異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
25 / 62

25 居候の女吸血鬼

しおりを挟む

「おい! ベロニカ、お前にも仕事を与えてやる。ありがたく思え」

 俺は地下室で惰眠をむさぼっていたベロニカを叩き起こした。

「……むにゃぁ、何よぉ、藪から棒に……」

「賃料と酒代分は働いてもらうから」

「はぁ? 嫌よ!」

「『はぁ?』って何だよ! 言っとくが、俺はお前のご主人様なんだぞ」

「フン、言われなくても分かってるわよ」

「……お前、また面白い踊りを踊りたいか?」

 俺はニヘラと笑って、ベロニカを目でなめまわす。

「ぅぅぅ……」

 ベロニカは両手で体を隠して小さくなる。


『イチロウは優しいのぉ。有無を言わせず命令すれば良かろうに』

『コイツには一応心があるからなぁ。ある程度は自由意志を尊重したいんだ』

『ふぅむ、私には理解できんわぃ』

『スケルトンと同じ扱いというわけにはいかんだろ?』

『スケルトンの方が役に立っておらんかぇ?』

『う~ん、そういえば、そうかもしれないが……』


「――ちょっと! どうしたのよ?」

 ベロニカは虚空を見つめて無言になった俺を見て、苛立たしげに言った。
 クロゼルの姿はベロニカには見えない。
 リサには寝起きの時にチラッと見えるらしいが、ベロニカにはチラッとも見えないのだ。
 まぁ、見えたらそれはそれでややこしいから、今のままでいいけど。

「あぁ、すまん。お前は吸血鬼だから、何か特殊な能力があるんだろ?」

「もちろんよ! 下等な人間とは違うのよ」

 ベロニカはあごを上に向けて、フフンと言って胸を張る。
 自己評価が高いのは良いことだ。

「じゃぁ、どんな能力があるのか教えろ」

「なんでよ、嫌――! はい、暗視と飛行能力、それに催眠の魔法が使えます、マスター」

「ふぅん、催眠ねぇ。微妙だなぁ……」

「ちょっと! 微妙って何よ、そんな言い方ってある?」

「なんか、パッとしないっていうか」

「キィィ……」

「まぁ、でも夜目がきいて空が飛べて催眠の魔法が使えるんだから、たいしたものだよ」

「なによ! 取って付けたみたいな言い方して」

「その能力を使って情報収集をしてくれ。これは命令な」

「はぁ? 嫌――! かしこまりました。マスター」

「ただで住まわせてもらって、ただ酒を飲むのは気が引けるだろ? それにちゃんと情報を集めてくれるなら、この地下室をお前の好きに使っていいから」

「……ぅぅ。分かったわよ。で、どんな情報が欲しいのよ?」

「噂でも事件でもパンの値段でも、街で手に入る情報なら何でもいいから。週末に必ず報告すること」

「うへぇ……―― かしこまりました。マスター」

 ということで、吸血鬼のベロニカは俺専用の諜報部員になったのだ。
 情報の質は当面は期待できないが、こういう役目の者がいるだけでも違うからな。
 ほんの少しの情報量の差が生死を分ける、かどうかは知らないが、とにかく何でも情報は集めておきたい。この世界にはネットがないからなぁ。


 それからしばらくすると、ガランとしていた地下室が部屋らしくなっていた。
 石畳の床の上には絨毯が敷かれて、ベッドにタンスに机に本棚に鏡台まで置かれている。本棚には本がぎっしりだ。ベロニカは無一文なので、結局金は俺が払っているのだ。
 いくら掃いて捨てるほど金があるとはいえ、本当に遠慮のない奴だな。まだ大した成果もあげていないのに……。


「吸血鬼は棺桶一つあれば十分なのかと思ってたが、違うのか?」

「まさか! 誰がそんなこと言ってんのよ」

「本があるってことは、字読めるんだ」

「当たり前よ! バカにしないでくれる!」

「前の主人に放り出されたのは、金遣いの荒さが原因なんじゃねぇの?」

「ち、違うわよ。いろいろあったの!」

「ふぅん、まぁ良いさ。使った金に見合う分は働いてもらうからな」

「わかってるわよ」

「働きが悪いときは体で支払ってもらうからな、ムヒヒヒ……」

「ひぃぃぃ……」



「最近は夜にベロニカが出かけてるけど、どこに行ってるの?」

「あぁ、街であれこれと情報を集めてもらってるんだ」

「ふ~ん」

「あいつは催眠の魔法が使えるから、そういうことに向いているはずだしな」

 俺も鳥ゾンビを作って街に向けて飛ばしたりしているが、鳥ゾンビは街中の情報収集には不向きなのだった。
 なにせ鳥だから、いろんなものから常に狙われるのだ。鷲とか鷹みたいな猛禽類もそうだし、雑食性のカラスにも襲われてしまう。地表近くだと猫や犬にも注意しないといけないし。街中でも他人の迷惑お構いなしに、矢を放ってくる輩だっている。
 情報集めに集中すると、自分の身の安全がはかれなくなるのか、とにかく生還率が低い。というか生還しない。なので情報も得られないのだ。

 精神をつなげて、リアルタイムの情報を得ることはできるが、その状態で鳥ゾンビがやられると、俺もそれなりの精神的ダメージを負うのであまりやりたくない。
 地理や地形をざっと把握する分には非常に有益なんだけどな。


「さてさて、ベロニカはどうしているかな?」

 俺はベロニカの精神に薄っすらとつながった。あんまりガッツリとつながると、本人にバレるのだ。スケルトンなら関係ないが、ベロニカだと機嫌が悪くなるので慎重にする。

「ふ~ん、酒場に入ったようだな。まぁ、この時間だと酒場くらいしか開いてないか」

 それにしても、飲むねぇ。エールをガンガンいってるな。
 おやおや、男がやって来たぞ。下心がありそうな顔だ。
 男の奴、どんどん酒をすすめてくるなぁ。
 それで、酔ったふりして介抱してもらって外に出て……。

「あ! 連れ込み宿に入ったぞ」

「えぇ!? それでそれで?」

 リサは興味津々だ。

 男と二人で部屋に入って、いきなり催眠の魔法を男にかけた。
 男に何かを延々としゃべらせているな。まぁ、情報収集はしてるっぽい。

 それから、男が話をやめると、ベロニカが男に迫る。
 ジュルジュルっと男の血を吸いつくして、ミイラ一丁上がりかよ!
 ベロニカはミイラを抱えて窓からトンズラ……。

 ふぅむ、一応仕事はやってるが、要らんこともやってるな……。
 まぁ、証拠隠滅してるし事件にならなければ構わないか。


『仕方ないのぉ、吸血鬼はああいうものじゃから』

『だなぁ……』


「ねぇねぇ、どうなってるのよ!」

「ん? あぁ、ちゃんと仕事はやってるみたいだ。男から話を聞いて部屋を出たぞ」

 俺はゲッソリした顔で答えるのだった。

「ふ~ん。それだけ?」

 リサはつまらなそうだ。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...