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第6章 焦がす想い
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彬智と茉莉花は寄り添うように暮らした。
屋敷でもそうだが大学でも行動を共にし、華やかな容姿で人目を惹きつける二人は、学内でその名を知らない者がいないほどすっかり有名になっていた。
しかも彬智は友人から問われれば意味深な笑顔を見せ自ら否定せず、いつしか茉莉花は彬智の交際相手だと、周囲から認定されてしまった。
ある日の夕食後、リビングでのんびりと本を広げる彬智に、茉莉花は眉を寄せて尋ねた。
「ねえ、私がアキの彼女ってことになっているけど、このままでいいの?」
「俺は全然困らない。マリがイイならそういう事にしておいて。」
「でも!」
「だって彼氏が居た方が、マリも寄って来る男を払いのけるのに好都合でしょ?」
悪びれもせずニコリと微笑む彬智に、茉莉花はドキリと胸を高鳴らせた。
高塔家の名声を利用しようとする貪欲な御曹司たちに茉莉花は狙いを定められていた。人の好い彼女は巧妙に言い寄る男たちを上手くかわす術を知らず、そんなときはすかさず彬智が妨害に入り茉莉花を救った。
「アキは……彼女を作らなくていいの?」
「前にも言っただろ?俺はエリをずっと想って、そしてマリを護って生きていく。マリがそばにいてくれればそれでいい。」
今でも姉との思い出の場所に、彬智は茉莉花を連れていく。そうして昔と同じように景色を眺め、食事を取り、買い物をする。家に帰ってからも彼女のそばを離れない。毎日の食事は欠かさず高塔の屋敷で取り、夜は就寝まで他愛ないおしゃべりをしながら茉莉花と過ごす。
まるで、恋人同士のように……
だが、彬智が自分を家族のようにしか思っていないのは十分思い知っている。そばにいればいるほど、恋しい心は膨らんで行くのに……
「マリちゃん、お電話ですよ。」
家政婦の美智代に呼ばれ、誰からかしらと黒い受話器を受け取ると、「マリ~!」と甘えた声がした。掛けてきたのは美織だ。
「久しぶり!元気だった?」
「元気よ!マリったら忙しすぎだわ、たまには私と遊んでよー!それより……晃輔のことなんだけど、様子はどう?」
「特に変わりは無いけど?そういえば、サークル活動が忙しいみたい。」
大学生活をエンジョイしている晃輔はテニスサークルに入会し、茉莉花に一緒にやろうと何度も誘ってくる。愉しげな話を聞かされるとウキウキ心は騒ぐのだが、晃輔のように気楽な真似は出来ないと自重しているのだ。
「もしかして、浮気していない!?」
「まさか~!晃輔が、そんなことするはずないよ!」
「だけど最近じゃあデートにも誘ってくれないし……彼から電話もこないし……私から電話すると、ほら、彼の家、お手伝いさんがいるじゃない?それで、いつも坊ちゃまはご不在です~って断られるんだ……まさか、避けられているのかな?」
「美織は短大の授業が忙しいって、晃輔は言っていたわよ?だから、遠慮しているんじゃない?」
「そうかな……」
「あの晃輔に限って、浮気なんか心配ないわよ。」
はぐらかしてみたものの、茉莉花には美織に話せないことがあった。晃輔が同級生の女子とカフェテリアで仲よさそうに食事をしている場面に何度も遭遇するからだ。そんな時、晃輔は「サークル仲間だよ!」と笑っていたのだが……
しばらく世間話をし電話を切ったあと、茉莉花は晃輔を追求しようと再度受話器を掴んだ。
「ただいま。」
カチャリと玄関が開き、母の藍咲が帰って来た。
「お帰りなさい、こんな時間に珍しいわね。」
「ええ、たまには身体を休めないと……ところで彬智は?」
「リビングにいるわよ。」
「ちょうど良かった。あなたたちに話があるの。」
藍咲は一旦自室に消え、着替えを済ませるとリビングにやってきた。藍咲の姿を目にした彬智は分かりやすいくらい緊張した面持ちで姿勢を正した。
「お母さん、話って何?」
コーヒーカップを差し出しながら茉莉花が尋ねると、藍咲は勿体つけるようにこくりとコーヒーを飲み、そしてすっと冷ややかな目を娘と彬智に投げかけた。
「あなたたち、ずいぶん仲が良いようだけど、まさか深い関係になったりしていないわよね?」
「ヤダ!当たり前じゃない!」
慌てた茉莉花は自分のカップをソーサーに置き損ねてチャプリとコーヒーを零してしまった。
「藍咲さま、俺とマリは何でもありませんよ。」
「それならいいの。余計な噂話を立てないようにね。」
「はい。」
神妙に頭を下げる彬智を、藍咲はまた冷ややかに眺める。
「それから、今週末に神崎の新規事業のオープニングセレモニーがあって、パーティーに呼ばれているの。茉莉花と彬智も誘われているからそのつもりで。」
「俺もですか?」
「ええ、神崎会長が隆彬の忘れ形見に逢いたいって……あなた、スーツは持っていたかしら?明日デパートの外商部をうちに寄こすから用意しましょう。」
「たぶん父さんの残したスーツがありますよ?」
「……それはダメ、手を通さないで遺しておいて……私が処分しますから。」
それだけ言うと、藍咲はふと口を噤んだ。そっと立ち上がり、そのまま黙って部屋を出て行った。
困ったように顔をしかめる彬智に、茉莉花は励ますように微笑んでみせた。
「パーティーって言っても難しいことは無いわ。おしゃべりしてお食事をして、お互いの話をするだけよ。」
「マリは慣れているんだね……ねえ、俺もマリと一緒に経営セミナーに参加したい。高塔財閥の総裁になったマリを支えて行きたいんだ。東京で学んでいるキョウのように……」
「お母さんに頼んでみる。でも、アキがお母さんの言いつけに背いてこっちに残ったりするから、お母さんは今でも凄く怒っているの。」
「それは何度でも謝るよ。でも、あの時は、マリのそばを離れたくなかったんだ。」
茉莉花は思わず硬直した。
ああどうしよう、アキは絶対私が願っているような意味で言っているのじゃない、なのに勝手に顔が赤らむ。
無自覚な彬智の煽り言葉を真に受けてはいけないと、茉莉花はうつむき綻ぶ顔を見られないようにした。
その週末、茉莉花と彬智は藍咲に伴われ、隣県にある神崎財閥の本社を訪れた。そこで祖父ほどの年令の神崎会長に紹介され、藍咲と同年代の社長と談笑し、その後パーティー会場へと誘われた。
会場に足を踏み入れた途端、その場にいた大勢の招待客たちは、並外れた美しい容姿の彬智と茉莉花に目を奪われ、感激の吐息を漏らした。
「さすが『高塔の珠玉』だな。みんなが見惚れているよ。ほらみんな、聞いてくれ、この子があの吉良隆彬の忘れ形見だ。」
老齢の神崎会長は自分の孫を自慢するように上機嫌で彬智を自ら客たちに紹介して回った。そのうしろ姿を見送って、藍咲は深くため息を吐いた。
「良かったわ。彬智は隆彬と違ってあまり愛想が良くないから心配していたの。」
「お母さん、アキはアキよ。おじさまと比べないで。」
ムッと口を尖らせる母親を、茉莉花はキッと睨みつけた。
「そうだ、大貴が帰ってきているはず。」
藍咲は素知らぬ顔で茉莉花を連れて会場を散策した。ひときわ華やかで賑やかな青年の集団の一人に声を掛けた。
「大貴!久しぶりね、娘の茉莉花を連れて来たわ。」
「藍咲おばさま、お久しぶりです!」
栗色の巻き毛を快活に揺らし華やかな作りの顔立ちを綻ばせ、神崎大貴がぺこりと頭を下げた。
「うわっ、もしかしてマリ!?綺麗になったな~!」
「大貴は相変わらずお世辞がお上手ね。」
幼い頃に遊んだ思い出があっという間に蘇り、茉莉花と大貴は直ぐに意気投合した。藍咲は安心して娘を大貴に託すと、商談を目当てに招待客の間を挨拶して回った。
大貴は茉莉花を誘い、ジュースを持って部屋の片隅に移動した。
「マリ、エリの話を聞いたよ……可哀想に、事故だったってな。」
「うん、今でも嘘みたい、エリが亡くなったなんて……大貴はエリが大好きだったわね。」
「ぜ~んぜん、相手にされなかったけどな!だけど、まさか、死んじまうなんて……」
大貴はスッと一筋涙を流した。茉莉花も不意に涙を浮かべ、二人で束の間、英梨花の死を悼んだ。
「あのね、大貴……エリは事故じゃない、自殺したの。」
「その話、恭弥に聞いた。俺、恭弥と同じ大学に通っていて、仲が良いんだぜ。アイツほど、勉強はしていないけど。」
「キョウは元気?長いお休みになっても全然帰って来ないのよ。」
「それは、藍咲おばさまにお許しをもらえないからだ。」
「どうして!?」
「たぶん、お前と恭弥を近づけないためだろうな。」
大貴の話を聞いた茉莉花は愕然とした。
「キョウに、逢いたい……顔を見て、話したいことが、いっぱいある……」
「それを聞いたら、恭弥の奴、飛び上がって喜ぶぜ。アイツ、何かって言えばマリとアキ?だっけ、お前らの話ばっかりするからな。」
「そうだ、アキを紹介するわ。まだ逢っていなかったわよね?」
「ああ、逢いたかったよ。誰もが誉めそやす『高塔の珠玉』とやらに。」
大貴の瞳がキラリと光った。好奇心ではない、獲物を狙うような、鋭い光……
茉莉花は戸惑いながらも大貴と共に彬智を探した。
すると中庭に出入りする大窓のところでスラリとした彬智の姿を見つけた。
その横には、彬智に似合いの美しい少女が彼を見上げて蕩けるように微笑んでいる。
「げっ!」
大貴が小さく呻いた。
「知っている人?」
「ああ、神崎のライバル会社のご令嬢だ。」
大貴が先を歩き、茉莉花はその後を追った。そして、彬智と少女の前に立ち、二人に話し掛けた。
「アキ!紹介するわ、神崎財閥の次期当主、神崎大貴、私の幼馴染みなの。」
「……どうも、吉良彬智です。」
胡散臭げに眼を細め、彬智は大貴に挨拶した。
「この方は?」
「初めまして、私は御園生梢子でございます。高塔茉莉花さん、ですわよね。」
物怖じしない梢子は、茉莉花に向かって優雅な仕草でお辞儀をした。
屋敷でもそうだが大学でも行動を共にし、華やかな容姿で人目を惹きつける二人は、学内でその名を知らない者がいないほどすっかり有名になっていた。
しかも彬智は友人から問われれば意味深な笑顔を見せ自ら否定せず、いつしか茉莉花は彬智の交際相手だと、周囲から認定されてしまった。
ある日の夕食後、リビングでのんびりと本を広げる彬智に、茉莉花は眉を寄せて尋ねた。
「ねえ、私がアキの彼女ってことになっているけど、このままでいいの?」
「俺は全然困らない。マリがイイならそういう事にしておいて。」
「でも!」
「だって彼氏が居た方が、マリも寄って来る男を払いのけるのに好都合でしょ?」
悪びれもせずニコリと微笑む彬智に、茉莉花はドキリと胸を高鳴らせた。
高塔家の名声を利用しようとする貪欲な御曹司たちに茉莉花は狙いを定められていた。人の好い彼女は巧妙に言い寄る男たちを上手くかわす術を知らず、そんなときはすかさず彬智が妨害に入り茉莉花を救った。
「アキは……彼女を作らなくていいの?」
「前にも言っただろ?俺はエリをずっと想って、そしてマリを護って生きていく。マリがそばにいてくれればそれでいい。」
今でも姉との思い出の場所に、彬智は茉莉花を連れていく。そうして昔と同じように景色を眺め、食事を取り、買い物をする。家に帰ってからも彼女のそばを離れない。毎日の食事は欠かさず高塔の屋敷で取り、夜は就寝まで他愛ないおしゃべりをしながら茉莉花と過ごす。
まるで、恋人同士のように……
だが、彬智が自分を家族のようにしか思っていないのは十分思い知っている。そばにいればいるほど、恋しい心は膨らんで行くのに……
「マリちゃん、お電話ですよ。」
家政婦の美智代に呼ばれ、誰からかしらと黒い受話器を受け取ると、「マリ~!」と甘えた声がした。掛けてきたのは美織だ。
「久しぶり!元気だった?」
「元気よ!マリったら忙しすぎだわ、たまには私と遊んでよー!それより……晃輔のことなんだけど、様子はどう?」
「特に変わりは無いけど?そういえば、サークル活動が忙しいみたい。」
大学生活をエンジョイしている晃輔はテニスサークルに入会し、茉莉花に一緒にやろうと何度も誘ってくる。愉しげな話を聞かされるとウキウキ心は騒ぐのだが、晃輔のように気楽な真似は出来ないと自重しているのだ。
「もしかして、浮気していない!?」
「まさか~!晃輔が、そんなことするはずないよ!」
「だけど最近じゃあデートにも誘ってくれないし……彼から電話もこないし……私から電話すると、ほら、彼の家、お手伝いさんがいるじゃない?それで、いつも坊ちゃまはご不在です~って断られるんだ……まさか、避けられているのかな?」
「美織は短大の授業が忙しいって、晃輔は言っていたわよ?だから、遠慮しているんじゃない?」
「そうかな……」
「あの晃輔に限って、浮気なんか心配ないわよ。」
はぐらかしてみたものの、茉莉花には美織に話せないことがあった。晃輔が同級生の女子とカフェテリアで仲よさそうに食事をしている場面に何度も遭遇するからだ。そんな時、晃輔は「サークル仲間だよ!」と笑っていたのだが……
しばらく世間話をし電話を切ったあと、茉莉花は晃輔を追求しようと再度受話器を掴んだ。
「ただいま。」
カチャリと玄関が開き、母の藍咲が帰って来た。
「お帰りなさい、こんな時間に珍しいわね。」
「ええ、たまには身体を休めないと……ところで彬智は?」
「リビングにいるわよ。」
「ちょうど良かった。あなたたちに話があるの。」
藍咲は一旦自室に消え、着替えを済ませるとリビングにやってきた。藍咲の姿を目にした彬智は分かりやすいくらい緊張した面持ちで姿勢を正した。
「お母さん、話って何?」
コーヒーカップを差し出しながら茉莉花が尋ねると、藍咲は勿体つけるようにこくりとコーヒーを飲み、そしてすっと冷ややかな目を娘と彬智に投げかけた。
「あなたたち、ずいぶん仲が良いようだけど、まさか深い関係になったりしていないわよね?」
「ヤダ!当たり前じゃない!」
慌てた茉莉花は自分のカップをソーサーに置き損ねてチャプリとコーヒーを零してしまった。
「藍咲さま、俺とマリは何でもありませんよ。」
「それならいいの。余計な噂話を立てないようにね。」
「はい。」
神妙に頭を下げる彬智を、藍咲はまた冷ややかに眺める。
「それから、今週末に神崎の新規事業のオープニングセレモニーがあって、パーティーに呼ばれているの。茉莉花と彬智も誘われているからそのつもりで。」
「俺もですか?」
「ええ、神崎会長が隆彬の忘れ形見に逢いたいって……あなた、スーツは持っていたかしら?明日デパートの外商部をうちに寄こすから用意しましょう。」
「たぶん父さんの残したスーツがありますよ?」
「……それはダメ、手を通さないで遺しておいて……私が処分しますから。」
それだけ言うと、藍咲はふと口を噤んだ。そっと立ち上がり、そのまま黙って部屋を出て行った。
困ったように顔をしかめる彬智に、茉莉花は励ますように微笑んでみせた。
「パーティーって言っても難しいことは無いわ。おしゃべりしてお食事をして、お互いの話をするだけよ。」
「マリは慣れているんだね……ねえ、俺もマリと一緒に経営セミナーに参加したい。高塔財閥の総裁になったマリを支えて行きたいんだ。東京で学んでいるキョウのように……」
「お母さんに頼んでみる。でも、アキがお母さんの言いつけに背いてこっちに残ったりするから、お母さんは今でも凄く怒っているの。」
「それは何度でも謝るよ。でも、あの時は、マリのそばを離れたくなかったんだ。」
茉莉花は思わず硬直した。
ああどうしよう、アキは絶対私が願っているような意味で言っているのじゃない、なのに勝手に顔が赤らむ。
無自覚な彬智の煽り言葉を真に受けてはいけないと、茉莉花はうつむき綻ぶ顔を見られないようにした。
その週末、茉莉花と彬智は藍咲に伴われ、隣県にある神崎財閥の本社を訪れた。そこで祖父ほどの年令の神崎会長に紹介され、藍咲と同年代の社長と談笑し、その後パーティー会場へと誘われた。
会場に足を踏み入れた途端、その場にいた大勢の招待客たちは、並外れた美しい容姿の彬智と茉莉花に目を奪われ、感激の吐息を漏らした。
「さすが『高塔の珠玉』だな。みんなが見惚れているよ。ほらみんな、聞いてくれ、この子があの吉良隆彬の忘れ形見だ。」
老齢の神崎会長は自分の孫を自慢するように上機嫌で彬智を自ら客たちに紹介して回った。そのうしろ姿を見送って、藍咲は深くため息を吐いた。
「良かったわ。彬智は隆彬と違ってあまり愛想が良くないから心配していたの。」
「お母さん、アキはアキよ。おじさまと比べないで。」
ムッと口を尖らせる母親を、茉莉花はキッと睨みつけた。
「そうだ、大貴が帰ってきているはず。」
藍咲は素知らぬ顔で茉莉花を連れて会場を散策した。ひときわ華やかで賑やかな青年の集団の一人に声を掛けた。
「大貴!久しぶりね、娘の茉莉花を連れて来たわ。」
「藍咲おばさま、お久しぶりです!」
栗色の巻き毛を快活に揺らし華やかな作りの顔立ちを綻ばせ、神崎大貴がぺこりと頭を下げた。
「うわっ、もしかしてマリ!?綺麗になったな~!」
「大貴は相変わらずお世辞がお上手ね。」
幼い頃に遊んだ思い出があっという間に蘇り、茉莉花と大貴は直ぐに意気投合した。藍咲は安心して娘を大貴に託すと、商談を目当てに招待客の間を挨拶して回った。
大貴は茉莉花を誘い、ジュースを持って部屋の片隅に移動した。
「マリ、エリの話を聞いたよ……可哀想に、事故だったってな。」
「うん、今でも嘘みたい、エリが亡くなったなんて……大貴はエリが大好きだったわね。」
「ぜ~んぜん、相手にされなかったけどな!だけど、まさか、死んじまうなんて……」
大貴はスッと一筋涙を流した。茉莉花も不意に涙を浮かべ、二人で束の間、英梨花の死を悼んだ。
「あのね、大貴……エリは事故じゃない、自殺したの。」
「その話、恭弥に聞いた。俺、恭弥と同じ大学に通っていて、仲が良いんだぜ。アイツほど、勉強はしていないけど。」
「キョウは元気?長いお休みになっても全然帰って来ないのよ。」
「それは、藍咲おばさまにお許しをもらえないからだ。」
「どうして!?」
「たぶん、お前と恭弥を近づけないためだろうな。」
大貴の話を聞いた茉莉花は愕然とした。
「キョウに、逢いたい……顔を見て、話したいことが、いっぱいある……」
「それを聞いたら、恭弥の奴、飛び上がって喜ぶぜ。アイツ、何かって言えばマリとアキ?だっけ、お前らの話ばっかりするからな。」
「そうだ、アキを紹介するわ。まだ逢っていなかったわよね?」
「ああ、逢いたかったよ。誰もが誉めそやす『高塔の珠玉』とやらに。」
大貴の瞳がキラリと光った。好奇心ではない、獲物を狙うような、鋭い光……
茉莉花は戸惑いながらも大貴と共に彬智を探した。
すると中庭に出入りする大窓のところでスラリとした彬智の姿を見つけた。
その横には、彬智に似合いの美しい少女が彼を見上げて蕩けるように微笑んでいる。
「げっ!」
大貴が小さく呻いた。
「知っている人?」
「ああ、神崎のライバル会社のご令嬢だ。」
大貴が先を歩き、茉莉花はその後を追った。そして、彬智と少女の前に立ち、二人に話し掛けた。
「アキ!紹介するわ、神崎財閥の次期当主、神崎大貴、私の幼馴染みなの。」
「……どうも、吉良彬智です。」
胡散臭げに眼を細め、彬智は大貴に挨拶した。
「この方は?」
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