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09 文明の光
しおりを挟むドワーフたちは基本的に鉱山内で活動している。
採掘作業は当然だが、鍛冶場も住処も鉱山内に作られているのだ。
換気のための空気穴とわずかな採光用の窓しかないため鉱山内は暗い。
彼らはある程度の夜目は効くが、真っ暗闇ではどうにもならない。
鉱山奥の採掘には照明器具が必須なのだった。しかし油を使ったランプは欠点も多い。それに代わるものを彼らはずっと探していたのだ。
「魔法のランプみたいなのはないのか?」
「馬鹿を言え!
そんな高価なもの、わしらが持ってるわけないじゃろうが」
なるほどな。電気の照明なら空気も汚さないし、油切れの心配もない。採掘作業なんかには確かに便利だろう。水車でオルタネーターを回せば、無尽蔵に電気が作れるわけだし。
「けど、水車を回すための川なんてあったっけ?」
「鉱山内に湧水があっての。それを利用すればよいじゃろ」
「そうだなぁ、水車はそれで回せるか。しかし……」
しかし、車のオルタネーターだと十数ボルトの電圧しか出ないだろう。
そのまま広い鉱山内の照明をまかなうには心もとない気がするな。
送電ロスを考えたら、もっと高い電圧にした方がいいような……。
とはいえ、そこまで電気に詳しくない俺にはうまい手が思いつかない。
確か交流なら変圧器を通して昇圧できたはずだけど、具体的にどうすればいいのかは、もやの中にある。技術立国の国民だったとはいえ、一般人の知識など所詮この程度なのだった。
不甲斐なさに落ち込んでいると、突然閃いた。
「あっ! そうか、あれを使えば良いんだ!」
「どうしたのじゃ?」
「発電機がある。あれをバラしてエンジン部分を切り離せば良い」
「発電機じゃと?」
エンジン式の発電機はいくつも見つけていたが、燃料がないので放置していたのだ。あれはそのままで交流百ボルトが出力できる。エンジンを外して、代わりに水車で動かしてやれば使えるはずだ。簡易的な水力発電システムになるな。
ドワーフたちに説明してやると、すぐに理解した。有能すぎる。
「ふむ……。
なるほどそういうことか。やってみる価値はあるの」
鉱山内の湧水スポットから水路をひき、そこに水車を設置した。
水車と水車小屋はホビットたちが作った。元世界でも使っていたらしく、水車はすぐに完成した。こういった大工仕事はホビットの得意分野だな。
水車の回転軸から何段かの木製歯車を介して回転数を調節して、それを発電機と接続する構造にした。異常の際には接続がすぐに切れるように、クラッチのような機構も取り付けてある。この辺りのメカニズムはドワーフのこだわりの技だ。
数週間の設置工事が終わって、いよいよ試運転の時が来た。
クラッチをガチンとつなぐと、発電機が始動、しばらくすると発電を示すパイロットランプが点灯した。
「よし! 発電機は正常に動いてるぞ!」
試しに適当な電気スタンドを発電機のコンセントにさして点灯してみる。
薄暗かった鉱山内が、電球の明るい光に照らされた。
「「「おぉぉぉぉ!」」」
ドワーフたちもホビットたちも歓声を上げている。
「明るいのぉ」
「苦労して作った甲斐があったわぃ」
「まったくじゃ……」
「こっ、これは魔法?」
「さすが領主様!」
「素晴らしいです」
それから、坑道には配線を張り巡らして、等間隔にLED電球を取り付けることにした。住居部分と鍛冶場にも配線を伸ばし、そこにもいくつか照明を設置した。
「あんまり負荷をかけると配線がどうなるか分らん。
だから電球の増やし過ぎは禁物だ」
電球のバルブは廃墟からいくらでも手に入るし、配線のつなぎ方もドワーフには教えてあるが、下手に慣れたころが危ないのだ。
「おぅ、分かった。
さすがここの領主じゃ。ありがとよ!」
「「「領主様ぁ!」」」
ホビットたちがキラキラした目で俺に訴える。
「あぁ、分かったわかった。
しかしなぁ……」
ホビットたちの無言の圧力によって、結局、俺たちの住処にも電灯を導入することになった。
とはいえ、そこそこ街中なこともあり、用水路というかどぶ川しかない。
普段は流れがほとんどなく、大雨で増水するとすごい急流になる。
ちょっと水車を置くには適してない感じだな。
いろいろ考えた末、水車で発電機を動かす仕組みは断念した。
とはいえ、領主として引き受けた手前、あっさり諦めるわけにも行かない。
ホビットたちの落胆した顔はあまり見たくないし。
「さてさて、どうしたものか……」
生きてるバッテリーがふんだんに手に入るなら、適当な太陽光パネルをつないでやって、簡易的な太陽光発電システムを作るぐらいはできるだろう。しかし、そのバッテリーがたいていダメになってるんだよなぁ。
「太陽光パネルは結構瓦礫から見つかるんだがな……。太陽光パネル?
そうか、灯台下暗しとはこのことか!」
庁舎の屋上には、太陽光パネルが設置されているんだった。
つまり太陽光発電システムが今も動いている可能性が高い。
システムが動いていれば、蓄電系もまだ大丈夫かもしれない。
意識高い系の連中がやってた、持続可能なんとかとかいう似非エコ運動のことは当時は結構バカにしてたけど、こういう事態になると話は変ってくるな。まぁ、いまさらだけどな。
俺は庁舎内の配電盤を逐一調べて回った。
「これだ! システムは生きてるっぽいな」
『太陽光発電システム』とそのものズバリの銘板が貼られた制御盤には、小さな液晶モニターが付いていて、メニュー画面も表示されていた。
制御盤のフタの裏にはちょっとした冊子が吊り下げられていて、システムの概要や、回路図、配線図などが書かれている。さすが公共施設だけあって、シッカリしているなぁ。
俺は冊子を読みながら制御盤を操作する。
「なるほど、ここで切り替えれば、屋内に電気を供給できるのかな……」
カチリ、カッカッカッ……。
どこかでリレーが動く音がすると、庁舎内のあちこちの照明に灯がともった。
「「「おぉぉぉぉ!」」」
俺の作業を見ていたホビットたちから歓声が上がる。
「さすがは領主様です!」
「素晴らしいです!」
「これは魔法?」
「なんとありがたいこと」
エアコンなどはちょっと無理そうだったが、電灯は使えるし、コンセントも使えるようだ。これで一般の家電も使えるが、あまり調子に乗ると蓄電池が傷む可能性があるからな。電気が使える範囲を制限しておこう。
とりあえず、ホビットたちの住むフロアの照明と、給湯コーナーの電気を使えるようにしてやる。無用の長物になっていた冷蔵庫がぶぅんと唸りをたてて、息を吹き返した。
「領主様、何やら動いておりますが」
「冷やしたいものがあったら、その中に入れて置けばいい。
氷もここで作れるからな」
「おぉ! これは魔道具ではないのですね?」
「そう、電気で動く文明の利器だよ。
皆で仲良く使ってくれ」
「「「はい、領主様!」」」
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