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02 あの品
しおりを挟むある日のこと。
「サンダーの旦那。面白いものを見つけやしたぜ」
盗賊のフッドが俺を訪ねてきた。
盗賊といっても、違法なことを生業とする人間ではない。盗賊というのは、あくまでも冒険者パーティーでの役割名だ。
手先が器用で目端が利いて知識も豊富、さらには身軽ですばっしこい、そういう者がこの役割を負う。錠前師と斥候と学者と軽業師を足して四で割ったようなもの。その道一筋の本業にはかなわないから器用貧乏とけなす奴もいるが、そいつは浅薄なものの考え方だ。
どんな道具でも、常に最上級品が優れているなんてことはない。十徳ナイフで十分な場合など、いくらでもある。携帯性を考えると、その方が良かったりもする。ともかく、盗賊一人いるだけでいろいろな場面で捗ることが多いのだ。
フッドとは何度も仕事を一緒にしたことがあるが、なかなか面白い奴だ。
この世界は文化的にはだいぶ遅れているようで、元現代人の俺としては退屈させられることも多い。しかしフッドの持ち込む話は、それを紛らわせてくれることがままあった。
フッドが持って来たそれを受け取って、しばし眺めまわす。
幅約2cm、長さ約4cm、厚みが約1cmの黒いプラスチックの様な材質の何か。
俺はそれを見たことがある気がした。いや、結構頻繁に使っていたと思う。その物体にはよく見ると切れ目が入っていて、端の方を引っぱると外れそうだ。
「ふむ。ここを引っぱると……」
ッパ!
思った通り端の方がキャップのように外れて、見覚えのある端子が出てきた。
「な! USBメモリだと⁉」
「旦那、それをご存知で?」
俺は念のために、それに識別の魔法をかけてみた。
『古代の記録媒体』という結果が出た。
古代? 異界ではなく古代……。どういうことだ?
「フッド、これをどこで手に入れた?」
俺の声が自然と一段階高くなってしまう。
利にさといフッドの目が鈍く光った。
「旦那の様子からするに、どうやらこれはスゴイ品のようだ。
タダというわけにはいきやせんぜ」
俺はフッドの手のひらに、一掴みほどの金貨をドチャッとのせた。
「100万ジェニーはあると思う。それでどうだ?」
1ジェニーは約1円の価値。だからだいたい百万円ってことだ。
フッドは金貨の重みに目を丸くしていたが、一枚だけ取って残りを俺に返した。金貨一枚は5万ジェニーだ。つまりだいたい5万円。
「なんだお前、意外と無欲なんだな」
「旦那ぁ、あっしはそこまで強欲じゃねぇぜ。
欲をかきすぎる奴ぁ、だいたいろくな死に方はしねぇ」
「ハハハ、良く分かってるじゃないか。俺もお前があまり欲張るようなら、
切り捨てようかと思っていたところだ」
「旦那ぁ! 俺を試したんですかぃ?
勘弁してくださいよぉ、ったく……」
フッドが顔をしかめてブツブツと愚痴を言う。
「すまんすまん。それで、これをどこで見つけた?」
「あっしも人づてに手に入れた品なんで、確かじゃねぇんですが、
ワラキア大公国で見つかったものだと聞いておりやす」
ワラキア大公国。
噂では、吸血鬼が治めている国だという。ホビット、ドワーフ、エルフ、人間、それから人間と異種族との混血も。ともかく様々な種族が混在する多種族国家であり、強大な軍事力と異常に進んだ科学力を持っていると聞く。
以前から気にはなっていたが、なにせ遠すぎる。この町からだとはるか東。広大な砂漠を横断して、さらには海を渡る必要もある。最短距離でも片道数か月。しかし魔物のことを考えれば、もっと時間がかかる。運が良くて半年、運が悪ければそこでおしまい。だから定期便などあるはずもなく、行くとなれば命がけの大冒険だ。行ったら行ったっきりで戻ってくる者はいない。
俺が考え込んでいると、フッドがせかしてくる。
「それで旦那。コイツは何なんです? もったいぶらずに教えて下さいよ」
コンピューターのない世界でメモリのことを説明するのは難しい。俺はなんとかそれらしいことを教えることにした。
「この中に何か重要な情報が入っているかもしれない。
しかし、それを読み出すには別な道具がいるんだ」
「ふ~む。つまりこれは、鍵のかかった書物だと?」
さすがにフッドは盗賊だけのことはあって察しが良い。
「の、ようなものだな。けど、何も書かれていない可能性もある。
何か書かれていたとしても、価値のないものかもしれない。
まぁ、とりあえずは大事に保管しておいた方が良いぞ」
そう言ってフッドにUSBメモリを返した。
その後も、俺はフッドとだべりながらワラキア大公国のことを考えていた。
無理をしてでも行ってみる価値はありそうだと。
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