ゴッドチャイルド

虎うさぎ

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 フリーレン共和国の国土の大半は地下に存在していた。地上よりも地下の方が熱を逃がしにくく、また冷たい外気に悩まされる事がないからだ。あちらこちらに灯された松明が、国を照らし出し、そこかしこに張った氷が光を弾いて瞬く。神秘的な国だった。それに、地下だからか気温もそれほど低くない。
「ここか」
 人に道を聞きながら、なんとかミッテ広場に辿りついた青年は、辺りをぐるりと見渡した。昼も夜もわからないような国だが、そこに根を張る人々の顔は明るい。花屋の代わりに氷細工が、生魚の代わりに冷凍食品が立ち並ぶ路地はとても賑やかだ。
「この国のどこかに、きっとエレナちゃんも……」
 感慨深げに呟いて、青年は早速ゴッドチャイルドについての聞き込みを開始しようとした。その時だ。背後で怒声が響く。何事かと思い首を巡らせれば、そこには一人の男に絡むチンピラの姿があった。
 筋肉質な大男と、猫背で細身の眼鏡男。彼らは無抵抗の男に対し、殴る蹴るの暴虎を加えている。街の人々は彼らに怯えてか、見て見ぬ振りをしていた。
「おいおい、マジかよ」
 青年は、どうしたものかと頭を抱える。偽善者ぶるつもりはないが、弱い者いじめは見ていて気持ちがいいものでもない。
「あ~、もう!」
 余計なトラブルに巻き込まれるのはごめんだが、青年は人としての良心に負けた。やはり、暴力はよくない。暴力は。
「待ちな」
 しかし、チンピラに向かって歩き出した青年を、毛皮売りの女性が止めた。
「あいつらには逆らわない方がいい。この国に居られなくなるよ」
「ご心配ありがとう。だけどそれでも構わないさ、オレはこの国の人間じゃないんでね」
「あたしらが良くないんだよ。あいつらを下手に刺激したら、あたしらにまでとばっちりが飛んでくる」
 八つ当たりされてしまうという事だろうか。そこまで言われては青年も彼らに迂闊に手を出せない。殴られている男 には悪いが、青年は彼を助ける事は諦めて女性に尋ねた。
「じゃぁ聞くけどさ、なんなの、あいつら。どこぞの王族かなんか?」
 ただのチンピラにしか見えない男たちを指差す青年に、女性は憎々しげに言い捨てる。
「ゴッドチャイルドさ。“魔王”を倒した史上最強のゴッドチャイルド」
「へ?」
 そうこうしている内に、チンピラ……もとい噂のゴッドチャイルドたちは、地面に倒れた男をその場に残して雑踏の中に消えて行った。
「え? え? あれがゴッドチャイルド? あんな弱そうなのが!?」
「弱い? とんでもない。あたしは一度だけあいつらの力を見たことがあるんだ。国の警備兵が少しも歯が立たなかった。この国の人間が束になったって、あいつらには適わないんだ。何せ、あの“魔王”を倒した男たちだからね」
「それで、あいつらが何やっても皆黙ってんのか」
「仕方ないだろ。逆らえば殺される」
 ぎゅっと、女性が軋むほど強く拳を握りしめたのを、青年は見た。
「これじゃぁ、“魔王”が居た時となにも変わらない。好き勝手に暴れるのが魔王かゴッドチャイルドか、それだけの違いさ」
 奴らが一日でも早くこの国からいなくなるのを待つしかないんだよ、あたし達は。そう語る女性の横顔は、とても辛そうだった。青年の拳も、知らず強く握り締められる。“魔王”が消えても苦しみは消えない。それは、彼にとって耳の痛くなるような話だった。
「最近じゃ、東の方で『紅蓮の魔導師』なんてのも現れたみたいだけど、あたしらにとっちゃ、遠い異国のどうでもいい話だね。むしろ、その魔導師を倒す為にゴッドチャイルドがどっか行ってくれるってんなら、それが一番いい」
 辺りを良く見れば、ゴッドチャイルドたちに蹴り倒されたのであろうワゴンが転がり、それをそこの店主がせっせと片付けている姿や、沈痛な面持ちでゴッドチャイルドが消えて行った方向を睨んでいる人々の姿があった。明るく見えるこの街にも、闇はあるのだ。
「ごめんな」
 ぽつりと謝罪の言葉を口にした青年に、毛皮売りの女性は「なんであんたが謝るんだい。変な子だね」と笑った。
「ところでお姉さん」
 《お姉さん》と呼ばれて、毛皮売りの女性はパッと顔を明るくした。
「なんだい?」
「あのゴッドチャイルドはこの国で何をしているんだ? ただ威張り散らしているだけなのか? それとも、何か他に目的が……?」
 それに、女性はまた表情を曇らせた。
「それはね――――」






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