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転生者としての記憶

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前世の僕は高校生だった。

この時の僕は最悪の立ち位置にいた。
中学の時は勉強も運動も得意でクラスの人気者だったが、高校に入ると、上には上がいた。
勉強も運動も中の下くらいになり、僕のプライドを傷つけた。
それがきっかけで人と接するのが嫌いになり勉強も運動も嫌いになった。
成績もどんどん下り、下から数えたほうが早くなり、つまり落ちこぼれとして囁かれるほどにまで落ちぶれていた。

そんな僕にも、何事にも代えがたい大切なもの、落ちぶれても何とか生きていけるだけの心の支えがあった。

それは家族だ。

落ちぶれた僕を蔑むようなことをせず、陰ながら見守り続けてくれる家族がいた。

家族には家訓があった。
「教育は最優先事項、そのためなら金は惜しまない。だが、自分の人生は自分で決めろ、学校が全てではない。そしてその責任は自分が負え」

僕はこの家訓を気に入っていたし、家族みんなも気に入っていた。
だから多分、家族は、なんだかんだ人生を生きていくだろうと僕を信じていてくれたから、落ちぶれても何も言ってこなかったのだろう。

そんなある日、妹と喧嘩した。
「お兄ちゃん、私のケーキ食べたでしょ、学校から帰ったら食べようと楽しみにしてたのに」

きっかけは些細なことで、僕が間違えて妹が大切に取ってあった有名店のケーキを食べてしまったからだ。

「サチがちゃんとケーキに名前を書いていなかったから悪いんだろ」

僕は、非難されたため反射的に言い返してしまった。悪いのは僕なのに。

「ちゃんと謝ってよ」
「知らんがな、僕は悪くないよ」

そう言ったものの、分の悪さから気まずくなり、外出した。

公園のブランコに座りながら、反省する。
何で言い返してしまったんだろう。
お詫びに、ケーキでも買って帰るか。

——ピロリン

立ち上がった時、ちょうどスマホが鳴った。
『お兄ちゃんさっきはごめんね、ちょっと強く言い過ぎちゃった』
『いや、俺も悪かったよ。お詫びに、ケーキを買って帰るけど、何がいい?』
『うーん、モンブラン風エレベスト!』
『オッケー』

時間は、人の感情の起伏を穏やかにしてくれる。
もうすっかり20時を回っていた。

「ただいま~」

家に帰ると、そこは静寂に包まれていた。
おしゃべりマシンガンの妹がいるならば、もっと騒がしいはずなのにと不審がりながら、リビングに行く。



「‥‥‥なんだよこれは、父さん、母さん、サチ、大丈夫か?」

目の前には血溜まりが広がり、その上に、鋭利な刃物で刺された家族が横たわっている。

「お、お兄‥‥ちゃん」

僕の声がけに、妹だけが反応した。

「サチ、何があったんだ、今救急車を呼ぶからな」
「お兄ちゃん‥‥‥だめ、逃げて‥‥‥」

サチは僕の腕を泣きながら握った。しかし、すぐにサチの腕は力を無くし、床に落ちる。

「逃げろって、誰かに襲われたのか?サチ!」

「おいおい、まだ居たのかよ、手間かけさせやがるぜ」

サチに何があったのか聞いてる最中に、後ろから声が聞こえた。
後ろを振り返ると、そこには日本刀を持ち、頭に金色の輪っかが浮いてる奴がいる。

「俺は、効率厨でね、効率的な仕事をこなすことが好きなんだ。
だから、ちゃんと一回で家族全員死んでもらわないと困るんだ」

目の前の不審者は、家族を殺したことを仄《ほの》めかすようなことを言っている。

「お、お前は誰なんだ」

声が恐怖で震える。
明らかにやばい奴。
体が、拒絶反応を示し、逃げろ逃げろと主張する。

しかし、家族を置いて逃げることなんてできない。

「俺が誰かだって?そんなことどうでもいいだろ。
だって、お前は今から死ぬんだから。
まあ、同情はするさ。
残念だったね。抽選でさ、今日はお前ら家族が当たったんだよね。
ただそれだけ、だから死ぬんだよ」

支離滅裂なことを不審者は言っている。

「そ、そ、そんな理由で、家族を殺されてたま‥‥‥」

——グサ

言葉の途中で、胸のあたりに激痛が走る。
目線を自分の胸の辺りに下げると、刀が胸に突き刺さっていた。

不審者が、目にも留まらぬ速さで刀を投げていたのだ。
僕はそのまま床に倒れこんだ。

「つべこべうるさいやろうだ。さっさと死ねや」

そう言いながら、不審者は近づいてくる。
横には、もう息絶えてしまった母さんや父さん、妹がいる。

悔しい、悔しかった。
ふざけた理由で、急に家族が奪われてしまったことが死ぬほど悔しかった。

しかし、僕にはもう成すすべがない。
血が流れ続け、意識も朦朧としてくる。

だが、激しい怒りが最後に僕を突き動かす。

「このやろう‥‥‥」
「え?何だって?声が小さくて聞こえねーよ、くそやろう」
「このやろう、絶対に許さない、お前は絶対に許さない。僕の大切なものを奪ったお前だけは絶対に」

激しく、不審者を睨みつける。
これが僕の最後の抵抗だった。

「寝言は寝て言えよ。まあ、お前はこれから永眠するから、言い放題だな」

そう言うと、笑いながら不審者は首目掛け刀を振り下ろす。



——あー死ぬんだ





ただただ、後悔だけが僕を包み込む。
もっとしっかりしていれば、もっと強ければ、こんな結末にはならなかったのではないかと。
そして、目の前に闇が広がった。




すると、僕の体は黄金の球体に包まれ、魂だけ吸い取られ、空高くに打ち上げられた。
同時に、不思議な声も聞こえてきた。

「今回も失敗だったか、しかも今回は前世の記憶すら思い出さないとは。これで7回目の転生、だが、我々は貴方に全てを賭けています」

そして、不思議な声が聞こえた後、僕の魂は、母体の中で育つ胎児の中に入っていった。




『思い出した‥‥‥、僕は落ちこぼれの転生者だったんだ』

目を開けると、エリナ姫が心配そうに僕の名前を呼びながら、顔を覗き込んでいる。

「アスカさん、アスカさん、あ、気がつきましたか?
もう、心配しましたよ」

どうやら僕は気絶していたらしい。
ただ、前世の記憶が蘇ったのはいいが、今世の記憶と混合して整理がつかず、頭が痛い。
そんな僕の様子をエリナ姫は今にも泣きそうな目で見つめている。
エリナ姫がそっと僕の頰に手を添える。

「心配させないでください。あなたにもしものことがあれば、私は立ち直れません」

そう言いながら、エリナ姫は僕を強く抱きしめた。
幸せの絶頂にあることに変わりなかった。
エリナ姫の愛で頭の痛みも少し和らいだ。
こんな幸せが、永遠に続けばいいのに、そう心の底から思った。

が、その幸せな時間はすぐに終わりを告げた。

——カシャカシャ

近くの草むらからカメラの音が聞こえた。
エリナ様と僕はその音の方を見る。
すると、そこにはレイト兄が立っていた。

「見たぞ、俺は見たぞ、写真にも撮ったぞ!!」

レイト兄はそこから素早く駆け出す。

「しまった」
僕は、すぐに状況を察した。

エリナ姫と抱き合っているところをレイト兄に見られてしまったのだ。

レイト兄が立ち去るとすぐに植物園の入り口で待機させていたエリナ様の護衛が駆けてきて、僕を取り押さえた。

「何をしているのですか。そんな非道なことをアスカにするなんて許しませんよ」

エリナ様が護衛に声を荒げる。

「エリナ様、申し訳ありません。
私どもは、エリナ様が一時でも幸せであればと思い、エレナ様とアスカさんの親密な関係に目を瞑ってきました。
今日のこともエリナ様のお父様には秘密にしておくつもりでした。
でしたが、証拠写真をアロガンス家の嫡男に撮られえてしまいました。
これはすぐに王宮にも知れ渡ります」
「そんな、アスカを離しなさい。
私はこれからアスカと逃げるわ」
「エリナ姫、それはなりません。
私共はあなたを護るように仰せつかっております。
仕事ですので申し訳ありません。
エリナ姫の要望にはお答えしかねます」

こうして、2人の幸せな日々は唐突に終わりを告げた。
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