薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
169 / 181
第5章 闇の遺跡編

169話 舞の決断

しおりを挟む
 舞は目の前で起きる同じ結末を見て、一つの考えに至った。

 私は何回過去に戻っただろう・・・
 ブラックの消滅する姿を見て、心が折れそうな時もみんなの言葉で私はまた過去に戻る事が出来た。
 そして私の中に響いてきた声・・・
 私がやるべき事がやっとわかったのだ。

 私がそこで消滅すれば、パラシスが私に左手を向ける事はなく、ブラックが私の犠牲になる事も無いのだ。
 初めからそうすれば良かったのだ。
 ブラックにもう一度会って、伝えたい事はあったけど・・・
 そんな私のちっぽけな希望よりも、魔人の王が生きている事の方が何倍も大事なのだ。

 私が持ってきた薬の中に、あの時ブラックの指示で作った闇の薬が一つだけあった。
 使うあてがあったわけでは無いけれど、持って来ていたのだ。
 まさか自分自身に使う事になるとは・・・

 私は過去に戻る為に、森の主を回復させたり、みんなを説得させたりと、これまで何回も行ってきた事をまた繰り返した。
 次にみんなが話す言葉も覚えてしまったくらいだ。
 その間もずっと考えていたのだ。
 この選択が正しいのか・・・

『ブラックのために全てをかける事は、素晴らしい事だわ・・・』

 私の心の中でまた囁く声があったのだ。
 その声の通り行う事が正しいはず・・・

 私は鞄の中の薬を確かめた。
 中には自分の作った薬以外に、色々な市販薬やガーゼなどが入っていて、持って来ていたことをすっかり忘れていたのだ。
 使わなかった物はカクにあげると喜ぶと思い、たくさん鞄に入れていたのだ。
 それに今回は父が持って行くようにと言って、渡してくれた漢方薬もあったのだ。
 薬華異堂薬局で昔から作られている風邪の漢方薬で、常連さんには評判も良く、私が子供の頃からよく飲んでいた薬なのだ。
 父が身体に気をつけるようにと持たせてくれたもの・・・
 私はそれを見ているうちに、父やカク、ヨクの顔と彼らに言われた言葉を思い出したのだ。


『約束してくれ。
 落ち着いたら、必ず戻ってくる事を。
 私は舞の父親だからな。
 心配するのは当たり前だろう・・・』

 私が異世界に行く事を快く了解してくれた父・・・

『私とて、舞が危険な行動をしていないか、いつも心配してるからのう。
 決して無理をしてはいけないのだよ。
 心配している人がいる事を忘れてはならないのだよ。

 そうだよ。
 いつも心配でハラハラしてるんだよ。』

 この世界に来るといつも本当の家族のように迎えてくれたカクとヨク・・・

 もしも、私が消滅してしまったら・・・
 私は彼らの言葉を裏切る事になるのだ。
 そしてきっと彼らを悲しませる事になる。
 それに、ブラックにも辛い思いをさせてしまうかも・・・
 しかし・・・
 
 森の主と過去に戻る話をしながらも、私はずっと考えていたのだ。
 そして予定通り過去に戻り、あの何回も見た光景。
 森の主とパラシスに向かい歩いている自分を認識するギリギリまで、私は悩んでいたのだ。
 そして私は真っ直ぐに二人を見て・・・選択したのだ。
 すぐに鞄から薬を取り出し、それを自分の身体に押し付け破裂させたのだ。
 私が今できる事は、これしか無いのだ。

 ・・・そして、私の意識はここで途絶えたのだ。


             ○

             ○

             ○


 舞の指輪に宿し者はずっと舞の行動に注視していた。

 今回魔人の王であるブラックが、舞の壁となり消滅して行く姿を見た時、多分自分の分身である者が何とか手助けをするだろうと想像できたのだ。
 あいつは、命をかけて何かを守るような行動をする者が大好きなのだ。

 だが、私はあいつとは全く違うのだ。
 感情で動く者よりも、もっと合理的で計算し尽くされた行動をする者を良しと思うのだ。
 そしてわずかな生命エネルギーであっても、それを無駄にするような者は論外であるのだ。
 あえて言うなら、この舞は感情で動く事が多く計算高いとは言えないだろう。
 だから今回、私は舞を試すいい機会だと思ったのだ。
 舞の心の中に囁いて、舞が行いそうな展開になるように誘導してみたのだ。
 そして、その囁きにどう反応するかを見てみたかったのだ。
 それで消滅するのであれば、この指輪を持つ資格もなかったと言う事。
 私を味方に付けられない者が、この指輪を持っていても意味は無いのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編。 リーナ視点が主です。 ----- また続けるかもしれませんが、一旦完結です。 ※小説家になろう様にも掲載中。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...