18 / 29
18 護衛の依頼
しおりを挟む翌朝、俺たちは乗合馬車の待合所に行ってみた。
ニールへ戻る馬車はあったが、ヨルデノール行きの馬車は見つからない。
暇そうにしていた御者に銅貨を握らせて話を聞く。
「東へ行きたいんだが、馬車は出てないのか?」
「ああ、ヨルデノール行きなら十日後だ」
「十日後だと? お客があんまりいないってことかな」
「まあな。だいたいあんな寂れた町に何しに行くんだ?
北は砂漠、東は延々と荒野だし、南は湿地帯だぜ」
砂漠にはサンドワーム、荒野にはコカトリスや大サソリ、湿地帯にはリザードマン、どの方向へ進んでも一筋縄ではいかない魔物たちの巣窟へ踏み込むことになる。ヨルデノールは危険地帯に囲まれたどん詰まりの町ってことだな。
「俺たちはそこよりももっと東を目指してるんだが、どうすればいいんだろうか」
「商人たちは商隊を組んで、さらに傭兵を雇って荒野を突っ切ってるらしい。
それでも相当に危険だがな。あんたらは二人だけで行くつもりかぃ?
やめておいた方が良い。そんなの無謀にも程があるぞ」
「なるほど。ありがとう」
もとより、すんなり行けるとは思ってなかったが、それでも道を良く知っている者に言われるとガッカリしてしまう。十日待ってダメもとでヨルデノールへ行ってみるべきか、それとも別な方法を探すか、さてどうしたものか。
「難しそうですね」
「良い手が思いつかない。一旦ギルドに行って、職員に聞いてみようか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルドにやって来た。
それなりに大きな町なだけあって、ギルド内はそこそこ混みあっていた。しかし俺たちが入っていくと、海が割れるかのように冒険者たちが道を譲ってくれる。昨日のアレが相当に効いたらしい。何の苦労もなく受付カウンターにたどり着いた。
「すまない。ちょっと聞きたいんだが――」
受付の職員に、東へ行きたい旨を話す。職員は俺の話を聞くと、手元の依頼書を繰って、その中から一枚抜き出した。
「それでしたら、こちらの依頼を受けてみるのはどうでしょうか?」
その依頼は行商人の護衛だった。
護衛する区間は、この町からヨルデノールを経由して、荒野を抜けた先にあるバイファという町まで。ただし、別なパーティーと組んで一緒にやることになる。報酬はパーティーごとに10万ジェニー。任務中の食事は依頼主持ちとなっている。
面倒で時間がかかる割には報酬は少ない。普通ならこんな依頼は受けないが、今回は東へ行くという目的がある。他のパーティーと一緒なら、危険な荒野の横断も少しは楽になるかもしれない。
「二週間ほど歩くことになるが、カーシャは構わないか?」
「ええ、問題ないです」
「よし。わかった、受けよう」
なかなか決まらない依頼だったらしく、職員は相好を崩す。
「あ、これは助かりました。では、手続きを――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
依頼主と別なパーティーは酒場にいた。
白髪交じりの壮年の男が依頼主だろう。
「あなたが依頼主のポポスさん?
依頼を受けた雷のサンダー、魔法使いです。
この娘はカーシャ、生活魔法の使い手です。よろしくどうぞ」
「カーシャです。よろしくお願いします」
「ポポスです。
銀級の魔法使いとは心強い。よろしく頼むよ」
ポポスは日に焼けた顔をほころばせて、嬉しそうに言う。
「人数が揃わずにずっと待たされるかと思っていたが、
こんなにすぐに出発できるとはね。助かったよ」
「たまたま俺たちも東に用があって、ちょうど良いタイミングでした」
「ははは、なるほどね。
それで、こちらが『黒百合』の皆さんだ」
「リーダーのアマンダだ、よろしくな」
キツイ目つきの赤毛の女だ。上背は俺よりもあるし、肩幅も俺より広い。
鉄片を革ひもで繋ぎ合わせた日本の鎧に似た甲冑がすごく様になっている。腰にさげている武器も緩く弧を描いた片刃の刀だし、まるで女武者だな。
「斥候のケイトよ、よろしくね」
黒目黒髪で、どこか親近感のある顔立ち。小柄だが敏捷そうな体つきだ。
服装などはどう見ても忍者。女だからくノ一と言うべきか。しかし、メインの武器は弓のようだ。ひょっとしたらクナイや手裏剣を懐に隠しているのかもしれないが。
「魔法使いのメルキア。雷のサンダーの名は良く聞いている」
薄い金色の髪に青い瞳の神秘的な顔立ちの女。この世界は多種多様な人種がひしめき合っているが、金髪碧眼はちょっと珍しい。フード付きのローブをまとい、長い杖を手に持っている。魔法使いらしい出で立ちだ。俺と同じ赤の魔法使いのようだ。
三人とも鉄級冒険者で、若さに似合わず落ち着いた雰囲気をしている。
鉄色のプレートは一応ベテラン冒険者の印だが、その実力には個人差がかなりあって、ピンからキリまで様々だ。銅級から鉄級へ昇格するためのハードルは、それほど高くはなく、どうしようもない鉄級冒険者も少なくないのが現状なのだ。
醸し出す雰囲気や物腰からすると、この三人はまともそうに感じる。あくまでも俺の第六感によるものだが、これが意外と良く当たるのだった。
「それで、ポポスさん。出発はいつですか?」
「君たちが良ければ、今すぐにでも出発したいね」
「わかりました。ちょっと準備を整えてきますので。少しお待ちください」
俺たちは一旦ギルドを出て、市場で食料などを買い込んできた。すべてマジックポケットに収納したので、新鮮なまま傷む心配はない。
食事は雇い主が持つ契約なので要らないとは思うが、念のためだ。なにかのトラブルで荒野の真ん中ではぐれることがあるかもしれないからな。
「準備が整ったようだな。では出発しよう!」
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる