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「誰だ、てめぇ」
マタイが低く呟いた。レジは腕の中で咳き込んでいるエルドの背を撫でてやりながら、世間話でもするような気軽さで呑気な声を出した。
「あ、ただの通りすがりなんで、お構いなく」
「ふざけてんのか?」
「とんでもない。だってオレ、別にあんたらに用ないし」
マタイのこめかみに青筋が浮いた。
「おちょくってんのか」
「だから、おちょくる程あんたらに興味もないっつーの」
マタイとハルルクの纏う空気が一気に張りつめた。びりびりと肌に伝わってくる殺気に、エルドが身を固くしたのがわかった。レジはため息を吐く。
「オレはここで他にしたい事があるんだけどな」
そう言い終わる前に、マタイとハルルクがレジに襲いかかって来た。エルドを脇に抱えてレジは後ろに逃げた。それまでレジが立ってた場所にマタイの拳がめり込む。氷や土が割れて塊が辺りに飛び散った。あとには直径1mほどのクレーター。
「ひぇ~、ばか力」
つい今しがた光る泉でパワーアップしたばかりなのだ、これでも手加減しているのだろう。レジが一目散に出口に向かって走り出しても、向こうに慌てる気配はなかった。むしろ、兎を狩る狼の様に、威圧的でありながらどこか余裕を感じる。
「は、離せ! 余所者」
はっと我に返ったエルドが、レジの腕の中で身をよじらせた。
「おいらは神の泉を守るんだ」
「やめとけって、さっき殺されかけたばかりだろ」
「うるさい、余所者がおいらに指図するな!」
「痛ってぇ――――!」
エルドを支えていた腕を噛まれて、レジは涙目になった。
「おい、こらっ。がきんちょ」
「ガキじゃない、エルドだ!」
痛みで力の緩んだレジの腕から逃れると、エルドは再び洞窟の奥へ足を向けてしまった。敵いっこないのに、またマタイとハルルクに勝負を挑む気だ。
「お前、少しは懲りろよ」
レジは懇願するが、エルドは聞く耳を持たない。
そうこうしている間にも洞窟の奥からはマタイとハルルクが近づいて来ていて。
「ああ、もう!」
不本意ではあるが、エルドを守る為、レジは仕方なく能力を使う事にした。
††††††††††††††††††
村の入り口付近には、マタイとハルルクに破れた村の男たちが転がっていた。皆、意識はあるが、立ち上がるだけの体力が残っていない様だった。深い傷を負って手当を受けている者もいる。
ロディは、目を逸らし続けてきた現実を目の当たりにして動けなくなった。
マタイとハルルクが来るたび、村の男たちが身体を張って闘っている事は知っていたが、村の中への侵入を許した事が一度もなかったので、もっとこちら側が優勢なのだと思っていた。しかし、実際は惨敗と言っても差し支えがないような有様だった。
ここで初めて、ロディはマタイとハルルクの目的が村そのものではなく、この近くの《何か》である事を知った。でなければ今ごろ、とっくに村は壊滅させられていただろう。小さな村の中に居ながら、そんな事も知らなかった自分に驚く。知ろうと思えば知るチャンスはいくらでもあったのに、気づこうともしなかった。自分の殻に閉じこもって、周りが見えていなかった。その事を改めて認識した。
「ロディ、か」
利き腕に包帯を巻いた男が、ロディに気づき、声をかけてきた。その顔には、今さら何をしに来た。そう書いてあるようにロディには見えた。しかし、彼はロディを責めるのではなく、不安げに辺りに目を走らせながら言った。
「エルドを見なかったか?」
「いえ、見ませんでした」
「そうか……」
「エルドがどうかしたんですか」
逆にロディが聞き返すと、男は僅かに目を見開いた。ロディが他人に興味を示すなんて、彼らにとっては珍しい事だからだ。けれども驚いた素振りを見せたのは一瞬。すぐに深刻な顔に戻って言葉を続けた。
「まさかとは思うが、一人でゴッドチャイルドを追って行ったんじゃないかと心配になってな」
「そのゴッドチャイルドは今どこに?」
「神の泉に向かったはずだ」
男は、村の目と鼻の先にある氷山を指差した。
氷山には洞窟があり、その洞窟の奥に光る泉があった。村の人間は、泉を《神の泉》と呼び、神聖な場所として崇めていた。
ロディも5年前、村に来たばかりの頃に一度だけ行った事がある。周囲に生えたヒカリゴケによって淡く光って見える泉は、神秘的だが何の変哲もないただの水たまりだった。そんな場所にゴッドチャイルドが何の用があるというのだろうか。ロディにはわからなかったが、そこを神聖視する村の人間たちにとっては一大事のようで、エルドに至っては泉に余所者が近づくだけで眉を吊り上げていたそうだ。血の気の多い彼なら、大人たちの目を盗んで一人で敵を追って行くことも充分考えられた。
ロディは、エルドを探す為、氷山へとつま先を向けた。けれど、足を踏み出すのが躊躇われた。
マタイが低く呟いた。レジは腕の中で咳き込んでいるエルドの背を撫でてやりながら、世間話でもするような気軽さで呑気な声を出した。
「あ、ただの通りすがりなんで、お構いなく」
「ふざけてんのか?」
「とんでもない。だってオレ、別にあんたらに用ないし」
マタイのこめかみに青筋が浮いた。
「おちょくってんのか」
「だから、おちょくる程あんたらに興味もないっつーの」
マタイとハルルクの纏う空気が一気に張りつめた。びりびりと肌に伝わってくる殺気に、エルドが身を固くしたのがわかった。レジはため息を吐く。
「オレはここで他にしたい事があるんだけどな」
そう言い終わる前に、マタイとハルルクがレジに襲いかかって来た。エルドを脇に抱えてレジは後ろに逃げた。それまでレジが立ってた場所にマタイの拳がめり込む。氷や土が割れて塊が辺りに飛び散った。あとには直径1mほどのクレーター。
「ひぇ~、ばか力」
つい今しがた光る泉でパワーアップしたばかりなのだ、これでも手加減しているのだろう。レジが一目散に出口に向かって走り出しても、向こうに慌てる気配はなかった。むしろ、兎を狩る狼の様に、威圧的でありながらどこか余裕を感じる。
「は、離せ! 余所者」
はっと我に返ったエルドが、レジの腕の中で身をよじらせた。
「おいらは神の泉を守るんだ」
「やめとけって、さっき殺されかけたばかりだろ」
「うるさい、余所者がおいらに指図するな!」
「痛ってぇ――――!」
エルドを支えていた腕を噛まれて、レジは涙目になった。
「おい、こらっ。がきんちょ」
「ガキじゃない、エルドだ!」
痛みで力の緩んだレジの腕から逃れると、エルドは再び洞窟の奥へ足を向けてしまった。敵いっこないのに、またマタイとハルルクに勝負を挑む気だ。
「お前、少しは懲りろよ」
レジは懇願するが、エルドは聞く耳を持たない。
そうこうしている間にも洞窟の奥からはマタイとハルルクが近づいて来ていて。
「ああ、もう!」
不本意ではあるが、エルドを守る為、レジは仕方なく能力を使う事にした。
††††††††††††††††††
村の入り口付近には、マタイとハルルクに破れた村の男たちが転がっていた。皆、意識はあるが、立ち上がるだけの体力が残っていない様だった。深い傷を負って手当を受けている者もいる。
ロディは、目を逸らし続けてきた現実を目の当たりにして動けなくなった。
マタイとハルルクが来るたび、村の男たちが身体を張って闘っている事は知っていたが、村の中への侵入を許した事が一度もなかったので、もっとこちら側が優勢なのだと思っていた。しかし、実際は惨敗と言っても差し支えがないような有様だった。
ここで初めて、ロディはマタイとハルルクの目的が村そのものではなく、この近くの《何か》である事を知った。でなければ今ごろ、とっくに村は壊滅させられていただろう。小さな村の中に居ながら、そんな事も知らなかった自分に驚く。知ろうと思えば知るチャンスはいくらでもあったのに、気づこうともしなかった。自分の殻に閉じこもって、周りが見えていなかった。その事を改めて認識した。
「ロディ、か」
利き腕に包帯を巻いた男が、ロディに気づき、声をかけてきた。その顔には、今さら何をしに来た。そう書いてあるようにロディには見えた。しかし、彼はロディを責めるのではなく、不安げに辺りに目を走らせながら言った。
「エルドを見なかったか?」
「いえ、見ませんでした」
「そうか……」
「エルドがどうかしたんですか」
逆にロディが聞き返すと、男は僅かに目を見開いた。ロディが他人に興味を示すなんて、彼らにとっては珍しい事だからだ。けれども驚いた素振りを見せたのは一瞬。すぐに深刻な顔に戻って言葉を続けた。
「まさかとは思うが、一人でゴッドチャイルドを追って行ったんじゃないかと心配になってな」
「そのゴッドチャイルドは今どこに?」
「神の泉に向かったはずだ」
男は、村の目と鼻の先にある氷山を指差した。
氷山には洞窟があり、その洞窟の奥に光る泉があった。村の人間は、泉を《神の泉》と呼び、神聖な場所として崇めていた。
ロディも5年前、村に来たばかりの頃に一度だけ行った事がある。周囲に生えたヒカリゴケによって淡く光って見える泉は、神秘的だが何の変哲もないただの水たまりだった。そんな場所にゴッドチャイルドが何の用があるというのだろうか。ロディにはわからなかったが、そこを神聖視する村の人間たちにとっては一大事のようで、エルドに至っては泉に余所者が近づくだけで眉を吊り上げていたそうだ。血の気の多い彼なら、大人たちの目を盗んで一人で敵を追って行くことも充分考えられた。
ロディは、エルドを探す為、氷山へとつま先を向けた。けれど、足を踏み出すのが躊躇われた。
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