異世界ネクロマンサー

珈琲党

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59 魔導師組合

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 王都の中心部にそれはあった。
 石造りの二階建て、この国では十分に立派な建物といえる。
 入口横の石柱には、金属製の表札がはめ込まれている。

 『魔導師組合』

 王都において一世紀近い歴史を誇る、魔導師による魔導師のための組合だ。
 もともとは数人の魔導師たちが始めた互助会だったが、時代を経て今の組合という形になった。
 魔導師組合の主な目的は、魔術に適性のある者の発見と保護、教育だ。

 組合に所属した適性者は、魔術に関する体系的な知識を得ることができ、効率的にある程度までの魔術を身につけることができる。並レベルの魔導師になるには最短の道だと言われている。また他の組合員の数々の知識や経験も共有でき、魔導師としての仕事も組合から斡旋してもらうこともできるのだった。
 反面、教科書的な魔術教育では、複雑怪奇な魔術を修めるには全く不十分だという意見も少なくない。そして、それは確かに事実だった。あるレベル以上の魔導師になるには、組合が用意する画一的な訓練よりもずっと精緻な訓練が必要なのだ。

 一万人に一人といわれる非常にまれな適性を持ち、その上で特殊な訓練を積まなければ魔導師にはなれない。それゆえ、魔導師という存在自体がそもそも希少であり、魔導師というだけで一目も二目も置かれる。
 魔導師たるもの高みを目指すのが当然だ、という自負の強い者が適性者には多い。いつかこの目で深淵を覗くのだ、という探求心の高い者もまた多い。そのため、適性者の半数ほどは組合になどに目もくれず、経験を積んだ大魔導師個人と直接徒弟関係を結ぶのだった。
 それに、一人前の魔導師にとっては組合による仕事の斡旋など全く必要がない。うでの立つ魔導師はどこへ行っても引く手あまたであり、割りの良い仕事などいくらでもあるのだから。さらには、組合員には能力に応じた労役と組合費の負担が課されるが、これを嫌う魔導師もまた多いのだった。

 つまり、組合員になってもあまりメリットがなくむしろ面倒が増えるだけだ、と考える魔導師も少なくないのだ。組合員数は全盛期の半世紀前を境に漸減傾向にあったが、とある事件をきっかけにしてさらに減少に勢いがついている。


 「さて、どうしたものかのぉ……。
  あんなことさえなければのぉ……」

 老練の魔導師サジ・ダフネルは誰に言うともなくつぶやく。
 魔導師組合の長であるサジは、組合員の減少に頭を悩ませていた。
 これ以上減っては組合の維持すら難しくなる。適性者の発見も勧誘活動も思わしくない。

 「リストにある魔導師には全て声をかけてみたんですが、良いお返事はいただけませんでした」

 組合職員もため息をつく。

 「これも時代の流れか。結成当初の互助会に戻すべきかもしれんの」

 「ハハハ、確かにそうかも知れませんね」



 とある事件。組合員同士の会話では「あの森の件」で通じる、組合史上最悪の惨事。

 それは十五年前のこと。王の使者がもたらした、依頼という名の命令が発端だった。
 ついては、マクドーマンの森を魔術的に調査したいので、うでの立つ魔導師を五人ほど王城によこしてくれ、とのことだった。マクドーマンの森に住む大魔導師パウムの悪名は当時から、いやもっとずっと以前から轟いていたため、魔導師組合としては断りたいところだった。しかし、気鋭の魔導師たちの中には、恐怖よりも好奇心が優っていたものも居た。

 魔術を極め、この世の深淵を覗いたともいわれる大魔導師パウム。魔導師としての力量に反して、性格は最悪で極度に偏屈、一度逆鱗に触れると何をされるか分かったものではない、という噂は王国中に広まっている。もうすでにこの世に居ないらしいとの噂も以前からあった。
 とはいえ、実際のところどうなのかは誰にも分からないのだ。どのような人物なのか、できることなら接触したいし話を聞きたいという魔導師も少なからずいたのだった。

 マクドーマンの森の実地調査は過去に何度か行われているが、全て失敗に終わっている、らしい。森に入った調査隊がことごく姿を消しているのだ。彼らが何を見どうなったのか、誰も知らない。
 魔術的な調査も過去に幾度も行われているが、森に張られた強力な結界によって阻まれている。その上、調査を行った魔導師は全て精神に異常をきたし、その後失踪している。

 過去の失敗をもとに、安全重視の作戦が立てられた。
 参加する魔導師は、特殊な血統の宮廷魔導師五人と組合所属の熟練魔導師五人。総勢十人の凄腕魔導師と古より伝わる魔道具の連携によって、結界の一部を少しだけこじ開けてみる、というのがその作戦の概要だった。当時宰相だったクロムウェルと、組合長サジの立ち合いの元、作戦が決行された。

 そして――



 「ふぅ……。嫌なことを思い出してしまったわぃ」

 サジは額にうすっら浮かんだ汗を拭う。その時の顛末については、自身の精神を守るためにもあまり詳しく思い出さないようにしている。しかし、ふとした瞬間に地獄のような光景が頭に浮かんでしまうのだった。なんにせよ、その時の作戦に参加した魔導師たちは皆、もうこの世にはいない。

 「そういえば、宰相閣下もどこへ消えたのやら。一時は王城も大騒ぎだったらしいが……。
  よし、決めたぞ! わしはあそこへ行ってみる」

 「は? 組合長、どちらへ行かれるので?」
 
 「マクドーマンの森に行くのじゃよ。
  パウムの後継者は話が分かる者と聞く。一部の行商人は奴と取引までしておるという。
  カステルハイム伯爵閣下との関係も良好じゃと聞く。
  それにあ奴は魔導師、わしは魔導師組合の組合長じゃ。挨拶ぐらいはしておかんとの」

 「えぇ!? いや、しかし、危険です!」

 「しかしもかかしもあるものか。
  あそこの魔導師を味方につけることができれば、あるいはこの状況を打開できるやもしれん。
  せめて敵ではないくらいの関係になれば、何かが変わるじゃろう」

 「うぐっ……、確かに。
  そうかもしれませんが、なにも組合長が出向かずとも、誰か使いをやれば良いのでは?」

 「馬鹿を言え。
  このちっこい組合の長と、あの森を統べる大魔導師の後継者じゃぞ、どっちが偉いと思う?」

 「そっ、それは……。まことに申し上げにくいのですが……」

 「ほれ見ろ、お主も分かっておるではないか。
  と言うことで、善は急げじゃ。
  もしわしに何かあったら、副組合長のアスラ君に全てを任せてくれ。彼はわしより優秀じゃからの」

 呆れ顔の職員を残し、組合長サジは供も連れずマクドーマンの森に向かったのだった。




 翌朝。

 「さて、聞いた話が本当なら、あともう一息じゃの」
 
 あれからすぐに王都を出発したサジは、旧ガザ街道わきの墓地で一夜を明かした。
 そこはかつてイチロウとリサが一泊した墓地だ。埋葬されていた遺骨はイチロウがスケルトンにしてしまったので、地中はもぬけの殻だが……。ともかく、サジは身支度を整えて墓地を出発したのだった。

 荷物を満載したロバを引きながらテクテクと歩く。旧ガザ街道は道幅が狭く曲がりくねっており、路面の状態もあまり良くない。足元を注意しながら緩い曲り道を抜けると、道が直線になり急に視界が開けた。
 ふと道の先を見ると、異様なモノが目に入った。

 「な! なん?」

 あまりの驚きにサジは言葉にならない音声を発した。
 旧道から枝分かれした脇道を少し入ったところには、場違いなほど立派な、鉄でできた城門が設置されている。そしてその城門の両脇には、これまた場違いなほど立派な、光り輝くプレートアーマーを身につけた衛兵が一人ずつ立っている。そしてさらに不思議なことに、衛兵にはさまれる形でスケルトンが一体。
 目的地はその城門の向こうのはずだが、豪胆なサジでさえ近づくのに一瞬戸惑うほどの異様さがそこにはあった。

 「なんだこれは!?」

 ある程度のことは噂に聞いていたものの、「なにを大げさな……」と噂話を吹聴する者を内心バカにしていたのだった。まさか噂以上の状況だったとは。意を決したサジが脇道に一歩踏み込むと、真ん中のスケルトンがつかつかと近づいてきた。

 「キサマ、ナニカヨウガアルノカ? ヨウガナイナラ、タチサレ」

 のどから飛び出しかけた悲鳴を必死で飲み込み、サジは答える。

 「うぐっ。わ、わしは魔導師組合の組合長サジじゃ。こちらの魔導師殿にお会いしたい」

 スケルトンはぼぉっと光る両眼でしばらくサジをながめ、そして言った。

 「……スコシ、マテ」


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