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パロディ罵倒るファンタジー
《《00010100》》=20.それでめでたしとすればいいさ
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辺り一帯が赤い光に包まれる。眩い光の中、その中心で黒い影がこちらを見て何かを言い放ち消えていった...。
「アホ面が...眩しすぎて見えねぇよ」
何をされたのか...とはいうものの何となく何をされたのか察したがとりあえず見えなかった事にしておく。
「「...」」
ダリアとルーナも複雑な心境で目の前の赤い閃光を見つめていた。思うところはあれど皆、どれだけ眩しくても目をだけは逸らない。...一瞬の静寂の後、光はそのいきおいを失っていき...やがてその場には龍だけが立っていた。
「...ア゛...ヴ...」
震える体、朦朧とする意識...まさに命の終わり。しかし...
「ふふふ、その状態でまだ戦う意思が残ってるとは驚きだね」
既に死に体...それでも、執念だけでまだ戦おうと、抗おうと立ち上がる。
「...ヴァ...ア゛!」
「...いいだろう。私が終わらせてやる...」
そう言ってアキリは龍へと向かって...
「その...必要は~...ない...よ~」
背後から聞こえた弱々しく気の抜けた声に止められる。
「...ふふっ、生きているのは知ってたけどボロボロだね」
「あ~...ね~...ゴホッ...」
ルーナの視線の先...木で自分の体重を支えないと立っていられないほどに全身傷だらけの少女。頭部から出血が起こり、右腕には打撲痕...全身擦り傷まみれの少女。...国際龍対策機関現場主任、ルル・マル・ナル・マナ。気球から墜落した彼女はずっと堕鳥の演算をしながら山の中を彷徨い、傷だらけのからだでここまで歩いてきたのだ。
「...アタシ...は~」
彼女はじっと龍を見つめて...
「龍が...嫌い...なんよね~...殺したいほどに~...でも、...キミを...恨んではない...から~...安からに眠って...」
マナ@true= [龍ノ死神:?]
「...ゥ゛ァ゛...」
マナが微笑んだ瞬間、龍はまるで電源が切れたように目を閉じそっと倒れ...息絶えた。それはまるで最初からそうなることが決まっていたような、どうにもならない運命を受け入れ拳を下ろした戦士のようなそんな安らかな表情。
「...」
場を静寂が包む...皆、マナの方を向いて固まっている。理由は勿論...突如、起動した称号に驚きを隠せなかったからだ。称号を起動すればその人物を知らない人だろうと否が応でもそういう人間だと認識させるもの。では、今のマナが皆からどう見えているのか...
「龍殺し...いや、龍の死そのものか...」
...小さい頃、故郷が龍に滅ばされた。まだ幼かったアタシは燃え盛る炎の中でとても美しいモノを見た。それは遥か昔、旧人類がいた時代に存在していたとされる。幻の生物...『龍』。本物の龍を見た...その大きさに、その破壊力に、その存在感に魅入られた。そしてその瞬間からアタシの生きる意味がたった一つに定まった。あの美しく気高い至高の存在を地に伏せ穢し侵しその尊厳全てを踏みにじってやるとそう心に決めた。それからアタシは龍殺しになる為にあらゆる龍を殺し回った。だが、どれだけ龍を殺しても龍殺しの称号は得られなかった。殺し方が悪かったのかと今度はあらゆる方法で龍を殺した。でも、どれだけ殺しても龍殺しになれなかった。それでも諦めず龍を殺し続けた。ある日、突然称号を手に入れた。ただ、それはアタシが望んでいたモノではなかった。
... 『龍ノ死神』。あらゆる龍の最期にその瞳に映り、龍たちから死神と畏怖される者に与えられる称号。その存在を瞳に映した龍は死を悟り、安らかに眠る。
それが、アタシの手に入れた称号だった。...狂い哭くほどに絶望した。この称号は龍を殺すモノではなく、死に際の龍に安らぎを与えるモノ。そしてこの称号は勝手に発動しアタシと龍が出会う因果をなかった事にする呪いのようなモノ。もし、出会う時...それは龍の死に際だけ。...龍を殺すどころか出会うことすら出来なくなったアタシは狩猟協会から国際龍対策機関に出向を命じられた。それでも何とか龍を殺せないかと試行錯誤した結果、後方支援程度は出来ることが発覚した。でも、それ以上はどう足掻いても無理だった。...絶望から毎晩ヤケ鮭した。そんなアタシをずっと隣で見てたあの子は...
「なら俺が代わりに龍に殺してやるよォ」
そう提案してきた...結果としてそれは成功した。龍に会わなくても龍を殺せる...アタシはこの方法に賭けてみる事にした。でもあの子が龍を殺す方法は限られていた。何度も龍と戦ううちにいつしか当たり前のように自らの命を犠牲にするようになった。自分は道具だから何も問題はない...と、そう言ってまた、命を絶つ。でも、あの子とアタシは演算で繋がっている。お互いの情報も常時交信している。だから、分かるのだあの子の苦痛が、苦悩が...恐怖が...。それでも、アタシはあの子を止められなかった。...いや、止めたくなかった。何故ならあの子もまた、アタシの一部...アタシという存在を元に造られたモノ。根底にあ設定された想いが同じなのだ。だから龍に殺意を抱いていようがいまいが、無意識に龍を殺すように行動する。同じ想いを抱える存在...アタシには止める権利がない。ただ、せめて苦痛も苦悩も恐怖もあの子が感じている全てをアタシも一緒に背負うと決めた。だからこそ、あの子が道具ではなく人間として龍と相対した時、アタシは思わず涙が出た。あの子が自分で命を賭けると決意した時、初めてアタシは演算に協力した。そして、あの子とともに恐怖に立ち向かった。だから...
「本当に...感謝してる~...ありがとう~」
彼らに礼を言う。
「何のことだ?」
「...気にしな...いで~あの子の...代わりに言っただけ~」
「...?」
彼らが不思議そうにアタシを見る。...次に会う時には本人の口から言わせてやろうとそう密かに決めた。
「もう...直ぐに~憲兵隊が...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
「大丈夫ですか!」
力尽きたようにパタリと倒れるマナをダリアが地面に衝突する直前で抱きとめ、そっと横たわらせる。
「...気を失っただけのようです」
「っ...ぁあ!終わった!」
それを聞いて安堵したのかアキリは背中から笑顔で倒れる。
「お嬢様!?」
「ちょっと気が抜けただけだ」
「...」
焦ったダリアと横たわりながら手で問題ないとアピールするアキリを眺めていたルーナはある事に気が付き辺りを見回す。
「あれ?」
確かこっちの方に...と、思い当たる場所に行くもそこには何も無かった。疑問を抱えつつ適当に歩くすると...
「...こレは」
「あ、スーち...」
目的の人物を見つけ駆け寄ろうとしたがその足が無意識に止まる。
「...完全にデータごト吹き飛ンデいますネ」
...スーちゃんは龍の死体、その影に隠れていた。そして何やら独り言を呟きながら龍の首輪の隙間に手を突っ込んだり、中を覗いたりしながら何かを呟いていた。
「...このメモリはまだ生きテいまスね。これだけ回収しマすか」
ムイミが隙間に右手を突っ込み、龍の首輪から何かを取り出した...そのタイミングを狙って
「あぁ、スーちゃんここにいたのかい?」
「!?...えェ、この龍はどうなルのか気になッテ」
サッと、ムイミは後ろ手に首輪から取り出した物を隠す。
「...」
「ど、どウしまシた?」
明らかな動揺...。回りくどく聞いてもいいけど...ここはあえてストレートにきいてみるとしよう。
「その手に持っているモノは何?」
「手...?何のコトでしょウ?」
...ふむ、正直意外だ。スーちゃんが僕に隠し事をしているのはまぁ、見てて分かる。時々、話噛み合わないし...でもここまで露骨に見え見えの嘘をつく事はこれまで一度もなかった。
「...イえ、本当に何も持ってナイでスよ」
「本当に?」
単純な好奇心でムイミの秘密を暴こうと追い詰めてみる。
「...ッ!見てくださイ、何も持ってイマせん」
「...へぇ」
両手で太ももをポンと、胸をポンと戦いて腕を頭の上に持ってきて手を開く...確かに開いた手には何も持っていない。しかし、ルーナもそこまで馬鹿ではない。不自然な動きをすれば注意深く観察するに決まっている。太ももから胸の間に何か隠せる場所は白衣のポケットと腰の布...しかし、へそ出しファッションなので腰の布に何か隠せば即分かるし、そもそもその上から白衣を着ているのだから隠すとなると相当なテクニックがいる。となると確率が高いのは白衣のポケット...だが、そんなことはルーナも分かりきっているので手を動かしていた時点でそこにはしまっていないことはこの目で見ている。...では、胸の辺りはというと隠せそうなのは胸ポケットとその下に着ている形容しがたい服...ただ、白衣の下に手を入れていない以上は胸ポケットに隠したと考えるのが妥当か?...それともどこか別の場所か...?
「...」
スーちゃんがこちらの様子を伺っている。...まぁ、ここから追い詰めることも出来なくはない。だが、しかし...無理やり暴くというのも何か違う。そういえば、よく考え...なくても分かることだが僕は何故、ストーキングされているのかすら知らない。何処の誰で何者なのか...その一切を聞いたことが無い。ただ一方的に好かれている...というよりは崇拝されているというのが正しいか?...出会った瞬間から僕のことを僕以上に知っており、その上で付いて来た不思議な、不審な人物。別にいつでも構わないがいずれ自分から全てを明かしてくれる日は来るのだろうか...?まぁ、ともかく今は...
「面白いから僕の負けにしておくよ」
「ェ...」
そう言ってスーちゃんに背を向ける。あ、それでいいんですね。という驚きの表情で勘弁してあげよう。
ルーナとムイミがそんなやり取りをしている一方で...
「...珍しいですね。そこまで落ち込んでいらっしゃる姿は初めて見ましたよ」
「...あぁ、そうか」
マナの応急処置を終え、アキリに話しかけるダリア。
「刺客に切られた時からですか?」
「ん...分かるか」
寝そべりながら少し真面目な顔で返事をするアキリを遠くもなく近くもない距離から眺める。
「...」
アキリは寝そべりながら氷の球体を演算する。...単純に表現するなら球体だが、それは完全な丸い形には程遠い、手触りだけでも多少の凹凸を感じる出来映え...
「...クソが。...紫」
そう呟いて寝ころんだまま腕を空に向けて伸ばしそのまま球体を投げる。
「うぇ!?」
いきなり球体を投げられたダリアは驚きつつも冷静に球体をキャッチする。
「ん...」
アキリが手の動きだけで投げてこいと訴えてくる。どうやらキャッチボール?をお望みらしい。
「かしこまりました...ところで今後はどうなさるのでしょうか?...Asa」
そう言ってダリアも球体を投げ返す。投げた球は寸分の狂いもなくアキリの手にピタリと収まる。
「...予定通り直ぐに『アセルス・テルティウス』に向かう。...三角鉄」
そのままキャッチした球体を手首だけで投げ返すアキリ。少し軌道が右にズレるも難なくキャッチして...
「本当にそれでよろしいのでしょうか?...月」
質問と共にまた、アキリの手の中へ正確に投げ返す。
「どういう意味だ?...みかん」
そう問いかけて投げた球体は先ほどよりももっと右にズレる。しかし、ダリアは一切焦ることなく冷静にキャッチして...
「暫くここに滞在することも可能なはずです。今のままではこの先...Lose」
毎度のように正確にアキリの手に飛んでいく球体...だが、
「あっ...」
アキリはそれを掴むことが出来ず、弾かれた球体は地面に衝突し、パチンという破砕音を鳴らして砕け散る。飛び散る破片を眺めながらアキリはただ漠然と直近の出来事を振り返る。...あの日、ルーナが来なければ私は死んでいた。今回の龍もそう、ルーナがいなければ戦いにすらならなかっただろう。これまで演算は苦手だからと氷塊のみに頼ってきたがそんな泣き言は言っていられなくなった。何かしらの武器を手に入れなければこの先、いずれ詰むことは誰の目にも明らかだ。ならばこの森を抜ける前にここで新たな演算の習得をするべきだろう...問題は...
「ダリア、悪いが...」
「お任せください。後ほど伝えておきます」
そう言ってルーナとムイミの方へ歩もうとしたその時...
「「「「...!」」」」」
全員同時に木々の向こうに何かの気配を感じて一斉にそちらを向く!...そして、
「あ、お疲れ様です」
「「「「...あ、どうも」」」」
突如、聞こえた気の抜けた挨拶に思わず気の抜けた返事を返す。
「あー、すんません。驚かせちゃいましたかね?」
木々の間からひょこりと顔だして挨拶してきた謎の男...?その正体は...
「あっし、コイツの同期で狩猟協会の解剖研究科科長兼研究所所長兼国際龍対策機関現場主任補佐をさせてもらってます。研究員Aです」
そう言って地面に倒れているマナを指差す。
「...後ろの方々は?」
そう言ってダリアは研究員Aの後ろに横一列で控えている人たちを見る。
「研究員Aさんの護衛任務に当たりました憲兵隊員Aです!」
「同じくB」
「同じくC」
「同じくD」
「以下略です!」
と五人は右から順に自己紹介を行う。
「...憲兵隊の皆様はともかくとして、そんなに役職をお持ちなのに研究員Aなのは少し可愛そうでは?」
「あ、ツッコミいれるのソコなんでスね」
「ならあれだ、今後は『マナの同期A』な?」
「...え、あ、いいんですか?」
「いいよ、次出番あるか知らんけど」
「お嬢様、勝手にキャクターの呼び名を変えないでください」
「え、でも可哀想って言ったのダリアだろ」
「確かに私ですけど...」
そんなやり取りを横目で見ていたルーナはチラリと視線を反対側のムイミに移す...
「...ゥげ」
スーちゃんは憲兵隊の一番左に立っている人物と目が合い、直ぐに逸らして何か呟いていた。
「知り合いかい?」
「イえ、知らない人デす」
そう言ってムイミは右手で髪をそっとかきあげる...その瞬間!
「いやー!僕感動しました!まさか龍を龍殺しなしで倒すなんて!」
ムイミが目を逸らしていた一番左の憲兵が突然そう言ってムイミの右手を強引に取りブンブン振りながら握手をする!
「ゥ...あ、ありがとウございまス」
「その傷は龍に?」
「い...いエ、龍を追っていた別の組織に...」
「へぇ...」
今度は振っていた腕を止めムイミの言葉に眉を顰める。
「おい、お前!」
それに気づいた隊員Aが怒声を放ちムイミから引き剥がす。
「おっと、これは失礼しました」
「勝手なことをするなよ!...ん?そいえばお前誰だ?」
「やだなぁ、新米隊員ですよ」
「...そうか...?...いや、そうだったな」
...そうか、新米隊員なのか。確かに新米隊員だ、間違いない。
「...あイ変わらず、えげツないコトしまスね」
スーちゃんは僕と隊員Aを見ながらドン引きしていた。
「なんのことでしょう。僕は何もしていませんよ」
そうだ、何もしていない...だからさっきスーちゃんと...あれ?スーちゃんの前に立っていた...だけ...?そもそも彼は一言も発してないし、その場から動いていないはずだ。
「...これは頂いておきますね」
「はイ、どうぞ好きにシてくだサい」
「...?」
スーちゃんと新米隊員が謎のやり取りをしている...知り合いなのだろうか?
「あ、すいません龍の死体ですがこちらで回収しておきますね」
「...ん、そうか分かったなら任せるぞ」
「...こンナところマで態々出張ってくる必要ないデしょう」
新米隊員は会話を打ち切り隊員Aに指示を出す。その背を見てスーちゃんは何かをぼやいている。やっぱり面識はあるのだろう、会話から何処かフランクさを感じる。
「ルーナ様、申し訳ございませんが少しマナ様を運ぶのを手伝っていただけませんか?」
「ふふっ、手伝うよ」
ダリアの後を追って僕も移動する。...別におかしな行動はなかったはず、だというのに僕はとても重要な何かに気づけなかった。そんな敗北感のようなものを感じていた。
「アホ面が...眩しすぎて見えねぇよ」
何をされたのか...とはいうものの何となく何をされたのか察したがとりあえず見えなかった事にしておく。
「「...」」
ダリアとルーナも複雑な心境で目の前の赤い閃光を見つめていた。思うところはあれど皆、どれだけ眩しくても目をだけは逸らない。...一瞬の静寂の後、光はそのいきおいを失っていき...やがてその場には龍だけが立っていた。
「...ア゛...ヴ...」
震える体、朦朧とする意識...まさに命の終わり。しかし...
「ふふふ、その状態でまだ戦う意思が残ってるとは驚きだね」
既に死に体...それでも、執念だけでまだ戦おうと、抗おうと立ち上がる。
「...ヴァ...ア゛!」
「...いいだろう。私が終わらせてやる...」
そう言ってアキリは龍へと向かって...
「その...必要は~...ない...よ~」
背後から聞こえた弱々しく気の抜けた声に止められる。
「...ふふっ、生きているのは知ってたけどボロボロだね」
「あ~...ね~...ゴホッ...」
ルーナの視線の先...木で自分の体重を支えないと立っていられないほどに全身傷だらけの少女。頭部から出血が起こり、右腕には打撲痕...全身擦り傷まみれの少女。...国際龍対策機関現場主任、ルル・マル・ナル・マナ。気球から墜落した彼女はずっと堕鳥の演算をしながら山の中を彷徨い、傷だらけのからだでここまで歩いてきたのだ。
「...アタシ...は~」
彼女はじっと龍を見つめて...
「龍が...嫌い...なんよね~...殺したいほどに~...でも、...キミを...恨んではない...から~...安からに眠って...」
マナ@true= [龍ノ死神:?]
「...ゥ゛ァ゛...」
マナが微笑んだ瞬間、龍はまるで電源が切れたように目を閉じそっと倒れ...息絶えた。それはまるで最初からそうなることが決まっていたような、どうにもならない運命を受け入れ拳を下ろした戦士のようなそんな安らかな表情。
「...」
場を静寂が包む...皆、マナの方を向いて固まっている。理由は勿論...突如、起動した称号に驚きを隠せなかったからだ。称号を起動すればその人物を知らない人だろうと否が応でもそういう人間だと認識させるもの。では、今のマナが皆からどう見えているのか...
「龍殺し...いや、龍の死そのものか...」
...小さい頃、故郷が龍に滅ばされた。まだ幼かったアタシは燃え盛る炎の中でとても美しいモノを見た。それは遥か昔、旧人類がいた時代に存在していたとされる。幻の生物...『龍』。本物の龍を見た...その大きさに、その破壊力に、その存在感に魅入られた。そしてその瞬間からアタシの生きる意味がたった一つに定まった。あの美しく気高い至高の存在を地に伏せ穢し侵しその尊厳全てを踏みにじってやるとそう心に決めた。それからアタシは龍殺しになる為にあらゆる龍を殺し回った。だが、どれだけ龍を殺しても龍殺しの称号は得られなかった。殺し方が悪かったのかと今度はあらゆる方法で龍を殺した。でも、どれだけ殺しても龍殺しになれなかった。それでも諦めず龍を殺し続けた。ある日、突然称号を手に入れた。ただ、それはアタシが望んでいたモノではなかった。
... 『龍ノ死神』。あらゆる龍の最期にその瞳に映り、龍たちから死神と畏怖される者に与えられる称号。その存在を瞳に映した龍は死を悟り、安らかに眠る。
それが、アタシの手に入れた称号だった。...狂い哭くほどに絶望した。この称号は龍を殺すモノではなく、死に際の龍に安らぎを与えるモノ。そしてこの称号は勝手に発動しアタシと龍が出会う因果をなかった事にする呪いのようなモノ。もし、出会う時...それは龍の死に際だけ。...龍を殺すどころか出会うことすら出来なくなったアタシは狩猟協会から国際龍対策機関に出向を命じられた。それでも何とか龍を殺せないかと試行錯誤した結果、後方支援程度は出来ることが発覚した。でも、それ以上はどう足掻いても無理だった。...絶望から毎晩ヤケ鮭した。そんなアタシをずっと隣で見てたあの子は...
「なら俺が代わりに龍に殺してやるよォ」
そう提案してきた...結果としてそれは成功した。龍に会わなくても龍を殺せる...アタシはこの方法に賭けてみる事にした。でもあの子が龍を殺す方法は限られていた。何度も龍と戦ううちにいつしか当たり前のように自らの命を犠牲にするようになった。自分は道具だから何も問題はない...と、そう言ってまた、命を絶つ。でも、あの子とアタシは演算で繋がっている。お互いの情報も常時交信している。だから、分かるのだあの子の苦痛が、苦悩が...恐怖が...。それでも、アタシはあの子を止められなかった。...いや、止めたくなかった。何故ならあの子もまた、アタシの一部...アタシという存在を元に造られたモノ。根底にあ設定された想いが同じなのだ。だから龍に殺意を抱いていようがいまいが、無意識に龍を殺すように行動する。同じ想いを抱える存在...アタシには止める権利がない。ただ、せめて苦痛も苦悩も恐怖もあの子が感じている全てをアタシも一緒に背負うと決めた。だからこそ、あの子が道具ではなく人間として龍と相対した時、アタシは思わず涙が出た。あの子が自分で命を賭けると決意した時、初めてアタシは演算に協力した。そして、あの子とともに恐怖に立ち向かった。だから...
「本当に...感謝してる~...ありがとう~」
彼らに礼を言う。
「何のことだ?」
「...気にしな...いで~あの子の...代わりに言っただけ~」
「...?」
彼らが不思議そうにアタシを見る。...次に会う時には本人の口から言わせてやろうとそう密かに決めた。
「もう...直ぐに~憲兵隊が...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
「大丈夫ですか!」
力尽きたようにパタリと倒れるマナをダリアが地面に衝突する直前で抱きとめ、そっと横たわらせる。
「...気を失っただけのようです」
「っ...ぁあ!終わった!」
それを聞いて安堵したのかアキリは背中から笑顔で倒れる。
「お嬢様!?」
「ちょっと気が抜けただけだ」
「...」
焦ったダリアと横たわりながら手で問題ないとアピールするアキリを眺めていたルーナはある事に気が付き辺りを見回す。
「あれ?」
確かこっちの方に...と、思い当たる場所に行くもそこには何も無かった。疑問を抱えつつ適当に歩くすると...
「...こレは」
「あ、スーち...」
目的の人物を見つけ駆け寄ろうとしたがその足が無意識に止まる。
「...完全にデータごト吹き飛ンデいますネ」
...スーちゃんは龍の死体、その影に隠れていた。そして何やら独り言を呟きながら龍の首輪の隙間に手を突っ込んだり、中を覗いたりしながら何かを呟いていた。
「...このメモリはまだ生きテいまスね。これだけ回収しマすか」
ムイミが隙間に右手を突っ込み、龍の首輪から何かを取り出した...そのタイミングを狙って
「あぁ、スーちゃんここにいたのかい?」
「!?...えェ、この龍はどうなルのか気になッテ」
サッと、ムイミは後ろ手に首輪から取り出した物を隠す。
「...」
「ど、どウしまシた?」
明らかな動揺...。回りくどく聞いてもいいけど...ここはあえてストレートにきいてみるとしよう。
「その手に持っているモノは何?」
「手...?何のコトでしょウ?」
...ふむ、正直意外だ。スーちゃんが僕に隠し事をしているのはまぁ、見てて分かる。時々、話噛み合わないし...でもここまで露骨に見え見えの嘘をつく事はこれまで一度もなかった。
「...イえ、本当に何も持ってナイでスよ」
「本当に?」
単純な好奇心でムイミの秘密を暴こうと追い詰めてみる。
「...ッ!見てくださイ、何も持ってイマせん」
「...へぇ」
両手で太ももをポンと、胸をポンと戦いて腕を頭の上に持ってきて手を開く...確かに開いた手には何も持っていない。しかし、ルーナもそこまで馬鹿ではない。不自然な動きをすれば注意深く観察するに決まっている。太ももから胸の間に何か隠せる場所は白衣のポケットと腰の布...しかし、へそ出しファッションなので腰の布に何か隠せば即分かるし、そもそもその上から白衣を着ているのだから隠すとなると相当なテクニックがいる。となると確率が高いのは白衣のポケット...だが、そんなことはルーナも分かりきっているので手を動かしていた時点でそこにはしまっていないことはこの目で見ている。...では、胸の辺りはというと隠せそうなのは胸ポケットとその下に着ている形容しがたい服...ただ、白衣の下に手を入れていない以上は胸ポケットに隠したと考えるのが妥当か?...それともどこか別の場所か...?
「...」
スーちゃんがこちらの様子を伺っている。...まぁ、ここから追い詰めることも出来なくはない。だが、しかし...無理やり暴くというのも何か違う。そういえば、よく考え...なくても分かることだが僕は何故、ストーキングされているのかすら知らない。何処の誰で何者なのか...その一切を聞いたことが無い。ただ一方的に好かれている...というよりは崇拝されているというのが正しいか?...出会った瞬間から僕のことを僕以上に知っており、その上で付いて来た不思議な、不審な人物。別にいつでも構わないがいずれ自分から全てを明かしてくれる日は来るのだろうか...?まぁ、ともかく今は...
「面白いから僕の負けにしておくよ」
「ェ...」
そう言ってスーちゃんに背を向ける。あ、それでいいんですね。という驚きの表情で勘弁してあげよう。
ルーナとムイミがそんなやり取りをしている一方で...
「...珍しいですね。そこまで落ち込んでいらっしゃる姿は初めて見ましたよ」
「...あぁ、そうか」
マナの応急処置を終え、アキリに話しかけるダリア。
「刺客に切られた時からですか?」
「ん...分かるか」
寝そべりながら少し真面目な顔で返事をするアキリを遠くもなく近くもない距離から眺める。
「...」
アキリは寝そべりながら氷の球体を演算する。...単純に表現するなら球体だが、それは完全な丸い形には程遠い、手触りだけでも多少の凹凸を感じる出来映え...
「...クソが。...紫」
そう呟いて寝ころんだまま腕を空に向けて伸ばしそのまま球体を投げる。
「うぇ!?」
いきなり球体を投げられたダリアは驚きつつも冷静に球体をキャッチする。
「ん...」
アキリが手の動きだけで投げてこいと訴えてくる。どうやらキャッチボール?をお望みらしい。
「かしこまりました...ところで今後はどうなさるのでしょうか?...Asa」
そう言ってダリアも球体を投げ返す。投げた球は寸分の狂いもなくアキリの手にピタリと収まる。
「...予定通り直ぐに『アセルス・テルティウス』に向かう。...三角鉄」
そのままキャッチした球体を手首だけで投げ返すアキリ。少し軌道が右にズレるも難なくキャッチして...
「本当にそれでよろしいのでしょうか?...月」
質問と共にまた、アキリの手の中へ正確に投げ返す。
「どういう意味だ?...みかん」
そう問いかけて投げた球体は先ほどよりももっと右にズレる。しかし、ダリアは一切焦ることなく冷静にキャッチして...
「暫くここに滞在することも可能なはずです。今のままではこの先...Lose」
毎度のように正確にアキリの手に飛んでいく球体...だが、
「あっ...」
アキリはそれを掴むことが出来ず、弾かれた球体は地面に衝突し、パチンという破砕音を鳴らして砕け散る。飛び散る破片を眺めながらアキリはただ漠然と直近の出来事を振り返る。...あの日、ルーナが来なければ私は死んでいた。今回の龍もそう、ルーナがいなければ戦いにすらならなかっただろう。これまで演算は苦手だからと氷塊のみに頼ってきたがそんな泣き言は言っていられなくなった。何かしらの武器を手に入れなければこの先、いずれ詰むことは誰の目にも明らかだ。ならばこの森を抜ける前にここで新たな演算の習得をするべきだろう...問題は...
「ダリア、悪いが...」
「お任せください。後ほど伝えておきます」
そう言ってルーナとムイミの方へ歩もうとしたその時...
「「「「...!」」」」」
全員同時に木々の向こうに何かの気配を感じて一斉にそちらを向く!...そして、
「あ、お疲れ様です」
「「「「...あ、どうも」」」」
突如、聞こえた気の抜けた挨拶に思わず気の抜けた返事を返す。
「あー、すんません。驚かせちゃいましたかね?」
木々の間からひょこりと顔だして挨拶してきた謎の男...?その正体は...
「あっし、コイツの同期で狩猟協会の解剖研究科科長兼研究所所長兼国際龍対策機関現場主任補佐をさせてもらってます。研究員Aです」
そう言って地面に倒れているマナを指差す。
「...後ろの方々は?」
そう言ってダリアは研究員Aの後ろに横一列で控えている人たちを見る。
「研究員Aさんの護衛任務に当たりました憲兵隊員Aです!」
「同じくB」
「同じくC」
「同じくD」
「以下略です!」
と五人は右から順に自己紹介を行う。
「...憲兵隊の皆様はともかくとして、そんなに役職をお持ちなのに研究員Aなのは少し可愛そうでは?」
「あ、ツッコミいれるのソコなんでスね」
「ならあれだ、今後は『マナの同期A』な?」
「...え、あ、いいんですか?」
「いいよ、次出番あるか知らんけど」
「お嬢様、勝手にキャクターの呼び名を変えないでください」
「え、でも可哀想って言ったのダリアだろ」
「確かに私ですけど...」
そんなやり取りを横目で見ていたルーナはチラリと視線を反対側のムイミに移す...
「...ゥげ」
スーちゃんは憲兵隊の一番左に立っている人物と目が合い、直ぐに逸らして何か呟いていた。
「知り合いかい?」
「イえ、知らない人デす」
そう言ってムイミは右手で髪をそっとかきあげる...その瞬間!
「いやー!僕感動しました!まさか龍を龍殺しなしで倒すなんて!」
ムイミが目を逸らしていた一番左の憲兵が突然そう言ってムイミの右手を強引に取りブンブン振りながら握手をする!
「ゥ...あ、ありがとウございまス」
「その傷は龍に?」
「い...いエ、龍を追っていた別の組織に...」
「へぇ...」
今度は振っていた腕を止めムイミの言葉に眉を顰める。
「おい、お前!」
それに気づいた隊員Aが怒声を放ちムイミから引き剥がす。
「おっと、これは失礼しました」
「勝手なことをするなよ!...ん?そいえばお前誰だ?」
「やだなぁ、新米隊員ですよ」
「...そうか...?...いや、そうだったな」
...そうか、新米隊員なのか。確かに新米隊員だ、間違いない。
「...あイ変わらず、えげツないコトしまスね」
スーちゃんは僕と隊員Aを見ながらドン引きしていた。
「なんのことでしょう。僕は何もしていませんよ」
そうだ、何もしていない...だからさっきスーちゃんと...あれ?スーちゃんの前に立っていた...だけ...?そもそも彼は一言も発してないし、その場から動いていないはずだ。
「...これは頂いておきますね」
「はイ、どうぞ好きにシてくだサい」
「...?」
スーちゃんと新米隊員が謎のやり取りをしている...知り合いなのだろうか?
「あ、すいません龍の死体ですがこちらで回収しておきますね」
「...ん、そうか分かったなら任せるぞ」
「...こンナところマで態々出張ってくる必要ないデしょう」
新米隊員は会話を打ち切り隊員Aに指示を出す。その背を見てスーちゃんは何かをぼやいている。やっぱり面識はあるのだろう、会話から何処かフランクさを感じる。
「ルーナ様、申し訳ございませんが少しマナ様を運ぶのを手伝っていただけませんか?」
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