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ロディは、親の顔を知らずに育った。両親はロディが物心つく前に事故で亡くなったのだそうだ。だからロディは母親の兄夫婦の家に引き取られた。兄夫婦の家には三人の子供がおり、せまい家の中にロディの居場所はなかった。ゴッドチャイルドとしての能力を気味悪がられていたせいもあるだろう。ロディに与えられたのは、馬小屋だった。馬と一緒に寝起きし、召使いのように朝から晩までこき使われる。そんな毎日。友達だって、当然いなかった。兄夫婦からは罵倒を浴びない日がなかった。ロディの母がそれほどまでに兄嫁に嫌われていたのか、それとも兄嫁の心がただ単に腐っていたのか。幼いロディにとって、理由などどうでもよかった。
――――いつかあいつらを見返してやる。
そんな野心だけを静かに胸にたぎらせていた。
けれども、彼らを見返す前に国からある招集がかかった。魔王を倒すべく、国中からゴッドチャイルドが集められたのだ。ロディがゴッドチャイルドであると知った兄夫婦は、直ぐにロディを国に売った。子供だったロディにはそれに抗う術がなかった。
そして連れて行かれた先。魔王討伐の為に編成された軍の訓練施設でエレナと出逢った。
始めは、そこから逃げ出すことばかり考えていた。
ちょっと人と違うからと言ってなんだと言うのだ。魔王となんて戦いたくない。軍になんて所属したくない。だから逃げ出してやる。自由になるんだ。そう思っていた。
そんなロディが危なっかしく見えたのだろう。訓練施設の中で、エレナだけは何かとロディに声をかけてきた。
「友達になろうよ」
他人と馴れ合う気がなかったロディは、それを拒否した。それでも諦める事無く声をかけ続けてきた彼女に、嫌がらせをした事もある。彼女は怒ったけれど、ロディと距離を取るようなマネはしなかった。そうして同じ時間を過ごす内に、いつしかロディもエレナに心を開いていくようになり、二人の関係は生死をかけた戦場で互いの背中を預けられる良きパートナーへと変化していった。
そして魔王を倒すべく旅をする中で、多くの仲間との絆も深めていった。レジもその中の一人である。
始めこそ独りだったロディも、エレナを通じて多くの友人と、信頼し合える仲間を作る事が出来た。本人に気持ちを伝える事は気恥ずかしくて出来なかったけれど、それもこれも全てエレナが諦めずにロディと関わり続けてくれたお蔭だと心から感謝していた。
やがて、数多の犠牲を払いながらロディ、エレナ、レジの三人は魔王の元へと辿りついた。三人は限界以上の力を振り絞り、死に物狂いで魔王を倒す事に成功する。
だが、負傷して避難していた仲間の元へ戻る途中、限界を超えたロディの力が暴走してしまった。身体から放出されたエネルギーはリミッターを越えて、ロディの命を削る事で爆発的な破壊力を発揮した。本人でさえどうする事も出来ない巨大な力は、星をも壊しかねない凶暴さで瞬く間に辺りを焼け野原へと変えて行った。
そうして一度はロディから距離を取ったレジとエレナだったが、エレナだけは再びロディの元へと戻って来た。
「このままじゃ、ロディは多くの大地やそこに住む生き物の命を道連れにして死んでしまう」そう言って。
エレナは身体を張って、ロディを止めようとした。
彼女の力は「スキルアップ」――――補助能力。そして、同時に治癒の力も秘めていた。その《癒しの力》を使って、ロディの暴走を鎮めようとしたのだ。
しかし、止めどなく溢れるロディの力は、近づくもの全てを破壊し、傷つけた。エレナの肉体もまた同様だった。
一歩一歩、ロディに近づく度に、彼女の身体は傷つき、少しずつ形を失っていく。そんな姿を見たくなくて、ロディは叫んだ。「来るな」と。彼女は歩みを止めなかった。
ロディは恐怖した。力の暴走が止まらなければ、エレナが死んでしまう。彼女を失ったら、ロディはまた独りに戻ってしまう。そんなのは嫌だと。
そんな少年の心を読んだように、エレナは微笑んだ。
「大丈夫よ、ロディ。あなたはもう一人じゃない。だから、悲しまないで」
悲しむな、なんて無茶を言う。誰よりも大切な人が、誰よりも傍に居て欲しいと望んでいる人が、自分のせいで消えようとしているのに。
流れ出したロディの涙を、彼女はどう受け止めたのだろう。安心させるように、さらに笑みを深くして
「私の想いが、あなたを守るから」
そんな事を言うのだ。違うのに。《守られる》のではなく、《守る》存在になりたかったのに。なのに、一番護りたかった相手を、傷つける事しか出来ないなんて。悔しくて何度も叫んだ。
「止まってくれ!」
自分が力を制御できさえすれば、彼女を傷つけずに済む。だから、どうにかして暴走を止められないかと必死にあがいた。あがきながらエレナに対しても制止の声をかけ続けた。
「頼むから来ないでくれ。お前を失いたくないんだ」
だけど、それに彼女はまた笑った。嬉しそうに。
「ありがとう、ロディ。でもね、私もあなたを失いたくないの。だから――――……」
彼女の手がロディに届いた。抱きしめられ、温もりを感じたのは一瞬。暴走していたロディの能力が収まっていくのに比例して、彼女の身体が塵のように風に融けて消えて行く。
「いやだ、エレナ。行かないでくれ」
ロディは彼女を引き留めようとその華奢な身体を抱き返そうとしたけれど、腕は空を切るだけで何も捕まえる事は出来なかった。
「ロディ、大好き」
その笑顔だけを残して、彼女は、消えてしまった。命と引き換えにロディの暴走を止めて。
ロディは己の能力を呪った。自分が死ねば良かったんだと嘆いた。けれど、どんなに後悔しても、憎んでも、エレナを死なせてしまったという事実は覆せない。彼女に助けられた命を粗末にすることも出来ずに、ロディはレジや他の仲間が探しに来る前に姿をくらませた。そして当てもなくさ迷い歩いて、フリーレン共和国の片隅に佇む小さな村へと流れ着いたのだ。
―――
――――
――――いつかあいつらを見返してやる。
そんな野心だけを静かに胸にたぎらせていた。
けれども、彼らを見返す前に国からある招集がかかった。魔王を倒すべく、国中からゴッドチャイルドが集められたのだ。ロディがゴッドチャイルドであると知った兄夫婦は、直ぐにロディを国に売った。子供だったロディにはそれに抗う術がなかった。
そして連れて行かれた先。魔王討伐の為に編成された軍の訓練施設でエレナと出逢った。
始めは、そこから逃げ出すことばかり考えていた。
ちょっと人と違うからと言ってなんだと言うのだ。魔王となんて戦いたくない。軍になんて所属したくない。だから逃げ出してやる。自由になるんだ。そう思っていた。
そんなロディが危なっかしく見えたのだろう。訓練施設の中で、エレナだけは何かとロディに声をかけてきた。
「友達になろうよ」
他人と馴れ合う気がなかったロディは、それを拒否した。それでも諦める事無く声をかけ続けてきた彼女に、嫌がらせをした事もある。彼女は怒ったけれど、ロディと距離を取るようなマネはしなかった。そうして同じ時間を過ごす内に、いつしかロディもエレナに心を開いていくようになり、二人の関係は生死をかけた戦場で互いの背中を預けられる良きパートナーへと変化していった。
そして魔王を倒すべく旅をする中で、多くの仲間との絆も深めていった。レジもその中の一人である。
始めこそ独りだったロディも、エレナを通じて多くの友人と、信頼し合える仲間を作る事が出来た。本人に気持ちを伝える事は気恥ずかしくて出来なかったけれど、それもこれも全てエレナが諦めずにロディと関わり続けてくれたお蔭だと心から感謝していた。
やがて、数多の犠牲を払いながらロディ、エレナ、レジの三人は魔王の元へと辿りついた。三人は限界以上の力を振り絞り、死に物狂いで魔王を倒す事に成功する。
だが、負傷して避難していた仲間の元へ戻る途中、限界を超えたロディの力が暴走してしまった。身体から放出されたエネルギーはリミッターを越えて、ロディの命を削る事で爆発的な破壊力を発揮した。本人でさえどうする事も出来ない巨大な力は、星をも壊しかねない凶暴さで瞬く間に辺りを焼け野原へと変えて行った。
そうして一度はロディから距離を取ったレジとエレナだったが、エレナだけは再びロディの元へと戻って来た。
「このままじゃ、ロディは多くの大地やそこに住む生き物の命を道連れにして死んでしまう」そう言って。
エレナは身体を張って、ロディを止めようとした。
彼女の力は「スキルアップ」――――補助能力。そして、同時に治癒の力も秘めていた。その《癒しの力》を使って、ロディの暴走を鎮めようとしたのだ。
しかし、止めどなく溢れるロディの力は、近づくもの全てを破壊し、傷つけた。エレナの肉体もまた同様だった。
一歩一歩、ロディに近づく度に、彼女の身体は傷つき、少しずつ形を失っていく。そんな姿を見たくなくて、ロディは叫んだ。「来るな」と。彼女は歩みを止めなかった。
ロディは恐怖した。力の暴走が止まらなければ、エレナが死んでしまう。彼女を失ったら、ロディはまた独りに戻ってしまう。そんなのは嫌だと。
そんな少年の心を読んだように、エレナは微笑んだ。
「大丈夫よ、ロディ。あなたはもう一人じゃない。だから、悲しまないで」
悲しむな、なんて無茶を言う。誰よりも大切な人が、誰よりも傍に居て欲しいと望んでいる人が、自分のせいで消えようとしているのに。
流れ出したロディの涙を、彼女はどう受け止めたのだろう。安心させるように、さらに笑みを深くして
「私の想いが、あなたを守るから」
そんな事を言うのだ。違うのに。《守られる》のではなく、《守る》存在になりたかったのに。なのに、一番護りたかった相手を、傷つける事しか出来ないなんて。悔しくて何度も叫んだ。
「止まってくれ!」
自分が力を制御できさえすれば、彼女を傷つけずに済む。だから、どうにかして暴走を止められないかと必死にあがいた。あがきながらエレナに対しても制止の声をかけ続けた。
「頼むから来ないでくれ。お前を失いたくないんだ」
だけど、それに彼女はまた笑った。嬉しそうに。
「ありがとう、ロディ。でもね、私もあなたを失いたくないの。だから――――……」
彼女の手がロディに届いた。抱きしめられ、温もりを感じたのは一瞬。暴走していたロディの能力が収まっていくのに比例して、彼女の身体が塵のように風に融けて消えて行く。
「いやだ、エレナ。行かないでくれ」
ロディは彼女を引き留めようとその華奢な身体を抱き返そうとしたけれど、腕は空を切るだけで何も捕まえる事は出来なかった。
「ロディ、大好き」
その笑顔だけを残して、彼女は、消えてしまった。命と引き換えにロディの暴走を止めて。
ロディは己の能力を呪った。自分が死ねば良かったんだと嘆いた。けれど、どんなに後悔しても、憎んでも、エレナを死なせてしまったという事実は覆せない。彼女に助けられた命を粗末にすることも出来ずに、ロディはレジや他の仲間が探しに来る前に姿をくらませた。そして当てもなくさ迷い歩いて、フリーレン共和国の片隅に佇む小さな村へと流れ着いたのだ。
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