雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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14 パーティーを組む

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 カーシャは俺と正式にパーティーを組んでいるわけではなく、俺が個人的に雇った助手という形になっている。この方が何かと融通が利くのだが、そのままではカーシャのギルド内での評価が上がらないという問題があった。
 仕方がないのでパーティーを組もうということになったのだが……。

「申し訳ありません。
 パーティーを組めるのは同ランクか、一つ違いまでです。
 銅級と銀級ではパーティーは組めません」

 受付に断られてしまった。


「まいったな……。じゃあ、逆にしてみるか」

「逆ってどういうことですか?」

「だから、カーシャが俺を雇う形にするわけだ」

「えぇ⁉ そんなの無理ですよ!」

「形だけだから。
 そうだなぁ、1日1ジェニーで俺を雇ってくれ」

「えぇぇぇ……」


 というわけで、俺に代わってカーシャが依頼を受けることにした。俺は彼女に付いて行くだけ。彼女の手に余りそうなら、場合によっては俺も手を貸した。
 依頼者の中には、娘一人だと甘く見て、無茶なことを要求する奴もいる。そういうときは俺が出て行ってケリをつけることもあった。


 ドカーン! 衝撃の魔法で地面が大きくえぐれる。

「な! な、なんだお前!」

「俺は彼女の助手。銀級魔法使い、いかずちのサンダーだ。
 文句があるなら、俺が相手になろうじゃないか」

「い、いえ。結構です」

「彼女はちゃんと役目をはたした。依頼は達成されたんだよ。
 だったら、あとはそれに署名して、『ありがとうございました』だろ?」

「は、はい。ありがとうございました!」


 そんなこんなで二週間もすると、彼女は銅級から鉄級に昇格した。

「やりました!」

 鉄色のプレートをかかげて、カーシャはニッコリ笑う。

「おめでとう。これでカーシャも一人前だな。
 正式にパーティーが組めるぞ」

「ありがとうございます!
 まずはパーティー名を決めないといけませんね」

「そうだなぁ。う~ん、思いつかん。
 何か良いものはないか?」

「そうですねぇ……。
 サンダーさんの二つ名の、いかずちで良くないですか?」

「よし、それ採用!」

「えぇっ⁉」

 ということで、俺とサーシャは正式にパーティーを組むことにした。受付の職員の話では、パーティー名は必須ではなかったようだ。代表者が決まっていれば問題ないということらしい。
 後から名前を付けたり、変更したりするのも自由だという。ただし、あまりコロコロ名前を変更すると何かしらの不正を疑われるのだとか。

 パーティーを組むと、メンバー個人の評価にパーティーの実績が加味されるようになる。たとえば、今までは大ムカデの駆除もゾンビの討伐も俺個人の評価が上がるだけだったが、次からはパーティーメンバーであるカーシャの評価も上がるようになるわけだ。仮に仕事のさなかに後ろで見ているだけでもかまわない。これは支援系の冒険者にとって、大きなメリットとなる。
 あと、パーティーを組んでいると、個人で活動するよりも少しだけ信用度が上がる。難易度の高い依頼を受けやすくなるし、有力なパーティーならギルドから金を借りることもできる。もちろん過去の実績次第だが。


「カーシャも一人前になったし、パーティーの登録もできたし、
 今晩は美味いものを食ってお祝いだな」

「それは楽しみです!」


 ギルドの職員に良い店を教えてもらって、さっそく向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その店には、豚を擬人化したキャラクターが描かれた看板が出ていた。
 この世界では、こういう分かりやすい看板はかなり珍しい。なにしろ看板を掲げていること自体が珍しいからな。看板のデザインにちょっと懐かしさすら感じたが、ともかく店に入ってみた。

「いらっしゃいませ」

 驚いたことに、ちゃんとしたウエイトレスが出迎えてくれた。

「二人なんだが席は空いてるかい?」

「はい、どうぞこちらへ」

 ゆったりとした二人掛けの席に案内してくれる。

「ここは豚肉料理の店なのか?」

「いいえ、当店はオーク肉の料理が自慢です」

 ウエイトレスはそう言って、メニューを渡してくれた。こういうメニュー自体、この世界ではかなり珍しいと思う。俺が今までに入った飯屋は、たいていが単品かほんの数品しかなかったからな。
 それにしてもオーク肉か。美味いと評判だが、俺は今まで食ったことがなかった。なにしろ希少で高価だと聞いていたからだ。

「カーシャ、好きなのを注文しろよ。今日はお祝いだからな」

 メニューを開いたままカーシャは固まっていた。

「で、でも、サンダーさん……」

「うん? どうした。遠慮するなよ」

 そう言いながらメニューを開く。

「おほぉ⁉」

 値段が一桁違っていた。安い方ではなく高い方へ。
 安い品でも3000ジェニーはするのだった。普段数百ジェニーの飯を食ってご機嫌なわけだから、確かにこの値段だとビビるよな。

「なるほど……。でも大丈夫だから、心配するな」

「は、はひ。では――」


 俺たちの前に料理が運ばれて来た。
 カーシャの前にはオーク肉の照り焼き、俺の前にはオーク肉のカツレツだ。それは俺がかつて生きていた世界の料理。この世界では見ない料理だった。
 しばらくの間、感激のあまり料理を見つめてしまった。そしてようやく、震える手で一切れ口に運んだ。

「こ、これは⁉」

 香ばしい食欲をそそる匂いも、衣のサクサクとした歯触りも、噛みしめた肉からしみ出す肉汁も、黒く濃厚なソースも何もかも最高で、そして懐かしさがこみあげてくる。それはまさにトンカツだった。なぜこの世界にここまで見事な再現度のトンカツがあるのだろうか……。
 カーシャを見ると、目を丸くしたまま無言で咀嚼し続けている。信じられないものを見たかのように照り焼きを見つめている。


「す、すごく美味しかったです」

 一気に平らげて一息ついたカーシャは、ため息とともに感想をもらした。

「確かに、高い料金だけのことはあるな」

 すぐにデザートが運ばれて来た。
 カーシャの前にはチョコレートパフェ、俺の前にはチーズケーキとコーヒー。メニューを見てビックリ仰天しつつも、半信半疑で注文したものだ。カーシャはメニューを見ても何が何だか分からなかったようなので、俺が代わりに独断と偏見で適当に注文してやった。
 それにしても、なぜこの世界にチョコやコーヒーがあるのか。この世界にやってきてそろそろ6年になろうとしているが、まさか再会できるとは思わなかった。

 コーヒーを一口すする。

「美味いな。味も香りも申し分ない」

 カーシャはまたも目を丸くしたまま、黙々と巨大なパフェと格闘している。
 チーズケーキも記憶のものと同じだ。俺はじっくりとデザートを堪能した。

「はぁぁ……。まさかこんな素晴らしいものがこの世にあるとは」

 しみじみとそう言って、カーシャは満足そうに微笑む。

「この町でここまでの食事が出来るとは、嬉しい驚きだな」


 会計の時にさらに驚く。

「合わせて5万ジェニーとなります」

「げふっ」「ぎゃあ!」

 だいたい分かってはいたが、改めて言われるとショックだな。カーシャは顔面蒼白だ。代金の金貨一枚とさらに5千ジェニー銀貨一枚をウエイトレスに渡す。

「ここの料理って、外から来たものだろ?」

「はい。先代のオーナーが東の都市で修業をして、
 ここで店を開いたと聞いております」

「東というのは、ワラキア大公国のことか?」

 ウエイトレスは首をかしげる。

「そこまでは……」

「そうか、美味かったよ」

「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」



「なかなか良い店だったな」

「えぇ、料理も本当に美味しかったです。でも5万ジェニーですか……」

「たまにはこんな食事も良いものだ」

「そうですねぇ。でも、私は一生に一度で十分です。心臓に悪いですから」

 カーシャは料理の味よりも、値段にショックを受けた様子だった。





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