異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
51 / 62

51 災厄

しおりを挟む
 着の身着のままでこの世界に放り込まれてから一年半。
 いろいろあったが、なんとか生き伸びている。
 というか、この世界の基準で見れば、結構良い暮らしを満喫しているのだった。

 衣食住に困ってもいないし、手足のように動いてくれるシモベもいるし、少々狂暴だが良く出来た妻までいるのだから、不満を言うと罰が当たりそうだ。

「う~ん、暇すぎて怖いくらいだな……」

『これ! 暇なら魔導師らしく、魔術の研究でもすべきじゃろうが。
 人の命は短いのじゃから』

『でもなぁ。こういう暇な時間って嫌いじゃないんだよなぁ。
 ある意味、これこそが俺の求めてることだし』

『前にも言ったが、こういう時こそ危険なのじゃ。
 思わぬ災厄に見舞われるかもしれぬ。気を引き締めるのじゃ』

『なんか戦国武将みたいなこと言うよな』

『戦国武将じゃと? なんじゃそれは?
 ムム……、ほぉ、なるほど。確かにそうじゃのぉ』

 クロゼルが俺の記憶をたどって、独りで納得した。
 俺はスケルトンやゴーレムたちの記憶をデータベースにしているが、クロゼルも俺の記憶をデータベース代わりにしている。
 言葉がスムーズに間違いなく伝わるから楽といえば楽だが、嘘やごまかしはまったく通用しない。あまり深く考えると息が詰まるので、俺としては半分諦めの境地というか、神様と話をしていると思うようにしている。

 疲れを知らず、肉体由来の欲もないクロゼルは知識欲が旺盛なのだ。何かことあるごとに俺の記憶を読んでは、知見を広げている。そんなクロゼルでも俺の記憶を好きなように全て読み尽くすことはできないらしい。人の記憶を漫然と閲覧することは結構難しいらしく、記憶をたどる都度、何かしらのキーワードが必要になるのだと言う。よく分からないが、大昔のコンソールアプリでネット検索するような感じだろうか。


「イチロウ、今晩何が食べたい?」
 
 クロゼルの姿が見えないリサが話をぶった切った。
 食材の調達にあまり困らなくなったので、リサは最近料理にハマっている。
 味にうるさい俺の影響を受けたのか、調味料もそれなりに買い集めているのだ。
 俺としては和食が恋しいのだが、米も醤油も味噌も見つからないからなぁ。行商人たちの話では海のある国には、魚醤があるらしいのだが、この辺りでは全く流通していない。海産物など夢のまた夢だ。ひょっとしたら、干物なら手に入るかもしれないが……。

「じゃぁ、天ぷら」

 天ぷらは俺がリサに教えたものだ。
 油と小麦粉と卵が手に入れば、中身は何でもいいし、作るのもそれ程難しくないしな。
 鹿の脂なら余りまくってるから、それを使った揚げ物は我が家では定番メニューになっている。鹿肉のカツや野鳥の唐揚げなんかもよく作る。
 野菜を煮詰めて酢と塩で味を調えたリサ特製のソースは、こういった揚げ物によく合うのだった。天ぷらなら、天つゆと大根おろしが欲しいところだが、材料が手に入らないからなぁ。

「良いねぇ! 天ぷら! 野菜採ってくるね」

 天ぷらはリサも大好物だ。しかし、あまり揚げ物ばかりだと健康に悪いかもしれない。

 今晩の天ぷらの具材は、野鳥の肉、鹿肉、ニャガ芋、ナース、カブーラの葉、シイタケ(によく似たキノコ)、どれも畑や森でとれたものだ。サツマイモやカボチャも欲しいところだが、この辺りでは見かけない。まぁ、ないものねだりをしても仕方がないか。
 天ぷらの衣は、めんどくさがりが作った方が上手くいく。小麦粉のダマが残って粉っぽいくらいがちょうど良いのだ。だから、衣作りは俺の担当。

 リサが温めの魔法で鹿の脂を加熱。
 薪だと火加減が難しいが、魔法だから温度調節は自由自在だし、熱が通るのも早い。それに、かまどで調理する必要もないのだ。

「じゃあ、どんどん揚げていこう!」

 食卓に置いた鍋で食材を揚げつつ食う。やはり揚げたてが一番。
 こういう食事ができるのもリサの生活魔法があるからだな。
 残念ながら、天ぷらには硬いパンが合わないので、今晩の主食はニャガ芋。米ならたいていのものが合うんだけどなとか、またないものねだりをしてしまう。

 ワイワイ言いながら天ぷらを食ってると、ベロニカがのっそりと起きてくる。
 俺たちの夕飯がベロニカにとっては朝飯になるのだ。
 夜中は適当な食材をあさって食ってるらしい。

「ベロニカ、今日は街へ行くのか?」

「今日は行かないわ」

「じゃぁ、夜の間は何してるんだ?」

「空を飛んだり、森の散策したり、部屋で本を読んだりよ」

「ふぅん。ちゃんと護符を身につけておくんだぞ」

「わかってるわよ、うるさいわね!」

 バンパイアハンターが持っていた邪眼除けの護符がちょうど三枚あったので、俺たちがそれぞれ身につけておくことにしたのだ。護符の効果はさほど大きなものではないが、身一つでいるよりはだいぶマシだろうからな。
 ベロニカは一度さらわれてるし、ちょっと考えが足りないところがある。専属の護衛としてニンジャを一体つけているが、さすがにニンジャでも空は飛べないからな。上空で何かあっても対処が出来ないし。

「だいたい私はあなたたちよりもずっと年上なのよ。
 なんで子供に心配されないといけないのよ!」

 ベロニカはぶつくさ言いながらも、天ぷらをほおばり、酒をあおる。

「それはお前がマヌケだからだろうが。
 俺はお前のマスターだし、年は関係ないの!」

「もう! イチロウ、やめなさいよ」

「リサはベロニカに甘すぎるぞ。
 だいたい、この生活のどこに不満があるって言うんだよ。
 高い服、美味い酒、安全な住処、全てそろってるだろうが」

「それは、そうだけど」

「ぐぬぬぬ……」

「いい機会だから聞いてやる。ベロニカ、なにか不満でもあるのか?」

「うぐっ。べ、別に不満はないわよ……」

 なぜかベロニカがあわてだす。
 いったい何を隠しているのか。


『あやつには肉体があるからのぉ。肉体由来の欲が残っておるのじゃ。
 もう不要なはずじゃが、食欲もあれば、睡眠欲もある。それに、フフフ……』

『つまりあれか? あっちの欲がたまって、イライラしてるってことか?』

『フフフ、そういうことじゃ。これじゃから吸血鬼は面倒なのじゃ。
 放っておいても死にはせんが、いずれ近いうちに正気を失うじゃろうの』

『うわっ。なんとかならないの?』

『そんなもの、お主が抱いてやれば簡単に解決するわぃ』

『う~ん。こんなことなら、あの時の救出は遅らせるべきだったか……』

 気は進まないが、やはりリサにも事情を話しておくべきだろう。
 どういうリアクションが返ってくるかは予想できるから怖い。


「あの、リサお嬢様、ちょっと……」

「なっ! なによイチロウ、変な呼び方してぇ」

「いいから、ちょっとこっちへ」

「えぇ、なに?」

「かくかくしかじかでゴニョニョ――」

「……えぇ!? もう!」

 ドスッ!
 リサのボディブローが炸裂する。

「ぐふっ! でも仕方ないだろうが」

「……わかったわよ! もう!」

 ドスッ!
 リサのボディブローが再度炸裂した。

「ぐぇ! すまない……」

 リサは寝室に引っ込んでしまった。


「ベロニカ、一緒に来るんだ」

「なに? なにするつもりよ!」

「ナニするつもりだ」

「ちょっ! ちょっと、待ちなさいよ!」

「ダメ。これは命令な」

「うぐっ!――かしこまりました。マスター」

 俺とベロニカは連れ立って地下室へ降りた。


 小一時間後。
 なんだか肌がツヤツヤになり、満足そうな顔で横になっているベロニカを残して、地下室を出た。通常のナニよりも疲労が激しく、クラクラする。

『しものほうから精気を吸われたのかもしれん』

『ふむ、その可能性もあるのぉ。フフフ……』


「リサお嬢様。入りますよ」

 俺は寝室の扉を慎重に開ける。

「なによ、もう!」

 ドスッ!
 リサの怒りのボディブローが炸裂する。

「ぐふっ!」

 洗濯の魔法と回復の魔法をかけられた俺は、この日は朝まで眠らせてもらえなかった。
 「腎虚」という単語が頭にチラつきだしたころ、ようやくリサは許してくれたのだった。

『災厄ってこのことだったのかよ』

『フフフ……』






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...