異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
39 / 62

39 陶器を作る

しおりを挟む

 俺はここのところずっと、陶器の製作に夢中になっていた。
 といっても、芸術的な湯のみ茶碗などに興味があるわけではない。
 とりあえずは、ごく普通の陶器の皿やコップを安定的に作れるようになって、最終的には陶器の便器を作りたいと考えているのだった。
 陶器の便器は快適なトイレライフに必須のアイテムなのだ。


「トイレライフってなんやねん……」

「え? イチロウ、何か言った?」

「いやいや、なんでもない。どうだ、出来たか?」

 焼き加減とか、釉薬の成分とか、試さないといけないことがたくさんあるので、リサにも手伝ってもらっている。彼女はこのての工作に才能があるのだ。

「見てみて! これ可愛いでしょ?」

 リサが凝った細工をした皿を見せてきた。

「うん。良いんだけど、あんまり複雑なのは、ひびが入ったり割れたりするからなぁ」

「えぇ、でも……」

「もっと簡単な形の奴をたくさん作った方が良いぞ。二十くらい作って一つ成功するかどうかだから」

 窯の周りに散乱する失敗作を指さして言う。

「そっかぁ……。イチロウは何を作ってるの?」

 俺は木で枠を作って、十センチ四方の粘土の板を量産していた。

「これにいろんな種類の釉薬を塗ってみて、どんな感じに焼けるか実験するんだ。これだったら失敗しにくいだろうしな」

「なるほどぉ!」

 ということでリサもシンプルな皿を量産し始めた。
 ろくろなんか無くて手びねりだが、上手いもんだ。

「出来たら、あの棚に並べておいてくれ」

「うん」

 乾燥に数日。
 それから、素焼きの状態まで焼く。
 ここまではあまり失敗なくできるようになった。

 次はその素焼きの器に釉薬を塗って、また焼くわけだ。
 釉薬の原料になる石は、なんとなく透き通った感じのをより分けて集めた。
 石の知識は全然無いから、とりあえず見ためで五種類ほどに分類して、それをスケルトンたちに粉になるまで砕かせた。
 それから、それぞれの石の粉を緩く溶いた粘土に混ぜて、釉薬らしきものを作った。

「石ころもこうやって加工すると、価値のある原料って感じになるな」

「へぇ、面白いねぇ。これを塗って焼いたら、ツルツルの綺麗なお皿になるの?」

「たぶん……。正直よく分からないけど、何か変化はあるはずだ」


 それからひたすら試行錯誤の連続。
 やはり、釉薬にする石の違いによって、表面の状態が違う。
 焼く温度によっても違うし、窯の中の配置によっても違う。
 一つとして同じものができないのだった。

 俺としては、真っ白で均質な陶器を目指しているのだが、出来上がるものは形も色も風合いも何もかも違う手工芸品のような一品物ばかり。割れたりヒビが入ったりで、失敗も多い。
 失敗なく出来上がっているのは、全体の三割あるかどうかだ。

「むぅぅ、難しいなぁ……」

「でも、出来てるじゃないの」

「まぁ、出来てはいるんだけどな」

「ほら、この皿だって綺麗でしょ?」

 リサが面白がって、色々な釉薬を混ぜて塗った皿だ。
 さまざまな色が融け合って、何とも言えない味わいがある。
 確かに芸術的な出来ではあるんだけど、俺が欲しい物じゃないんだよなぁ。

『しかし、イチロウよ。この皿はなかなかに見事じゃぞ』

 クロゼルもリサが作った皿に感心している。

「確かに見事ではある」

「でしょ、でしょ!」

 行商人たちの情報ネットワークにアクセスしても、こういった陶器の皿はヒットしなかった。
 彼らが扱ってないってことはつまり、この世界では希少品ってことだろう。もちろん、得手不得手というものもあるので、たまたま彼らが扱ってないだけかもしれない。専門の商人がいるのかもしれん。
 しかし、家で使っているあの信楽焼みたいな皿やコップだって、リサが言うには高級品らしいからな。普通の庶民は木の器を使うのだという。そういえばさじなんかも木製だったな。


「ぐうたら吸血鬼はまだ寝てるのか?」

「うん、地下室にいると思う」

 贅沢好きなベロニカは、普段はただのごくつぶしだが、美術品などには目が利くのだ。
 彼女に出来上がった焼き物を見せれば、価値が分かるかもしれない。



「えぇ!? これを、あなたたちが作ったっていうの?」

 ベロニカが目を丸くして言った。

「そうだよ。良いでしょ?」

 フフン、とリサは誇らしげだ。

「ふ、ふぅん、なかなかやるじゃないの。まぁまぁね……」

 とか言いながらも、リサが作った皿を物欲しげに見つめるのだった。
 なるほど、ベロニカの目つきからすると、それなりに価値はありそうだな。
 しかしなぁ……。

「これ売れるかなぁ?」

「うん、売れるのは間違いない。でも行商人たちに見せたらダメだぞ」

「えぇ! なんでダメなの?」

「仕事が忙しくなりすぎるから」

「えぇ~」

「俺たちは今のままでも、十二分に悠々と暮らしていけるんだぜ。これ以上仕事を増やして、金なんか儲けてどうしようって言うんだよ」

 珍しい皿を作ったとか言って、行商人たちに見せた日には大変なことになるだろう。
 奪い合いの取っ組み合いが始まって、それからもっと作ってくれと泣きつかれるのだ。
 それで俺たちは皿作りに忙殺されるというわけだ。
 仕事中毒気味のリサはそうでもないのかもしれないが、俺はそんな生活は嫌だ。

「俺は豊かで快適な暮らしがしたいの! 金は十分に儲けているんだから、あとは生活の快適さを追求したい。リサも快適な暮らしがしたいだろうが」

「それはそうだけど、今だって十分に快適じゃない」

「いやいや、まだまだ改善の余地がある。そのための第一歩として、俺は焼き物を始めたんだ」

「う~ん。良く分からないんだけど……」

 現代の水洗トイレの利点を言葉で説明しても、それを見たことがないリサには納得できないだろう。
 現物を見て一度使えば目から鱗が落ちると思うが。

「説明しても分からんだろうが、いずれ分る時がくる。まぁ、家で使う食器が綺麗なものになって行くんだから、今はそれで良いじゃないか」

「ふ~ん、まぁそうだね」

「とりあえずはだ、失敗を少なくして安定して作れるようにしないとな」

「わかった!」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...