ゴッドチャイルド

虎うさぎ

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 5年前、エレナの命を奪ってしまった事がトラウマとなって、あれ以来ロディは戦う事が出来なくなってしまったのだ。マタイとハルルクというゴッドチャイルドが村を襲い始めた時だって、一度は村の為に戦おうとした。でも出来なかった。大切な人の命を奪ってしまった拳を、再び振り上げる勇気が持てなかったのだ。自分が戦場に立つ姿を想像しただけで吐き気をもよおしてしまったほどだ。アリシアが必要以上にロディに対して過保護な態度を取るきっかけも、そこにあったような気がする。
 エルドの安全を確保するためとはいえ、マタイとハルルクに出くわせば戦闘になる。そう考えただけで動けなくなってしまったロディを見て、男はため息を吐いた。
「無理はするな」
 今のロディが戦場に居ても、仲間の足を引っ張るだけだ。自分の身さえ護る事が出来ずに惚けてしまうのだから当然である。
「お前は村に残れ、俺が行く」
 戦闘では使い物にならないロディを追い抜いて、男が歩き出した。利き腕を負傷しているにも関わらず、その背に迷いはない。
 ロディの手の平にはじわりと汗が滲んでいた。エレナを失った時の恐怖が蘇る。だが、このまま男を見送って言い訳もない。頭ではわかっているのだ、このままではいけないと。でも、心がついていかない。身体が思うように動かない。口の中で血の味がした。情けない。自分がどうしようもなく情けない。

 ――――世界には戦いたくなくても戦わなくちゃいけない奴らだって大勢いるんだぞ。

 レジの声が蘇った。
 ああ、そうだ。その通りだと思う。かつての自分もそうだったのだから。

 ――――お前はそれでいいのか?

 よくはない。よくは、ないのだ。わかっている。
 戦いたくない。けれど、戦わねば守れないものもある。
 傷ついた村の男たちを見て、ロディの心は大きく揺さぶられていた。永い眠りから目覚めるように、意識が研ぎ澄まされていく。見えなかった光景が見えてくる。
「待ってくれ」
 絞り出すように、ロディは言った。
「待ってくれ、俺も、行く」
 全身から脂汗が吹き出した。膝が笑だしそうになるのは、なんとか堪えた。
 エレナを失った戦場に戻るのがとてつもなく恐ろしかった。引きこもりが5年ぶりに家の外に出る時は、こんな気分なのだろうか。緊張で、ろれつも回らなくなりそうだ。でも、行かなくては。エルドの無事を確かめなければ。例えここで運よくゴッドチャイルドとの戦闘を避けられたとしても、いつ彼らが村に攻め込んでくるかわからない。その時、村人だけで村を守れるのか。現状を見る限り無理だろう。そうなれば、ロディだって戦わなくてはならなくなるのだ。戦う事が怖いなどと言ってはいられなくなる。
「お前も来るのか?」
 男が心底驚いた顔をした。それから眉根をぎゅっと寄せて、不審そうな声を出す。
「大丈夫なのか? 顔色が真っ青だぞ」
「平気です」
 全然平気ではなかったけれど、ロディは大きく頷いて見せた。
 5年というブランクと、心に絡みついたトラウマのせいで思うように戦う事は出来ないかも知れない。だが、利き腕の使えない男よりはまともに戦えるはずだ。
「恩は、返したいと思ってますから」
 この5年、現実を見ずに思う存分自分の殻にこもっていられたのは、優しい村人たちのお蔭だ。その事に、ロディは恩義を感じていた。
 先の事はまだわからないけれど、まずは目の前の出来事をきちんと受け止めてみようと思った。
「…………わかった。来い」
 利き腕に包帯を巻いた男は、ロディの決意をくみ取ったのか改めて氷山に足を向けた。ロディも黙ってその背を追う。小さなことだが、同行を認められて内心ほっとしていた。そんな自分をまた情けなく感じる。昔のロディなら、他人の意見など無視して自分のしたいように行動していた。村の少年がいなくなったと聞けば、止められても一人で敵地にだって突っ込んで行っただろう。《無鉄砲》なのと《勇敢》は違うけれど、それでもやはり、今の自分は随分と軟弱になってしまったと思わずにはいられなかった。
 だが、今はそんな事を考えている時でもない。エルドの無事を確認するのが最優先なのだから。そう頭を切り替えようとした時だった。爆発音が辺りに響いたかと思うと、地面が揺れた。同時に、氷山の中からロディの見知った青年が煙を吐きながら宙へ投げ出されるのが見えた。
「レジ!」
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