北壁の白雪少将の婚礼(アルファポリス版)

みきかなた

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フレデリクは細くてしなやかな長い指を絡めて手を繋ぎ、組み敷いたヴィクトリアの頬に唇に何度もキスを落とした。彼女の口から漏れる甘い喘ぎを聞き、征服した悦びに舞い上がり満面の笑みを浮かべる。

「ヴィク、ああ、ヴィク、やっと俺のものになった。」

彼女の胸元を覆う邪魔な布を押し退けながら、首筋から鎖骨へ乳房の谷間へと愛撫を落とし腹へ茂みへ舌先を進める。秘裂に辿り着くと啄むように蜜を啜った。

「フフ、こんなにグチャグチャに濡らして。俺が欲しくてしょうがないんだね。」

「んっ、はぁ、フレド……ああぁっ!」

柔らかな金色の巻き毛を指に絡みつけ、ヴィクトリアは呻いた。ついさっき琥珀色の短い髪を愛おしんだばかりなのに。肉厚の舌で蕩かされた秘裂からあの時と同じように蜜が零れ落ちる。なんて淫乱な身体なのだ。男の情欲に振り回され、熱に溶かされ喘ぎ悶えるとは。これが、私か?こんなに淫らな人間だったのか?

「ああっ、もう、繋がりたい。ねぇ、ヴィクが挿れて、手で掴んで、俺をいざなって。」

フレデリクは固くなった己を蜜に擦りつけ、強請るように耳元で囁いた。

「そんなことをしても、私はフレドのものにはならない。」

不意に冷ややかな言葉で突かれ、フレデリクはハッと身を竦めた。その隙を突き、ヴィクトリアは体勢を入れ替え、ぐいと彼の肩を掴んでベッドに捻じ伏せた。突きつけられた拒絶にガチリと心を拘束されたフレデリクは、怒りを宿す紺碧の瞳に捉えられ身動き出来ずにいた。

「力ずくで私を手に入れられると思うなよ、フレデリク。」

「じゃあ、どうしたら、ヴィクは俺のものになるの?どうしたら、ヴィクは愛してくれるの?」

叱られた幼い子供のようにフレデリクはヴィクトリアの胸に縋り付いた。

「フレドのことは愛している、今も昔も変わらずに。」

「違う!俺が欲しいのはそんな愛じゃない!」

「大人なら、自分の気持ちばかりを相手に押し付けるな。」

フレデリクの頬を両手で挟み、ヴィクトリアはそっと唇を重ねた。

「可愛いフレド、私はあなたを愛している。だからそう焦るな。」

「嫌だ!今手に入れなきゃヴィクはまた遠くに行っちゃうんだ!だから今、俺のものになって!」

「私は誰のものでもない。私は私のもの、私の人生は私が決める。」

金色の巻き毛にキスを落とし、ヴィクトリアは優しくフレデリクの頭を撫でた。

「出立は明日の朝にしよう。こんな暗く寒い夜に出掛けるのでは御者も馬も可哀想だ。途中で道に迷うこともある。」

「でも!」

「いいよ、今夜はフレドと一緒に眠る。だけど最後まではしないからね。私の言いつけが聞けないなら、隣りの部屋で一人で眠りなさい。」

「ヴィク……」

「大丈夫、どこにも行かない、痛い目にも合わせない。私はフレドのそばにいる。だから、ゆっくりお休みなさい。」

クスリと微笑みフレデリクに跨がると、彼の首に腕を回しぎゅっと抱きしめ顔を埋めた。

「ズルイよ、ヴィク!……最後までしちゃダメなの?」

「ダメ、我慢しなさい。」

「こんなにぎゅっとされたら、ドキドキして眠れないよ!」

「じゃあ、昔みたいに子守唄をうたってやろうか?」

「子供扱いしないで!」

「ウフフ、フレドはまだ子供だ。もっと良い男にならなきゃ、私はこの身をあなたには預けられないよ?」

「良い男になる!だから、俺のものになって、ヴィク!」

「分かった、だから、お休み。」

スリスリと頭を撫でると、諦めたのかフレデリクはヴィクトリアを抱え込み頬に顔を寄せ目を閉じた。しばらくして、すうすうと穏やかな寝息を立てた。

「……姫さま、あの、お出掛けはいかがいたします?」

どうやら隣りの部屋で様子をうかがっていたらしいマリアンヌが恐る恐る顔を覗かせた。

「明日の朝一番に出掛けるよ。今日はすまなかったな、マリアンヌ。」

「いえ、姫さまこそお疲れでしょう?」

「大したことではない。まったく、子供のくせに図体ばかり大きくなって。」

「フレデリクさまは、お小さい頃から姫さまにぞっこんでしたからね!」

あどけない顔で寝入るフレデリクを覗き込み、マリアンヌはフフと笑った。

「でも、どうなさるおつもりですか?このまま王都にお帰りになったら、嫌でもフレデリクさまとご結婚なさることになりますよ?」

「それも一興かもしれないね。」

「ヴィクトリアさまったら!……まさか、それは本心ですか?」

「今夜一晩、この子の寝顔を見ながら考えることにするよ。」

「ええ、分かりました。それで、あの……マチアスのことは……」

「アレがどうした?」

「いえ、何でも……姫さまは、マチアスがお好きなのかと思っていたのです。」

「そうだな、でも人の心など儚いものだ。通じ合っていると思っていたのに、それは思い違いだったかもしれない。」

「そんなことは……!」

「お休みマリアンヌ。明日は朝から、また忙しいよ。」

「畏まりました。では。」

マリアンヌはふと眉を寄せ、そして部屋を出るとカチャリと鍵を掛けた。



朝になり、北壁の猛者達はざわざわと噂話をし合った。ヴィクトリアとフレデリクが仲良く手を繋ぎ、揃って王都に向かう姿を眺め、皆が一斉にため息を吐いた。

「姫さまは、あの男と結婚するのか?」

「そうしたら、この砦の司令官は誰になるんだ。」

「あの、南方司令部の腑抜け野郎だよ。」

「姫さま、どうかして、結婚なんぞ取りやめてくれればよいのに!」

厳つい身なりの男たちが挙ってヴィクトリアの去就に惑い狼狽えた。

「マチアス、マチアスは居るか!」

振り返り声を張り、ヴィクトリアは目当ての男の姿を群衆の中から探した。

「ここに居ります。」

青ざめた顔をしたマチアスがふらりと現れた。

「なんだまた朝まで飲んでいたのか?ずいぶんと情けない顔をしているじゃないか。」

「お前はずいぶんと色艶のいい顔をしている。昨夜は王子に思う存分可愛がられたのか?」

「マチアスに気遣われる筋合いではない。」

ドンとマチアスの胸に拳を突きつけ、ヴィクトリアは舐めるようにマチアスを下から見上げた。

「私がいない間、ここの留守番を頼んだぞ。」

くるりと踵を返すと、フレデリクを伴い馬車に乗り込んだ。

「姫さまが行ってしまわれる……」

残された男たちは涙を流さんばかりに森の道を走り去る馬車の行方を追った。

「いいのかマチアス、このままで。」

ぼんやりと佇むマチアスの横に立ち、ジョゼフがそっと囁いた。

「俺は命じられた通り留守番をしているよ。」

ニコリと微笑み、マチアスはその場を去った。



梯子を上り櫓のてっぺんに辿り着く。北壁を囲む深い森は今日も凍るほど冷たい風に吹きさらされる。この場でヴィクトリアと二人で警備をした時をマチアスは思い出した。

風の冷たい日だった。珍しくヴィクトリアが不安げに顔を曇らせ、つい手を伸ばして彼女を囲い込んだ。優しい温もり、柔らかな感触、今でもありありと思い出せる。

もう、あれは俺のものにはならないのか。

「……留守番なんかしていられるか!」

マチアスは梯子を一気に下り、士官の執務室に飛び込むと、その場で煙草を燻らせていたジョゼフに掴みかかった。

「俺も王都に行く!ヴィクを取り返してくる!」

「ああ、行っておいで、お前の気が済むようにしておいで。留守番なら、わしらに任せておきなさい。」

「ありがとう!」

厩に走り、一番早い馬に乗り鞭を打つ。逸る気持ちを抑えきれない。

「ヴィク、ヴィク、待っていろよ!」

王都へ向かう雪の街道を、マチアスは急ぎ馬を走らせた。




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