薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
82 / 181
第3章 翼国編

82話 アルゴン

しおりを挟む
 アルゴンは、何人かの兵士たちを呼びつけ、早急に城に侵入した者や、消えた娘の捜索など、抑えきれない怒りをぶつけながら、指示を出していた。
 
 どう見ても、何者かが侵入したとしか考えられない。
 あの娘がいなくなったと言うことは、何者かが助けに来たのだろう。
 警備はいったい何をしていたのだろうか。
 娘自体には特に魔力もない普通の人間であるのだ。
 昔、人間も住んでいた世界にいたので、ある程度は見ればわかるのだ。
 そうなると、助けに来たのはやはり・・・魔人なのだろう。
 だが、魔人は人間との付き合いをやめたはず。
 いや、以前はそうだったとしか言えないのだが。
 今は重体だが、あの階層を警備していた兵に詳しく聞かしかない。

 それにしても、本当にあの王子は忌々しい。
 数百年かけて今の地位までたどり着いたのだ。
 思えば今までが順調過ぎたのかもしれないのだが。
 今の王も上手く取り込む事が出来たのに、あの三兄弟だけはなびかなかったのだ。
 特に一番上の王子は魔人のように精神が強いのだ。
 だから私の力では操ることも不可能だった。

 私はこの国に復讐するために今の地位まで上り詰めたのだ。
 400年前、この国が私の命よりも大事だったカレンにした仕打ちを忘れる事は無かった。
 この国は自分達の手で崩壊する道に進むように私は導いて行きたいのだ。
 それで、私の復讐は終わるのだ。
 その為にも、あの王子達は邪魔以外の何者でも無いのだ。
 私の計画を邪魔する者は何者であっても許すことは出来ないのだ。 

         ○

         ○

         ○

 私がこの世界に通じる別の世界にいた時の事だ。
 かれこれ、400年以上前になる。
 私は絵を描く事が好きで、よく湖に出かけていたのだ。
 自然の絵を描く事が好きで、特に水辺の風景を描く事が好きだった。
 私は天気が良い日には、湖を色々な方向から描くために何箇所か移動しながら絵に没頭していたのだ。
 そんな時、バサバサと大きな羽音をたてて、バシャンと湖の中に何かが落ちたのだ。
 この世界には魔獣である怪鳥が空を飛んでいることはあったので、その類かと思ったのだ。
 しかしよく見ると、翼はあるがそれ以外は私達と同じような風貌である事がわかった。
 私は急いで湖の中に入り、その翼を持つ女性を助けたのだ。
 水から引き上げた後も、彼女は苦しそうにしていた。
 すると、岩場の方に行って欲しいと訴えるので、連れていったのだ。
 そこまで行くと彼女は黒い大きな翼を羽ばたかせ、
頭を下げると何処かに消えていったのだ。

 私はその後もその女性の事が頭から離れなかった。
 もしかすると湖に行けばまた会えるのではと、私は暇さえあれば湖を訪れたのだ。
 それから数ヶ月経っても、その翼の女性とは会うことは出来なかった。
 最後に消えた場所に行って落胆していると、バサバサっと大きな羽音が響いたのだ。
 見上げると黒い影がこちらに向かって降りて来たのだ。
 それは、私がずっと会いたいと思っていた女性だった。
 私は驚いて言葉を発することが出来なかったが、その女性は笑いながら話しかけてくれたのだ。

「やっと見つけた。
 ずっとあなたを探していたの。」

 それから私達は上手く予定を合わせて何回か会うことが出来たのだ。
 色々な話をするようになり、彼女が別の世界から来た事を知った。
 彼女達の種族にとっては、この世界は身体に合わないようで、半日もすると呼吸が苦しくなり長く滞在することが出来ない事を知った。
 初めて会った時も苦しくなり、湖に落ちてしまったと言うのだ。
 だから、私が彼女にとっては命の恩人だと言うのだ。
 彼女はカレンと言って、とても綺麗な女性であった。
 黒い翼も彼女をとても魅力的に見せたのだ。
 この世界に通じる場所を知っているのは、彼女の世界の王家の人物のみで、この事は公にされていなかった。
 もちろん、他の者が来ても半日ほどでこの世界にはいられない状況になるので、彼女達の種族にとっては、この世界に通じる事にメリットは無かったのだ。

 彼女は自分の世界で嫌な事があると、たまに気分転換にこちらの世界に遊びに来ていたようだ。
 ただ、昔と違いこの世界に私達が移住して来た事で、今はこちらに来る事は禁止されていると言うのだ。
 だがカレンはそんな事は気にせず定期的に遊びに来ていたようだ。
 しかし、私は会えても半日だけと言うのが我慢できなくなっていた。
 長く彼女に会うためには、彼女の世界に行くしか無いと思ったのだ。

 私の魔力は強くは無かった。
 しかし、色々な姿に変身する魔法が得意であった。
 とは言え、格上の者にはすぐに元の姿がわかってしまうので、自分の世界ではあまり使う事は無かったのだ。
 また意志の弱い者であれば、思考誘導の魔法をかけることが出来たが、これまた自分の世界では私より強い者が多いため全く使っても効果がなかったのだ。
 だが、彼女の世界でならどうだろう。
 この世界では冴えない力ではあったが、別の世界でなら使えるはず。
 私はそう確信して、彼女の世界に行く事を決めたのだ。
 そう、私は魔人の国を捨てたのだ。
 
 彼女と共に岩場の穴に入って降りていくと、そこは黒翼人の世界であったのだ。
 私は実際に飛ぶ事は出来なかったが、翼を備えた自分に姿を変える事は簡単であった。
 自分が把握している空間なら瞬時に移動が可能なので、飛ばなくても問題は無かったのだ。
 そして、誰もその姿が偽物であると気付くものはいなかったのだ。
 私は王室の厨房に上手く潜り込む事が出来たのだ。
 人手が足りないと、カレンから聞いていたので、雇ってもらえるように頼み込んだのだ。
 そして、姫と使用人との関係ではあったが、毎日のようにカレンを見る事が出来たし、上手く時間を合わせて二人で会えることも多かったので、私はそれで満足だったのだ。

 しかし、そんなささやかな幸せは長くは続かなかったのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編。 リーナ視点が主です。 ----- また続けるかもしれませんが、一旦完結です。 ※小説家になろう様にも掲載中。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...