15 / 29
15 ニールを出発
しおりを挟むサンドワームがようやく北の砂漠へ戻って行ったらしく、デサントス行きの乗合馬車の運行が再開された。一カ月待って、ようやく東へ進める。俺たちはさっそくデサントスへ向けて出発することにした。
「いろいろと世話になったな」
一カ月近く滞在していた宿の親父に挨拶をした。
「ああ、用があったらまた泊って行ってくれ。
あんたはお得意さんだから、そのときは少しはまけてやるよ」
親父はニッと笑った。
「なんだ少しかよ、ハハハ。じゃぁまたな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
デサントス行きの待合所は馬車で一杯だった。
「どの馬車に乗るんですか?」
カーシャは馬車の多さに困惑している。
「まぁ待て」
ギルドの職員に聞いた話では、組合に属している馬車の屋根には特定のマークが入れてあるらしい。しかしどんなマークなのかは公表していない。公表してもらえれば利用者としては助かるが、それをしないのは、悪質業者などがマークだけ真似ることがあるからだとか。
中継基地の兵士たちは、マークのない馬車が近づけば問答無用で攻撃する。逆にマークがあれば、門の手前までは近づけるわけだ。もちろんそこで御者の身分証などが検査されるので、偽物が簡単に入場できるわけではない。とはいえ中継基地を狙う盗賊などは、その辺りを突いてくるかもしれない。
ということで、組合のマークは公表されていないし、ときどき図案が変更されているようだ。
たしかニールへ来るときに乗った馬車の屋根にも何か描かれていたな。そういえば車輪のマークだったかな……。
俺は覚えたばかりの浮遊の魔法を使って、二メートルほどの高さにスイッと浮かび上がる。その場でくるっと見回して、何台かの馬車に目星をつけた。
「こっちだ」
「はい」
屋根にマークがあって、まともなサスペンションが付いている馬車を探すと、結局一台だけが残った。
念のために御者にたずねてみる。
「この馬車は組合に入ってるんだな?」
「そうだよ、旦那。よく知ってるねぇ」
「デサントス行きで間違いないな?」
「ああ、間違いない。運賃は3万ジェニーだが、どうするね」
「よし、乗ろう。この娘も乗るから、二人で6万ジェニーだな」
御者に運賃を支払って、俺たちは馬車に乗り込んだ。
「はぁ、フカフカで座り心地が良いですね」
カーシャは久々の馬車の旅にウキウキしている。
「馬車に乗るときは、作りをよく確認しないと酷い目に遭う。
この馬車は他のと比べると作りがかなり良い。まぁその分運賃も高いけどな」
「なるほどぉ。
デサントスにはいつ頃着くんですか?」
「中継基地で一旦休憩して、町に着くのは夕方ごろだろうな。
しばらくは乗りっぱなしになるから、ゆっくりしていろ」
「はい」
程よい振動の中でうつらうつらしていると、何ごともなく中継基地に着いた。
「さて、昼飯にしようか」
俺たちはベンチに座ってサンドイッチを頬張る。
「むぐむぐ……。これって作りたてですよね。本当にいつ作ってるんです?」
「魔法だよ」
俺は慣れないウインクをしてごまかす。
もう一カ月ぐらい前に作ったものが、まだ残っていたのだった。マジックポケットに入れておけば、全く鮮度も落ちないし潰れたりばらけたりもしない。
「えぇ……」
カーシャは疑わしげな眼差しで俺を見る。
「ふふふ」
「もう」
カーシャをからかっていると、組合の職員が小走りにやって来た。
「あの、失礼ですが、雷のサンダー様ですか?」
「そうだが」
「良かった! あの、それで突然なんですが――」
職員が言うには、先に立ったデサントス行きの馬車が、盗賊に襲われたのだという。おそらく俺たちの乗る馬車も盗賊に襲われるだろうから、その時に撃退、できれば討伐してもらいたいとのことだった。盗賊はこの辺りでは有名な連中でメンバーは10人。首領の名前はタネンというらしい。
携帯も無線もないこの世界で、どうやってそんな情報を入手しているのか、俺としてはそっちの方が気になるところだが、聞いたところで教えてはもらえないだろうな。まあ、そういう魔法があると言われたらそれまでだが……。
「なるほど、状況は分かった。
それで、正式な依頼ということで良いのかな?
ギルド経由でないと、後でめんどくさいことになるぞ」
「それも問題ありません。ギルドの承認は得ております。
あとはサンダー様の意思しだいということです」
「報酬は?」
「撃退で10万ジェニー、殲滅で40万ジェニー、
一味を生きて捕らえた場合は60万ジェニーとなっております」
命がけの仕事にしては少々安い気がするが、ここで俺が引き受けないとしばらく足止めを食らうことになる。さすがにそれは困るからな。
「よし。引き受けた」
「ありがとうございます!」
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる