異世界ネクロマンサー

珈琲党

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41 水洗トイレが出来た

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 俺とリサは失敗を重ねつつも、ついに陶器の便器を作ることに成功した。
 粘土や釉薬の成分の違いなのか、真っ白なものはできなかったが、それでもツルツルでピカピカの便器を作ることが出来たのだった。
 便器のほかにも、陶器製の排水管なども同時に作った。

「これをトイレに使うのは、ちょっともったいない感じだね」

「まぁな。ここまで作るのは苦労したからなぁ」

 といっても、作ろうと思い立ってから半年ほどで出来たのだ。
 記憶の中に、ある程度の作り方と、完成形があったからこそなせる業だな。
 まったくのゼロからということになると、途方もない時間と試行錯誤が必要だっただろう。


 便器と配管パーツができたので、俺たちはすぐに新しい便所の建設に取り掛かった。

 いままでの吹けば飛ぶような便所小屋ではなく、レンガ造りのしっかりとした建物を作った。
 便所の裏には、縦横深さ共に二メートルほどの大きな便槽を掘った。便槽の壁はレンガとモルタルでしっかり固めて、分厚く丈夫な木の板で蓋をした。底の部分は土のままにして、排泄物の水分は地面に吸収させるようにしてある。
 現代の日本でこんなものを作ったら環境問題云々で非難ごうごうだろうが、この世界なら何の問題もない。俺たちが出す分量だって知れたものだしな。
 便槽が一杯になれば、リサの魔法で処理すればいい。リサは嫌がるかもしれないが、それが一番簡単で確実だろう。

 便所から便槽までの配管をして、便所内には陶器の便器を設置した。
 内装は、綺麗なタイルで仕上げてある。こういう細工はリサが得意なのだ。
 さらには明り取りのために、小さなガラス窓まで取り付けた。倹約家のリサもこれには反対しなかった。いままでの便所小屋は昼間でも暗かったからなぁ。

 そしてついに、俺が恋焦がれていた水洗便所が完成したのだった。
 見栄えに関しては、リサが頑張ってくれておかげで期待以上になった。
 
「やったー! 完成だね!」

「あぁ、本当に良い物が出来たなぁ……」

 俺たちが便所の前で騒いでいるところに、眠そうな顔のベロニカがのっそりと顔を出す。

「前から熱心に作ってたけど、この建物は何なの?」

「良いから、ちょっと中を見てくれよ」

 便所の中を見たベロニカが目を丸くしている。

「……へ、へぇ、ずいぶんと豪華な作りねぇ。この真ん中の陶器も見事だわ……。で、これ何なの?」

「その中に水が溜まってるだろ? それで顔を洗うわけだ。新型の洗面台だな」

「ふぅん、なるほど……」

「ちょっと、イチロウ!」

 リサが鋭い目つきで、俺の脇腹に手をかけている。

「あ! いや、嘘嘘、冗談だよ。 これは新しい便所なんだ」

「はぁ!? そんなはずあるわけないでしょう! 面白くない冗談ね」

「本当よ。水洗トイレって言うんだよ」

「ええええぇ!? なんでこんなに豪華なわけ? バカなの?」

「まぁ、豪華って言っても、その陶器もタイルも俺たちの手作りだからな」

「お金はあんまりかかってないよね」

「ふ、ふぅん。でも、こんなのどうやって使うのよ」

「そうそう、使い方を教えておくよ」

 俺は便器に疑似ウンコを落として、バケツの水でザッと流す。
 思惑どり、疑似ウンコは便器の排水口に吸い込まれていった。

 ベロニカはしばらくの間、驚愕を絵に描いたような表情を浮かべていた。

「えぇ!? どういうこと?」

「だから、水洗式の便所だよ。ウンコは便所裏の便槽へ流れて行ったんだ。これで臭くて汚い便所からおさらばできるわけだ。そうそう、使う時はこの木の便座をおろして、ここに座って用を足すんだぞ」

「でも、こんなの見た事ない……」

「そりゃそうだろ。この世界では初かもしれんからな」

「使うのが楽しみ!」

「この陶器の器に、用を足すってわけ? ちょっと抵抗が……」

 リサはニコニコしているが、ベロニカは困惑顔だ。

「しかし、吸血鬼もウンコするんだな」

「ちょ、ちょっと! 私は下等な人間たちとは違うのよ! するわけないじゃない」

「いやいや、ベロニカ。お前は普通に飲み食いしてるじゃないか。 入れたら出るのが道理だろうが」

「で・ま・せ・ん!」

『やれやれじゃの……』

「ちょっと、イチロウ!」

 リサが殺気を含んだ目で俺をにらむ。

「わかった、わかった。まぁ、とにかくだ。使ったら水で流すこと。忘れるなよ」

「わかってるわよ……」

 使い勝手については、まだまだ改善の余地はあるが、一応水洗トイレは完成した。
 金属の配管とかバルブとかが手に入れば改善できるだろうが、それはもっと先になるだろうな。

 あとトイレットペーパーがないから、いまだにハンドウォシュレット問題は解決してない。
 とはいえ、一番大きな問題は片付いたのだった。

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