ゴッドチャイルド

虎うさぎ

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 ――――エレナ。
 5年前、ロディの浅はかな行いによって命を落としてしまった少女。彼女の死が、冷たい刃物になって今なおロディの胸に突き刺さっている。
 アリシアは良い娘だ。細やかな気遣いが出来、頭が良く見目も良い。けれど、彼女に対する感情は恋とは程遠いものだった。この先、アリシアを愛する事は出来るだろう。一緒になれば、互いに穏やかな幸せに包まれる事も可能なはずだ。しかし、それで本当にいいのか、ロディにはわからなかった。
 もしも、エレナが生きていたと仮定しよう。彼女ならこんな時ロディになんと言うだろうか。男なら、黙って目の前の幸せを掴んじゃないさい! とでも言うだろか。否、とロディは首を横に振る。そもそも彼女が生きていたら、きっとロディはこんな事で悩む事もなかったのではないだろうか。
「大丈夫? ロディ」
 室を出た後、自分の畑に戻る事もせずにその場で考えこんでしまったロディに、アリシアが心配そうに尋ねてきた。
「もしかして、怒ってる? おじいちゃんが、急に変な話、したから」
「いや」
 怒ってはいない。
「ロディ」
 表情の乏しい彼の横顔を見つめながら、アリシアが控えめに、けれどある意思を持った声音で問いかける。
「さっきの話、なんだけど」
 祖父の言葉を思い出してか、見る見るうちにアリシアの顔は湯気が出るほど赤くなった。
「あ、あのね。もし、もしもよ。その……ロディが嫌じゃなかったら、私、私ね……」
 アリシアがあまりにも真剣な眼差しをしているので、ロディも彼女の瞳から目を離せなくなった。
「私、ロディとならっ」
 しかし、彼女の言葉は最後まで紡がれる前に、男の喚き声によってかき消されてしまう。
「だ~か~ら~! オレはただ、知り合いを探しに来ただけだっつーの。あんたらに危害を加えようとか、そんな事これっぽっちも考えてないってば!」
 何事かと声の方を見れば、旅装束に身を包んだ見慣れない赤毛の青年が、村人に拘束されて引っ立てられてくるところだった。恐らく、村長の前まで連れて行かれる途中なのだろう。
 青年を拘束している村の男たちが、こちらに気づいた。彼らはアリシアを認めると、彼女に向かって軽く頭を下げた。アリシアもそれに応え、そっとロディの腕を引く。
「行きましょ、ロディ」
 村人たちの邪魔になってはいけない。アリシアはそう判断したのだろう、ロディを連れてその場を離れようとした。しかしその彼女の声に、赤毛の青年が弾かれたように顔を上げた。
「『ロディ』、だって?」
 そしてロディをロディと認めると、彼は目に涙を浮かべ、嬉しそうに泣き笑いのような表情を作った。
「ロディ。本当に、ロディなのか」
 ロディには、直ぐには赤毛の青年が誰なのかわからなかった。けれどもそんなこちらの戸惑いもお構いなしに、赤毛の青年は言う。
「ロディ、お前……ちくしょう、オレより背ぇ高くなりやがって。オレのことわかるか? レジだよ、レジ! オルガ村のレジ」
 その名に、ロディは酷く驚いた。オルガ村のレジ、それはかつて共に戦った仲間の名前だったからだ。
「なんで、お前がここに」
 狼狽えるロディに、レジは拘束されたまま憤慨してみせる。
「なんでって、お前を探しに来たに決まってんだろ! オレに何も言わないで勝手にいなくなりやがって、すっげぇ探したんだからな」
「5年も?」
「当たり前だろ、この野郎」
 怒ったふりをしながらも、再会が嬉しいのかレジの表情は明るい。
「知り合い、なの?」
 アリシアが不安げに聞いてきた。
「ああ、昔ちょっとな」
 言って、ロディは困惑している村人に頼みレジを縛っていた縄を解かせた。
「お前には言いたい事が山ほどあるんだぞ、ロディ」
 自由を手にしたレジは、まずロディに詰め寄った。それから表情を崩し、互いの無事を喜んだ。
「でも、元気そうでよかった」
 にっと歯を見せて笑うレジの顔が本当に嬉しそうで、ロディは真っ直ぐ彼を見る事が出来なかった。
「しっかし、いつからここに居たんだよ。手紙の一つでも寄越してくれりゃ、こんなにあちこち探し回ることもなかったのにさー。あ、それとも、この村には郵便も来ないのか? 町からも随分離れてるもんな」
 レジの言葉に、成り行きを見守っていたアリシアと村の男たちが眉を潜める。よそ者を警戒している顔だ。レジが村の悪口を言おうとしているのではないかと疑っているのだ。ロディはそんな彼らの視線を感じながら、辺りをしげしげと眺めているレジに向かって問いかけた。
「どうして、俺を探していた」
 ロディの脳裏には、かつて彼らが仲間だった頃の記憶が蘇っていた。まだ無知で幼く、愚かだった頃の記憶だ。
 アリシア達も、レジの回答に注意を払っている。そんな中、レジは一瞬、間の抜けた顔になった。ロディの質問に驚いたようだ。けれども直ぐに呆れたように笑って口を開く。
「仲間だからに決まってんだろ」
 当然のように言い切ったレジに、ロディの胸には棘が刺さったような痛みが走った。
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