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「俺に、お前の仲間を名乗る資格はもう、ない」
苦しげに吐き出された否定の言葉に、今度はレジが顔をしかめる番だった。
「なんだよ、なら『友達』だからって答えた方がよかったか? オレ達3人不滅の友情! どんな困難にも3人で力を合わせて立ち向かって行こう。オレ達は3人でチームなんだ。そう言ったのはお前の方じゃんか」
確かに言った。まだ子供だった頃のロディが、レジと、それからエレナに対して発した台詞だ。けれど、今のロディにはそんな過去を引っ張り出されても辛いだけだった。
「やめてくれ」
古傷を抉られるような感覚に堪えかねて、ロディはレジに背を向けた。
「あの頃とは違うんだ」
「何が違うってんだよ」
レジも負けじと食い下がってくる。
「オレ、お前に『友達』だって言ってもらった時、ホントに嬉しかったんだぜ。オルガ村じゃ、オレのことを煙たがる人間はいても、気にかけてくれる奴なんていなかったからさ」
当時の事を思い出してか、レジの声はやや震えていた。
ロディがエレナと共にレジと出会ったのは今から5年と少し前のこと。ロディとエレナは、魔王を討伐する為に編成されたゴッドチャイルドの部隊に所属していた。所属といっても、孤児院育ちの二人は、ゴッドチャイルドとしての能力があるというだけの理由で院長に売り飛ばされて、仕方なくそこに居ただけなのだが。
魔王討伐に向かう道すがら、ロディたちの部隊がオルガ村を通りかかった。そこで、飲んだくれの父親に代わってスリをして生活していたレジが、ロディを鴨にしようと近づいて来たのだ。レジはあっけなくロディに捕まり、自分がゴッドチャイルドである事を知った。同時にレジの父親も、息子がロディたちと同じ部隊に入れば多額の報奨金が国から支払われるのだという事を知る事になり、レジはやはりあっけなく父親に売られてしまった。
父親の性格を考えれば仕方のないことではあったが、レジは落ち込んだ。そんな彼を励ます為にロディが彼にかけた言葉が、先ほどの台詞『俺たち3人不滅の友情! どんな困難にも3人で力を合わせて立ち向かって行こう。俺たちは3人でチームなんだ』だった。
ロディにとっては忘れたい過去でも、レジにとっては大切な思い出の一つなのだ。
「なぁ、ロディ。頼む、オレと一緒に来てくれ」
こちらを振り返ろうともしない友の背中に向かってレジが頭を下げた。それに反応を見せたのは村長の孫娘であるアリシアだった。
「ちょっと待ってよ」
彼女は敵意を剥き出しにした目でレジを睨んだ。ロディとレジの間に割って入る様な形で腰に手をあてて仁王立ちしている。見た目は大人しそうにも映るが、中身は勇ましい娘のようだ。
「えっと、君は?」
レジが問いかけると、アリシアは憤然と答えた。
「村長の孫娘のアリシアです」
「村長のお孫さん……」
「そうよ、オルガ村のレジさん」
「ええっと、はじめまして?」
どうして彼女が怒っているのかわからず、レジはなんとなく言葉尻を上げて挨拶をしてみた。
「さきほどからの話を聞いている限り、あなたはロディのお友達なのね」
「はい」
「だけどロディは今、この村の住人なの。私たちの家族なのよ。その家族を通さずに彼を誘うのはやめてください」
どうやら彼女はレジがロディに「一緒に来てくれ」と言ったことを怒っているようだ。周りの男たちも同じ目でレジを睨んでいる。
ここはフリーレン共和国の中でも市街地から離れた場所にぽつりと佇む小さな村。他との交流を絶ち、旅人も滅多に訪れる事のない自給自足の村。
村人の数が少ない代わりに、結束力はどこよりも強いのだろう。レジはやっと、彼らにとって自分が異質な存在であることに気が付いた。ロディもレジと同じでこの村の出身ではないけれど、この5年の間に村の一員として認められたようだ。
けれども、レジはアリシアの発言よりもロディの態度の方が気になった。レジが彼を誘おうが、アリシアがそれを拒否しようが、ロディの表情は変わらない。始終虚ろな目のままなのだ。かつて、レジと出会ったばかりの頃のロディは、とてもわんぱくで正義感に溢れた前向きな少年だった。無謀と呼べるような行いも多々あったけれど、彼の勇士に救われた者も少なくなかった。レジだってその一人だ。
それが今ではどうだろう。陰気に伸ばされたアッシュグレイの髪、覇気のない瑠璃色の瞳。姿形は確かにレジのよく知るロディなのに、その面持ちはまるで別人のようだった。
「アリシアさん、あんたの言う事もわからなくもないけどさ、ちょっとごめんな」
レジはアリシアを通り越して、ロディに問いかけた。
「お前はどうしたいんだ? この村にずっといたいのか?」
「だから、そういう話は私たちを通してからって」
「だからごめんって」
アリシアに対し謝罪の言葉を口にしながらも、レジは再びロディに向かって言った。
「さっき、オレはここにお前を探しに来たって言ったよな。それは嘘じゃない。この5年、ずっとお前のこと探し続けてきたんだからな。でも、ホント言うとさ、オレがこの村でお前を見つけたのは偶然なんだ」
表情を変えないロディの代わりにアリシアが眉を潜めた。
「あなた、何を言ってるの?」
「ホントはオレ、ここにエレナちゃんを探しに来たんだ」
エレナ――――その名にロディが息を呑んだのがわかった。同時に、アリシアも顔色を変える。エレナの名は、アリシアも知っていたからだ。それはロディが彼女にエレナの話をしたから――――などではなく、単に寝言で彼女の名を呼んでいたからだった。
苦しげに吐き出された否定の言葉に、今度はレジが顔をしかめる番だった。
「なんだよ、なら『友達』だからって答えた方がよかったか? オレ達3人不滅の友情! どんな困難にも3人で力を合わせて立ち向かって行こう。オレ達は3人でチームなんだ。そう言ったのはお前の方じゃんか」
確かに言った。まだ子供だった頃のロディが、レジと、それからエレナに対して発した台詞だ。けれど、今のロディにはそんな過去を引っ張り出されても辛いだけだった。
「やめてくれ」
古傷を抉られるような感覚に堪えかねて、ロディはレジに背を向けた。
「あの頃とは違うんだ」
「何が違うってんだよ」
レジも負けじと食い下がってくる。
「オレ、お前に『友達』だって言ってもらった時、ホントに嬉しかったんだぜ。オルガ村じゃ、オレのことを煙たがる人間はいても、気にかけてくれる奴なんていなかったからさ」
当時の事を思い出してか、レジの声はやや震えていた。
ロディがエレナと共にレジと出会ったのは今から5年と少し前のこと。ロディとエレナは、魔王を討伐する為に編成されたゴッドチャイルドの部隊に所属していた。所属といっても、孤児院育ちの二人は、ゴッドチャイルドとしての能力があるというだけの理由で院長に売り飛ばされて、仕方なくそこに居ただけなのだが。
魔王討伐に向かう道すがら、ロディたちの部隊がオルガ村を通りかかった。そこで、飲んだくれの父親に代わってスリをして生活していたレジが、ロディを鴨にしようと近づいて来たのだ。レジはあっけなくロディに捕まり、自分がゴッドチャイルドである事を知った。同時にレジの父親も、息子がロディたちと同じ部隊に入れば多額の報奨金が国から支払われるのだという事を知る事になり、レジはやはりあっけなく父親に売られてしまった。
父親の性格を考えれば仕方のないことではあったが、レジは落ち込んだ。そんな彼を励ます為にロディが彼にかけた言葉が、先ほどの台詞『俺たち3人不滅の友情! どんな困難にも3人で力を合わせて立ち向かって行こう。俺たちは3人でチームなんだ』だった。
ロディにとっては忘れたい過去でも、レジにとっては大切な思い出の一つなのだ。
「なぁ、ロディ。頼む、オレと一緒に来てくれ」
こちらを振り返ろうともしない友の背中に向かってレジが頭を下げた。それに反応を見せたのは村長の孫娘であるアリシアだった。
「ちょっと待ってよ」
彼女は敵意を剥き出しにした目でレジを睨んだ。ロディとレジの間に割って入る様な形で腰に手をあてて仁王立ちしている。見た目は大人しそうにも映るが、中身は勇ましい娘のようだ。
「えっと、君は?」
レジが問いかけると、アリシアは憤然と答えた。
「村長の孫娘のアリシアです」
「村長のお孫さん……」
「そうよ、オルガ村のレジさん」
「ええっと、はじめまして?」
どうして彼女が怒っているのかわからず、レジはなんとなく言葉尻を上げて挨拶をしてみた。
「さきほどからの話を聞いている限り、あなたはロディのお友達なのね」
「はい」
「だけどロディは今、この村の住人なの。私たちの家族なのよ。その家族を通さずに彼を誘うのはやめてください」
どうやら彼女はレジがロディに「一緒に来てくれ」と言ったことを怒っているようだ。周りの男たちも同じ目でレジを睨んでいる。
ここはフリーレン共和国の中でも市街地から離れた場所にぽつりと佇む小さな村。他との交流を絶ち、旅人も滅多に訪れる事のない自給自足の村。
村人の数が少ない代わりに、結束力はどこよりも強いのだろう。レジはやっと、彼らにとって自分が異質な存在であることに気が付いた。ロディもレジと同じでこの村の出身ではないけれど、この5年の間に村の一員として認められたようだ。
けれども、レジはアリシアの発言よりもロディの態度の方が気になった。レジが彼を誘おうが、アリシアがそれを拒否しようが、ロディの表情は変わらない。始終虚ろな目のままなのだ。かつて、レジと出会ったばかりの頃のロディは、とてもわんぱくで正義感に溢れた前向きな少年だった。無謀と呼べるような行いも多々あったけれど、彼の勇士に救われた者も少なくなかった。レジだってその一人だ。
それが今ではどうだろう。陰気に伸ばされたアッシュグレイの髪、覇気のない瑠璃色の瞳。姿形は確かにレジのよく知るロディなのに、その面持ちはまるで別人のようだった。
「アリシアさん、あんたの言う事もわからなくもないけどさ、ちょっとごめんな」
レジはアリシアを通り越して、ロディに問いかけた。
「お前はどうしたいんだ? この村にずっといたいのか?」
「だから、そういう話は私たちを通してからって」
「だからごめんって」
アリシアに対し謝罪の言葉を口にしながらも、レジは再びロディに向かって言った。
「さっき、オレはここにお前を探しに来たって言ったよな。それは嘘じゃない。この5年、ずっとお前のこと探し続けてきたんだからな。でも、ホント言うとさ、オレがこの村でお前を見つけたのは偶然なんだ」
表情を変えないロディの代わりにアリシアが眉を潜めた。
「あなた、何を言ってるの?」
「ホントはオレ、ここにエレナちゃんを探しに来たんだ」
エレナ――――その名にロディが息を呑んだのがわかった。同時に、アリシアも顔色を変える。エレナの名は、アリシアも知っていたからだ。それはロディが彼女にエレナの話をしたから――――などではなく、単に寝言で彼女の名を呼んでいたからだった。
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