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04 コカトリスの襲撃
しおりを挟む俺が乗った乗合馬車は隣町のニールを目指して荒野を軽快に飛ばす。
最新式の馬車だけあって酷い突き上げもなく、適度な揺れと振動が心地良い。
窓の景色にも飽きてうつらうつらしていると、なにやら御者台の方が騒がしい。
「コカトリスだ!」
窓の外を見ていた乗客の一人が声を上げる。
それを聞いて俺の眠気が一気に吹き飛んだ。
他の乗客もざわざわとし始める。
コカトリスは厄介な魔物だ。体長1メーター程度、鶏にトカゲの尻尾を付けたような妙な姿で、羽はあるが飛ぶことはなく二本の足で疾走する。非常に身軽で素早く、全速力の馬にも軽く追いつくことができる。問題はくちばしや体毛に毒があり、それにやられると体がマヒしてしまうこと。コカトリスはマヒした獲物を生きながらついばむのだ。
そのコカトリスの群が、後方から馬車に接近してきているらしい。俺は馬車の窓から身を乗り出してそれを確認した。馬車から100メートルも離れていない距離に大きな砂煙が上がっている。数も多い。これはすぐにも追いつかれそうだ。
俺は御者たちに向かって叫ぶ。
「どうだ、逃げられそうか?」
御者は手綱にしがみつき青い顔で首を振っている。この馬車は四頭立てだが、それでもコカトリスの足にはかなわない。御者の助手が弓を用意しているが、一匹ならともかく群れ相手では心もとない。追ってきているコカトリスは見たところ20匹はいるのだ。
「分かった。俺も協力する」
俺は馬車の窓から身を乗り出すと、するりと馬車の屋根に移った。
この手の町と町を結ぶ乗合馬車には、必ず屋根に見張り台が作りつけられている。この馬車の見張り台は鉄の柵だけの簡単なものだが、貴重品を輸送するような馬車だと鉄板で覆ったトーチカのようなモノだったりする。
御者の助手も弓を手に、見張り台に上がってきた。
「あんた武器も持ってないようだが、それでどうするつもりだ?」
「大丈夫だ。俺はこういう者だ」
首から下げている冒険者プレートを見せた。
プレートは銀色で、真ん中には異能者を表す水晶がはめ込まれれている。それが俺の力の影響で紅く光っている。
それを見た助手が、目をむいて声を上げる。
「あんたもしかして魔法使い?」
「そうだ。だから安心してくれ」
コカトリスの群との距離はもう50メーター程度しかない。俺はカバンの中から一本の杖を取り出す。いかにも魔法使いが持つような、こぶ状の頭が付いた木製の長い杖だ。
そしてその杖を体の前に構え、大魔法を行使すべく軽く目を閉じて精神を集中する。杖などなくても魔法は使えるが、なぜか杖を構えた方が成功率が高い。特に大きな魔法ほど、その傾向が強いのだ。
魔法は流派によっていろいろあって、それらしい呪文を唱えたり、それらしい魔法陣を描いて儀式をしたりするものもある。まぁ、やり方は様々だが結局はイメージの問題だ。頭の中にしっかりとした像を作り上げることが出来るなら何でも良いのだ。あとは練り上げたそのイメージを解き放ってやるだけだ。
俺はカッと目を見開いて、杖の頭をコカトリスの群に向けた。
次の瞬間、耳をつんざく轟音と共に青白い稲光が発生し、コカトリスの群の真ん中に命中した。
ガガン! バァァァァン!
直撃を受けたコカトリスは真っ黒こげになり、その周囲のコカトリスも衝撃で四散した。わずかに生き残った奴らは散り散りに逃げて行った。
轟音のせいで馬たちが一時暴れたが、御者の見事な手並みでなんとか平静を取り戻すことができた。
「旦那、助かったぜ。恩に着るよ」
「いやいや、なんてことはないさ」
様子を見ていた乗客たちも拍手をして喜ぶ。
「おぉぉ!」
「やったぞ!」
「助かったぁ」
「あれは雷の……」
客席に戻った俺はしばらくの間、握手攻めにあってもみくちゃにされた。
「……ふぅ。腹減ったぁ」
魔法を使うと、その大きさに比例して腹が減る。今回使った稲妻の魔法は、俺の使える魔法の中でも特に規模の大きいものだ。
作っておいたサンドイッチを取り出してパクつく。味はいまいちだが、それでも腹が減っていると美味い。三つほど食べて、水で割ったワインを流し込んでようやく腹が落ち着いた。
グッと伸びをして、さてもう一寝入りするかと思っていたら、御者の大きな声に邪魔をされた。
「もうすぐ中継基地だ。そこで一時間休憩するぞ」
車内になんとなくホッとした空気が流れた。
中継基地は危険な荒野の真ん中にポツンとあるだけあって、強固な要塞のようなたたずまいだ。高い石造りの城壁と、壁の上から周囲を警戒する兵士たち。丈夫な城門も備えている。ここは乗合馬車の組合によって管理されており、組合に入っている業者のみが利用できる。
町から走り通しの馬たちは、ここで馬車から外されて十分に休ませる。馬たちは全て組合内でシェアされており、馬の管理もしっかりされている。
中継基地に到着した乗合馬車は、ここで万全の状態の馬に交換して次の目的地を目指せるわけだ。交換作業の間に御者も乗客も休憩ができる。実に合理的だ。
以前俺が乗って酷い目に遭った乗合馬車はもぐりの業者で、このような施設を使うこともできず、無茶なスケジュールで運行していたのだろうな。
休憩所で体を伸ばしていると、組合の職員からもお礼を言われた。
「雷のサンダー様ですね?」
「あれ? 誰からその名前を」
「稲妻の魔法をお使いになったと聞き及んだものですから」
「あぁ、そういうことか。確かにサンダーで間違いないよ」
「この度は危ないところをありがとうございました」
「いいってことよ」
何だかんだと話を聞かれて、報告書を書くのに付き合わされてしまう。
結局あまり休憩にはならなかった。
俺たちを乗せた馬車は、正午過ぎには中継基地を出発し、特にトラブルもなく日暮れごろには隣町のニールに到着した。
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