雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

文字の大きさ
4 / 29

04 コカトリスの襲撃

しおりを挟む

 俺が乗った乗合馬車は隣町のニールを目指して荒野を軽快に飛ばす。

 最新式の馬車だけあって酷い突き上げもなく、適度な揺れと振動が心地良い。
 窓の景色にも飽きてうつらうつらしていると、なにやら御者台の方が騒がしい。

「コカトリスだ!」

 窓の外を見ていた乗客の一人が声を上げる。
 それを聞いて俺の眠気が一気に吹き飛んだ。
 他の乗客もざわざわとし始める。

 コカトリスは厄介な魔物だ。体長1メーター程度、鶏にトカゲの尻尾を付けたような妙な姿で、羽はあるが飛ぶことはなく二本の足で疾走する。非常に身軽で素早く、全速力の馬にも軽く追いつくことができる。問題はくちばしや体毛に毒があり、それにやられると体がマヒしてしまうこと。コカトリスはマヒした獲物を生きながらついばむのだ。

 そのコカトリスの群が、後方から馬車に接近してきているらしい。俺は馬車の窓から身を乗り出してそれを確認した。馬車から100メートルも離れていない距離に大きな砂煙が上がっている。数も多い。これはすぐにも追いつかれそうだ。
 俺は御者たちに向かって叫ぶ。

「どうだ、逃げられそうか?」

 御者は手綱にしがみつき青い顔で首を振っている。この馬車は四頭立てだが、それでもコカトリスの足にはかなわない。御者の助手が弓を用意しているが、一匹ならともかく群れ相手では心もとない。追ってきているコカトリスは見たところ20匹はいるのだ。

「分かった。俺も協力する」

 俺は馬車の窓から身を乗り出すと、するりと馬車の屋根に移った。
 この手の町と町を結ぶ乗合馬車には、必ず屋根に見張り台が作りつけられている。この馬車の見張り台は鉄の柵だけの簡単なものだが、貴重品を輸送するような馬車だと鉄板で覆ったトーチカのようなモノだったりする。
 御者の助手も弓を手に、見張り台に上がってきた。

「あんた武器も持ってないようだが、それでどうするつもりだ?」

「大丈夫だ。俺はこういう者だ」

 首から下げている冒険者プレートを見せた。
 プレートは銀色で、真ん中には異能者を表す水晶がはめ込まれれている。それが俺の力の影響で紅く光っている。
 それを見た助手が、目をむいて声を上げる。

「あんたもしかして魔法使い?」

「そうだ。だから安心してくれ」

 コカトリスの群との距離はもう50メーター程度しかない。俺はカバンの中から一本の杖を取り出す。いかにも魔法使いが持つような、こぶ状の頭が付いた木製の長い杖だ。
 そしてその杖を体の前に構え、大魔法を行使すべく軽く目を閉じて精神を集中する。杖などなくても魔法は使えるが、なぜか杖を構えた方が成功率が高い。特に大きな魔法ほど、その傾向が強いのだ。

 魔法は流派によっていろいろあって、それらしい呪文を唱えたり、それらしい魔法陣を描いて儀式をしたりするものもある。まぁ、やり方は様々だが結局はイメージの問題だ。頭の中にしっかりとした像を作り上げることが出来るなら何でも良いのだ。あとは練り上げたそのイメージを解き放ってやるだけだ。
 俺はカッと目を見開いて、杖の頭をコカトリスの群に向けた。

 次の瞬間、耳をつんざく轟音と共に青白い稲光が発生し、コカトリスの群の真ん中に命中した。

 ガガン! バァァァァン!

 直撃を受けたコカトリスは真っ黒こげになり、その周囲のコカトリスも衝撃で四散した。わずかに生き残った奴らは散り散りに逃げて行った。
 轟音のせいで馬たちが一時暴れたが、御者の見事な手並みでなんとか平静を取り戻すことができた。

「旦那、助かったぜ。恩に着るよ」

「いやいや、なんてことはないさ」

 様子を見ていた乗客たちも拍手をして喜ぶ。

「おぉぉ!」
「やったぞ!」
「助かったぁ」
「あれはいかずちの……」

 客席に戻った俺はしばらくの間、握手攻めにあってもみくちゃにされた。

「……ふぅ。腹減ったぁ」

 魔法を使うと、その大きさに比例して腹が減る。今回使った稲妻の魔法は、俺の使える魔法の中でも特に規模の大きいものだ。
 作っておいたサンドイッチを取り出してパクつく。味はいまいちだが、それでも腹が減っていると美味い。三つほど食べて、水で割ったワインを流し込んでようやく腹が落ち着いた。
 グッと伸びをして、さてもう一寝入りするかと思っていたら、御者の大きな声に邪魔をされた。

「もうすぐ中継基地だ。そこで一時間休憩するぞ」

 車内になんとなくホッとした空気が流れた。

 中継基地は危険な荒野の真ん中にポツンとあるだけあって、強固な要塞のようなたたずまいだ。高い石造りの城壁と、壁の上から周囲を警戒する兵士たち。丈夫な城門も備えている。ここは乗合馬車の組合によって管理されており、組合に入っている業者のみが利用できる。

 町から走り通しの馬たちは、ここで馬車から外されて十分に休ませる。馬たちは全て組合内でシェアされており、馬の管理もしっかりされている。
 中継基地に到着した乗合馬車は、ここで万全の状態の馬に交換して次の目的地を目指せるわけだ。交換作業の間に御者も乗客も休憩ができる。実に合理的だ。

 以前俺が乗って酷い目に遭った乗合馬車はもぐりの業者で、このような施設を使うこともできず、無茶なスケジュールで運行していたのだろうな。

 休憩所で体を伸ばしていると、組合の職員からもお礼を言われた。

「雷のサンダー様ですね?」

「あれ? 誰からその名前を」

「稲妻の魔法をお使いになったと聞き及んだものですから」

「あぁ、そういうことか。確かにサンダーで間違いないよ」

「この度は危ないところをありがとうございました」

「いいってことよ」

 何だかんだと話を聞かれて、報告書を書くのに付き合わされてしまう。
 結局あまり休憩にはならなかった。

 俺たちを乗せた馬車は、正午過ぎには中継基地を出発し、特にトラブルもなく日暮れごろには隣町のニールに到着した。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...