上 下
19 / 83

剣豪ロージェ

しおりを挟む
「少年よ、よく耐え切った!お主の作り出した数十秒の時間が沢山の命を繋げる結果となった」

 目に迸《ほとばし》るほどの熱い炎を灯し、全身から生気が漲《みな》ぎっている男が目の前に立ちはだかる。

「ロージェ・アハトニス、先代の帝級魔導剣豪か。
 厄介な奴が来ちまったな。
 だけどな、さっきから言ってるだろ。
 俺を殺したきゃ皇級を連れてこい」

 男は未だ薄気味悪い笑みを浮かべながら、余裕をぶっこいでいる。
 すると、剣豪ロージェは急に居直り剣を鞘にしまう。
 なぜしまうんだ。
 その場にいた誰もが同じ感想を持つ。

「お前は何か勘違いしているようだな。
 初級、中級、上級、帝級、皇級、聖級、これらの階級は純粋な魔導力に基づく順位付け。
 しかし、戦闘は魔導とそれ以外の総合力が重要。
 肩書きだけで人を判断すると痛い目みるぞ」
「クソ老ぼれが、講釈垂れやがって。
 人間は糞虫みたいに地面を端ずり回って死ねばいいんだよ」
「大口を叩くな。喚くな。自分で自分を弱いですって言ってるようなものだぞ」
「俺を馬鹿にしたな。お前は絶対に許さん。老ぼれ」
「お主には慈愛が足りぬ。ならばわしが教えてやろう。『我は愛しき者のために力を振るう……』」
 凄まじい気迫がロージェから放たれ、礼拝堂は緊張感で埋め尽くされる。
 メキメキとロージェの足元の床が剥がれ、壁にもヒビが入る。
「『敬愛』」
 鞘から少し抜かれた剣が青白く輝く。
 その光は、礼拝堂を包み込み、僕も含め皆、眩しさに目を細める。
 次の瞬間。
 ロージェは一瞬のうちに男に詰め寄り、その衝撃波で礼拝堂に突風が吹き荒れる。
 そして、上から下へと剣を振るう。


「ぐはっ」

 男の鈍い声が響き渡る。
 突風によって巻き上げられた煙が収まった時、男はすでにロージェの前でうずくまっていた。

「この俺が斬られただと?」

「お前は自分を過信しすぎた。それが敗因だ。
 お前を警察に連れて行く。そこで洗いざらい全てを話してもらう」
「過信? 過信なんてしてないさ。
 俺が強いのは事実だ。過信する必要もない。
 それよりも過信してるのはお前の方だろ、剣豪」

 男はそういうと、一本の魔導木を折った。
「お主、まさかそれは転移木《てんいぼく》」
「もう遅い、さらばだ、次は必ず全員殺す」

 男の姿はたちまち消えた。

 凌いだ。
 安堵から体の力が抜ける。
 そうだ、ユミ姉。

「ユミ姉!」
 ユミ姉を呼びながら近づく。

 いつの間にかユミ姉の周りに、肩に赤十字のマークが描かれたワッペンをつけている医療班が2、3人駆けつけている。
 剣豪ロージェが連れてきた部下だろうか。

「今は処置中ですので下がっていてください!」

 僕は制止され、ユミ姉に近づくことは許されなかった。

「止血完了、バイタルは弱いですが、なんとかなりそうです。低体温ですので、毛布で加温します」
「輸血が必要ですので、病院に連絡しておいてください」
 医療班は、急ぎユミ姉に処置を施していく。

「ユミ姉は助かるんですか?」

 僕は焦燥感から、制止してきた医療隊の人に詰め寄ってしまう。
 すると、「危険な状態ですが、一命は取り留めると思われますので、落ち着いてください」と宥められる。

「アスカ‥‥‥」
 ユミ姉が少しだけ目を開けた。意識が戻ったのだ。
「ユミ姉、大丈夫!?」
「私は、大丈夫だから、ありがとう、アスカ」
 そういうと、ユミ姉は再び目を閉じる。
 そして、ユミ姉は到着した救急車により魔導病院に搬送されていた。

「お兄ちゃん!」
 あすなろ荘のサチやユウキが、目に涙を駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん死んじゃうんじゃないかって」
「大丈夫だよ。約束したじゃないか。
 死なないって」

 僕は2人を強く抱きしめる。
 あー今回は、守ることができた。
 そう考えながら、2人の体温を感じる。

 その後、あすなろ荘の子ども達は、一応病院に搬送されることとなった。

 その経過を、黙って見ていると目の前に剣豪ロージェが視界に入ってきた。

「少年よ。君はアスカ・ニベリウムかい?」
「なぜ僕の名を?」
「私はシルベニスタ家に今は世話になっていてね、ユーリ様から君の話を聞いていたのさ。
 今はソイニーのところにいるって聞いていたから、もしやと思ってな」
「そうだったんですか」
「それにしても、君はよく踏ん張ったな。怖かっただろう。逃げ出したかっただろう。だけど、守りたいものがあっただろう。色々な葛 藤が心を駆け巡る中、よく踏ん張った。お主を尊敬するぞ」

 ロージェは、僕の頭を掴むとゴシゴシと背が縮みそうな勢いで撫でる。
 多分1 cmは縮んだ。

「いえ、ユミ姉が僕らを必死に守ってくれたからです。
 全てはユミ姉のおかげです」
「そんな謙遜するでない。君もいなければ子ども達は助からなかっただろう」
「あの、まだお礼を言っていませんでした。ありがとうございました」
「なんのこれしきのこと。ユミ・クルルギがシルベニスタ家に救援要請を出してきてな。ちょうど出先から帰ったところで、すぐにすっ飛んできたんだ」
「そうだったんですね。お手を煩わせてしまいすみません」
「いいんだいいんだ。それより一つ聞いていいか?」

 ロージェは先ほどまでの、戯《おど》けた感じから居直り、真面目な顔つきで話し始める。

「君の魔導は感じたところによると、初級魔導ぐらいだが、さっきこの礼拝堂からは明らかに上級魔導以上の魔導を感じた。君が持っているその割れた魔導具が関係してるのかい?
 杖だとしても見たことない形をしている魔導具だけれども、それは君が作ったんだね」

 ロージェは、僕が持っている魔導具を指差す。
 今、ロージェは僕が魔導具を作ったと言い切った。
 なぜわかったんだ。
 なぜ‥‥‥。

「あーごめんごめん、魔導具を作製できるって話はこの世界ではタブーだったな。
 だけど、安心したまえ、ここだけの話だ。
 ワシも魔導具士じゃ。
 この剣はワシが昔作ったのじゃ」

 剣豪ロージェはとんでもないことを言い放った。
 魔導具士だって?
 でもおかしい。
 ロージェはさっき、帝級魔導剣豪と言われていた。
 つまるところ、帝級魔導士である。
 しかし、魔導具士にそんな魔導が扱えるわけがない。
 彼は、嘘を言っているのか?

「アスカよ。君は今、魔導具士が帝級なんてありえないと考えているね」
「え、なぜわかったのですか」
「まあ、当然の疑問だからね。かくゆう私もその1人さ。
 私の師匠も魔導具士でな、初めて会った時は、同じことを疑問に思ったからな」
「本当に、剣豪様は魔導具士なのですか?」

 まだ信じられない。
 しかし、当の本人は嘘をついているようには見えなかった。

「この魔導具には、増幅用魔導回路が備わっているのじゃ。
 君のその魔導具のようにな。
 その年で、増幅用魔導具を作製してしまうとは良い才能を持っているな」
「じゃあ、僕の理論は正しかったんですね」
「そうじゃ、魔導具士が強くなるためには、己の内にある魔導を増やすのはもちろん、魔導を増幅させることができる魔導具を作成する必要がある。
 しかも、2つの例外を除いて増幅用魔導具は必ず魔導具士自ら作製した物でしか魔導を増幅できないのじゃ」
「例外があるのですか」
「何事にも例外はある。1つ目は、ワシの剣じゃ。この剣はおとぎ話にも出てくる初代魔導具士が使ってた剣で、代々受け継がれてきておる。そして、もう1つは、初代魔導具士が作製したと言われる伝説の刀じゃ。名を「死渡《しと》」という。
 まあ、どこにあるかも現存するのかもわからないがな。
 ワハハ」

 ロージェは豪快に笑う。

「それはそうと、お主の師匠が着いたようだぞ」

 ロージェが指差す方向を見ると、空を飛行しているソイニーさんが確認できた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生魔王が征く!異世界征服物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

異能力世界の支配者

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

サイコパス、異世界で蝙蝠に転生す。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:255

異世界に転生したので裏社会から支配する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:736

処理中です...