22 / 29
22 出発の準備
しおりを挟む俺とカーシャの二人だけだったパーティーに、もう三人加わることになった。
女戦士のアマンダ、くノ一のケイト、赤魔法使いのメルキア。三人とも若い鉄級冒険者だが、落ち着いた物腰で頼りになりそうではある。
「ちょっと市場に寄って、買い物していこうぜ」
「サンドイッチの材料を買うんですか?」
カーシャは俺が作る味がいまいちのサンドイッチを、なぜか気に入っているのだった。そういえばサンドイッチはもう品切れだ。また作らないといけない。
「特にサンドイッチというわけじゃないが、食料と飲み物がたくさんいるぞ。
五人で十日分くらいは見積もっておくか」
「アマンダ、お前たちは飲み物を買い集めてくれないか?
俺たちは食べ物を買いに行くから。後でそこの広場で落ち合おう」
「わかった。でも、荷車が要るんじゃないか?」
「そうだなぁ……」
マジックポケットのことを言うべきか迷うが、それはしばし保留だ。
アマンダに金貨を10枚ほど渡す。50万ジェニーもあればなんとかなるだろう。
「もし買えるようならこれで頼む」
「お、おぅ」
ヨルデノールの町はデサントスに比べると小さく寂れてはいるが、それでもそれなりの大きさの市場はあった。
よく見かける硬いパン、卵、鶏肉や獣の肉、調理用の油、各種の野菜や果物、野菜を煮詰めたソースや塩や蜂蜜といった調味料の数々。俺たちは片っ端から目に付いた物を次々に買い込んでいくのだった。マジックポケットがあるので、運搬の心配や、食べ物が傷む心配をしなくていい。なんと楽なことか。
夏が過ぎて、朝晩がやや肌寒くなってきたので冬用の衣類も買っておいた。
「よし、こんなものだろう」
「あの、調理用の鍋や食器などは?」
「心配するな、この中に入ってるから」
俺は肩から掛けているカバンを指さす。
マジックポケットには、俺の持ち物が全て収まっているのだった。
「まさか、本当ですか?」
カーシャが疑わしい様子で俺を見る。少し大きめの寸胴鍋を取り出して見せると、ひっくり返って驚いた。
「えぇ⁉ 前から聞きたかったんですが、本当にどうなってるんですか?
どう見てもそのカバンよりも大きいですよね」
「ふふん、魔法だよ、魔法」
慣れないウインクで誤魔化す。
「ぇぇ……」
カーシャは今一つ納得していない様子だ。
「さて、待ち合わせ場所に戻ろうか」
「はい」
待ち合わせ場所には、元黒百合の三人が先に戻っていた。
大八車のような、車輪まで木で出来た小ぶりのリアカーがあり、それに飲み物の樽がいくつも載っている。
「うん? 食べ物は買えなかったのか?」
アマンダや他の二人も不思議そうな顔をしている。
「いや、タップリ買ったぞ」
俺は食料を次々と取り出して、リアカーの上に山積みにしてみせる。
「はぁぁ⁉」「うそぉ」「ば、ばかな!」
三人は目をむいて驚く。
「見ての通り十分に買ってあるから心配ないよ」
出した食料は邪魔になるので、さっさとマジックポケットに片付けた。
「「「えぇぇぇ!」」」
三人はまたのけぞって驚いた。
「ちょっ、ちょっと説明が欲しい」
普段おとなしいメルキアが真っ先に口を開いた。よほど気になるのだろう。
「ふふっ。魔法だよ、魔法」
慣れないウインクで誤魔化そうとするが、
「私だって魔法使いのはしくれ、そんな魔法は聞いたことがない」
と言って、思いの外しつこく食い下がってくる。
「メルキア。まだまだ君は勉強不足だな。
空間魔法を極めれば、こういう応用技が使えるんだよ。
もちろん詳細は教えられないがな」
当然適当な嘘だが、いかにもそれっぽい嘘なら看破できまい。
「そ、そうだったのか……」
メルキアは愕然とした様子で、力なく地面にしゃがみ込んだ。
「まあせいぜい、魔法の修行に励むことだな。ふふふ」
カーシャは何かに気が付いているのか、俺を微妙な目つきで見る。
「さて、飲み物を調べておくかな」
ひとつひとつの樽に識別の魔法をかけていく。腐った水を飲みたくはないからな。結果、ほとんどが新鮮な井戸水だった。ワインの樽もいくつかある。
「むむ、これは酢になっているぞ」
発酵が進んで天然のワインビネガーになったのだろう。
「マジか⁉ 交換してくるか?」
「いや、これはこれで調味料として使えるから構わないよ」
飲み物の樽は少々重いが、試してみるとマジックポケットに収まった。
これはいけるということで、俺は次々と飲み物の樽も片付けていった。
「へっ⁉」「うひゃっ!」「こ、これが銀級……」
よほどショックだったのか、三人は目が点になってしばらく固まっていた。
カーシャは俺の異常さに慣れてしまったのか、何も言わず平然としている。
「これでよし! じゃあ、出発するか!」
「お、おぅ。でも荷車いらなかったんじゃないか?」
「これはこれで、何かを運ぶことがあるかもしれないだろ?
せっかく買ったんだから持っていこうぜ」
俺たち五人は空のリアカーを引いて、荒野に旅立つのだった。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
◎お金の設定
5万ジェニー金貨
1万ジェニー銀貨
5千ジェニー銀貨
1千ジェニー銀貨
500ジェニー銀貨
100ジェニー銅貨
50ジェニー銅貨
10ジェニー銅貨
5ジェニー鉄貨
1ジェニー鉄貨
以上の硬貨が流通しています。紙幣はありません。
1ジェニーは約1円です。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる