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26 ネクロマンサーの一日
しおりを挟むネクロマンサーの朝は早い。
なにせこの領随一の大魔導師の後継者だから、とにかく忙しいのだ。
「それじゃぁ、今日も一日ビシバシ働くよ!」
リサは朝から元気一杯だ。スケルトンたちを従えて忙しく歩き回っている。
砂糖作りや酒造りは、もはや我が家の家業になっている。現場責任者はリサだ。
リサはスケルトンたちを使いこなして、甜菜の収穫から糖分の抽出までをほぼオートメーション化している。一日で大甕二つほどの砂糖を生産し、その半分を酒造りに使用する。酒もリサの実りの魔法を使えば、あっという間に出来上がってしまうのだった。
最近では、出入りの商人に丈夫な麻袋を大量に納入させて、その麻袋に砂糖を詰めて出荷している。大きな甕はなかなか手に入らないし、重くてかさばるし、落とすと割れるしで輸送用の容器としてはあまり良い所がないからだ。
麻袋は湿気に弱いという欠点もあるが、そこは商人たちに工夫してもらうしかない。
「イチロウ、酒樽がまた足りなくなったよ」
「仕方ないな……、とりあえず酒造りはストップだ。砂糖の袋詰めの方を頼む」
「うん、わかった」
酒樽については残念ながら、他に替えのものがないので、順次調達するしかない。酒樽がないせいで、生産を休むということがちょくちょくあるのだった。容器の数に生産の足がひっぱられるという、困った状況になっている。
ペットボトルとかビニール袋とか作れたら良いんだけど、石油の見つかっていないこの世界では、まだまだ無理だろうな。
砂糖作りや酒造りの合間に、保存食作りも並行して行っている。この時にもリサの乾燥の魔法が大活躍だ。干し肉も野菜のフリーズドライ化も簡単にできてしまう。シイタケによく似たキノコが森でよく採れるが、これを乾燥させることで旨味が凝縮し、保存もきくようになる。
冬場の食料のストックはもう十分すぎるほどあるので、最近はこういった保存食も売りに出しているのだ。
フリーズドライ化した野菜は、この世界では画期的な発明だったようで、これはこれでバカ売れしているのだった。まぁ、砂糖ほどは利益が出ないのだが。
「じゃぁ、卸所に行ってくるから」
「いってらっしゃい」
俺は商品を満載した荷車をスケルトンたちにひかせて、まだ暗い早朝の小道を行く。ここ最近は商品が砂糖だけではなくなったので、荷車をもう一台増車して二台体制になっている。
卸所では、朝の早い行商人たちが待ち受けていた。
「おはよう。みんな早いな」
「「「おはようございます!」」」
見知った連中とあさつを交わして、あらかじめ決められた分量の砂糖や酒などを卸す。
卸所での取引は午前中に終わった。
取引といってもほとんどルーチンワークになっているので、非常にスムーズに事が運ぶのだった。砂糖の卸値もいまのところは高値安定中だし、他の商品の値段も改定する必要もなさそうだった。
とにかく街に持って行けば、即座に完売といった状況らしいのだ。
俺は御用聞きの商人から注文していた品を受け取って、朝に来た道を引き返した。
このときも二台の荷車は荷物が満載になっている。
昼ごろに帰宅して、リサとだべりながら昼飯を食う。
「今日仕入れた酒樽は十個だけだ」
「わかった。でも十個じゃすぐになくなるよね」
「そうだな。いっそのこと酒の生産を絞るか?」
「そうねぇ……」
「ところで仕上がった酒に、もう一回実りの魔法をかけたら旨くなるのか?」
ふと思い付いたのでリサに訊いてみた。
「……どうかな。やったことがないから」
「ちょっと試してみてくれ」
「うん!」
思惑通り、魔法をかけたらかけた分だけ熟成がすすみ、まろやかな酒になってゆく。五回も魔法をかけると酒が琥珀色になり、芳醇な香りまで漂うようになった。
蒸留はしてないから、そこまでアルコール度数は高くないが、まるで上等なウイスキーのようだ。
「おぉ、これはいけるぞ!」
「美味しい!」
作ったリサも目を丸くしている。
「ちょ、ちょっとぉ! なに二人で隠れて飲んでんのよ!」
酒の匂いにつられて、ベロニカが地下室から起きてきた。
「新作の酒だ。お前もやってみろ」
「言われなくっても頂くわよ。グビリ。んん! んごごごごご……、ぷはぁ」
「どうだ、旨いだろう?」
「もう一杯!」
さらに実りの魔法をかけ続けると、徐々に味が落ちてくることが分かった。
そして十回くらいから酒は酢になってしまった。
「まぁ、酢にも商品価値はあるけどな」
「ふ~ん、熟成が進みすぎると酢になるんだね」
「よし、酒の量は絞って質を高めることにしよう。酢も少しだけ売ろう」
「分かった! じゃぁ、今あるお酒に実りの魔法を五回ずつかけるね」
「うん、頼む。……それで、お前は飲みすぎだ!」
酒樽からベロニカを引き剥がした。どんだけ酒好きなんだよこの吸血鬼は。
「も、もう一杯……」
結局この日の晩は、新しい酒の試飲という名目の酒盛りになった。
三人でベロベロになるまで酔っぱらったのだった。
『これのどこがネクロマンサーの一日なんじゃ?』
『う……。ス、スケルトンが出てくるし、吸血鬼も出て来るし』
『まったくしようのない奴じゃ……』
次の取引日、新しい酒を商人たちにも試飲させてみたら、やはり大好評だった。
「う、旨いぞ! 何だこれは!?」
「素晴らしい。……素晴らしすぎる」
「こんな酒を庶民に売っても良いものだろうか……」
「貴族向けでもここまでのものはない」
この酒なら今までの酒の五倍の値で売れるはずと太鼓判を押された。
あまり多く作れないと伝えると、皆心底残念そうな顔をしていた。
とりあえず、容器不足が解決するまでは、良い酒を少量だけ売ることに決めたのだった。
そろそろ過ごしやすかった夏も終わる。
「薪はこれくらいあれば良いのか?」
「そうねぇ……。料理は私の魔法で何とかなるから。これで十分ね」
暖炉用の薪集めは順調だ。夜のうちにスケルトンたちに集めさせているのだった。
とりあえず今期は、森の中に落ちている枯れ枝や枯れ木を拾い集めることで十分に賄えそうだ。来季以降は薪作りをする必要があるかもしれないが、それは今は考えないでおく。
俺としては、薪はちょっと効率が悪すぎるから、石炭とか石油とか見つからないものかと思っているが、そういう情報はまだ入ってこない。せいぜいが地域によっては木炭を使うくらいらしい。
リサの温めの魔法は暖房にも使えるが、それはちょっとリサの負担が大きすぎるしな。
ウィザードの火球の魔法も暖房に使えなくもないが、それはあまりにも危険すぎる。屋内でガソリンを扱うようなもので、一歩間違えれば大火事だからな。
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