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フリーレン共和国の中でも市街地から離れた場所にぽつりと佇む小さな村。そこにも、紅蓮の魔導師の噂は流れてきていた。しかし、他との交流を絶ち、旅人も滅多に訪れる事のない自給自足のこの村では、それも遠い世界の出来事の様に感じられていた。決して豊かとは言い難い土地で細々と暮らす彼らからしてみれば、誰が世界を支配していようがあまり関係ない。今の生活を脅かされさえしなければそれでいいのだ。
そんな小さな村で、朝から晩まで地下に広がる畑を耕して暮らしている一人の青年が居た。彼の名はロディ。12歳の時にこの村に来てから5年。ずっと氷と土にまみれて生活をしている。
「お疲れ様、ロディ。仕事中にごめんなさい。ちょっといいかしら」
そう声をかけて来たのはアリシア。村長の孫娘だった。
持っていた鍬をその場に置いて、ロディは彼女に従って村長の家へと足を運んだ。
「よく来たな、ロディ」
顔の殆どを髪と髭に覆われた老人、それがこの村の村長だった。
今日中に耕作を終わらせてしまいたいロディは、アリシアが注いでくれたお茶に見向きもせずに、毛に覆われてどこにあるのかわからない村長の目――――があるであろう場所――――をじっと見つめていた。
「ロディ、お前さんがこの村に来て5年。随分とここの生活にもなじんだようじゃな」
「……はい」
「ほほ、相変わらず無愛想な奴じゃのう」
ロディは笑わない青年だった。この村に来た時からずっと。それ以前の事は、この村の人間にはわからない。
「まぁよい、本題に入ろう。わしがお前さんを呼んだのは他でもない。お前さんの将来について話がしたかったからじゃ」
「俺の、将来?」
「そうじゃ、ロディ。お前さんももう子供ではない。ずっと一人身で過ごす訳にもいかんじゃろう。そうなった時、それから先もこの村で生きていく覚悟があるのか、わしはそれが知りたいのじゃ」
「……つまり、俺がこの村の娘と結婚をする気があるのかどうか、ということですか?」
「端的に言えばそうじゃな」
この村の人口は少ない。未来ある若者は多ければ多いほど、村長としては喜ばしい事なのだろう。しかし、ロディは他所から来た青年である。いつ村を出て故郷に帰りたいと言い出すともわからない。その時、村の娘を連れて行かれるのは避けたい事態なのだろう。
「ロディよ。もしもお前さんにその気があるのなら、わしはアリシアをやっても良いと思っているのだ」
村長の孫娘を嫁にもらう。それは、将来この村の長になる事を意味していた。
「お、おじいちゃん、何を言い出すのよ!」
それまで部屋の隅で話を聞いていたアリシアが驚いて顔を真っ赤にした。
「なんじゃ、アリシア。お前だってロディを気に入っていると言っていたではないか」
「そ、それはそうだけど……」
恥ずかしそうに両手で頬を抑えるアリシアに対し、ロディの表情は硬かった。
「……少し、考えさせてください」
それに、村長は深く頷いた。
「そうじゃな、後悔のない答えを探しなさい」
髪と髭で見えないけれど、ふっと村長の目が優しく細められたようにロディには思えた。
「ロディよ、お前さんがどんな選択をするのかわしには強要する権利はない。お前さんの人生じゃ。お前さんの納得のいく答えを見つけるといい。じゃがな、どんな答えを導き出したとしても、これだけは忘れんで欲しい。たとえこの先お前さんがどこでどう生きようと、どうなろうと、お前さんがわしの可愛い孫である事に変わりはないのだという事を」
一度家族と認めた者を、そう簡単に見捨てたりはしない。この村の人々の強い結束力のようなものを、ロディはひしひしを感じていた。
この村の人間は優しい。村長はもちろん、アリシアも他の村人も。もしもこのまま村長の望み通りアリシアと結婚したら、ロディはきっとぬるま湯に浸かったような幸せを一生送る事が出来るだろう。しかし、その道を素直に受け入 れる事が出来ないある理由がロディにはあった。
フリーレン共和国の中でも市街地から離れた場所にぽつりと佇む小さな村。そこにも、紅蓮の魔導師の噂は流れてきていた。しかし、他との交流を絶ち、旅人も滅多に訪れる事のない自給自足のこの村では、それも遠い世界の出来事の様に感じられていた。決して豊かとは言い難い土地で細々と暮らす彼らからしてみれば、誰が世界を支配していようがあまり関係ない。今の生活を脅かされさえしなければそれでいいのだ。
そんな小さな村で、朝から晩まで地下に広がる畑を耕して暮らしている一人の青年が居た。彼の名はロディ。12歳の時にこの村に来てから5年。ずっと氷と土にまみれて生活をしている。
「お疲れ様、ロディ。仕事中にごめんなさい。ちょっといいかしら」
そう声をかけて来たのはアリシア。村長の孫娘だった。
持っていた鍬をその場に置いて、ロディは彼女に従って村長の家へと足を運んだ。
「よく来たな、ロディ」
顔の殆どを髪と髭に覆われた老人、それがこの村の村長だった。
今日中に耕作を終わらせてしまいたいロディは、アリシアが注いでくれたお茶に見向きもせずに、毛に覆われてどこにあるのかわからない村長の目――――があるであろう場所――――をじっと見つめていた。
「ロディ、お前さんがこの村に来て5年。随分とここの生活にもなじんだようじゃな」
「……はい」
「ほほ、相変わらず無愛想な奴じゃのう」
ロディは笑わない青年だった。この村に来た時からずっと。それ以前の事は、この村の人間にはわからない。
「まぁよい、本題に入ろう。わしがお前さんを呼んだのは他でもない。お前さんの将来について話がしたかったからじゃ」
「俺の、将来?」
「そうじゃ、ロディ。お前さんももう子供ではない。ずっと一人身で過ごす訳にもいかんじゃろう。そうなった時、それから先もこの村で生きていく覚悟があるのか、わしはそれが知りたいのじゃ」
「……つまり、俺がこの村の娘と結婚をする気があるのかどうか、ということですか?」
「端的に言えばそうじゃな」
この村の人口は少ない。未来ある若者は多ければ多いほど、村長としては喜ばしい事なのだろう。しかし、ロディは他所から来た青年である。いつ村を出て故郷に帰りたいと言い出すともわからない。その時、村の娘を連れて行かれるのは避けたい事態なのだろう。
「ロディよ。もしもお前さんにその気があるのなら、わしはアリシアをやっても良いと思っているのだ」
村長の孫娘を嫁にもらう。それは、将来この村の長になる事を意味していた。
「お、おじいちゃん、何を言い出すのよ!」
それまで部屋の隅で話を聞いていたアリシアが驚いて顔を真っ赤にした。
「なんじゃ、アリシア。お前だってロディを気に入っていると言っていたではないか」
「そ、それはそうだけど……」
恥ずかしそうに両手で頬を抑えるアリシアに対し、ロディの表情は硬かった。
「……少し、考えさせてください」
それに、村長は深く頷いた。
「そうじゃな、後悔のない答えを探しなさい」
髪と髭で見えないけれど、ふっと村長の目が優しく細められたようにロディには思えた。
「ロディよ、お前さんがどんな選択をするのかわしには強要する権利はない。お前さんの人生じゃ。お前さんの納得のいく答えを見つけるといい。じゃがな、どんな答えを導き出したとしても、これだけは忘れんで欲しい。たとえこの先お前さんがどこでどう生きようと、どうなろうと、お前さんがわしの可愛い孫である事に変わりはないのだという事を」
一度家族と認めた者を、そう簡単に見捨てたりはしない。この村の人々の強い結束力のようなものを、ロディはひしひしを感じていた。
この村の人間は優しい。村長はもちろん、アリシアも他の村人も。もしもこのまま村長の望み通りアリシアと結婚したら、ロディはきっとぬるま湯に浸かったような幸せを一生送る事が出来るだろう。しかし、その道を素直に受け入 れる事が出来ないある理由がロディにはあった。
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