偽名を使っている坂崎は勝利の笑みを浮かべて拳銃を林に向けた。
「俺を石切場の賢人と知るお前もまた純粋な自衛隊員ではあるまい。おそらくは、百目の手の者だな。しかし、知っているか、この国にスパイを取り締まる法律がないことを」
林の言葉は負け犬の遠吠えではあったが事実ではあった。
「法律など守る気は無い」
坂崎は一刀両断した。
これもまた人型重機を巡る物語の一端である。
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