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14 魔法陣
しおりを挟む俺たちがまいた種がえらいことになっていた。
リサのかけた実りの魔法が効いたのか、元々特別な種だったのか知らないが、ものすごい勢いで実っている。
ジャガイモそっくりのニャガ芋とナスビそっくりのナース、それとカブそっくりのカブーラ。とにかく収穫したそばからどんどん実をつけていくのだ。
もちろん毎食これでもかというほど食っているが、まったく追いつかない。
ナースやカブーラはざく切りにして塩漬けにすればそれなりに保存がきくだろう。ニャガ芋は芽が出てしまったものは種芋にするしかないが、種芋のまま保存ってできるのかな……
まぁ、味はともかく量だけは潤沢にあるのだった。
「なぁリサ、生活魔法で乾燥の魔法ってあるか?」
「うん、あるよ。干し肉作りがすごく捗るんだ」
「それだ! とりあえずこのナースにかけてみてくれ」
「わかった」
輪切りにしたナースがあっという間に半分ほどにしぼんで、カチカチに乾燥する。フリーズドライ食品にそっくりな状態になった。
「これに湯をかけると……。おぉ、やはり!」
「へぇ~、面白い! 保存食になるってこと?」
「うん、たぶんいけるはずだ」
ということで、余った作物を次々にフリーズドライ化していった。これで冬場も食料に困らないはずだ。
このごろのリサは魔力が増えたのか分からないが、涼しい顔で次々に魔法を使っている。以前はすぐに疲れてしまっていたのに、成長したものだ。
『そういえばクロゼル、魔力って増えるものなのか?』
『正確にはそれは間違いじゃ。魔力とは周囲に漂う魔素から紡ぎ出される力なのじゃ。つまりは大きさの大小はあるが、多い少ないはない』
『増えたり減ったりするものではないってこと? でも、魔法を使える回数って、上達すると増えるよね?』
『うむ。魔力とはあくまでも力の大きさであって、量ではないのじゃ。魔素を集め凝縮し思念の力で変容させて放出する、これが魔法の原理じゃが、奴からは習わなんだのか?』
『う~ん、その辺はあやふやだなぁ、ハハハ』
『ふん、ともかくじゃ、手練れの魔導師はその魔法の一連の工程を効率よく行うことができるわけじゃ。どんなことでもそうじゃろうが、芋の皮むきでも慣れないうちは疲れるし指を怪我したりもするが、慣れれは鼻歌交じりに手早くできる。魔法も同じじゃ』
『要は慣れってことか? とすると、ネックになるのは魔素の量ってことだな』
『うむ。お主もようやく分かってきたようだの。いかに魔素を効率よく使うかがカギになるのじゃ。空気中の魔素の濃度は時間が経てば自然に元に戻るが、下手な使い方をするとすぐに空になってしまうのじゃ』
『熟練の魔導師は魔素を効率よく扱えるので、魔法をたくさん使えるってことか』
『原理的にはそういうことじゃ。とはいえ、魔力が増えただの、魔力が切れただのの方が感覚的には分かりやすいし、見かけ上はそれで十分説明できるからの。そういう言い方も便宜上は仕方がないかもしれぬ』
『じゃぁ、リサの魔力が増えたって言っても良いの?』
『ダメじゃ! お主は一人前の魔導師なのじゃろうが』
『えぇ~』
「イチロウ、なにボケーっとしてるのよ?」
「あぁ、リサは魔法を使うのが上手くなったなぁってね。リサのおかげで生活も快適になって助かってるよ」
「えぇ~、何よ急におだててぇ、エヘヘ……」
『ふむ、優良可で言えば、ギリギリ良といったところじゃの』
『キビシイなぁ……』
ある日の朝。
「ちょっと森の探索に出ようと思うんだけど」
「えぇ!? どうして?」
「この森はそれなりに険しいとは思うけど、俺たちが知らない抜け道とかあるかもしれないだろ。そういう抜け道を通って、こないだみたいに侵入者がやって来るかもしれない。だから、この森の状態をしっかり把握しておいた方が良いかなって」
「私も一緒に行く!」
「そうか、じゃあ旅の支度をしてくれ。なるべく早めに済ませたいけど、何があるか分からんからなぁ」
「イチロウって本当に心配性ね……」
汎用スケルトン二体を前衛にして、アーチャー一体、ニンジャ一体、俺とリサ、それに荷物持ちの汎用スケルトン二体、というパーティで森に入った。
さすがに、こないだのダンジョンのような濃密な戦いはないはずなので、戦力低めの構成だ。この辺りはモンスター自体少ないらしいし。
「とりあえず、小屋から真東に真っすぐ進むつもりだ。どの辺りが森の端なのか知りたいからな」
「一日歩いても端に着かないかもしれないよ」
「水も食料も一週間分はあるから、三日は進めるだろ。それでもまだ森が続いているんならもう引き返すよ。そこまでの深い森なら防壁として万全だしな」
前衛のスケルトンに下草を刈らせながら、俺たちは森の中をゆっくりと前進した。空は良く晴れているが、森の中はひんやりと涼しい。そろそろ夏になるらしいが、梅雨のような長雨もなくジメジメしてないのが良い。
「この国の人は夏に海で泳いだりするのか?」
「えぇ? 海って何?」
「……いやだから海だよ。もしかして海ってものを見たことがないのか?」
「見たことない。海ってどんなとこ?」
「そうだな……。まず、海の手前には広い砂浜があるんだ。砂浜ってわかるか? 辺り一面砂でできたなだらかな丘のことだ。それから海だ。見渡す限りの大きな水たまりになってて、潮の匂いがするんだ。なんともいえない生臭いようなにおいがする。海には波があっていつも揺れていて、それから海の水は塩辛い」
「えぇ~、うそだぁ! そんなの聞いたことがないよ」
「いやいや、本当だから。この国は内陸にあって、海に接してないのかもな」
「本当にそんな所があるの?」
「あるんだよ。ある所にはな」
「ふ~ん」
『もしかしてクロゼルも海を知らないとか?』
『話には聞いたことがあるが、私も見たことはないの。お主のいた国には海があったのじゃな』
『まぁな。島国だから海に囲まれていたんだ』
『どれどれ、ふむ、なるほどこういうものじゃったのか! ほほぉ、興味深いのぉ……』
俺の記憶を読んだクロゼルは、しきりに感心している。死霊にも感情があったとは知らなかった。
「ねぇ、そろそろお昼にしない?」
「そうだな。よし、お前たちは周囲の警戒だ」
「「……カシコマリマシタ、ますたー」」
リサがお湯を沸かす。以前は役に立たなかった温めの魔法だが、最近は魔法が上達したらしく、これだけで料理が出来てしまう。フリーズドライ化した野菜と干し肉をお湯に投入し、小麦粉でとろみをつけて岩塩で味付けすればスープの完成。パンをひたしながら食べる。
「便利になったなぁ……」
「うん、調理の手間がないから本当に楽ねぇ」
昼飯を食べて、また歩く。振り返ると、俺たちが歩いた所には真っすぐな小道が出来ている。帰りはもっと速く移動できるな。
休憩した地点から二時間ほど歩いたあたりで、木々の密度が減って来た。そろそろ終点らしい。
「あれ見て!」
リサが素っ頓狂な声をあげた。
「なんだよ急に」
「あそこ光ってない?」
と言って指をさす。確かに地面の一部が青白い光を発している。
「ちょ、ちょっと待て。罠かも知れないから」
俺はニンジャに現場を調べさせる。
「……イジョウアリマセンデシタ、ますたー」
「そうか、ご苦労。よし、じゃぁ見に行ってみるか」
「慎重ねぇ……」
現地に近づくと何があるのか分かった。
「いわゆる魔法陣というやつだな……。リサにはこれが何か分かるか?」
「うん、習ったと思う。これって結界の魔法陣の一部じゃないかなぁ。これと同じのがどこか他の場所にもあるはずよ」
「あれか、森の中に結界がはってあって、何かを防いでいるわけか?」
「うん。たぶんこれは、魔法的なものを弾く結界よ。魔法を使って中を覗こうとしたら、攻撃されるはずだわ」
「こ、攻性防壁!? 凄いなぁ! これもパウム師匠が設置したんだろうな、やっぱり」
『これ、イチロウ。娘に魔法の知識で負けておるではないか』
『こういうのは習ってないと思う、ははは』
『しっかりせんと、ネクロマンサーの名が廃るぞ』
とりあえず、小屋から真東に約六時間。時速二キロで換算すると、約十二キロメートル。そこまでべらぼうに広い森ではないのかもしれないな。
途切れがちになった木々の間から東をうかがうと、手前には草原が広がり、それから畑、さらにずっと向こうには町らしきものや城らしきものが見えた。
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