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死刑からの脱出

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 エリナ姫との不貞行為が見つかった僕は、王宮の牢獄に捕まっていた。
 エリナ姫は王宮に連れ戻され、自室に軟禁状態であった。

 一方、この事実を通報したアロガンス家は、その功績を認められ家の名声を回復していった。

 今現在、僕の処遇が話し合われている。

「こんなこと前代未聞だぞ、とにかく死刑にすべきだ。ここで強く出ておかないと、今後も姫様に手を出す奴が出るかもしれない」
「いや、まだ10歳の少年であるぞ。死刑や懲役は酷すぎるだろ、更生の機会を与えるべきだろう」

 議論は紛糾していた。
 一般的にはこの場合、死刑が言い渡される。
 しかし、まだ10歳の子どもを死刑にすることはできず、さらに勾留しておくこともできないため、処遇について長々と議論されているようだった。

「遅れてすまない」

 喧騒な会議に1人の男が入ってきた。
 王国魔導部隊隊長で、先のシルベニスタ大戦の英雄であるユーリ・シルベニスタであった。

「おーシルベニスタ様、お待ちしておりましたよ」
 議長を務めている貴族がシルベニスタの到着を歓迎した。
 シルベニスタはこの国の英雄である。
 したがって、誰もが一目置いていて、議論をまとめるには彼の意見が必要であった。
 彼がYesといえば、皆がなびくからである。

「えっと、今回、姫様を誘惑した罪人は‥‥‥、アスカ・ニベリウム‥‥‥、10歳!?」
「そうなんです、シルベニスタ様、今回の罪人は10歳なのです。ですから議論がまとまらないのです。ですからどうか貴重なご意見をいただけますか?」
「そうか」

 そう言うと、ユーリ・シルベニスタは黙り考え始めた。
 その様子を見守るように、周りの貴族達も黙ってユーリを見守る。

「ニベリウム‥‥‥か、少し少年と話がしたい、可能か?」

 ユーリは思いがけないことを言った。
 貴族達は困惑しているが、議長を務めている貴族は「法律的には可能です」と答えた。

「ならばよろしい、私1人で言ってくる。数分で帰ってくるから、皆はこのままここで待っていてもらえないだろうか」

 そう言うと、ユーリは地下の牢獄に向かった。



 ——コツコツ

 と、誰かが降りてくる音が聞こえる。
 もう判決が決まったのではないかと僕は恐れおののく。
 前世でも特段いい思い出はないのに、今世でもこんな終わり方をするのかと後悔の念が否めない。

 そんな僕の目の前に現れたのは、長身で鍛えられた体が服の上からでもわかる男であった。
 その男が、守衛を別のところに移動させると、僕に話しかけてきた。

「君が、アスカ・ニベリウムか」
「そうですが、あなたは?」
「私は、ユーリ・シルベニスタである」
「シルベニスタ‥‥‥、先の大戦の英雄ですか!?」
「そうだ、よく知っていたな」
「それはもちろんです」

 英雄様が急に目の前に現れた。
 僕は腰を抜かして、尻もちをついた。

「今君の処遇について離していたが、埒が開かなそうなので君を見て、判断することにした」
「そうなんですか」

 まだ判決ができていないことに安堵したが、今から行われる会話で処遇が決まるとなるとさらに緊張感が増した

「私が聞きたいのは一つだけだ。君は一体、どんな人生を歩んできたのだ」

 予想外の質問であった。
 なぜ手を出したのだとか、どうやって姫様の心に入り込んだのだとか聞かれるかと思っていた。
 相手の意図が分からない以上、正直に全てを話すことにした。

 物心ついた時には、すでに母親と二人暮らしであったこと。
 スラム街に住んでおり、貧乏ながらも母親と楽しく暮らしたこと。
 ある日、帰宅すると母親が倒れていて、そのまま亡くなったこと。
 母親の妹が嫁いだアロガンス家に引き取られて、奴隷みたいな生活をしたこと。

 全てをありのままに話した。

「そうか、さぞかし壮絶な人生だったのであろう」

 ユーリは同情しているようであった。

「あの、僕はこれから死ぬのですか?」
「どうだろうな、それはこれから決める。君のことは大体わかった。それでは、私は戻るとする」

 これだけで何がわかったのだろう。
 僕には全く見当もつかなかったが、一つ言えることは、ユーリ・シルベニスタ、この男が全てを握っていると言うことだった。

「待って、待ってください」

 引き留める声が虚しく地下にコダマする。
 しかし、ユーリは振り返ることもなく消えていってしまった。

 あれから、数分後、また地下の牢獄に降りてくる足音が聞こえてきた。
 今度は、黒いタキシードを着た執事風の男であった。
 その男は、いきなり詠唱し出し、睡眠の魔導を守衛にかけ、僕を監視していた守衛全てを眠らせた。


 そして、牢獄の鍵を開けた。

「アスカ君、君の処遇が決まりそうです。
 私は、シルベニスタ家の執事です。私の主人ユーリ・シルベニスタが君を死刑に処することを決めます。
 しかし、これは王国の治安を守るための決定です。
 主人の本心は、君には生きて欲しいと願っています。
 ですから、この牢獄の鍵は開けておきます。
 逃げるて生き続けるのも良し、死刑を受け入れるのも良し。
 全てはあなたの意思に委ねられました。
 それでは御達者で、逃げ道は基本わかるようにしていますのでご安心を」

「え、なぜユーリ様がそんなことを‥‥‥」

 突然の出来事で頭が混乱していた。
 執事に問いかけたが、瞬く間に魔導で姿を眩ませてしまった。

 目の前に突如現れた選択肢。
 しかし、僕には選んでいる余裕はなかった。
 生き続けなさいと、いつか幸せが訪れるだろうからと言っていた母の忠告が頭をよぎる。

 そもそも、今回の事は、母の言いつけを破ったことから始まった。
 魔導具を作れることは黙っていなさいと言う母からの忠告を僕は破った。
 魔導具が作れることが原因で姫様と親しくなった。

 やはり、魔導具士はおとぎ話にあるように、人を不幸にする呪われた力なのであろう。
 もう二度と母の言いつけは破らない。
 だから僕は、ここから逃げるんだ!

 牢獄から出て走り出した。
 この不都合な現状から脱出するため、後ろを振り返らず走り続けた。
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