20 / 59
20 女騎士とドワーフ
しおりを挟む次の日の朝。
「そうだ、今日は一緒にドワーフの鉱山へ行こう。
ジャンヌはワイバーンのことをまだ疑ってるみたいだしな」
「そんなに簡単にドワーフに会えるのか?
あの連中は偏屈で、人には会いたがらないと聞くが」
「頑固で偏屈なのは確かだが、なかなか有能だぞ。
うちでは鍛冶仕事全般を引き受けてもらってるんだ。
ジャンヌも剣や甲冑をみてもらえばいい」
「わかった。私も会ってみたいとは思っていた」
ドワーフに頼まれていた本や安ウイスキーや、修理の必要な自転車などを積み込んだリヤカーを引いて、ジャンヌと一緒に鉱山へ向かう。
ジャンヌは今日は革の服に、剣を腰に下げただけの軽装だ。
「そこは遠いのか?」
「いや、昨日歩いたのと同じぐらいの距離だな」
「そうか、じゃあサファイア号はここに置いておこう」
サファイア号とはジャンヌの馬のことだ。
ホビットたちは馬の世話も家事同様に上手い。
俺にはさっぱりだが、ホビットたちにはサファイア号もすぐになついた。
馬小屋を駐車場のすみに建てようということで、ホビットたちは忙しそうだ。
「ちょっと出かけてくるよ」
「「「はい、領主様!」」」
「ホビットたちに聞いたんだが、ブラドはバンパイアなのか?」
「ああ、そうだよ。
元は普通の人間だったんだが、知らない間にバンパイアになっていた。
最初の異界震が関係していると思うが、はっきりはしないな。
心配しなくても、人は襲わないから」
俺はあえて歯をむき出して、人よりも長い犬歯を見せる。
「そっ、そうか……。
ブラドはホビットたちの恩人でもあるらしいな」
「あの連中がたまたまポチ達の縄張りに入ったんだ。
行くところがなくて困ってたんで、うちに住まわせたんだよ」
「では、私と同じだな」
ジャンヌはフッと笑う。
「それにしても、あの大きな狼たちはブラドに良くなついているな」
「まぁな。
最初はあいつらもただの野良で、俺の能力で従わせていたんだが、
そのうち俺をボスと認めてくれるようになったんだ。
今は家族みたいなもんだよ」
「なるほどな。
そういえば、エルフもたまに来るようだな。
ホビットたちはなぜか苦い顔をしていたが……」
「ジャンヌはエルフに会ったことあるか?」
「いや、ないな。
少なくとも私の周りでは、エルフに会ったという話は聞いたことがない。
いわば想像上の存在で、本当にいるとは思ってなかったな」
「じゃあ、会わないままの方が良いかも知れんぞ」
「そうなのか? 私は会ってみたいのだが」
「ハハハ、そのうち分かるよ」
俺は乾いた笑いで誤魔化した。
ドワーフの鉱山にやって来た。
「ふん、人間と会うのは久しぶりじゃの」
「ジャンヌだ。よろしく頼む。
ブラドに聞いたんだが、ここにはワイバーンの骨や皮があるとか」
「ぬ! お前さん、ブラドって名前だったのか?」
彼は俺を見て呆れたような顔をする。
「まぁ、聞かれなかったし。
俺のことは、お前さんでも領主でも、何でも良いよ」
「まったく、適当にも程があるのぉ。一応領主なんじゃろうが!
わしはドルフ。ここの代表のドルフ・ガンツじゃ、よろしくの。
それでワイバーンの骨と皮を見てどうするんじゃ?
先に言っとくが売り物ではないぞ」
「こないだ俺がワイバーンを倒しただろ?
それをなかなか信じてもらえなくてな、骨と皮を見せれば信じるかなって」
「そうだ。
ワイバーンを個人で倒すなど尋常ではない。
騎士団総出で、命がけでも倒せるかどうかというものなのだ」
「ふむ。疑うのはもっともじゃが、ブラドがワイバーンを倒したのは本当じゃ。
これがその時のワイバーンの骨じゃ。バラバラじゃが並べ直せば分かる」
ドルフが棚から大きな木箱を引っ張り出してきた。
木箱にはきれいに洗って乾かした骨が、整然と収まっている。
「な! 確かにこの頭骨はワイバーンのものだ。
それにしてもどうやって?
ワイバーンの皮は矢など通さないし、剣でも下手をすれば弾かれてしまう」
ジャンヌはワイバーンの頭蓋骨を持って、ワナワナと体を震わせている。
俺は長さ二メートルの、一見単管パイプにしか見えないものを指さした。
「これを使ってワイバーンを倒したんだ。
ドワーフ謹製、対大型妖魔用特殊筒形投擲槍、通称名ヤツメウナギだ」
「まさか!? そんなもの、人に投げられるわけがない!」
「だから言っただろ、俺は人じゃないんだよ」
「あっ! そっ、そうだったな。すまない」
「ブラドの怪力は常識外れなのじゃ。お前さんが信じられんのも無理もない。
わしもそれがワイバーンの口に刺さっているのを見るまでは信じられんかった」
「本当にブラド一人でワイバーンを倒したのか……。
疑ってすまなかった」
「もういいよ。
確かにウソみたいな話だしな。それに運が良かったのもあるし」
「ということは、その服も?」
ジャンヌは俺の上着を指さす。
「そうじゃ、ブラドの服も靴もわしらが作った。
ワイバーン革で縫製も特殊なものを使っておる。
下手な甲冑よりもはるかに丈夫で軽いのじゃ」
「ドッ、ドドドド、ドルフ殿!
私にも同じものを作ってはくれまいか。
この剣と、それから甲冑と兜と馬もやる。頼む!」
ジャンヌは土下座するほどの勢いでドルフに迫る。
「まてまて、落ち着くのじゃ。
どれ、剣を見せてくれ」
ジャンヌは腰から鞘ごと剣を外し、ドルフにおずおずと手渡す。
柄には宝石が埋め込んであり、手の込んだ装飾が施されている。
「それなりの品のはずだ」
ドルフは剣を鞘から抜いて、しげしげと刃を観察してから言った。
「ふむ……。
やはり人間の鍛冶仕事じゃの、鍛え方が足りんわぃ。
まぁ領主殿の客人ということもあるし、今回だけ特別じゃぞ?
この剣と甲冑と兜はもらう。馬はいらん。
代わりに、ワイバーン革の服と靴、それからわしらが鍛えた剣もやろう。
それでどうじゃ?」
ジャンヌはパッと笑顔になった。
「ありがたい! よろしく頼む」
よほどうれしかったのか、帰り道はずっと笑顔のままだった。
1
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる