ゴッドチャイルド

虎うさぎ

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 爆風に煽られた友人の身体が地面に叩き付けられる前に、ロディは彼を抱きとめた。レジの服はところどころが焼け焦げ、火傷も負っているようだった。
「ロディ?」
「何があった」
 痛みで苦悶の表情を浮かべながらも、レジは一人で立ち上がった。
「なんだよ。来たんじゃん、ちゃんと」
 強がるように白い歯を覗かせて笑うレジに、ロディは後ろめたさのようなものを覚えた。昔とは違う今の自分を見られる事に抵抗を感じたのだ。けれども、レジはそんなロディの様子に気づいた風もなく、口元を自嘲気味に歪め氷山を睨んだ。
「悪ぃ、ヘマしちまった」
 その言葉の意味は直ぐにわかった。煙の上がる氷山の中から、エルドを脇に抱えたマタイとハルルクが出て来たからだ。
「エルドの奴、せっかくオレが守ってやってたのに、勝手に敵に突っ込んで行って勝手に人質になりやがってさ。お蔭でオレはこの様だ」
 わざわざ説明されなくてもそれくらいの事は見て直ぐにわかった。それよりもロディには気になる点があった。
「なぁ、レジ。あいつら」
 マタイとハルルクを見て息を呑んだロディに、レジは満足気に笑った。
「ああ、そうだ」
 ロディには一目でわかった。肌で感じた。やつらは――――マタイとハルルクは《エレナの気配》を纏っている。
「あいつら、エレナと会ったのか?」
「いや、直接は会ってなかった」
「ならどうして、あいつらからエレナの気配がするんだ」
「わからない」
 でも、とレジは言う。
「そこの氷山がエレナちゃんと何か関係があるのは間違いない」
 にわかには信じられなかった。5年も前とはいえ、ロディだってその氷山には入った事があるのだ。一番奥にある泉にだって行った。けれど、その時は何もなかった。今も、氷山からは何も感じない。エレナを感じるのはマタイとハルルクからだけだ。
「とりあえず、話しはあいつらを何とかしてからだな」
 レジがマタイとハルルクを指した。
「エレナちゃんの能力はお前も知ってるだろ?」
「スキルアップ――――対象の能力を向上させる補助能力、か」
「一時的とはいえ、あいつらの能力は底上げされてる、手強いぞ。おまけに人質まで取られてる」
 さあどうする? 挑戦的なレジの視線がロディを映した。ロディは視界の端でそれを感じながら敵を見据えた。レジの言う通り、まずはエルドだ。人質をなんとかしなくては思うように戦う事も出来ない。
「へへ」
 隣でレジが笑い声を溢した。ロディは何事だと眉を潜める。
「悪い。こんなこと思ってる場合じゃないけどさ、でも」
 レジは嬉しそうに、子供のような無邪気でくったくのない笑顔で、本当に嬉しそうに言った。ロディとこうして肩を並べられる事を喜んでいる様子だった。
「なんか、わくわくするな」
 どこが。
 そう言ってやりたかった。
 わくわくするどころか、恐ろしい。5年ぶりの戦場も、エレナの気配を纏った相手と戦う事も、レジの笑顔も、この場の全てが恐ろしかった。だけど、弱音を吐く気にもなれなかった。きゅっと唇を引き結び、再び前を向く。
 聞いた話によると、マタイは何もないところで爆発を起こす能力を、ハルルクは氷を操る能力を有しているらしい。さて、そんな相手にどう戦うか。
 思案しているロディの横で、レジがマタイとハルルクに向かって腕を突き出した。彼の周囲の風が一点に圧縮され、手の平に嵐を閉じ込めたような風の球体が生まれる。
「オレが出来る限り敵の注意を引く」
 隙をついてエルドを奪い返せ。レジは暗にそう言っていた。
 レジの力は風を操る能力。広範囲に風を巻き起こして敵をかく乱させることも可能だった。
「待て、余所者が何をするつもりだ」
 利き腕に包帯を巻いた男が、レジを睨んだ。
 この村の人間は基本的に外部の人間を嫌っている。排他的な村なのだ。子供の時に村に流れ着いたロディはともかく、今日来たばかりのレジには敵意を剥き出しにしていた。
 ここはまだ村の入り口。利き腕に包帯をした男の他にも村の男たちが周囲には何人もいたが、皆レジを見る目は同じだった。村に害を成すマタイとハルルク同様、レジの事も敵とみなしている。そんな村人の様子にロディは気持ちが重たくなったが、レジは軽く肩を竦めただけだった。
「ロディ!」
 不穏な空気が漂うその場に似つかわしくない少女の高い声が響いた。アリシアだ。村の中に置いて来たはずのアリシアが、こちらに駆けよってくる。ロディを追って来たのだ。
「来るな」
 鋭いロディの声に、アリシアは足を止めた。傷を負った村の男たちと、マタイとハルルクに捕まったエルドの姿を見て青ざめている。
「女だ。おい、女がいるぞ、ハルルク」
「まだ子供だけど、なかなかいい女じゃないか」
 アリシアを認めたマタイとハルルクが下卑た嗤い声を漏らした。
 マタイに首根っこを押さえられているエルドが叫んだ。
「アリシア、逃げろ!」
 アリシア。その名に、マタイとハルルクは顔を見合わせた。
「なるほど、あれが村長の孫娘か」
「悪くない」
 マタイとハルルクが三日月状に目を細めたのを見て、アリシアの顔は更に青くなった。
「村の人間に手出しはさせない」
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